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25話*「特別」

 薄っすらと目を開ける。
 手触りの良いシーツとタオルケットに、ウチの布団ってこんなに高級だったけっと寝返りをうつ。が、ピシッと全身、主に下腹部に激しい痛みが走った。

 頭が覚めるとウチの布団には程遠い高級ベッド、見慣れない部屋、全裸。それらを合わせ“あたし”は事態を把握したが、羞恥にタオルケットで顔を覆った。
 だって指だけで達したんだよ!? これじゃMだって自分で証明したもんじゃない!!! 屈辱だ~~~~!!!!

 

 悔しさにベッドを叩くが『うっせぇ!』と叫びながらチョップを食らわすドSが浮かび急停止。したが、落ちて来ない。薄暗い中、隣に手を伸ばし叩く。何も当たらない。枕を投げる。床に落ちる音だけで何も来ない。どうやらドS総一郎はいないらしい。ほっ。いや、いたら終わってたけどね。

 

 安堵の息を付くと頭をシーツに沈め、ちーに呼び掛ける。
 けど、返答も監視類の気配もないから寝てるようだ。片方の意識がある限り考えもモロバレなこの体質唯一“一人”になれる時間。その点、あたしの意識がない間ちーに何があったかはわからない。なぜこんなに下腹部が痛むのかも。
 でも、経験したことある痛みに、拭き取られた秘部へと手を伸ばすと呟いた。

 

「先……挿れられたか……」

 

 それはまるでちーに対する嫉妬。
 ちーはあたしを別の自分だと言ってくれて、あたしもそう思ってる。世話の掛かるもう一人の自分だと。だから総一郎があたしにも『好き』と言ってくれた時は嬉しかったし、先にちーが『好き』と言われ挿れられたことは悔しい。

 

「良いな………ちー」
「起きて早々ドM発言とはヤる気満々だな」

 

 独り言に返答が来るとは思わず身体が跳ねる。
 同時に照明が点き、一瞬瞼を閉じ開いた先にはスイッチに手を置いた総一郎。上半身裸にズボンと、慣れない胸板にタオルケットで口元まで隠す。が、あたしのクラッチバックを持っているのに気付いた。

 

「ドロボー」
「ほう、ならこれはいらねぇな」

 

 バックと煙草の他に持っていた物を見せられる。スプーンと……スーパーカープ!!!

 

「ありがとうございます、総一郎様!」
「隆成からだけどな」
「コンニャああぁごめんなさーい!!!」

 

 アイスを放り投げようとする男に下腹部の痛みも忘れベッドの上で土下座した。
 くそっ『蓮華』に来た時、覚えとけ!


 

* * *

 


 肌をタオルケットで隠し、濃厚ミルク味のアイスを食べるあたしは笑顔。窓際の椅子に腰を掛け煙草を吸う総一郎は呆れた様子だが、構わず問うた。

 

「櫻木隆成と話してたの?」
「隣のリビングで圭太と龍介も一緒にな。てめぇが起きたのがわかって追い出したが」
「よくわかったね」

 

 そこまで勘が良かったけと考えるが、総一郎はあたしが投げた枕を拾った。安全確認がドS召喚になったようだ。

 

 スプーンを咥えたまま静かに顔を逸らすと、バックから携帯を取り出す。
 時刻は二十三時前で不在着信一件、メール三通。仕事中で今日のことを知ってるママ達が電話をするとは思えない。誰だと履歴を見ると──ハヤテ号。

 

「てめぇ、どういう名前付けてんだ」
「付けてんのはちー。ていうか見ないで」

 

 煙草を消し、スプーンを引っこ抜いた総一郎に背を向ける。
 仕事柄本名はマズいとはいえ櫻木隆成のジョリーヌとか、もうちょいマシなの付けろよとあたしも思う。が、今回ばかりは助かった。何しろ、この主は“春冬”だ。
 ちなみに小さい頃のちーが春冬の相棒マウンテンバイクに付けた名前。

 

 チクりに続いて嫌がらせかと眉を顰めメールも見ると一通は百合姉、一通は愛姐で階堂龍介達から聞いたのか『おめでとう』メール。そしてもう一通はハヤテ号。またアンタか!
 苛立つが、件名が『千風様へ』だから冬だ。仕事担当のヤツなら急ぎかとメールを開く。

 

『うつ病だそうです。どうしましょう』

 

 知るか! 本気で病院行った上に報告すんな!! やっぱ嫌がらせか!!!
 苛立ちのまま携帯をバックに放り込むとアイスをパクリ。しようと思ったが手に乗せていたアイスが消えた。振り向くと、左隣に座る男の手にアイスとスプーン。そしてパクリと食べ……。

 

「あたしのアイスー!」
「俺は暇が一番嫌いなんだ。ついでに隙を作ったてめぇが悪い」

 

 二口目を食べる姿に手を伸ばすが、アイスを持つ手を上げられる。
 勢いついていた身体は彼の右脚に落ち、背中には左脚を乗せられた。女の背に脚を乗せるとはなんて男だと睨むが、三口目を食べ終えた総一郎は安堵のような息をつく。

 

「これで悦ぶドMじゃなくて安心したぜ」
「だからあたしはMじゃないって!」
「ああ、性的興奮のみのMだな」
「どういうっあ!」

 

 背中から退いた左足で横から胸を突かれた。
 一瞬だが身体を浮かせたのがダメだったのか、懐に左足が潜り、前後に動かさせる。動きが早いせいか、足の甲に胸の先端が擦れ合う度に身体が跳ねた。

 

「あんっ、ちょ……」
「くくっ、感じてる声が出てんな」
「こんのっ……」

 

 笑う声に上体を起こすと、総一郎側ではない方を向いて寝転がる。これで大丈夫と一息つくが、今度は股間に足を押し込まれた。

 

「ちょっとっ!」
「まだまだ甘ぇな」

 

 喉を鳴らす男の足を挟んだまま両手でも押さえようとするが、力では敵わないのか、また前後に動かされる。自分の身体も足と合わせるように動くが、秘部に近付く度に動悸が激しくなってきた。
 これじゃ悦んでるみたいだと瞼を閉じる。

 

「俺的にはこの辺で止めるのがベストだと思うんだがどう思う?」
「ちょっ、ここで止めわっああ!」
「んなわけねぇだろ」

 

 あと数センチで届くというところの声に反論と共に力も抜ける。それがまた罠だった。嘘つきと書いてドSと読むように、一気に秘部まで辿りついた足で擦られる。振り向けば、意地の悪い笑みを向ける総一郎。しかもアイスを持ったまま! 腹立つ!!

 

「刺激が足りねぇようだな」
「ああぁあん……」
「くくっ、やっぱ拭かねぇ方が良かったか。また零しやがって」

 

 親指で秘芽を押されると怒りは別のものへと変わる。
 それを象徴するかのように愛液が零れるが、彼の言葉に上体だけ捻らせると抗議するように言った。

 

「さっきのは……ちーの……だから、んっ……いいの」

 

 股の刺激を受けながら目を合わせるあたしに、総一郎は一瞬目を丸くする。だがすぐにいつもの笑みに変わると股から足を引っこ抜いた。

 

「っあ!」

 

 その声は突然なくなった足に寂しがっているようで、身体を仰向けにさせると真上には見下ろす総一郎。驚きの悲鳴を上げる前に唇を塞がれた。

 

「んっ!」

 

 寂しさを補うように重ねられる唇。入り込む舌と唾液。知った味と甘いアイスの味がする。好きなバニラ味に両手を彼の首に回して堪能するが、冷たいものが肌に伝った。

 

「冷っ……な!?」

 

 視線を上げた先には総一郎の手。その手にはカップアイスがあり、溶けたアイスを乳房に落としていた。慌てて身体を動かそうとするが、片手で腰を押さえられる。

 

「くくっ、大好きなアイスに何逃げようとしてんだ」
「あ、アイスは食べるものでかけるものじゃない!」
「ああ“喰う”ものだろ」
「は、え、ちょ、ちょっと待っ……ああっ!」

 

 カップを置き、跨った総一郎の笑みに嫌な予感は的中。アイスが零れる胸の先端に吸い付いた。
 吸い上げながら熱い舌を転がされると冷えていた身体は火照りだすが、刺激の強さに身じろぐ。その両手は片手で上にひとまとめにされ、脚もあたしのとは比べ物にならないほど強い両脚で挟まれている。顔を上げた男は反対の先端を舐めながら目を合わせた。

 

「ちーとは違う刺激でコレを零したいんだろ? 」
「んっ……あん、あ」

 

 空いた手が緩められた両脚で開いた下腹部へと伸び、秘部を撫でられる。既に零れていたせいで手を濡らしてしまうが、気にもせず愛液を絡ませた指を一本膣内へと入れられた。

 

「あ、ああぁ……あ」
「ふー、今度は指だけでイくなよ」

 

 先ほどの羞恥を思い出す指摘に全身が一気に熱くなると、下半身を跳ね上げた。驚いた総一郎は指を抜いたが、身体までは動かせない。そのため跳ね上がると同時に折り曲げた膝が丁度彼の股間に──。

 

「っだ!!!」
「あ……」

 

 ナイスヒット! 脚を緩めたアンタが悪い!!つーか逃げなきゃ!!!
 あたしのお腹に顔を俯かせ、身体をピクピクさせる男から離脱を試みるが、両手を掴む手だけは外れてない。必死に外そうとするが、先に総一郎の顔が上がった。それはもう眉間に皺も寄るほど酷い。

 

「御門様、笑顔笑顔」
「引き攣った営業スマイルしてるてめぇに言われたかねぇ……つーかよくも」
「隙を見せた貴方様から一本取っただけです」
「ほう……」

 

 顔を近付けられると冷や汗が流れるが営業スマイル維持。根性見せろNO.3。
 すると捕らえられていた両手が解放されるが、すぐ抱き上げられる。そのままシーソーのように総一郎はベッドに沈み、今度はあたしが彼の上に乗ることとなった。硬い胸板を叩くあたしに構わず総一郎はズボンのチャックを開く。

 

「なら、一本取れた褒美に挿れてやる」
「なんか嬉しくな……っ!」

 

 上から目線にムッとするが、濡れた秘部に何かが擦られる。
 頬にある胸板とは違う硬さに上体を起こすと振り向く。そこには大きな男のモノ。久し振りに見るモノに顔を赤めると、総一郎はあたしの手を取ってそれを握らせる。

 

「や、ちょっ……!」
「ちーといい、初々しい反応しやがって。牛島春冬の見たんじゃねぇのか?」
「み、見たけど……こんな太くな……あっ」
「ほう……」

 

 目を細める男よりも握っているモノに目がいってしまう。
 何に例えればいいのかわからないモノは大きくて太く、これが自分の中に入ったとは思えない。でも、ちーのナカに入ったことを知っているとゆっくりと上下に動かす。

 

「っ……Sっ気でも出てきやがったか」

 

 小さな息を漏らした総一郎は片手で胸を揉み、片手はあたしのお尻を撫でながら指で秘部を擦る。そう、気付けばあたしの手を取っていた総一郎の手はなくなり、自分で動かしているのだ。

 

「いいぜ……褒美に自分で挿れて」
「じ、自分から……あんっ」

 

 褒美ではなく罰ゲームを要求されている気がする。
 けど、戸惑っている間に暇が嫌いな男は胸の先端を摘み、秘部に指を一本入れては音を鳴らしはじめた。喘ぐあたしに意地の悪い笑みが向けられる。

 

「あんま待たせると、また指だけでイかせるぞ」
「だ、誰が……イくもん……か」
「っぐ……!」

 

 止めていた手を再開させる。
 動きを速めると総一郎の手が止まり、笑みがちょっと苦しい……というより悔しさを滲ませていた。この熱さは彼のモノから伝わるものなのか、あたしの身体から放出されているものかはわからない。でも想うことはひとつ──挿れたい。

 

 弄られる手よりも高揚する気持ちは抑えられず、擦っていたモノを秘部に近付ける。先端が触れるとピクリと身体が動く。それだけでも湧き上がる気持ちに止めることなく膣内に挿れた。

 

「あああぁあーーーーっン!!!」
「っあ……!」

 

 押し入れると同時に腰を落とすと、駆け上る刺激は大きかった。
 でも、彼の両膝に両手を乗せると無意識に身体を動かす。ただ入ってるだけとは違う、それ以上の刺激に動悸も激しく全身が熱い。そんなあたしの両腰を持つのは汗をかく総一郎。口元には笑み。

 

「っ……てめぇ……Sに見せようとしてっが……やっぱ……」
「……アンタの前だけならね……特別」
「──ドMがっ」
「うっさああああぁぁあーーーーー!!!」

 

 意地悪な笑みを返すと同時に腰を持った両手で前後に揺らされる。
 自分で動かす以上に激しく、自分がどう乱れていても、Mだったとしても関係ない。上体を起こした彼に抜かれても抱きつき口付ける。それに応えながらズボンも脱ぎ去った男に挿入し直されると沈んだ。

 

 達するまで、尽きるまで、満足するまで、何度でも。
 ちーに負けない愛をあたしも欲しい。あたしにもちょうだい。いっぱいいっぱい。

 

 いつまで共にいられるかわからないあたしにも────。

*次話、総一郎視点

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