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複雑なスノーフレーク
複雑なスノーフレーク

08話*「フツー」

「俺……本気で嫌われたかも」
「おめっとさっだ!」

 間髪をいれず助手席のシートを蹴る。
 携帯ゲームの手を止めた雅が顰めた顔で振り向いた。

 

「お前、送ってやんねーぞ!?」
「頼んだのは俺じゃない」
「へぇ、じゃあ千風嬢に動画「捻り潰す」

 

 両手をバキバキ鳴らしながら笑顔で殺気を放つ。
 素早く前を向き直した雅のように隣の運転手も肩を震わせるが、ゆっくりと後部席から手を伸ばした。

 

「ん……」
「あふっ!」

 

 が、大事な部分を容赦なく掴まれ、身体を丸める。
 真下には膝に頭を乗せ、すやすやと眠る千風。狭い車内でも身じろく彼女の頬や手が男の部分を掠るとゾクゾクするが、軽く重ねるだけのキスに留めた。
 機嫌良く身体を起こした俺に、雅と運転手がなんともいえない顔をしているのがバックミラーでわかるが、構わず窓に目を移す。町並みを通り過ぎ、夕暮れを迎えた空を。

 

 気付けば夕方、気付けば雅の送迎車の中、気付けば膝で千風が寝てるってどういうこと!? どんな最高のシチュエーション!!?
 それが俺の第一声だったわけだが“最悪”の間違いだった。

 

 俺の記憶は掃除時間。告白云々の話をしていて、ちぃに笑顔を向けられたところで終わっている。あまりのショックに気を失っていたのかと戸惑っていると、雅に『携帯に残ってる動画を観ろ』と冷やかに言われ、素直に再生した。

 イヤホンをするべきだった。路肩に車を停めた運転手と雅が両耳を塞いでいることに気付くべきだった。
 

 必死に抵抗する千風(ふぅ)を、愉しそうに襲っている |俺《冬》。まさに強姦とも呼べる記録が残っていたのだ。

 ちょーーっ、何してくれてんのーーーーっっ!!?

 

 そんな絶叫は『引き篭もった春が悪い』で終了。
 実証するように引き篭もられた今、替わることも会話することも出来ないでいた。どうしたもんかと頭を悩ませていると、同じ動画を観せられ、送迎を頼まれた雅が呟く。

 

「カズカズがあんなにがめつくとはな……ハルハルならまだしも」

 

 一言余計だが『春と違って冬は千風に執着していない』と言っていた父さんを思い出す。
 して、なかったはずだ。生まれてからも、替わり続けても、千風とは距離を置いていた。俺と違って“愛”の気持ちはないと思っていた。

 

 でも、動画の冬は千風を……ふぅを求めていたように見える。
 ちぃには見せない、“愛”と呼ぶには曖昧な執着。自分のことなのに自分がわからない、不思議な感覚だ。

 

「お前は千風と……どうなりたいんだ……冬」

 

 瞼を閉じた問いに、答えは返ってこなかった。

 


* * *

 


 千風母子の新居は二階建てアパート。
 先にインターホンを鳴らすが千世おばさんは不在のようで、千風の鞄から鍵を取り出すと抱え上げる。起こしたら家を知っていたことがバレるからね!
 ちなみにトランクから出したハヤテ号を脇に置いた雅は、さっさと帰った。恐らく、新作ゲームが待っているんだろ。

 

「ま、充分だけどね……」

 

 溜め息混じりに呟くと、玄関を開ける。
 さすがに入るのははじめてで緊張するが、知っている匂いにどこかほっとした。

 

 間取りは1LDK、白やピンクを基調とした物が多い。
 観葉植物や動物型クッション、堂々と干されている下着はいかにも女性の部屋。そんなリビングから目を逸らし隣室を開けると、フローリングの上に畳まれた布団がニ組。いったん千風を下ろすと、匂いでどっちの布団か割り出すが、誰も見てない(寝ている)のを良いことに跳びついた。

 

「ああっ、最っ高……!」

 

 千風の匂いに溢れた布団に花が咲く。
 もう、背中やお尻や胸、千風のありとあらゆるところで踏んでもらえる布団になりたい。ていうか、寝転がった自分の上に千風を寝かせれば現実にならない? 人間布団になれるよね? 冬も篭ってるしね? よっし!

 

 さすがにフローリングは嫌だと布団を敷く。
 次いで千風を抱えるが、制服が皺になることに気付き、着替えさせた方がいいかと辺りを見渡した。今まで視界に入っていなかったミニ菜園や見慣れた小物に動きが止まる。
 しばらく立ち尽くしていると、窓から射し込んだ夕日が髪に掛かった。

 

「なんか……フツーだな」

 

 室内以上に冷ややかな声が出た。
 匂いも物も知っているのに知らない場所。新しい生活を送る場所。俺の存在がない場所。当たり前のことなのに、忘れられていくようで酷く胸がざわつく。
 布団に寝かせた千風を跨ぐと、ゆっくりと顔を近付けた。

 

「ねぇ、ちぃ……俺のこと好き?」

 

 寝息を零す唇に指先を付けると、眉根が寄ったのを横目にワンピーススカートの中に手を入れた。冬にイジられた蜜が固まったのか、ショーツの底は固まっている。ズラすと、指と一緒に秘芽を押し込んだ。

 

「んっ……」
「今日のことで嫌いになった?」

 

 水音を響かせながら千風の背中に腕を回すと腰を上げる。
 そのまま制服と一緒にキャミソールをたくし上げれば、ブラジャーと少し汗ばんだ身体が露になった。ゾクゾクする感情が駆け上り、唾を呑み込む。

 

「ご奉仕したら許してくれる?」

 

 熱の篭った声で囁くと、汗を拭き取るように腹部を舐める。

 

「んん……」

 

 刺激が伝わっているのか、千風は吐息を零しながら身じろぐ。
 けれど起きる気配はなく、指でナカをゆっくりと掻き回しながら臍を、腕を、腋を舐め続けた。静寂が包む部屋に荒い息と吐息が混ざり合い、首筋に吸いつくと指を締めつけられる。

 

「んっ、んん……!」
「あ、ああっ……ちぃ……イい」

 

 指だけでもイってしまいそうな快楽。
 それは千風も同じだったようで、指を抜くと愛液が溢れてきた。息を乱しながら出てくる蜜を見つめていると欲が増す。
 あのナカに挿し込みたい。さっきのように熱い双璧に挟まれたい。子宮の奥を突いて出したい。忘れてもらいたくない。

 

「ああっ……でも今、奉仕中か……それに」

 

 歓喜に震えながら指についた愛液を舐める。
 反対の手でブラジャーのホックを外せば豊かな膨らみと、赤い実をつけた乳房が露になった。

 

「ちぃが好きなのはこっちだもんね」

 

 両手で揉んでは捏ね、ぐにゅぐにゅと大きく形を変える。

 

「あ……ん、あ……」

 

 甘い吐息と一緒に先端が尖ってきた。
 搾るように握ればいっそう勃ちあがり、しゃぶりつく。

 

「は、ああぁ……」

 

 次第に大きくなる嬌声に、先端を舐めては甘噛みして引っ張る。さらに中央に乳房を寄せると、二つの先端を口に含んだ。

 

「あぁぁん……っ!」
「あ、気持ち良い? 気持ち良いならもっとしてあげる」

 

 冬がふぅにしたように、好きなところを、感じるところを攻める。
 舌先で突くよりは吸われるのが良いみたいで、二つの先端を同時に吸い上げた。

 

「ひゃああぁ、ああ……春ちゃ……ん……?」

 

 さすがに刺激が強すぎたのか、息を乱すちぃの目が開く。
 でもまだぼんやりしていて、前のめりになると口付けた。

 

「ん……ちぃは寝てても厭らしいね……」
「寝て……ん」
「ん、夢の中でも覚えてて……俺はちぃが大好きだって」

 

 離した唇に弧を描くと、ちぃは眠いのか夢だと信じたのか、また目を閉じる。ズボンのファスナーを下ろした俺は、当に屹立したモノを胸の谷間に置き、両手で寄せた乳房で挟み込んだ。

 

「ひゃっ……熱い」

 

 目を閉じたままちぃは驚くが、俺はそれ以上。
 乳房に包まれたモノはさらに熱さと堅さ、痛みを増し、ゆっくりと前後に動かした。さっきまでの柔らかさとは別に、厚い弾力が肉棒を刺激する。

 

「ああ……イい……ねぇ、ちぃ……ちょっと咥えて?」

 

 呻きながらお願いすると、ちぃはまたぼんやりとした目を開く。そのまま顔を下げるのを見て、谷間から出ている亀頭を唇に宛てた。
 顔を顰められるが、小さく口を開くとパクリと咥える。

 

「っ~!」

 

 駆け上る快楽に動きが止まる。
 ちぃは咥えたモノに違和感があるのか気になるのか、口から離すと舌先でチロチロ舐めはじめた。それはもうゆっくりと。

 

「あ、あ゛ぁっ……最っ高」

 

 挿入とは違う気持ち良さに奉仕されている気分にもなり、肉棒を押し付けた。亀頭から零れる白液を舐めたちぃはキスするように唇をつけると吸い上げる。

 

「あああ゛ぁ……出る……っ!」

 

 ちぃの頭を持つと、少しだけ肉棒を口内に押し込む。
 咽せるのが聞こえたが、構わず腹の奥底から沸き上がるモノを放出──する前に、インターホンが鳴った。咄嗟にちぃの耳を塞ぐが、インターホンは二回、三回と鳴り、ドアまで叩かれる。
 肉棒を引っこ抜かれたちぃは、白液を零しながら微笑んだ。

 

「よろ……く~」
「OK、任せて……原型を留めないぐらい捻り潰してくるから」

 

 寝ぼけ声のちぃはまた熟睡するが、立ち上がった俺は『イイとこで邪魔しやがって、マジでブッ潰す!!!』と、ドス黒い空気を纏ったまま玄関へ向かった。
 足音を立てないよう、ドアスコープから外を窺うと、スーツを着た若い男が二人。セールスなら容赦しないと耳を立てる。

 

『いないみたいっすね』
『お前、ちゃんと時間いうたか?』
『いやいや、連絡したのアニキっしょ!?』
『そうやったけ? アカン、覚えておらへん』

 

 慌てる一人とは違い、関西弁らしき男は楽しそうに笑っている。
 なんともいえない違和感に眉を顰めるが、二人は話しながら離れていった。ドアノブを握ったまま数秒の間を置くと、急いでリビングの棚を漁る。主にファイルや封筒を。

 

「あまり考えたくないけど、堅気の人間には見えなかったんだよな……これは安室(やすむろ)病院ので、こっちは、っと!」

 

 書面を速読していると、数枚の名刺が落ちてくる。
 殆どは担当医のだったが、一枚だけ違う職種があった。その名に目を見開いていると、鍵を開ける音。慌てて名刺をポケットに突っ込むと、ファイルを片付ける。終えたところで玄関が開いた。

 

「ただいまー。春冬くーん、手伝ってくれなーい?」
「は、はーい! って、えええぇぇっ!?」

 

 のんびりな呼び声に、つい返事をしてしまったが、なぜ居るのがわかったのか。
 玄関に向かうと久々に顔を見る千世おばさんは少し痩せていたが、スーパーの袋を三つ置くと、ちぃに似た笑顔を浮かべる。だが、驚きを隠せない俺を察してか、瞬きしながら外を指した。

 

「自転車があったから」
「あ、ああー……お邪魔してます」

 

 仕事であれば周りに悟られないよう隠すのが常識。
 すっかり忘れていたことに冷や汗を流しながら袋を持つと、ドアを閉めたおばさんは靴を脱ぐ。

「ありがとう。千風ちゃんは?」
「あ、ああー……疲れて寝てる」
「そう。アイス食べる?」
「いや、食べたらバレ……遠慮します」

 

 ズキズキと痛む質問に、目を逸らしたまま冷蔵庫を開ける。
 早く片付けて帰……しまった、ちぃを襲ったままだ! シーツも濡れてる!! でも、半裸だからエロそう!!!

 

「春冬くん、いつも楽しそうね」

 

 花畑に、野菜を籠に入れたおばさんはくすくす笑う。
 そんな場合じゃないと我に返ると、急いでアイスを冷凍庫に入れ、証拠隠滅のため隣室に足を向けた。そこで声を掛けられる。

 


「そういえば、千風ちゃんとセックスしたんですって?」

 


 ピタリとその場で固まる。
 ゆっくりと振り向けば台所に背を預け、薬らしき物とコップを持ったおばさんがニッコリと微笑んでいた。一瞬で血の気が引く。

 やばい、娘と実母より怖い────。
 

/ 本編 /

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