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複雑なスノーフレーク
複雑なスノーフレーク

07話*「召し上がれ」

 十三年共にいた幼馴染。
 一線を超えても飛び立ってしまった彼女とは学校という枠でしか会えなくなった。迎えに行ってもいない、帰りも途中まで、機械音痴で携帯はほぼ電源入ってない、家を特定していてもさすがに絶交と言われそうで行けない、だから休日も会えない。寂しくて辛くて死にそうになる。

 でも、胸を締めつけるほどの痛みが想いの深さだと考えれば不思議と楽になった。時間が経てば経つほど増す気持ちに週明けが待ち遠しい。

 

 

 


「ちぃーっ! おっはよーー!!」


 昇降口で待っていた俺は、上履きに履き替えた千風=ちぃに満面笑顔、両手を広げたまま飛びついた。が。

 

「はーひっ!」
「ぐほっ!!!」

 

 腕とYシャツを掴んだちぃは素早く懐に潜ると、綺麗な背負い投げを決める。幼少期、共に道場に通っていた感覚を忘れていなかったのか、床に叩きつける良い音と振動が響いた。
 静まり返った周囲とは違い、手を掃う彼女を見上げる俺の顔は真っ赤で震えている。もちろん歓喜で。

 

「ああっ……今日も最っ高……でも俺、踏まれるのが好っあ゛!」

 

 興奮気味に話してる途中、容赦なく腹を踏まれた。
 階段に向かうちぃを笑顔で見送っていると、腋に鞄を抱えた雅がやってくる。

 

「イジメか?」
「いや? 受身は取ってるし、まだ眠いみたいで全然弱かった……残念」
「……今日も暑いなー」

 

 見事にスルーした雅は、額から流れる汗を拭いながら歩きだす。
 ズレた眼鏡を直した俺もついて行くと、玄関から涼しい風が吹き通る。遠くに聞こえるのは少し早い蝉の声。

 

 季節は瞬く間に移り変わり、あの一夜から半年以上。
 俺達も二年に進級し、夏服へと衣替え。ただそれだけで、特に変わり映えのない毎日を過ごしている。少しだけ距離が生まれ、少しだけスキンシップが増えたこと以外は。

 

「荒澤さん、新作アイスが入ったそうですよ」
「はひっ!? 何種類!?」
「えーと……」

 

 午前の授業が終わると、肩下まであるハーフアップの茶髪を赤いリボンで留めた同級生。白鳥(しらとり) カナさんの情報に、ちぃの目が輝く。
 『荒澤さん』と呼ばれているように未だ世間にも離婚は報じられていないが、路線が変わったことで不審がるマスコミがいるのも事実。辺りに気を配りながら隣の席で考え込むちぃを窺う。

「五種類……厳しいですね。でも再来週から夏休みだし……バイトしようかな」
「千風嬢、校則違反」

 

 小声でも聞こえたのか、俺の後ろの席。携帯を弄っている雅の制止に、ちぃの頬が膨らむ。
 俺達の通う学校は日本でも有数のお嬢様お坊ちゃま校で当然バイトは禁止。親父さんが学費持ちとはいえ、母子家庭となったちぃには辛いところだ。すると、雅が俺を指した。

 

「ハルハルに奢ってもらえ。お嬢様には忠実な犬だろ?」
「春ちゃんGO!」
「ええっ!? 俺、この間も奢ったよ!!?」
「お腹と背中を踏んだ後、お尻で顔を踏んであげます」
「OK、任せて!!!」
「う、牛島くんっ、それでいいんですか!?」

 

 顔を真っ青にした白鳥さんの制止も聞かず俺は教室を飛び出す。
 本当に耳と尻尾を振る犬のような気分になるのは、構ってもらえるのが嬉しくて、踏んでもらえるのが愛だと思っているからだ。

 

(この駄犬が)
「ご褒美だね!」

 

 真っ黒な笑顔を浮かべる相方に真っ白な笑顔を返す。
 傍から見れば独り言だが、見慣れた喜びの舞を気に留める人はいない。だが、階段の途中で気付く。

 

「あ、アイスってどこのだろ? カフェテリア? 自販機? そもそも五種全部?」

 

 今さらな疑問に脳内の冬は大きな溜め息をついた。
 当然知ってるわけないかと踊り場で止まると、ポケットから携帯を取り出す。ちぃのは電源入ってないだろうが雅は確実だろうとメッセンジャーを開いた。

 

「あの、牛島くん……」

 

 不意に掛けられた声に、文字を打つ手が止まる。
 視線を上げれば、同級生の女の子がモジモジと恥ずかしそうに立っていた。

 

「お……お話したいことがあります!」

 

 意を決したような眼差しに瞬きする。

 


* * *

 


「で? 楠木嬢の告白を断ってたらアイスが買えなかったと」
「まさかあんなにしつこいとは……」
「人のこと言えるかよ。ま、それでご主人様怒らせちゃ世話ねーけど」

 

 午後の授業も終わった掃除時間。
 ほうきで掃く雅に、屈んでちり取りを持つ俺は視線だけ動かす。白鳥さんと一緒に机を運んでいるちぃは不機嫌そうで、目が合うとそっぽを向いた。

 

「あああぁぁ……」
「千風嬢、ちゃんとハルハルの飲み物も買って待ってたんだぜ。踏み加減もどのぐらいがいいかとか嬉しそうに」
「ああああ゛あ゛あ゛ぁぁっっ!!!」

 

 突き刺さるダメージに耐えかねて悲鳴を上げるが、持ち上がりのクラスメイトは慣れた様子で掃除している。
 別クラスの子の話とは『好きです、付き合ってください』という告白。当然俺は千風一筋だから断った。それでも諦めない彼女を説得している間に昼休みが終わってしまい、この有様。アイス一本も買ってこれないとか、ただのバカ犬だ。

 

「この際、付き合ってみろよ」
「捻り潰すぞ!?」
「なあ、千風嬢?」

 

 ちり取りにゴミを入れる雅に怒りの形相を向けるが、背後にいたちぃに肩が跳ねた。見下ろす彼女の目は凍りのように冷たい。いつもなら歓喜するところだが、今は悪寒だけが走り、恐る恐る声を掛けた。

 

「ち……ちぃ?」
「はいっ、おめでとうパーティーしましょうね」

 

 満面笑顔に一瞬で血の気が引く。
 すたすたと去って行くちぃにふらりと倒れると、さすがの雅も慌てて手を伸ばした。が、自分で手をついた。眉間に皺を寄せた“僕”が。

 

「まったく、どんだけ『ちぃ病』なんですかね……」
「もう、末期なんだろ」

 

 安堵の息をつく雅臣に鋭い目を向ける。
 ちり取りを持って一目散に逃げる背に立ち上がるが『ダメ犬基地』の看板を建てた春は出てくる気配がない。どうやら引き篭もると替われないようだ。

 

 困った相方と親友に悩んでいると、ゴミ袋を両手に抱えた千風が目に入る。
 眉根を寄せている様子に本能が無視出来るわけもなく、一息吐くとゴミ袋をひとつ奪った。見上げた彼女は目をパチパチさせる。

 

「はひ? 冬くん、珍しいですね」
「誰かさんのおかげで……僕は春じゃないので、ひとつしか持ってあげませんよ」

 

 空いた手で眼鏡を上げると、ちぃは『ありがとー』と苦笑した。
 滅多に話さないせいか、別扱いしているせいか、外のゴミ捨て場まで他愛ない話が続く。対応違いに怖くもなるが、幸い『ずるいー! 替われー!!』の叫びは聞こえなかった。ご愁傷様。

 

 ゴミを用務員に渡すと、手を掃いながら踵を返す。
 ふと、告白してきた女子が恨めしそうな顔で廊下から見ているのに気付いた。同じく視線に敏感なちぃは楽し気に僕を見上げる。

 

「遠慮せず、付き合えってふーちゃんも言ってますよ?」
「表に出てから言えとお伝えください。というより、そんなに僕達に女を作らせたいんですか?」
「はい」

 

 即答に、僕の笑みが消える。
 あの一夜から一年が経とうとしても気持ちに揺るぎはない。未だ僕の心は不安定ではあるが、春のも疑われるのは心外だ。目を細めていると、前を歩いていたちぃは立ち止まり、振り向いた。

 

「だって……私達といるより楽しいし、幸せになれますよ……絶対」

 

 その笑みは切なく、揺れている瞳は僕ではないところを見ている気がした。
 ざわつく胸に追い風が過ぎ去ると、掃除時間を終えるチャイムが鳴り響く。駆け出す周りのようにちぃも足を踏み出すが、その手を掴むと、振り向いた彼女を抱きしめた。

 

「はひっ!?」
「勝手に……何いってるんですか」

 

 胸に抱きとめると、苦渋に近い声で囁いた。
 背後から彼女とは違う悲鳴が聞こえたのは廊下から見ていた人達だろう。背を向けている僕とは違い、廊下が見えるちぃは慌てふためく。

 

「か、冬くん、み、見られ……!」

 

 春相手なら股間に蹴りを入れそうなのに、慣れない僕相手では戸惑いが大きいらしい。
 僕としてもワタワタする彼女より、真っ赤な顔で怒る“もう一人”が好みだが、湧き上がる気持ちはどっちでも同じ。顎を持ち上げると、鼻先と眼鏡がくっつくほど顔を近付けた。

 

「このぐらい春がいつもしてるでしょ」
「は、春ちゃんとは違っん!」

 

 一瞬触れた唇に唇を重ねる。
 他に見せないよう隠しながら、逃げる身体も腕で抱き留め、深く深く口付けた。久し振りの感触と味に身体中が“もっと”と騒ぐが“違う”とも囁く。

 

「……やっぱり僕は“ふぅ”がいいですね」

 

 唇を離すと繋がる白い糸を親指で切り、息を荒げるちぃを抱き上げる。
 また背後で声が上がるが、構わず眼鏡を外すと歩きだした。向かうのは昇降口ではなく、人気のない校舎裏。羞恥から肩に顔を埋めていたちぃは驚いたように辺りを見渡した。

 

「え? え? ちょ、待って冬くん、まだHRっあ!」

 

 下ろしたちぃの背を壁に押し付けると首筋に吸いつく。
 喘ぎ身じろぐ様子に、解いたネクタイで両手を後ろ手に縛り、両脚で両脚を挟む。さらに取り出した携帯を動画にすれば、焦りが睨みに変わった。

 

「ちょっと冬、どういうつもんっ!」

 

 いつもの怒声を、すかさず唇で塞ぐ。
 反動で落ちた携帯は足で範囲内まで動かし、胸を揉みしだきながら閉ざされた唇を舌で抉じ開ける。絡まった舌がちゅくちゅく鳴らす淫らな音に、吊り上がっていた眉が徐々に下がるのがわかると唇を離した。頬を紅潮させ、息を乱す彼女に口元が弧を描く。
 
「ほら、ふぅ……言ってごらんなさい」
「な、何……を……っ!」

 

 睨みに身を屈めると、スカートをたくし上げる。
 太腿を割って覗くショーツの底には染みが出来ていて、ゆっくりと唇を宛てがった。

 

「他の女と……何?」

 

 見上げる目も声も冷ややかだったが、ぷいっと顔を逸らされただけ。ならばと、ショーツ越しに舐めた。大きくのけ反ったふぅは顔を真っ赤にさせると、お得意の怒号を落とす。

 

「つ、付き合ったらいいでしょ! あたし達といても楽しくな……ひゃっ!!」

 

 指でショーツの底をズラすと秘部を舐めた。
 暴れる身体は縛った両手に回した腕で止め、舌先で秘芽をくすぐる。犬がご主人様に悦んでもらおうと奉仕するように“好きなところ”を重点的に攻めた。

 

「ちょっ、そこダメ……あっ、ああ」

 

 ダメと言いながら愛液と喘ぎが増す。
 身体は何も変わってない、ふぅになっただけ。なのに匂いや味、嬌声だけで酔いしれる。だが苛立ちは募るばかりで、秘芽と一緒に愛液を吸い上げた。

 

「ダメ、ダメえぇ……イっちゃあああぁぁっっ!!!」

 

 甲高い声と一緒に弓なりになると、その場で止まる。
 次第に力を失ったように崩れる身体を抱き留めると、荒い呼吸を繰り返す唇に口付けた。

 

「ん……離れたら恋情が消えると思ったら大間違い。むしろ逆ですよ」
「逆……っ!」

 

 とろんとしていた目が見開かれるのは、ズボンから引きずり出した肉棒のせいだろう。大きく屹立しているどころが、血管が浮き出ているのは高ぶっている証拠。
 壁に背をつかせたまま片脚を上げさせると、濡れ切った秘部に食い込ませた。

 

「ちょっ、学校で何……あぁっ!」

 

 時間を考えればもうすぐHRが終わり、多くの生徒が出てくる。
 人気がないといっても絶対に来ないという保障はないし、先生に見つかれば大問題。だが、今はどうでもよかった。

 

「見つかることより、早く屈服させたくてゾクゾクします」
「こんのっ、変態っあああ゛ぁぁっっ!」

 

 最高の羞恥顔に一気に奥まで貫く。
 滑るように入っても、まだ狭く、思い出させるように腰を動かした。

 

「っふ、ん……ンンっ!」
「ああ、だいぶん広がってきましたね……ほらもっと」
「っんんん!」

 

 擦れば擦るほど肉棒を受け入れるが、変わらず声を必死に抑えているのが可愛くて啼かせたくて、角度を変えては掻き回す。

「っあ、ああ、やめ……出る……んんっ!」
「なるほど……ナカで出せば、さらに良い声で啼いてくださるわけですね」
「バ、バカっ……ダメに決まっあぁ!」
「っ……!」

 

 抱え上げた膝で腕を叩かれたが、肉棒を挟む形となり、呻きを漏らす。締め付けられたナカに先走りが零れると、息を乱すふぅに睨まれた。

 

「ちょ、出すなら外で……」
「かけられるのを御所望とはエロいですね……でもどこからか声がしますし……今日はナカにしましょう……ね?」
「何が『ね?』よ! 『今日は』よ!! もうっ、バカバカ!!!」

 

 遠くに聞こえる笑い声や足音に、ふぅは涙目で頭を横に振る。
 それに反して締め付けはキツくなり、くすくす笑いながら抽挿を速めた。結合部から溢れる愛液が地面に落ち、首筋や唇に口付けると耳元で囁く。

 


「嫌われても僕はふぅじゃないと愉しくないし、好きにならない。それをまだわかってくれない子には、骨の髄まで染み込ませないといけませんね――さあ、たっぷりと召し上がれ」

 


 息を呑んだ様子にぐっと抱きしめると、肉棒が子宮を突いた。
 駆け抜ける快楽は以前よりも強く深く、決壊はすぐ訪れる。お腹の奥から沸いた熱い滾りが流れ込むと、チャイムと同時に甘美な嬌声が上がった。

 

 寂しくなくとも、時間が経てば経つほど増す愛欲と充足度。
 それがちぃではなくふぅだけに感じるのは良いことかわからない。

 

 それでも僕は――――。

/ 本編 /

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