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23話*「言って」

 塞がれるというより、奪われる。
 はじめてされた時のように強引な口付け。人前、しかも身内の前でも平然と口付ける傍若無人さ。それでも構わず私は瞼を閉じた。知った味と舌に、何よりはじめて聞く『好き』に全身が歓喜する。が、すぐ唇は離れていった。

「はひっ!?」

 

 ドS属性にそぐわない行動に悲鳴を上げる私は欲求不満か。
 頬を赤らめ思うも、悲鳴は間違ってないと言うように、ご両親どころか撫子さんと桔梗さんも意味深な目で帝王様を見つめていた。

 

「総一郎様が途中で止めるなんて……」
「好きならハッキリなさいな」
「おめぇ、俺に恥をかかせる気か」
「寸止めなんて、総ちゃんも意地悪~」

 

 うわお、さっすが六家。止めるどころかイケイケですね。興奮気味のお母様が誰かに似ててなんとも言えませんけど。
 そんないくつもの眼差しを気にも留めない帝王様は携帯を取り出した。

 

「身を任せるMにさせてぇところだが、告白はまだ終わってねぇぞ」
「だ、誰の……?」
「“もう一人”の」
「もうひと…………!?」

 

 気付いた時にはニヤリと口角を上げた帝王様に携帯を向けられスイッチ“ON”。顔を青褪めると慌てて両手を振りながら叫んだ。

 

「や、やめてよ! ここで替えないで!! ちーが言ったでしょ!!!」
「ああ、ちーのは聞いたな。けど“お前”のは聞いてねぇぞ、ふー」
「ドSーーーーっっ!!!」

 

 “あたし”の叫びに総一郎は褒め言葉だとドヤ顔を見せる。
 くっそ~、ちーが“私とふーちゃんも”って言ったから免れたと思ったのに! やっぱ属性通りか!! 腹立つ~~!!!
 携帯を向けたまま詰め寄る総一郎と後退りするあたしを、当然角脇さんと柳田さん以外は変な目で見ていた。

 

「バカ息子はどんな性癖に目覚めたんだ」
「撮られながらって良いかも……」
「彰乃、落ち着きなさい……と、そろそろ時間よ。撫子、本当にいいの?」

 

 立ち上がり、小さな息を漏らしながら娘を見る櫻木母に、あたしも総一郎も櫻木撫子を見る。
 振り回された、だけで終われるほど彼女にとっては簡単な気持ちではない。あたしがいなければ想い人の総一郎と結ばれたかもしれないのに直前で無茶苦茶にされたようなものだ。終いには目の前で口付けとか完全あたしは櫻木隆成が言ったようにダークヒロイン。
 いや『蓮火』って名前を持ってる時点で間違ってない気はするけど、そこでドヤ顔ができる人間ではない。むしろこの状況、どうすればいい?

 

「千風さんって、自信のある方なのかない方なのかわかりませんわよね」 
「ドSに見えてドMだからな」 
「ちょっ、いや」 

 

 慌てて訂正を入れようとしたが、あたしを見る櫻木撫子の瞳に言葉が切れる。 
 宣戦布告をした昨日と同じように真っ直ぐな瞳。変わらない眩しさに目を逸らしたくなるが、隣に立つ男を『好き』だと言った以上負けたくないと目を合わせた。暫しの間に彼女は顔を伏せる。 

 

「……母達のことがあったとはいえ、総一郎様に対しての気持ちは今も昔も変わりません。それでも、選ばれたのは千風さんですから今は身を引きます」
「今は?」

 

 小さな声はまた総一郎に告白するかのようだが、引っ掛かりに眉を顰める。顔を上げた彼女の口元には嫌いな兄と同じ笑み。

 

「ドM千風さんなら総一郎様は飽きてしまわれそうですから、捨てられた時はすぐ参上しますね」
「……やっぱ、あの男の妹か。大丈夫、捨てるならあたしかっだ!」

 

 あたしも嫌な笑みを向けたが、頭にチョップが落ちた。
 結構本気だった痛みに目尻から涙が零れると総一郎を睨む。だが、屁でもない男はあたしの腰に腕を回し、以前のごとくヨイッショーと抱き上げた。カメラ外から出た“私”は当然顔を真っ赤にし、背中を叩く。

 

「だから恥ずかしいですって! 勘弁してください!!」
「この場で犯されんのとどっちがマシだ?」
「おい、おめぇまさかパーティーをサボる気か?」

 

 とんでもない選択肢に息を呑む私とは反対に、上着を着るお父様は変わらない様子で訊ねる。息子も同じように返した。

 

「社長より偉い会長がいれば問題はねぇだろ」
「おめぇの苦労の結晶を紹介するパーティーじゃなかったけな」
「その褒美に、我慢してたご馳走をいただきに掛かるんだろ」
「私はーご飯ではーありませーん」

 

 恐ろしい会話に棒読み抵抗するが、父子は互いを見合うと意地の悪い笑みを向けた。視線を逸らすと、お父様の腕に手を回すお母様と目が合う。そのジと目に肩が揺れるが、お父様の頭ワシャワシャ攻撃を食らった。

 

「ブサイクな顔してんじゃねぇよ。そもそも俺の知らないとこで勝手に婚約話し進めやがって。後で隆明(たかあき)共々説教食らわしてやる」
「だって、どこの子かもわからない子が総ちゃんの恋人になるなんて……」
「俺は別、嬢ちゃんの家柄に文句はねぇぜ」

 

 お母様の『恋人』発言よりもお父様に耳を疑い、嫌な汗が流れる。凝視する私をお父様は笑みを向けたままお母様の肩を抱いた。

 

「旧姓使ってんのはわけがあんだろうが、それと恋愛は関係ねぇからな。ま、頑張れ若人」

 

 ゴクリと唾を呑み込む私に帝王様も一瞬眉を顰めるが、構うことなく二人を通り過ぎると角脇さんからカードキーを受け取る。それ、どこのですかと聞く前に薫さんに頭を撫でられ背景花畑。

 

「やっぱり抱かれるなら薫さんんっ!」

 

 ホワホワ脳から一転。抱える帝王様の手がドレスの中に入り込み、ショーツに指が食い込む。一本でも強い刺激を与えられ彼の肩に顔を埋めると、耳元で喉を鳴らしながら笑う声。

 

「くくっ、指一本で悦ぶ女は前戯なしでイけそうだな」
「っ!」

 

 意地悪な声に身体が震え、零れた愛液が食い込んだショーツと共に彼の指を湿らせた。そんな指を帝王様は抜くどころか押し込み、必死に声を堪える。
 それが面白いのか、笑いながら歩きはじめた帝王様に慌ててしがみつくと、ご両親、撫子さん、桔梗さん、角脇さん、薫さんは何も言わず見送った。何人か楽しそうな笑みを向けていたのは気のせいだと思いたいです。

 

 廊下に出ると押し込む指は強くなり、濡れたショーツが秘部と秘芽を擦る。直ではない指と愛液の刺激に身じろぐ私を、エレベーターを待つ帝王様は笑いながら耳朶を甘噛みした。

 

「っあ……帝王…様」
「その誘う声と潤んだ顔、隆成達にも見せてマワされてぇのか?」
「は……ひっ!?」

 

 耳朶を舐める舌と声に、控え室の方を見ると見知った人達。小さく手を振る隆成さん、顔を逸らす駄菓子屋さん。腕を組んだアセトアルデヒドさんが揃っていた。慌てて顔を肩に埋め直すと懇願する。

 

「い、嫌です……私は……私達は帝王様がいいんです……帝王様じゃなきゃ」
「くくっ、可愛いこと言ってくれんのは嬉しいが“もう一人”のがまだだぞ」
「っ!」

 

 幸いにも乗り込んだエレベーターに人はいなかった。
 けど、設置された監視カメラで“あたし”に替わると、壁に背を預けた総一郎は指を上下に動かしながら首筋を舐める。

 

「あぁ……あ」
「ほら、てめぇの気持ちを言え……じゃねぇと、ショーツに穴が開いちまうぜ」
「あ、アンタこそ……言いな……さいよっ」
「ああっ?」

 

 確かに『好き』とは聞いたけど“こいつら”扱いで、それぞれには言われてない。言ってもさっきのはちー……と思うのは屁理屈だろうか。でも激しく鳴る動悸にカメラなど気にせず彼の耳朶を甘噛み返すと、息を荒げながら囁く。

 

「あたしにも……好きって……言って」
「……俺から言わせるとは良い度胸してんじゃねぇか」

 

 顎を持ち上げられると顔を合わせる。
 熱く欲情に駆られたような瞳から目を逸らすことは出来ず、親指で唇をなぞりながら彼の口が開かれた。

 


「好きだぜ、ふー。ちーと一緒に喰ってやるから、お前もとっとと往生際の悪い口を開け」

 


 なぞる親指が唇の隙間に付けられるが、強引に入ってこようとはしない。
 命令口調のくせして違う対応。けど、その口元には笑み。怒るよりも駆け上る高揚感にあたしもちーも、想いに蓋をすることはもう出来ない。

 

「……き」

 

 小さく口を開き、彼の親指を咥えると舌先で舐め、リップ音を鳴らしながら外す。揺れる瞳のまま彼を見つめると伝えた。

 


「あたしも……好き……総一郎が好き……ちーと一緒に食べて」
「……やっぱ、お前の方がMだな」
「いや、あたしはフツっん!」

 


 訂正は唇によって塞がれた。
 両親の前でした時とは違い、噛み付くような性急な口付け。口内に入り込む舌も早く、唾液が下唇から垂れても止まらない。エレベーターが階に到着し一瞬離れるも、抱えたまま降りた廊下で“私”に替わると、すかさず壁に押し付けられ口付けられる。

 

「ふっあ……あん、ぁっ」
「親父達の前でしたのは……足りなかったんだろ?」
「んんっ!」

 

 息を乱しながら口角を上げる帝王様に、火照った顔を隠すように口付ける。
 誰もいない廊下で喘ぎを響かせる羞恥など今はなく、私達のすべてをこの人に埋めてもらいたい。ただそれだけ。想いに応じるかのように下腹部にあった手がショーツ越しではない中に入り込むが、既にショーツの意味がないほどに濡れていた。

 

「くくっ、こんなに濡らして……淫乱」
「ち、違います! これは帝王様があぁっ……!!」

 

 顔を赤めるも、太い指がズブリと一本膣内へと入れられる。
 水音を鳴らすのは既に解された証拠なのか指は滑るように入っては出され、愛液が太腿を伝う。愛液が床に零れるのを見て我に返った。

 

「て、帝王様……これ以上は」
「なんだ、やめたいのか?」
「そ、そうじゃなくて……ああぁあ!」

 

 くっくと喉を鳴らしながら指を膣内で混ぜ、愛液を零させる帝王様。
 気持ち良さと今頃やってきた羞恥のどちらを取ればいいのかわからず喘ぎだけを響かせるが、耳朶を舐める帝王様の声が一番響いた。

 

「俺の女になったヤツは……手どころか……廊下まで濡らす淫乱女か」
「あああ……あぁっ!」

 

 否定したくても身体を犯す声と指と口付けに視界が大きく揺れ、一瞬世界が真っ白になった。力を失くした私に帝王様は指を膣内から抜くと愛液を舐め、さらに私に舐めさせる。

 

「ふゅん……んっ」
「おいおい、まだ喰いはじめたばっかだぜ。それだけで意識飛ばすな」
「そんなこと……ん、言われても……私は……慣れてないのに」
「ほう、そんなに牛島春冬は優しかったのか」
「いえ、春ちゃんはー……ん?」

 

 抱き直されると歩き出す帝王様。
 綺麗な絨毯を見ながら揺れる思考で私はふーちゃんと考え込む。なぜに春ちゃん……?

 

 疑問を問う前にドアの前で立ち止まった帝王様はカードキーを差し込むと、ロックが外れる音。部屋に入ると自動で明かりが点くというスイートなお部屋に感動するも、抱えられたまま閉じたドアに私の背は押し付けられた。

 

「問一。千風は俺のことが好きだ。○か×か」
「はひっ!? え、えっと……○です」

 

 突然はじまったいつかの○×ゲームに困惑しながらも今は間違いないと頷く。答えに口付けが頬に落ちたが、すぐ次の問い。

 

「問ニ。千風は処女ではない」
「そ、それ前にも答え……んあっ……○っ」

 

 前回と同じ問題に疑問符が浮かぶが、耳朶を舐められ答える。
 すると脳内でふーちゃんが顔を真っ青にさせ何かを叫んでいるのが浮かんだ。聞こうにも先に顎を持ち上げた帝王様に固まる。その表情は笑みを浮かべているのに怖い。背景が黒い。
 ゴクリと喉を鳴らした私は恐る恐る訊ねた。

 


「て……帝王様?」
「問三。処女(それ)を奪ったのは牛島春冬である──○か×か」
「は……ひいいぃぃーーーーっっ!!!?」

 


 揺れていた思考も視界も消え去るほど真っ青に、ただ叫んだ。
 同時にやっぱりアレは紅白の話じゃなかったと悟る────。

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