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幕間3*「まんまと」

*総一郎視点

 テーブルスタンドの明かりしかない部屋に響く荒い息遣い。
 塞ぐように抱き寄せ口付けると、愛液が零れる秘部に指を入れた。潮を噴き出したばかりなせいか簡単に膣内へと招かれ、礼にと指で掻き回す。

 

「っああぁ……!」

 

 唇を離した声が“違う”ことに口角が上がり、指を掻き回したまま首筋を吸うと意地悪く言った。

 

「はひっ……ん」
「なんだ……潮噴いて、ふーは達したか……じゃあ次ちー、イくか」
「ま、待って……帝王……様んんっ!」

 

 さっきまでは『総一郎』。今は『帝王様』。
 たまにふーが口癖を滑らす時もあるが、後者の呼び方をするのはちーだけ。ふーが達した感覚でも残ってんのか、荒げる息を必死に整えようとしてるが阻むように口付ける。

 

「んっぁ……はぅ」
「俺は……ん、暇が嫌いだと……ああ、ちーには言ってねぇか」
「っああん!」

 

 秘芽と一緒に胸の先端を摘むと小刻みに揺れる身体。
 その身体を、ちーを暴くように今度は秘芽を、時間を置いて胸の先端を摘んで引っ張っる。胸の時が大きく跳ねたことでそっちかと判断すると、片胸を指で弄りながら片方に吸い付き舌で転がした。
 ちーは暴れるが、その度に入れたままの指に膣内を刺激され、いっそう喘いでは愛液を零している。俺は笑うしかない。

 

「くくっ……ふーは下がお好みだったようだが……ちーは上か」
「そ、そんなこと……」
「なら、どこが好きだ?」

 

 弄る手を止めると胸板にちーを俯けで乗せ、膣内から抜いた手で顎を持ち上げる。肩を上下に動かしながら火照った顔、潤んだ瞳で見つめる女に愛液が絡まった指を口に差し込むと命令した。

 

「ほら……“ちー”はどこをイジメてもらいてぇか言えよ」
「……っ」

 

 意地悪い笑みを向ける俺に、ちーは目を逸らす。だが、ゆっくり戻すと、差し込まれた指に付いていた愛液を舐めながら言った。

 

「帝王様のなら……全部……欲しいです」

 

 ライトだけの薄暗い部屋で頬を赤め、自分の愛液を舐めながらねだる姿に高揚感が増す。これがふーなら焦らしに焦らしてから啼かせるが、ちーは反対だと交替を繰り返し抱いて知った。
 指を引っこ抜き口付けると反転。シーツに沈んだちーの片脚を持ち上げると肉棒を宛がい、ヒクヒクさせる膣内を一気に貫く。

 

「あ、ああぁぁっ!」

 

 何度も入ったっていうのに、まだ狭い。
 千風が最後ヤってから時間が経って狭まったか、俺が抑えきれてねぇのか。考えるだけで笑みが零れ、震える千風の両手が頬を包む。

 

「帝王様っ、あん……楽しそ……です……ね、んっ」

 

 喘ぎ、目尻から涙を零してるくせして笑ってやがる。
 やっぱ隆成が言ってたように“こっち”は隠れSな気がすんな。“向こう”は完全ツンデレのMだが。汗を落としながら意地の悪い笑みに変えると両脚を屈曲させ、奥へと押し込む。

 

「あ゛あ゛ぁ……っ!」
「そりゃあな……俺が何度……千風(てめぇら)を……喰いたいと言った」
「私達は……食べ物じゃ、ああっ」
「ああっ? 俺が愛した女のくせして……何言ってやがる」

 

 上体を屈め耳元で囁くと、息を呑んだように千風は固まる。だが同時に膣内を締め付けられた。

 

「っぐ……てっめぇ、ここで隠れS発揮すんじゃ……」
「ち……違います。た、ただ……その、嬉しくて……」

 

 恥ずかしそうに言いながら両手を首に回し、頭を上げた千風は肩に顔を埋める。締め付けたまま頬ずりする仕草に、不覚にも可愛いと思ってしまった。次いで啼かしてぇ。
 そんな理性を抑えることなく口付けると抱きしめたまま沈み、挿入を繰り返す。手に入った喜びを全身で知るかのように。

 

 それは今まで感じたことのない感情。
 啼かしてぇはあっても一度啼かせれば満足した。けど“こいつら”は何度啼かしても足りねぇ。二重人格だろうとホステスであろうとわけありであろうと、本能が求めてたんだ。求めに求めて今日落ちた──。

 

 

 

 


 気付いたのは先週。
 龍介のメールで千風とNO.1を見つけ『蓮華』に千風を送った後のことだった。

 目的地へ向かう車内では口煩く今夜の予定だの何だの角脇が喋るのが普通。だが珍しく何も言わず静寂だけが包んでいる。かくいう俺もノートパソコンを閉じ、火を点けていない煙草を咥えたまま窓の外を見ていた。
 夏に入ったせいか沈むのが遅い夕日に目を向けたまま腕を組むと、前の二人に疑問を投げ掛ける。

 

「どう思う?」
「抽象的な質問はお答え仕兼ねます」

 

 即答に助手席に座る柳田も僅かに頷いた。
 こういう時だけ同級生っつーか、付き合いが長い感が出るな。俺も隆成や圭太相手じゃ似たようなもんだが。しかし正論もまた正論だったため言い直した。

 

「千風の『準備』の意味だよ」

 

 パワーウインドーの隙間を空けると煙草に火を点ける。
 ついさっきまで啼かせていた千風。昨夜より抵抗が少ねぇのは半分慣れたせいかと思ったが、ふーの抵抗も減った。身を任せるようなちーだけならまだしも、警戒心丸だしのふーから抵抗がないのを感じると新鮮を通り越して不気味だ。

 そう思っちまうのは異名のせいだろうな。極めつけは降りた際の言葉。

 

『……もうちょっと……待ってて』

 

 振り向いた時、どっちかわからなかった。
 目が大きくノロボケオーラを漂わせるのが、ちー。眉を上げ鋭い目でガルルオーラを出すのが、ふー。隆成のように何で替わるかはわからずとも二人を見分けることは簡単だ。
 だが、さっきのはどっちにも見えなかった……いや、あれが正真正銘の“千風”だと考えれば納得は出来る。

 

 条件が揃った時にしか出会えない幻級のような当たり感だが、不思議と喜べねぇ。むしろ嫌な感じがすんのはなんだ。そして『喰われてぇのか』の問いに『準備』の返答。幻級に頭の回線を弄られたのか、準備が何を指すのかまったくわからず煙草を吹かす。
 そんな俺に互いを見合う二人。すると柳田が一本の指を立て、角脇が口を開いた。

 

「1.総一郎様に本気で喰われる準備、2.総一郎様からマジ逃げ準備、3.ただからかっただけ。狼狽えてヤッタネ☆」
「柳田ー、殴れー」

 

 俺の低い声に、指を一本ずつ立てていた柳田がオロオロしだす。
 こいつは仕事以外だと妙に小心者なところがあんな。ともかく車が停まったら揃ってチョップを喰らわそうと指を動かしていると、角脇は溜め息をついた。

 

「まあ当然、1の可能性であってはほしいですが、なにぶん不可解なお嬢さんですからね」

 

 同意するように柳田と頷くと、不可解で思い出す。
 立ち上げたパソコンには一人の男の情報が映し出された。先日、千風のアパートでも見た──牛島春冬。

 

 気になって調べたが、まさか『U・B』の子息とはな。
 会社名だけなら柳田が所属する会社と並ぶほど有名だが、息子の話は聞いたことねぇ。つーか、気になるとこは別だ。

 

「千風と同い歳か……」
「彼の護衛対象が千風様という櫻木様の推理は当たりかもしれませんね」
「父親と今でも契約してるかもっつー、てめぇの推理はハズレたかもしれねぇがな」

 

 ミラー越しに俺を見る角脇に構わずキーボードを動かすが、エラーの音。
 昨夜六家専用線で叩き出したはずの情報が今朝にはブロックされてやがった。つい職業柄解きたくなるが、眉を顰めるとパソコンを閉じる。

 

 昨日の今日でブロックされるってことはヤツの存在をバラしたくない、もしくはバックを探られたくねぇ誰かの意図だ。一瞬ジジイかと思ったが、あの上座から見下ろすジジイが手を出すとは思えねぇ。創始者って意味でなら『蓮華』の情報をブロックしてやがったのはジジイな気はするがな。

 

 それを踏まえ考えられるのは千風本人。
 昨日色々と確認取っちまったし可能性はなくはねぇ。あんま千風がパソコンする姿が浮かばねぇから、実家や牛島春冬に連絡取ったっつーのが有力か。けど、さっき牛島春冬の名を出した時は顔色変えなかったしな……実はちーの方がポーカーフェイスだったか? つーか、隆成との連絡はなんだ?

 考えれば考えるほどショートしそうな頭に苛立ちが募り、荒々しく煙草を消すと二本目を咥える。そんな俺に前の二人は何やらヒソヒソ話。

(深入りし過ぎて入り組んだ迷路に迷い込んだようですね)
(社長……何気に近道するの嫌いですから……時間掛かるかもしれないですね)
(ホステスにまんまと盗まれてどうするんでしょうね)
(盗まれたって……何を?)
(そりゃあ、カリ○ストロの城の名言的な)

 

 運転中にも構わずデカいチョップを落とした。

 


* * *

 


「仕事の邪魔だから……消えてほしい」
「ああっ? 俺がいつ邪魔をした」
「そのドス黒オーラを振り撒く存在自体が邪魔っだ!!!」

 

 会って早々チョップを落とす。
 銀座から然程距離のない浅草にある『階堂呉服』本店。上等物の和服の販売から製造他、専門学校まで経営する階堂家はジジイに次いで長く六家に名を連ねている。

 

 そんな老舗の次期社長様の部屋には色鮮やかな刺繍糸や製作途中の和服が並び、机にはデザイン画の山。椅子に座る龍介は長い髪を後ろ下で結い、膝には直径十二センチほどの刺しゅう枠。作り途中でも丁寧に縫われたパンジーだとわかる。
 その丁寧さを客の俺にも出してもらいてぇところだ。

 

「誰が客ですか……いきなりきてチョップかまして……僕、話すこと何もナイ」
「俺の用は隆成の妹で終業時間まで待ちてぇだけだ。てめぇはゆっくり縫い物しとけ」
「~~~~っ!!!」

 

 ソファに背を預けた俺に針を持った龍介は刺繍に。ではなく、気泡緩衝材……いわゆる梱包に使われるプチプチに針を刺しまくる。やかましい音に両手で耳を塞ぎ、早く終業になれと願った。

 

 母親の趣味から和装に興味を持ち、龍介の店で働いている隆成の妹、撫子。
 昔は隆成にひっついてやがったから顔馴染みでもあるし遊んだ記憶もある。だがまさか婚約者になるとは思わなかった。いや“なる”じゃなくて“なっていた”だな。親友同士のお袋達が昔から男と女が生まれたら結婚させようとか、面倒な約束しやがって……妹がどうかは知らねぇが、俺は数年前親父に聞くまで知らなかったぞ。

 

 苛立っていると立ち上がった龍介に新品のプチプチを渡され、ありがたく雑巾を絞るように潰させてもらった。一回だけで見事に潰れたプチプチを龍介は暫し見つめると、呆れた眼差しを向ける。

 

「何に……苛立ってるんですか?」
「なんだろうな……龍介。お前。女と付き合ったことあるか?」
「女遊びが好きな貴方方とは違い、一人しか愛さないと決めてマス」

 

 ズバっと言っておきながら頭を守る龍介。だが、予想していたもんが落ちてこなかったせいか瞬きしている。
 『女遊びが好き』ってのは御幣があるかもしれねぇがヤってたことは確かだし否定はしない。それよりも『一人しか愛さない』に何かを感じ、客人用の皿に乗せられた『うめぇなり棒』を取ると口に運ぶ。

 

 考えれば誰か一人に絞ったことなんかなかったな。
 後腐れなく終わる関係ばかりの女達はいたが、一人に執着したことはない。社長業になってからは忙しさしかなかったせいか、普通にいけば妹と結婚の道だけだっただろう。それが千風と会って道が増えやがった。
 千風も妹も同い歳。性格もどこか似ている二人。けど、明らかに違う感情に笑みと呟きを零す。

 

「ああ……喰いたくなるな」
「……うめぇなり棒ならお土産にドウっ!!!」

 

 腰を上げ、チョップを落とすと残りのうめぇなり棒を口に放り込む。
 同時に角脇からのメールで妹と合流したのを知ると、頭を押さえる男に構わずドアに向かう。だが、取っ手を握る前に振り向いた。

 

「龍介、昼間のメールのことだが」
「御礼参りオコトワリ……」
「バカか。その反対だ、助かった」
「ヒッ!?」

 

 両肩を揺らした龍介は青褪めた顔を向けるが、それ以上は俺も何も言わず部屋を後にする。
 礼を言うなんざ俺の性分には合わねぇが、今日、千風と会えたことについてはなんでか礼を言いたくなった。ついでにさっきの台詞も合わせてな。

 

 廊下を進んでいると角脇と柳田、そして妹の姿が見える。
 緊張した面持ちの妹は可愛くはあるが、喫茶店で千風を見つけた時に感じた喰いたい、手中に落としたいと騒いだ感情は湧かない。一切求めようとしなかった本能は“あいつら”だけを欲している。

 

 それが一人だけにしか向かない愛というなら俺にとって“千風”がそうなんだろう。そう考えると苛立ちも治まり笑いたくなる。まったく、攻め落とすつもりが先に落とされた気分だ。

 

 だが、まだ笑うには早いと、目の前の現実に向き合った────。

*次話も総一郎視点です

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