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複雑なスノーフレーク

05話☆「願い」

複雑なスノーフレーク

※千風視点

 三才の時に出逢った男の子。
 お父さんと仕事している春樹さんの息子。
 私よりもちっちゃくて、簡単に投げ飛ばすことが出来た弱い子。

 でも、一緒にいてくれた。
 “彼女”が生まれる前からずっと傍にいてくれた。護ってくれた幼馴染──の、はずだった。

 

 

 

 


 ぼんやりとした目が眩しい光を捉える。
 お天道様とは違う明かりに、私はポツリと呟いた。

 

「電気代……」

 

 明々と点る電気が気になり、上体を起こす。が、すぐに引き戻されてしまった。
 眉根を寄せたまま見下ろすと、胸に顔を埋めている彼に声を掛ける。

 

「春ちゃん……退いてください」
「…………」
「電気、消すだけですから……」

 

 引っこ抜いた手で、しなれた黒髪を叩くが返答はない。むしろ抱きしめる腕が強くなり、一息吐くと大きく口を開いた。

 

「春冬っ!」

 

 滅多に呼ばないのと苛立ちが交ざっていたせいか、春ちゃんこと牛島春冬の肩が跳ねた。数秒後、渋々といった様子で腕が解かれ、また一息吐くと上体を起こす。が。

 

「(はひっ!?)」

 

 予想外の腰痛に“声”が重なる。
 その場で固まるが、なんとかベッドの端に座ると腰を押さえた。

 

「い、痛い~」
(もうっ、こいつらダンボールに詰めるか部屋出たら!?)
「それは……もっと怒ると思いますよ、“ふーちゃん”」

 

 涙目で“もう一人の自分”をたしなめるが、姿見に映った自分に息を凝らした。
 パジャマも下着もたくし上げられ、首や胸元には花弁のような痣が点々と付いている。胸の先端も熟れたように赤く、触れると痺れるほど痛い。胸から股にかけて散りばめられている白濁も既に乾いているが、匂いが濃く残っている。

 

 何より、痣とも熟れたのとも違う鮮やかな血を残すシーツが現実を物語っていた。

 下着を外し、パジャマを下ろすと、腰を支えながら起き上がる。
 ゆっくりと引き戸に向かう動悸は激しく、ふーちゃんが言ったようにこのまま部屋を飛び出してしまおうか、せめてシャワーを浴びたい考えが過(よぎ)った。けれど、監視機器とは違う視線に振り向けば“私達”を捉える目と目が合う。

 

 逃げちゃダメだよ、と、語る目と。

 

 ごくりと唾を呑み込み、電気のスイッチに手を置く。
 その手が小刻みに震えているのは去年の夏を思い出すからだ。変わらないと思っていた彼が変貌し、壊れるのではないかと恐れた日。“もう一人”が生まれ、どれだけ自分が縛り続けてきたかを知った日。

 

 締めつけられる胸を押さえ込むと電気を消す。
 静かな夜に溶け込むかのように月明かりだけが射し込み、徐々に寒気も伝う。それが薄暗くなったせいなのか、ショーツを履いてないせいなのか、視線のせいなのかはわからない。
 それでも抗うことが出来ないかのように足はベッドへ向かう。

 

 近付く度に速くなる動悸は緊張と恐怖。
 そして、荷造り途中のダンボールに罪悪感が芽生える。

 

 母から突然『離婚したから明日出て行くの。千風ちゃんはどうする?』と聞かれ驚いたけど、心のどこかで安堵した。
 毎日のように構える記者やご機嫌伺いに訪れる政治家。積もりに積もったストレスが鬱に変わろうとしていたのもあるが、この家を離れたら負担をかけているふーちゃんを休ませることが出来る。春ちゃんを自由に出来る……そう思ってた。

 

「ちぃ……」

 

 静寂が包む室内に響いたのは家族よりも馴染みがあり、ふーちゃんとは違う呼び方。
 僅かに零れる月光がベッドの前で立ち尽くす私を捉える視線と伸ばされた両手を照らした。その表情は影が掛かっていて定かではないが、震え泣いていた数時間前と同じな気がする。

 小さい頃から何度投げ飛ばしても踏んでも笑顔だった彼が泣いたのは数え切れるほどしかない。それこそ怯えるように泣いていたのははじめてで戸惑った──告白も。

 

『俺は……ちぃが好きだよ……』

 

 膝をベッドに乗せ、上体を傾けると背中に両手が回る。
 そのまま導かれるように胸板へと収まった。肩や腕や手のように、いつの間にか大きくなっていた場所に。そんな私に安心したのか、背中や髪を撫でる春ちゃんは額、頬、耳に口付けた。

 

「ん、春ちゃ……!?」

 

 リップ音が恥ずかしくてくすぐったくて身じろぐと、太腿に何かがあたった。
 最初は毛布や服かと思ったが、裸である彼を考えれば自ずと答えが出る。自分を貫き、今だ残る匂いの元だと。

 

「やっぱりちぃはSだ……」
「わ、わざとじゃ……はひっ!?」

 

 顔を真っ赤にしていると、くすくすと笑われたばかりか肉棒を握らされた。
 慌てて離そうとしても、手首を掴む手は微塵も動かず混乱してしまう。そんな私の耳元に口を寄せた春ちゃんは囁いた。

 

「扱いて? ちぃ」
「し、扱くって……ひゃっ」

 

 わからないと首を左右に振ると、握らされた手が上下に動かされる。
 細長くぬめった肉棒は硬くて熱い。男の弱点だと言われているのに反して呻く春ちゃんは嬉しそうで、つい訊ねてしまった。

 

「い、痛くないんですか……?」
「痛いよ……気持ち良すぎて」
「はひ?」
「もっと……弄って」

 

 その反応がフツーなのか、息を乱しながら囁く彼がドMだからなのか判断出来ない。
 すると『果てさせろっ!』と、ふーちゃんが叫んだ。他人事のように聞こえたが、その顔は真っ赤で、早く終わらせたいのが伝わってくる。
 その勢いに習って両手で肉棒を握ると、上下に動かしたり、指先で亀頭を弄った。

 

「あっ、あぁ……ちぃ、最高」
「春ちゃんが変態さんなだけでしょ」
「ええ……そんな変態を作ったのは……あっ、ちぃが厭らしい子……だったからだよ」
「や、ちょっ!」

 

 失礼なと、手を速めると、服越しに胸を揉まれる。
 揉み込んだり、左右から揺らしたりと遊んでいるように思えた時、指先がとあるところに触れた。

 

「ひゃっ!」
「ツンツンなのが丸わかりだね」

 

 胸の先端を突かれ、扱いていた手が止まる。
 さらにくるっと乳輪をなぞった指は尖りきっている先端を軽く突いては擦り、押し込む。

 

「やあぁ……い、痛いからやめ、て……」
「痛いの?」

 

 離れた指に頷くが、実際は痛いの半分、これ以上はマズイ半分。
 すると、上体を起こした春ちゃんは私の胸元まで下がると、服越しにぱくりと先端を食(は)んだ。

 

「あぁ!」
「んっ、痛い?」

 

 そう言ってまた先端を食まれたが、唇でしているため痛くはない。
 何も言えないのを大丈夫だと捉えたのか、容赦なく舌先で舐めたり吸われる。自分で触った時とは違いゾクゾクするのは痛みじゃない、快楽だ。

 

「腰がヒクヒクしてる……気持ち良い? 」
「ち、違うぅ……」
「ああっ……!」

 

 否定するように握り直した肉棒はさっきよりも大きく、激しく両手を動かせば亀頭から先走りが滲み出る。と、胸を舐めながらパジャマを腰までたくし上げられた。ショーツのないお尻が冷気に晒されたばかりか、指を挿し込まれる。

 

「やああぁ……!」
「ナカ、ぐちゅぐちゅ……」

 

 嬉しそうな声で指を抜き挿しされる。
 激しい水音と一緒に愛液が濡れていくのが自分でもわかり、羞恥を紛らわすようにぎゅっと肉棒を握った。

 

「あっ、あぁ……!」

 

 呻きと同時にお尻を引き寄せられると、股に挟まされた肉棒から白濁が飛び出した。

 

「ひゃああぁあっ!」

 

 秘所を突く熱い飛沫に声を上げると、男と女の匂いが部屋に充満した。
 全身を支配する匂いは麻薬のようでくらくらし、おかしくなりそう。でも、お尻を持ち上げられるだけでなく、秘芽を割って食い込むモノにはっと気付いた。

 

「やあぁ、ダメ……」
「中出ししなかったから“今日”は怒らない……よね?」

 

 月光が起き上がった彼の笑みを妖しく魅せる。
 詭弁だ。屁理屈だ。それを言ったのが昨日か今日かなんて覚えてない。そんな怒りも、押し入ってきた肉棒に掻き消される。

 

「は、あ、ああぁンっ!」

 

 貫かれた身体は最初よりも痛みを感じないが、苦しいことに変わりはない。
 必死に抵抗しても、たくましくなった両手に押し付けられ、激しく腰を動かされる。

 

「あっ、あぁ、こんなの……ダメ……やめ」
「やめないよ……ちぃに“俺達”を刻むまでは」

 

 涙を零す私を静かな声が遮る。
 見上げれば、どこか切な気に、どこか怒ったような顔で見つめる目があった。それがなぜか“二人”分に見えたが、動かされた腰が膣内を蹂躙していく。

 

「んっ……あっ、ああっ……!」

 

 嬌声を零すとパジャマを脱がされ、乳房にしゃぶりつかれる。
 くすぐったい髪の毛、舐め回す舌、落ちてくる汗、子宮を突く肉棒。快楽の海に呑まれる中、息を荒げながら呼んだ。

 

「春……ちゃ……ん」
「んっ、ちぃ……可愛い……もっと」
「春っん……んんんっ!」

 

 大丈夫だよと諭すように抱きしめられると口付けられる。
 どれだけ顔を逸らしても唇は重なり、挿し込まれた舌に舌が囚われ、抜かれた蜜口からは愛液が噴出した。大量のおもらしをしてしまったような気がするのに、混濁する意識の中ではわからない。なのにまた食い込んでくる肉棒に目を瞠った。

 

「ダメ……もうやめ……」
「ヤダ……」
「ひゃあああぁぁっ!!!」

 

 否定を否定で返され、焦らすことなく貫かれる。
 怒りをぶつけるように、すべての自分を植えつけるように、凶暴な雄の楔が最奥を突いた。

 

「あ、ああぁっ……!」
「っ……!」

 

 世界が真っ白になると濁液が膣内を満たすのを感じた。
 抜かれた秘所からは自分のとは違うモノが溢れ、上体を起こした彼の頬に震える手を伸ばす。

 

「ち……っ!?」

 

 覗き込むように顔が寄せられると、大きく振り上げた手で頬を叩いた。
 鈍い音が室内にどこまでも木霊したが、静寂が戻るようにゆっくりと顔を戻した彼は見下ろす。涙を零す“あたし”を細めた目で。

 

「最高にイい顔をしてますね……“ふぅ”」
「こんのっ……バカ“冬”っ……ナカに出すなって言っん!」

 

 恨み言は口付けによって塞がれる。
 春とは違って荒々しく口付ける冬は、出したばかりの秘部に指をニ本挿し込んだ。

 

「や、ああぁっ……」
「何度も突いてあげたおかげで広くなりましたね……もう一本いけるんじゃないですか?」

「ムリ……ムリぃああっ!」

 

 人の話を聞く気などない男は指を三本に増やす。
 痛みに声を上げながら身体を丸めるが、突然指を引っこ抜かれると俯けにされた。かと思えば、お尻を突き出すような格好にさせられる。

 

「ちょ、何すん……あ、あぁン」
「シてる時、“裏”に篭ってると焦らされてる感ありません?」

 

 覆い被さった冬は両手で乳房を揉みながら耳元で囁く。
 そんな彼のモノがお尻にあたっているのがわかると自然と腰が動いた。くすりと笑われる。

 

「素直な身体ですね」
「知らないンンっ……!」

 

 両胸の先端を引っ張りながらうなじを吸われると愛液が零れた。
 彼が言うように、ちーと春がシている時の刺激や快楽はあたしにも伝わる。でも“イく”まではなく、おあずけをくらっているような感じだ。それをわかっている冬は後ろから肉棒を食い込ませた。

 

「あっ……!」
「ああ……こんな感じですか」

 

 “裏”で感じていたのとは違う“ナマ”に、甘い声が互いから零れる。
 慌てて口元を手で押さえるが、ゆっくりと挿入されてくる肉棒に抑えは効かなかった。

 

「あ、ああっ……あん、すごい、あっ、もっと……」
「ねだる、ふぅ……可愛いですね……っ!」
「あ、ああっ!」

 

 奥までたどり着いた肉棒が前後に動かされる。
 前からされるよりもキツくて苦しい。でも、内側からえぐるように攻められると、感じたこともない快楽が駆け上る。癖のように嬌声を手で押さえるあたしに、汗を落とす冬は意地悪く笑った。

「最っ高ですね……もっと啼かせたくなりますよ」
「やあぁ、あああぁっ……あ、ああぁっ!」

 

 宣言通り腰を打つスピードが速くなり、愛液も止まることなく溢れる。
 もう何をしているのか、なぜこうなったのかもわからず、唾液を落としながら振り向けば口付けられた。いっそう気持ち良さが増す反面、膣内で大きく脈を打つ肉棒に慌てて唇を離す。

 

「あ、あぁ、だめ……抜いて冬……お願い……ナカは……」
「いいですよ……ふぅがちゃんと耐えられたら……でも、出来ずに果てたら……僕のモノになってくださいね?」

 

 艶やかな声はひんやりするほど冷たい。
 まだ彼が生まれて一年ちょっとのはずなのに、その執着は春と変わらないほど強く恐怖を覚える。それが締めつける要因となり、熱いモノが迸った。嬌声は唇に、恐れる身体は胸板に、溢れる蜜は肉棒によって受け止められ、切ない声が響く。


『どうしようもなく好きだよ、千風……ずっとずっと傍にいて』


 “私達”とは反対の願いが肌を通して伝わってくる。
 痛いほど大きくて、根が深くて、暗くて……蝕んでいることを再認識させた。だからこ
そ離れなきゃいけない。執着が春冬を壊す前に答えなきゃいけない。

 

 一緒にいすぎてしまったからこそ幼馴染以上にはなれない────と。

※次話、春冬視点に戻ります

/ 本編 /

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