……なんだ。なんかすっげぇ間抜けな音楽が聴こえるのは気のせいか？ 
　なんかこう、ハ○ジが山を駆けてるような大都会じゃ聴けないような緩いほのぼの音楽。イった後ならそういう曲も有りだとは思うが、どう考えても俺の頭で流れる曲じゃない。

​

　半端ない違和感に必死に重い瞼を開くと、カーテンから漏れる光。
　充分眩しい光に顔を横に向けた隣には小さく丸まった背中。だが、背中の先からは日の出とは違う電気の明かりがボンやり漏れている。ついでに夢だと思いたかったほのぼの音楽に加え、声まで流れてきた。

 

『なるほどー。ここの野菜はそうやってできるんですかー』
『そうなり～』

 

　呑気なリポーター女と男が野菜を手に持つ姿が携帯のワンセグに映っている。食い入るように観て聴いている千風に暫しの間を置くと訊ねた。

 

「……何観てんだ？」
「NOKの『わくわく農業紀行』です」
「……今、何時だ？」
「五時四十三分です」
「……なんで耳に宛ててんだ？」

 

　ハッキリとした口調で答える“ちー”はなぜか携帯に耳を宛てている。テレビを観るには不自然すぎるが、本人は気にする様子もなく答えた。

 

「あんまり声が聴こえないんですよ。生放送だから字幕つかないし」
「リビングのテレビで観ればいいじゃねぇ……ああ、腰がイったか」
「はひっ！」

 

　ちーの腰回りを押すと悲鳴が上がり肯定と捉える。
　何回イかせたか俺も覚えてねぇし、それでワンセグなのはわかった。しかし、聴こえないなら音量を上げるって単純な方法があるだろうに、寝てる俺に気を遣ったのか？

 

「はじめて使うので上げ方がわからないんです」

 

　暫しの間を置くと手を伸ばし、携帯を奪う。
　当然怒られるが、親指操作だけすると返した。音量が上がっていることに、ちーの目が輝きに変わる。

 

「て、帝王様凄いです！ 神様です！！」
「それが本当なら、神様とやらはわんさかいるもんだな」

 

　溜め息をつきながら片肘をつくが、既にちーの目と耳はテレビに釘付けで聞いちゃいない。
　しかし、今時の二十代で携帯を扱えねぇとは単純に興味がねぇのか、監視器機にもなるせいなのか。そこでふと訊ねた。

 

「お前、パソコンは使えるのか？」
「いいえー」
「牛島春冬の方が使えたりするか？」
「冬くんは得意ですねー」
「IPAとは？」
「ビール？」
「朝食アイスはチョコとストロベリー、どっちがいい？」
「ダブル乗せっだ！」

 

　贅沢頭にチョップを落とした。
　上体を起こすと口を尖らせたまま振り向いたちーに煙草を見せ、頷きの了承に一本取り出す。いつもならライターを差し出す女は健康野菜ジュースのレシピを聞くのに必死らしい。まあ、気が緩んでる時は嘘付けねぇのを知って鎌をかけたんだがな。

 

　千風にIT用語が通じなかったことで、牛島春冬自身が情報を消去した率が高くなった。
　ついでに昨夜ふーが不機嫌そうに見ていたメールの主『ハヤテ号』もヤツの率が高い。件名にあった『千風様』は今のところ角脇が呼ぶが、千風の連絡先は知らない。その点、振られていても尚、あの溺愛男ならなんでもするだろうと火を点けた煙草を吹かす。

 

　アパートで一度見かけ、昨夜顔を合わせた牛島春冬。
　まさか千風と幼馴染の上に同じ二重人格とは、案外世界は狭いな。千風と違って交替条件はないように思えたが、性格は二人のように真反対でドSとドM。前者が本当かは知らねぇが、後者はまんまお袋を見ているようで引いたのは確かだ。ついでに、ちーの隠れSも本当らしい。

 

　抱き合ってる時は腹がムカムカしたもんだが、千風にとってはじゃれているような感じらしく、柄になく安堵したもんだ。
　本気だったヤツのことを思えば若干同情するが、去り際の一言で消えた。

 

『千風の最初（はじめて）は全部俺達が貰ってるよ。残念、帝王』

 

　思い出すだけで腹が立ち、ちーの尻に手を這わせる。指を一本、秘部に挿し込んだ。

 

「はひっ！ ちょ、なんで……すか」
「暇なだけだ」
「ほ、本当ですか……あぁっ」

 

　煙草を吹かしながらナカでゆっくりと掻き回しては速めると水音が激しくなり、愛液が零れてきた。合わせるように、ちーの息も荒くなるが、テレビから顔を逸らす気ゼロな様子に口元は弧を描く。
　煙草を消すと指を挿し込んだまま丸まった小さな背に手を回し、寄せた乳房の先端を指先で弾いた。

 

「あぁ、ちょっ……」  
「テレビ観てていいぜ……俺も好きに弄って反応を見る」
「あぅ……！」

 

　胸の先端を摘まみ、挿し込んだ指を上下に動かしながらうなじを吸う。白い肌には赤い花弁、キスマークが付き、背中から順に付けていく。

 

「うぅ……あん……」
「さあ、今ので幾つ付いた？」
「え、あ……五つっ」
「残念。昨日のを合わせると……幾つだろうな」
「ええっ、引っ掛け……あ、ダメ……っあ！」

 

　喉を鳴らしながらタオルケットを退かすと、ちーの片脚を上げる。
　指を抜いた秘部は充分に濡れ、愛液を垂らす太股を舐め、間を置かず秘部に舌を伸ばした。

 

「あ……あん……あぁ」

 

　のんびり音楽に混じって、甘い吐息と卑猥な水音が響く。
　舐める度に新しい蜜が零れ、秘芽を舌で突けば身体が跳ねる。面白がっているのがわかったのか、見下ろす涙目ちーと目が合った。珍しく眉が上がっているが、ふーではないと構わず舌を動かす。

 

「ああぁっ！」
「ん……刺激がもっと……欲しいんじゃなかったのか？」
「ち、違い……邪魔しないでと言っん！」
「好きに弄るって言っただろ……テレビ終わったなら本番してもいいぜ」

 

　目の端に映る携帯からはエンディングが聞こえ、舌を引っ込めると、ちーを向かせる。
　不満そうな顔をしているが、息を乱しながら携帯を離した手が俺の頭を抱き込む。と、髪を混ぜられた。

 

「っだだだ！ てっめぇ、何しやがる！！」
「うるさい！ 人の安らぎ時間を邪魔するアンタが悪い！！」
「っ、その言葉遣い“ふー”だな！？」

 

　混ぜる手首を掴み、顔を上げると、さっきとは違う目で睨む女。オーラも違うし、反対の手でまた髪を混ぜる度胸があるのは間違いなくふーだ。

 

「またちーのヤツ、動画に変えやがったのか」
「さあね。翻弄されてれば……っひゃあ！」

 

　無駄口を叩いている間に胸の先端を噛み、指を秘部に挿し込むと一気に奥まで貫いた。刺激が強すぎたのか、また俺の頭を抱き込むと耳元で喘ぎを漏らす。

 

「あっ、ああぁ……あんっ」
「替わるタイミングを……ん、見誤ったな……」
「うるさ……ちょ、携帯……」

 

　乳房に舌を這わせていると携帯が鳴る。千風のではなく俺のだ。
　角脇の電話だとわかりスルーしたが、火事場の馬鹿力でも発揮するように上体を起こしたふーが取った。

 

「はい、こちら御門の携帯です！ あ、角脇さん、おはようございます」

 

　いつの間に替わったのか、頭を深々と下げる“ちー”に溜め息をつく。
　上体を起こすと投げ捨てられた千風の携帯を取るが、ワンセグのまま朝のニュースを流していた。眉を顰める俺に携帯が差し出される。

 

「角脇さんが今日のお仕事でお話があるそうです」
「……ああ」

 

　笑みを向けるちーと携帯を交換する。
　耳に宛てると今日の予定を話す角脇の声。いつもなら『大仕事終わった後なら休ませろ』と怒鳴るところだが、今は必死にワンセグの切り方に悩んでいる千風に意識を持っていかれていた。

 

　この部屋にある監視類は俺達二人の携帯だけ。他にあれば昨夜の段階でふーが言うだろうし、ないはずだ。じゃあ、さっき何で替わった？
　俺の携帯はテーブルに置いてあったし、千風のはワンセグのまま。やっと切れたことに安堵しているのを見るに、切り替え方は知らなかっただろう。考えられるのは……。

 

「っ！」
『どうされました？』

 

　声が漏れたのか『なんでもない』と返すが、またきやがった。
　枕に背を預ける俺がジと目を向ける先には、股間に収まった、ちー。両手は肉棒を握り、親指で捏ねては上下に擦っている。さっき邪魔した仕返しを考えるなら、しそうなのは片方（ふー）だが、こいつ（ちー）は隠れSだ。

 

「帝王様の大きいですね……」

 

　牛島春冬と比べてんじゃねぇだろうなと、電話してなかったら問いたい。
　とっとと電話を切ろうとするが、こういう時に限って喋ることがあるのか、角脇は細々言ってくる。だが、肉棒の先端に舌を這わせ舐められるせいか、何ひとつ会話が入ってこない。

 

「っ……」
「あ、お汁でてきた……気持ち良いですか？」

 

　ニッコリ笑顔で聞くんじゃねぇと頭を掻き回すが、気にすることなく白液を舐める。そのまま躊躇うことなく口に咥え、ゆっくり上下に動かした。

 

「っあ……」
「んっ……んんっ、はふっ……ん」

 

　段々と速められる動きに肉棒は大きさと硬さを増し、亀頭から零れる白液を、ちーは髪を耳に掛けながらしゃぶり付く。視線を上げられるとエロさが増すのは女の怖いところだ。
　荒くなってくる息遣いに気付いたのか、角脇の溜め息が聞こえた。

 

『総一郎様、聞いてますか？』
「聞いて……ねぇから……後にしろ」
『え？』

 

　ブチリと切ると、ちーの頭を押さえる。
　奥まで咥え込んだせいか『んぐっ』と呻きが聞こえたが、上げられた視線が合うと頬を朱に染め、小さく頷いた。同時に亀頭から射精され、ちーの口からは白液が零れる。

 

「ふっ……んんっ、多いっ」
「……っなら、もう一人がいるだろ」
「はひ……っあ！ ちょ、待っんん！！」

 

　口角を上げると携帯の動画を押し“ふー”に替えた。
　突然のことに、いつも上がっている眉は下がり、零れる白液を必死に舐めては吸う。ちーと違い拙いが、その必死さが別の色気がある。肉棒から口を離させると抱き寄せるが、ふーは息を荒げながら睨む。下唇から白液を垂らしたまま。

 

「エロいぞ、ふー」
「勝手に……っ、替えたくせに……っあん」
「そう言いながら自分もしたかったんじゃねぇのか……Mなふー」

 

　白液を舐め取ると、ふーの顔は赤くなる。本当、揃って飽きない女だ。
　笑みを浮かべると口付け、大きくなったモノの責任を取らせるため宛てがっては離し、挿入した。当然“ちー”は苛めることなく一気に貫いて。

 

　朝だろうが構わず啼かせるさ。

​
 

＊　＊　＊ 

​

　時刻は昼過ぎ。
　ホテルの玄関前に停められた車の後部席の窓から顔を覗かせる千風は苦い顔をしていた。言わずもがな、腰がイってるからだろう。頭を撫でると運転席にいる柳田に声をかけた。

 

「じゃあ、家まで頼んだぞ」
「はい」
「薫さん薫さん、このまま一緒にデートとっだ！」
「てめぇ、リードでも付けてやろうか？」

 

　千風犬の頭にチョップを入れる。
　このまま繋いでおきたいところだが俺もこいつも仕事だ。わざわざ告白のために昨日の仕事を休み、一ヶ月休みなしと言われて行かせなかったら『蓮華（あそこ）』の報復は怖いからだ。
　千風の顎を上げると、不満そうに頬を膨らませている顔に苦笑した。

 

「一日で帰してやれるだけマシだろ。平日が仕事な分、土日キッチリと啼かせてやるから腰を鍛えとけよ」
「帝王様は土日仕事でしょ～」
「俺はどうとでも出来るんだよ。行きたい場所でも考えとくなら、どっか連れてってやる」
「本当ですか！？ じゃあ、フルーツ狩りに行きまっだ！！！」

 

　春頭にチョップを落とした。
　こいつ、俺のキャラわかって言ってんのか。わかってんなら大したもんだ、ホント啼かすぞ。
　溜め息をつくと顔を寄せ、また膨らんでいる頬を押すと唇をなぞった。

 

「一応、探しといてはやるが、お前も狩られることを忘れんなよ」
「はひっん！」

 

　大きく見開かれた瞳と同時に口付ける。
　柳田やドアマンの戸惑いなど気にするはずもなく、深く、舌も、味も堪能した。離すと、顔を真っ赤にさせた千風に笑う。頭を撫でながら柳田に視線を送ると慌てて頷き、下がった俺に合わせて車が発進した。
　去り際、千風の“あっかんべー”を見た瞬間、今夜『蓮華』行って啼かそうと誓う。

 

「あ、御門様！」

 

　拳を握ったままホテルに入ると、隆成の秘書が駆けてくる。息を荒げる男と、なんとも言えない顔をしている角脇を見て先に口を開いた。

 

「隆成の居場所なんざ知らねぇぞ」
「な、なぜそれが！？」
「それ以外を聞いたことねぇからだ」

 

　スッパリと切る俺に秘書は肩を落とすが、角脇は俺にジと目を向ける。
　まるで『昨夜アンタが千風様を奪ったからだろ』とか言いたそうな目。否めないせいか取り合えず携帯に掛ける。が、やはり出ない。ストレスが溜まると何も言わず旅と言う名の逃亡する癖があるのはガキの頃からだが、社長になってまで発揮するなよ。

 

「つーか、急ぎの要件でもあんのか？」
「あ、いえ、それはないんですが……これがあったもので」

 

　歯切れの悪い秘書は携帯を切った俺に一枚のメモを見せる。筆跡は隆成。

 

『ちょっとその辺に行ってくるよ。二、三時間で帰るから。多分』

 

　はじめて見る書き置きに一種の感動を覚えるが、全っ然意味を成してない。
　その辺ってどこだよ。二、三時間なら隣県にも行けんぞ。しかも多分かよ。余計不安に駆り立てられるメモに捜したくなる気持ちがわかるが、大人の階段を上ったと思っておこう。社会人的にクビだが。

 

「まあ……三時間ばかし待っててやれ。何度か連絡してんなら掛け直してくるだろ」
「総ちゃーん！」

 

　頷く秘書にメモを返していると今度はお袋が駆けてきた。笑顔で。再び先に口を開いた。

 

「十回まわってワン」
「え、え、え～と、って、しません！」
「ちっ、親父が言ったらするくせに」

 

　舌打ちした俺にお袋の頬が赤くなる。今、想像した上にワンしたな。
　自分の親ながらドMめと思っていると、我に返ったように俺の胸板を叩く。

 

「そうだった、あの子は！？」
「あの子？ 千風なら今、帰った……なんだよ」

 

　外を指すと『え～』と残念そうに肩を落とされる。
　昨日までの『あんな子！』と怒っていたのとは正反対の様子に顔を顰めていると、口を尖らせた。

 

「落ち着いて考えれば誰かに似た顔と名前だなーって。そしたら“空木（そらぎ）ちよ”さんだって思い出したのよ」
「誰だそれ？」
「総ちゃん知らない？ 昔、宝輝（たからき）歌劇団のトップ娘役をしていた人でね、私ファンだったの。だからあの子、娘さんじゃないかなあと思って」

 

　歳も忘れ嬉しそうに話すお袋に、親父が『彰乃の方が知っている』と言っていたのを思い出す。
　そういう名の歌劇団観賞が趣味なのは知っているが……当然俺は興味ねぇし、見たこともない。だが“空木”は“うつぎ”にも読めると聞き、口元に手を寄せると瞬きするお袋に目を向けた。

 

「……その人のパンフとか持ってんのか？」
「もちろん、家に帰ればあるわよ」
「じゃあ、すぐ持ってきてくれ。角脇ー」

 

　首を傾げるお袋に構わず後ろの男を呼ぶと足早にやってくる。
　隆成じゃねぇが、気になると止まらなくなる癖は俺も治らない。短所でもあり、長所でもあるからな。そんな俺に耳を寄せる角脇に訊ねた。

 

「今朝のNOKのトップニュース、なんだ？」

 

　目を丸くする男に真剣な眼差しを向ける。
　ちぐはくだったものが繋がりそうだが、それが良いものかはまだわからない。ともかくフルーツより先に見つけるもんがあるようだ――――。