S? M?
いえ、フツーです
番外編*9月9日*千風誕生日
深夜0時過ぎ。
最後の客、なりー社長を見送った"あたし”は店内に戻る。と。
「ふーふ」
「ふうりん」
「お誕生日おめでとう!」
愛姐と百合姉に次いで皐月ママが声を上げると、他のキャストも『おめでとう』と声を合わせ、クラッカーを鳴らした。
「はひ?」
突然のことに理解できていないあたしが面白いのか、綺麗にラッピングされた箱を持つ百合姉が笑う。
「もう~ふうりん~自分の誕生日~忘れちゃ~ダメだよ~」
「へっ? あ、誕生日!? それだけで残ってたの? あ、たまたま?」
「あらあら、この子ったら」
「ふーふ“達”のために決まってるじゃない。ケーキも用意してるんだからね」
そういうと、客のいないフロアに豪華なアイスケーキが運ばれてきた。
中央の板チョコには『HAPPY BIRTHDAY風』とあるが、“あたし達”を知る三人の目に“千風”のためだとわかる。
誕生日曲を歌いながら拍手してくれる家族に、心の底から喜びが溢れ出した。
「ほら、風。消しなさいな」
「……はひっ!」
同調した想いに応えた“私”は笑顔で蝋燭の火を消す。
今までで一番嬉しい誕生日になるかもしれない──。
*
*
*
「──と、思ったのに。起きたら枕がドMに変わってたんですよ」
「どえむ?」
「牛島様のアダ名ですよ、お嬢様」
「相変わらず不法侵入してんのかよ、ハルハル」
「失礼な! ちゃんと護衛っはあああぁあん!」
浮かしたお尻を落とすと、“椅子”の歓喜がカフェに広がる。
周囲の客はドン引きするが、向かいに座る三人。同級生のカナさんと安心さん。そして、カナさんを膝に乗せている執事さんはなんでもないように話す。
「しっかし、急だったのによく来れたな、白鳥嬢」
「真咲も私も仕事の約束は午後からだったので」
「安心院様はホテル勤務ですから、平日がお休みなんですね」
毎日のように顔を合わせていた学生時代とは違い、今は年に数回会えるかどうか。それが『私の誕生日』というだけで集まってくれたことに、頬張るパンケーキ(アイス乗せ)も格別に美味しい。
すると、カナさんの目が私に移った。
「千風さんも今日はお仕事お休みなんですか?」
「いえ、夜からあります」
「? 酒造屋さんは夜にもお仕事が?」
学生時代と変わらない真ん丸でキラキラとした目。
そんな方に『酒造業』としか伝えていない自分の職業。そして、知っている男性陣が笑顔のまま固まる。撫子さんと違って言えないのは、カナさんの純粋マジックのせいか。いえ、私以上に淫らなことしてますけどね。主に執事さんのせいですがと考えていると、笑顔(ブラック)執事さんがスパっと言った。
「会社で造られたお酒を飲みながら牛島様を踏みまくる仕事です」
「そうっ! 今夜は踏みに踏みまくられて罵られ最後に踏まれる最っ「椅子うるさい」
「んで、仕事後にハルハルを捨てて、恋人と楽しい夜を過ごすんだよな」
「んなの捻り潰すに「椅子解体します」
関節技を笑顔で決める私と椅子の叫びが響く。
同時に思い浮かべるのは帝王様。互いに誕生日なんて聞いたことないし、今夜店に来るかもわからない。でも、誕生日という特別な日を考えると……──。
「寂しい、とか思ってます?」
「はあ? 何バカ言ってんの」
三人と別れ、夜も深まった頃。
慣れない陽の下から慣れ親しんだ『蓮華』の明かりにほっとする。が、もうじき閉店だというのに仕事の権限を使い、黒服として居座る冬に“あたし”は頬を膨らませた。
「アンタ、仕事ないの?」
「0時からなので、そろそろ出ます。それにしても、来たら皮肉ってやろうと思ったのに来ないなんて……」
「笑顔で哀れむのやめてくれない?」
「玄関でケンカするのもね」
客を見送った後だったせいか、出入口で言い合うあたし達に皐月ママが笑顔で通り過ぎる。キッと冬を睨むが、屁でもないように腕時計を確認すると微笑んだ。
「ま、他の客から大量にアイス貰ったんですから、食べて元気だしてください」
「だからなんで笑顔で哀れ……っ!」
腹の立つ笑顔に声を荒げるが、言い切る前に抱きしめられる。
先ほどまでの客やお酒、煙草とは違う臭い。でも、知っている匂いに立ち止まっていると、ふっと、耳に息を吹きかけられた。
「ひゃっ!」
「じゃ、誕生日おめでとうございました」
「まだ終わってないわよ! バカ冬っ!!」
真っ赤になった耳を押さえたまま怒鳴るが、振り向くことなく冬は出て行った。
脳内では『はひ~、ふーちゃん暑いです~』と、あたしの熱を表すかのように汗をかいたちーが手で扇いでいる。春と違って行動が読めない幼馴染に苛立ちは増すばかりで、勢いよく背を向けた。
「もうっ、哀れむぐらいならアイス食べまくってやるわよ! 今夜の営業は終了よ終了!! もうおしまっだ!!!」
大股で歩き出そうとした瞬間、頭に何かが落ちる。
それが手刀という名のチョップで、一人しか浮かばないあたしは相手を確認することなく叫んだ。
「ちょっと、何すんのよ総一郎!」
勢いよく振り向いた先には案の定、同じ顔をした御門 総一郎が立っていた。
「ああっ? そりゃ、俺の台詞だろうが。浮気した挙句、なに勝手に営業終了してんだ」
「はあ? 浮気ってな……て、まさか」
反論しようとしたが、彼が来る前にいた男を思い出し、血の気が引く。総一郎の背中から顔を出した角脇さんと柳田さんが答える。
「先ほど『蓮華』から男性が出てこられ、笑顔で総一郎様にケンカを売ってました。その名も……」
「牛島氏です」
「言わなくてもわかるわよ! 揃ってイジメにきたの!?」
仲の良い社長一行に両手で顔を覆う。
ついでに冬への怨みを唱えていると、紙袋を持った総一郎がポツリと言った。
「誕生日っつーから、ダッチュ盛りを持ってきてやったが、ママ達へのプレゼントにするか」
「ヤダヤダヤダ! ダッチュ欲し……てか、なんで誕生日知ってんの!?」
「ああ? ちーが柳田に喋ってたんだろ」
「ちーっ!!!」
叫びと同時に『そういえば』と思い出す相方に脱力していると、総一郎は紙袋を角脇さんに手渡す。
「その後、六家回線でお前を祝いに行こうって話が出たが、台風の影響で全員アウトになってな」
「リアル話しやめてよ……それこそ、アンタは大丈夫なわけ?」
IT界のトップともいえる会社社長。
だが、心配するほど損とは彼のことをいうのか、いつもの意地悪い笑みと自信が返ってきた。
「俺はどうとでも出来んだよ。それより、恋人の初誕生日ぐらい祝ってやらねぇと、不貞腐れて面倒になるからな」
「べ、別に不貞腐れてな……っ!」
頬が赤くなるよりも先に腕を引っ張られ、顎を持ち上げられる。目前には変わらない総一郎の顔があり、見惚れている隙に口付けられた。
「っん、ふ……」
来る前に吸っていたのか、よく知る煙草の味がする。
匂いも冬とは違うが、良く知る好きな匂い。咄嗟に背伸びをすると口付けが深くなり、腰にも腕が回った。
「っんん、んっ……っはあ」
「素直なのは良いことだが……浮気分の仕置きは別でするからな」
離れた彼の唇が耳朶を舐めると、お尻を撫でられる。
それだけで身体も熱く、下腹部も濡れるのを感じた。湧き上がる気持ちは店や同級生に祝ってもらった以上で、彼の身体で監視機器が遮断された“私”は微笑んだ。
「……はひっ」
蕩けるように緩んだ頬に帝王様は喉を鳴らし、私へと口付ける。
私達を祝うように──。
*
*
*
「っん、ふっ……んんん゛ん゛っ!」
「勝手に追加すんじゃねぇぞ、ちー」
「帝王しゃまだってんんんん!」
文句を言い合いながらも、店の奥にあるVIPの個室には独特な男女の匂いが充満している。
長ソファに仰向けで寝転がる帝王様の上に跨る私は、彼とは反対を向いて、白濁を零す肉棒を咥え込んでいた。口内で噴き出す白濁を零さないよう吸い上げる。
「っ……Sちーが」
「私はフツーでしゅ……んっ、んっんんん!?」
ヌルヌルに濡れた胸で挟んだ肉棒を扱きながら根本まで咥え込んでいると、股間に顔を埋めていた彼が秘芽を舐める。同時に『ピッ』と、携帯の動画ボタンを押した。
当然替わった“あたし”は咥え込んだ肉棒の大きさと、荒々しく舐める舌に刺激され、我慢できない蜜が迸る。
「っあああぁ……総一郎……!」
「Mふーは、洩らすのがえらく好きなようだな」
「し、知らない……っんんふ」
つんけんとした態度を取るが、上体を起こした総一郎に振り向かされ口付けられる。煙草とは違う自分の蜜の味。それが恥ずかしくて嬉しくて、自然と蜜が零れると腰を浮かした。
大きく勃ち上がった肉棒が、待ち望んでいたナカへと挿入される。
「あ、ああぁぁ……あぁんっ……おっき、いいぃんっ、んっ!」
「お前のナカも……っ充分……広いじゃねぇか……さては先に牛島春冬のでも挿入(いれ)たか?」
「い、いれてなああああぁぁあん!!!」
羞恥で熱くなった身体が自然とナカを締める。
さらに腰を持った総一郎に揺らされ、厭らしい水音と喘ぎが、刺激を与えられる度に飛ぶ蜜がソファを濡らした。でも、気持ち良さが勝っているあたしは求めるだけ。
「あ、あああぁっ、イい……そういちろ……イっちゃ……」
「ダメだ……先にちーな」
「えっ……ひゃっ!」
懇願は受け入れてもらえず、動画を切られる。
篭っていた裏とは違う本物の刺激に加え、大きな両手に胸を揉み込まれては乳首を引っ張られる“私”は、早くも音を上げた。
「はひあ、あああぁっ、む、胸は、帝王しゃああ、あああぁぁっ!」
搾るように揉み上げられた胸と、最奥を突く肉棒に頭が真っ白になる。
噴き出す潮に構わず抱き留めた彼は動かない唇に口付けては舐め、囁く。
「ほら、ふー……次はお前の番だ」
「っぁ……は……もうムリ……やめて」
「くっくっく、せっかく俺が誕生日祝ってやってんだ。力尽きるまで無茶苦茶にしてやるよ」
凶暴な声と笑みに涙が零れる。
それは嫌だからじゃない。二人分のプレゼントを、愛をくれる恋人に、身体も心も嬉しいから涙も蜜も零れる。応えるように口付ければ、当に日付が変わり、終わった誕生日など関係なく、最高の一夜にしてくれた──。
「プライベートのお客様ってことで、代金は戴けなかったわ。残念、風ちゃん」
「総一郎のバカああああぁぁぁっっ!!!」
ちゃっかりな男のせいで、今月の売り上げがヤバいことになるのはもう少し後の話しだ────。