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複雑なスノーフレーク

15話*「千風様」

 季節は巡り、春を迎えた三月下旬。
 上旬に行われた卒業式は温暖化の影響か、さほど寒くもなく、桜の代わりに桃の花が彩っていた。総勢百名の卒業生に対し、保護者や来賓は数百以上。まるでロビー活動だとぼやく俺に、あながち間違いではないと言った母さんの笑顔が印象に残っている。

 

 同級生は俺や筧達のように家業へ進む者、別に就職する者、進学する者、結婚する者、様々な道へと別れた。
 中学から一緒だった雅は無事大学に合格。将来何をしたいか四年間のんびり考えると言いつつ、変わらずゲームに没頭しそうなのは親友の勘か。
 対して白鳥さんは実家の不動産会社に就職。既に研修がはじまって忙しいようだが、紆余曲折を経て、執事とゴールインしたのは別の話だ。

 

 そして、幼馴染である千風。
 『お酒を作るとこ』と聞いた白鳥さんは酒造メーカーに就職したのだと勘違いしているが、俺は正すことも止めることもしなかった。もう無駄だとわかってる──が。

 

「やめてえええぇぇーー! お願いだからそのままでいてえええぇぇーーっっ!! 俺は嫌だあああぁぁーーっっ!!!」
「「知らんがな」」

 

 悲痛な叫びは千風と母さんに一刀両断される。
 泣き叫ぶ俺は寝技をかける母と、苦笑混じりの父に押さえつけられて動くことが出来ない。その間に背中を向けて座る千風は鏡を見ながら自身の髪にブラシを通した。茶色(ブラウン)のカラー剤が着いたブラシを。

 

「俺は黒髪が好きなんだあああ゛あ゛ぁぁぁーーーーっっ!!!」
「「知らんがな」」

 

 再び訴えは斬られ、綺麗な黒髪が茶に染まっていく。
 千風が、茶髪デビューしてしまった……。


 

* * *

 


 卒業後、千風は家を出た。
 就職先が遠い以前にわかりきっていたことだし、住所も知れる。だからこそ今日、引越しの手伝いをするのも構わない。が。

 

「このオンボロ……大丈夫なんですか?」
『冬くんが住むわけじゃないでしょ』

 

 仕事の両親を見送り、あらかた片付いた室内を見回していた“僕”は、踏む度にミシミシ鳴る床を眼鏡のない目で見つめる。反対に、お風呂中のちぃはなんでもないようにシャワー音を響かせた。

 

 都心近くにある年季の入った木造ニ階建てアパート。
 ニ階の角部屋で下が大家とはいえ、当然セキュリティはなく、壁も薄いように思える。なのに和洋室の2K、トイレ風呂は別、洗濯機も室内という中々の設備に、空になったダンボールを畳みながら訊ねた。

 

「家賃いくらなんです?」
『一万円』
「事故物件?」
『マンホールに墜ちて行方不明になった人がいるぐらいです』
「ぐらいの話じゃないと思うんですけど」
『ちなみにまだお部屋残ってますよ』
「やめようよちぃーがっ!!!」

 

 真っ青な顔で替わった“俺”は勢いで風呂場を開ける。が、飛んできた桶が額に当たった。あまりの痛さに屈むと、シャワーが止まり、涙目で見上げる。バスタオルを巻いたちぃが茶に染まった髪を別のタオルで拭いていた。

 

 落ちる水滴、熱で赤くなった頬、払われた湯気から見える肌。
 痛みよりも興奮が勝り、自然と仰向けで寝転がるとバスマット化する。一段高い場所から見下ろすジと目に向かって微笑んだ。

 

「ちぃ、今からでも俺と暮らそう? 炊事洗濯するし、稼いでもくるからさ」
「私は何をすればいいんですか?」
「俺を踏むん゛っ!!!」

 

 容赦なくお腹を踏まれたばかりか、乗ったまま屈み込まれた。
 足に溜まっていた水、落ちてくる水滴を吸収したTシャツがシミを広げるように、俺の頬も赤さを増した。そんな頬や鼻、唇、顎、首筋、勃ちはじめているモノを摘ままれ歓喜を零す。

 

「あっ、はっ、っああぁ……!」
「すぐ発情するドMと毎日遊ぶ人生なんてツマラナイです」
「っあ……知らないおっさん達と……喋ってた方がマシってこと……?」

 

 不敵に笑うと、弄る手が止まった。
 それから少しの間を置いて降りたちぃは椅子代わりにまたお腹へ座り、濡れた毛先をタオルで拭きながら視線だけ向けた。

 

「前……私達がホステスになるって聞いても驚いてませんでしたけど、冬花さんから聞いたんですか?」
「さあ、どうかな。俺達は千風のストーカーだし」
「ふーん……」

 

 溜め息まじりに視線を逸らされると、また膨らんでいるモノを捏ねられる。Tシャツ越しに探り当てられた胸も反対の指で突いたり回したり押し込まれ、嬉しさに呻いた。

 

「あっ、っはあ……イい」
「こうやって弄ってくれる依頼主さんがいると良いですね、ドM護衛さん?」
「っは……大丈夫……仕事は冬にさせるし……っん、ちぃにしか俺……興奮しない」
「そう言えば、今日ずっと冬くんでしたね……まあ、春ちゃんケンカっ早いし、我慢できませんもんね」

 

 そう言いながら跨ったちぃは、モノの上に座った。
 下着を着けていない柔らかな秘部が、いっそう熱く硬くなったモノを挟み擦れ合う。さらにTシャツを捲られると、女のような膨らみはない胸板。けれど、ツンと尖っている乳首を舐められた。

 

「っあああ゛!」
「ほら、すぐ動いて悦ぶ……こういうことされたらどう対処するんです?」
「あっ、はっん……命令なら……されるがまっ……!」

 

 動かされる腰にモノは滾り、チロチロと舐めては唇で食んで引っ張られる乳首は赤くなる。最高に気持ち良くて焦らされる身体は跳ね上がり、咄嗟にバスタオル越しに揺れる両胸を掴んだ。
 俺同様、尖った先端は簡単に見つかり、親指で擦ったり押し込めば、ちぃの表情が崩れる。

 

「誰が触って良いって言いました?」
「こういう男がいた場合……ちぃは……どう対処する?」
「『やめて』と言っても……あっ、きかないなら……ひっぱたくか……ん、大事なモノ……引っこ抜くんん!」
「あはっ。いいね、最高……ぜひお願いしたいな」

 

 ご褒美にしか思えない俺はバスタオルを引っ張る。
 小さな悲鳴と一緒に露になるのは大きな実をつけた乳房。左右に揺れる二つを両手で掴むと、ぐにゅぐにゅ形を変えるように揉み込み、搾り上げた先端に吸い付く。

 

「ああん……やめ……」
「ん、だからどうするんだっけ……ああっ!」

 

 頬を赤める俺とは反対に顰めたちぃは、覚束無い手をズボンと下着の隙間に入れ、膨張しきっていた肉棒を、根っこを握る。宣言通り引っこ抜くかのように扱きはじめた。

 

「あああ゛あ゛っ……最っ高……俺……毎日……通おうかなっああ……!」
「そういう店じゃな……ひゃっ!」

 

 容赦ない扱きに下着の中で白濁が噴き出す。
 それに驚いたちぃが手を離すと同時に身体を起こし反転。床に倒れ込んだ無防備な裸体に高揚感は増し、半分下ろしたズボンと下着から白糸を垂らす肉棒を取り出した。さらに携帯を動画にすればキッと睨む”ふぅ”と目が合い、“僕”は微笑む。

 

「そんな顔じゃ接客業は務まりませんよ。ほら、笑顔笑顔」
「ウソくさ……んっ!」
「その一言で機嫌を損ねてしまうお客様もいますので気を付けてくださいね。じゃないと……犯されますよ?」

 

 片手で口を塞ぐと、もう片方の手で屈曲された両脚を開き、焦らすことなく挿入する。春が出したおかげか、多少狭くとも腰を振ればヌプヌプ音を鳴らしながら奥へと沈み、ふぅは仰け反った。

 

「っふ、ふゅんんっ……んんっ……! 」

 

 まだ口を塞いでいるせいで篭った矯声だが、目は潤んでいながらも睨んでいて、自然と頬が緩む。

 

「いいですね……最高にそそられる」
「へんた……んんっ!」

 

 抱き寄せると結合部が深くなり、攻め込むように腰を動かした。

 

「ああっん……あ、かずぅ……!」
「そういう甘えた声も店で出しちゃダメですよ……ふぅは毅然としてこそ……なんですから」
「うっさんんっああっイっちゃ……イっちゃうううンンン!」

 

 睨みが蕩け顔に変わり、口付ける。
 舌先で舌を突けば躊躇いがちに絡み返し、口付けを深くすると結合部から愛液が噴き出した。引っこ抜いた肉棒から飛び散る白濁が千風のお腹や胸へかかる。

 引っ越してすぐの部屋には嗅いだ覚えのある男と女の匂いが充満し、床は水滴とは違うモノでびしょ濡れ。息を乱す千風に跨ると、白濁を垂らす肉棒で胸を擦ったり、乳首を突いた。

 

「っは、はあ……ちぃ、またお風呂だね……あとで一緒に入ろ」
「結構です……変態強姦魔は……もう出禁にンンンっ!」

 

 睨む“ちぃ”の頭を押さえた“俺”は肉棒を咥え込ませる。
 最初は抵抗していたが、疲れからか、ちょっとずつしゃぶりはじめた。ゆっくりと腰を動かし、ぐっぽぐっぽと厭らしい音を鳴らしながら頬を撫でる。

 

「そう、今は大人しくしとこうってわかるよね……言っても聞かないって」

 

 息を弾ませながら言うと、肉棒を強めに食まれた。
 可愛いと茶に染まった髪を撫でながら、またゆっくりと肉棒を沈めていく。

 

「当然……怒ってるのもわかってるよね?」
「っぐん!」

 

 語尾を強めると、ぐっと肉棒を喉奥へ押し込む。
 根元まで咥え込ませているのもあって苦しいのか、ちぃの口からは唾液と白濁が止めどなく零れ落ち、睨みながらも若干涙目だ。いつもなら歓喜に奮えるが、今は冷ややかに囁く。

 

「本音はホステスなんてしてもらいたくないし、一人暮らしもしてもらいたくない。家中に監視カメラも付けたいし、来月から俺が住むマンションに閉じ込めたい……そのぐらい心配してるし、怒ってるんだよ……借金のことも」
「っふ!?」

 

 いっそう冷たく言い放った最後の言葉に、千風は目を瞠った。明らかな動揺にくすりと笑うと、ゆっくりと肉棒を抜いていく。

 

「知ってるよ。千世おばさんが借金してて……代わりに返済しようとホステスを選んだって」

 

 唾液まみれの先端と震えている唇を白糸が繋ぐが、ちょっと揺らすだけで切れた。両手で握る乳房の柔らかさは変わらないのに冷たい。暖めるように揉むと、揺れている瞳に、瞼に口付けた。

 

「そんなに驚くことじゃないでしょ……だって俺は千風の」
「……大大大変態ストーカードM野郎」
「あはっ、最高の褒め言葉」

 

 笑みもない本気の睨みに頬が赤くなると、唇から零れている唾液も白濁も舐め取り口付ける。挿し込んだ舌は容赦なく噛まれるが、悦びを現すように揉み上げた胸の先端を摘み上げた。

 

「あああっ!」
「大丈夫。借金については俺と母さんしか知らないし、父さんとおじさんにも終わるまで言わないから……まあ、口止め料は欲しいかな」
「っは、ただ……ん、シたいだけで……しょ」

「あ、バレた?」

 

 くすりと笑うと両脚を持ち上げ、拡がった秘部から溢れる蜜に栓をするように肉棒を食い込ませる。徐々に蕩ける千風に高揚感が達っすると抱きしめた。

 

「千風が勝手にするなら俺も勝手にするよ……変わらず俺は千風が大好きだから」

 

 “俺達”じゃないことに千風は引っ掛かりを覚えたようだが、口付けと共に根元まで沈めた肉棒で最奥を突けば、止まることない嬌声と愛液に包まれた。


 

 


「もう来るな、大大大変態ストーカードS野郎」
「ドSは諦めないものなので泊めてくだ……痛い痛い」

 

 相方が寝ている苛立ちMAXの“ふぅ”に、玄関まで押される。
 時刻は十八時を回り、外も真っ暗。電車で帰るのは億劫だが、微塵も泊めてくれそうにないため、靴を履くと手を差し出した。

 

「合鍵ください。父さんに渡しておきますので」
「えー……」
「春に渡すよりマシでしょ」
(どういう意味さー)

 

 脳内からのツッコミとは反対に、眉を顰めたふぅは嫌々ながらも合鍵を差し出した。それをポケットに入れ、玄関スコープを覗いていると、目の端に呆れた表情が映る。

 

「それやってるアンタ、違和感しかないわ」
「大丈夫です。僕も笑顔でホステスしてるふぅは気持ちわっ!?」

 

 足で背中を蹴られた。擦りながら振り向くと、腕を組んだふぅは溜め息をつく。

 

「まさかあたしらが働くなんてね……」
「同感です。ずっと引き篭っていられると思ったんですが……そう上手くいきませんね」

 

 髪をかくと、視線を逸らしたふぅは控えめに頷く。
 僕よりも早く生まれたと言っても、替わった回数はさほど変わらない。それが来月からほぼ毎日になり、知らない誰かに知らない笑顔を振りまくことを考えるとチクリと胸が痛んだ。
 しばらく沈黙が続いていると、視線を戻したふぅがポツリと呟く。

 

「前から思ってたんだけど……冬が『僕』っていうの合わないわね」
「え、いまさら?」

 

 まさかの指摘に数度瞬きするが、ふぅは深刻そうに考え込むとウンウン頷く。

 

「だって俺様(ドS)なら『俺』でしょ? 仕事ついでに変えたら?」
「仕事を考えるなら『私』だと思いますけど……あと貴女のことも様付けに「キモい」

 

 即答な上に心底嫌そうな顔。呆れもするが不思議と笑いが込み上げてきた。
 声を抑えながら笑う僕に、ふぅは首を傾げるが、気にせず頭を撫でる。

 

「次にお邪魔するまでにはお互い慣れておきましょうか、“千風様”」
「……わざと言ってんっ!?」

 

 撫でていた手で頭を引き寄せると、文句を口で塞ぐ。
 それは重ねるだけですぐ離し、唖然としている隙にドアを開いた。冷たい風と共に振り向くと微笑む。

 

「それでは、ふぅ。“俺”達は帰りますね」
「に、ニ度とくんな! バカっ!!」

 顔を真っ赤にしたふぅの足が上がる前にドアを閉める。直後『ドンっ!』という音と『った~!』という声に堪えきれず吹き出してしまった。

 

 小さな灯りしかないアパートに響く笑い声。
 いつしか火照っていた頬を冷やすように撫でる風に視線を上げると月夜が映った。雲ひとつない夜空に浮かぶ月は少しだけ欠けている。まるで自分や彼女のようで自嘲気味に笑うが、ポケットから取り出した名刺に目を細めた。

 

 くしゃくしゃになった名刺は金融会社のもの。
 母からは何もするなと言われたが、それは仕事上だけで個人ではない。春が言ったように自己責任で好きにするだけ……だって。

 

「……その先を考えないのが冬らしいよね」

 

 白い息を吐きながら階段を降りる“俺”に返事はない。
 未だ迷いがあるのも変わりはじめているのもわかる。でも、春冬だからといって冬が俺と同じとは限らない。それほどこの気持ちは厄介で難しい。特に二重人格という俺達や彼女達は。

 

 願うなら同じでありたい。そう、真新しいカーテンの隙間から見える部屋を眺めながら握りしめた名刺をポケットに仕舞うと、反対のポケットから取り出した鍵を宙に投げた。

 


「さーて、合鍵をもう一本作って帰ろうか」
(ですね)

 


 落ちてきた鍵を掴むと、同意の声に笑いながら歩きだす。
 一度迷った歩みはもう止めない。たとえ護衛解消と言われようが、俺達は彼女達のために前へ進む。

 

 大切な幼馴染であることだけは変わらない────これからもずっと。

複雑なスノーフレーク

※高校生編終了。次話から大人編(二十歳)になります

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