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花のフィールド

​最終話*「時任四兄弟の愛され家性婦」

 恋人がいます。それも四人いて兄弟。
 道理に背いているのはわかっている──でも。

 


* * *

 


『オハヨー、ササカマー!』
「おっはよう、ペっちゃん!」

 

 葉桜に変わり、春の大型連休も過ぎた五月下旬の週末。
 出社と同時に迎えてくれた小型AI(ぺっちゃん)を撫でると自分のデスクに着き、起動したパソコンで社員掲示板やメールを確認する。

 大学卒業後に就職した先は文房具のネット販売をしている都内のベンチャー企業。慶二さんも愛用し、紗友里ちゃんから貰ったボールペンを販売していた会社だ。

 

「零花ちゃん。これ、麦並デザインの社長さんから」
「わあ、チョコレート! だんだん、後で御礼の電話しとく。自由箱に入れとくけ、空(そら)ちゃんも食べてが」
「うん、ありがとう。そういえば、なりー社長さんも」

 

 皺のないスカートスーツに蝶々結びのスカーフ。知的な眼鏡が光る社長秘書の円(まどか) 空ちゃん。年上だが会社では一番の友達なので互いに“ちゃん”付け。
 まだまだ二年目のヒヨっ子電話係の私だが、方言が出てしまうほど社員や御得意様も気さくな人たちばかりで楽しい職場だ。

「おーい、ササカマー」

 

 定時の『森のくまにゃん』曲が流れ帰宅準備していると、喫煙所から社長が出てくる。
 まだ三十代と若いが、うなぎ昇りの業績や評価を知っていれば言うことはない。ちなみに『佐々木』の『ササ』と語呂が良かったからと『ササカマ』と付けたのも彼。全社員にあだ名を付けているので気にせず近付くと、窓に親指が向けられた。

 

「ストバにデカイ犬……四男坊がいたぞ」
「え? あ、ホントだ」

 

 背伸びした窓から向かいにあるコーヒーショップを見下ろすと、テラス席に見慣れたサングラスに帽子を被った男性を見つける。と、目が合い、笑顔で手を振ってくれた。振り返した私も鞄を手に取る。

 

「それじゃ社長、お先に失礼しまーす」
「おう、お疲れさん」
『ササカマ、また来週ー』

 

 ぺっちゃんを撫でるとエレベーターに乗り込み、携帯を確認する。
 『迎えに行くね』のメッセージに心が弾むのは二週間振りに会うせいか、一階ロビーで待っていた送り主にも抱きしめられた。

 

「I missed you so much(会いたかったよ)!」
「ちょちょちょ!」

 

 気持ちとは裏腹に、他社もいるオフィスビル内ではマズいと慌てて制止をかけるも長身の彼、シロウさんに軽々と抱えられる。幸い人気のない壁側に寄ってくれたが、自身で私が隠れているのを良いことにサングラスを外すと口付けられた。

 

「んぅっ!?」
「んっ……レイカ」

 

 呼ばれるだけで身体が熱く、深くなる口付けと絡み合う舌に疼きが増すと、タイトスカートに潜った手がショーツを擦る。吐息を零せば、首筋を這った唇が耳朶を食んだ。

 

「ねえ……ホテル行こう?」

 

 熱が篭った囁きと私だけを映す灰色の瞳に自然と彼の首に両手が回る。

 

「No!」
「っだだだだだだ!!!」
「久々に帰ってきたんですから、晩ご飯たくさん食べてもらいたいです」

 

 折らない程度に締めると、呻きと共に下ろされる。シロウさんは口を尖らせるが、一息ついた私はそっと手を握った。

 

「エッチも……明日休みやけんが……いっぱいシたいし」
「……っ、Oh Yeah!」

 

 小声でも聞こえていたのか、頬を赤めたシロウさんにまた抱き上げられると頬擦りされる。振り払わなきゃいけないのにできないのは私も有頂天になっているからか、機嫌よく下ろした彼はサングラスを掛けると手を差し出した。

 

 外に出れば国内外問わず活躍しているモデルSHIROのポスターが溢れている。でも、ブレスレットに繋がれた『Ⅳ』のパーツ同様に輝く笑顔は、恋人の私だけに向けられた特別な笑顔だ。

 


* * *

 


「なんでそんなに疲れてんだよ……まあ、ノッポの顔を見りゃわかるけどよ」
「Yeah!」

 

 買い物袋を手に帰宅した玄関には、ヘプシーを持った三弥さん。
 満面笑顔のシロウさんとは反対にくたびれている私は二度と彼とは電車では帰らないと誓った。

 

 というのも、私とシロウさんの身長差は五十。
 ちょうど彼の腰に顔、股間に胸がくるのだが、満員電車なのを良いことに抱き合っていると、あろうことか着衣パイズリされたのだ。

 

「なんだよ、その美味しい展開」
「メモらないでください!」

 

 携帯がないせいか、ボードにメモする三弥さんの目はブレスレットに繋がれた『Ⅲ』のパーツ同様に輝いている。

 

 成人漫画家として男性女性向けとも好評で、特に私をモデルにした妹シリーズは完結後も根強く、夏から高校生編が連載される。ていうか中学生設定だったんですかと思うも、読み切りの頃より楽しそうで文句は言えなかった。

 

 すると、腕を引っ張られ口付けられる。
 すぐに離されたが、シロウさんとは違う味に疼いていると、恋人の三弥さんは口角を上げた。

 

「つーわけで、俺にもシろ。着衣パイズリ」
「な、なんでですか!」
「体験しねぇと描けねぇだろ」
「Ok!」

 

 下半身丸出しの股間から生える別格の雄々しく太いモノを向けられ戦くが、返事したシロウさんに両手を捕まれるとブラウス越しの胸を突き出された。ボタンとボタンの間に肉棒が挿し込まれ、ゆっくりと谷間を突かれる。

 

「はっ、ノーブラとはさすがハレンチ妹……つーか、ノッポが犯したな」
「Yes! でも、電車では少し出しただけで、後はトイレでシたよ」
「女子ト……は、やべぇから、男子トイレに連れ込まれたか。さっすが妹」
「言わないでえぇああっ!」

 

 満員電車だけでなく、帰宅ラッシュの駅ナカ。しかも男子トイレの個室で犯されるとは思わなかったが、絶頂してしまったので何も言えず“お兄ちゃん”の命令にも逆らえず、突き続けるモノを見つめる。と、はち切れそうなブラウスに収まった谷間では苦しいのか、苛立った様子の三弥さんが勢いよく巨根を押し上げた。

 

「ひゃっ!?」
「Wow!」

 

 ブチブチっと音を鳴らしたボタンが数個弾け飛ぶ。
 驚く私とシロウさんと共に口笛が響くと、三弥さんは舌舐めずりした。

 

「これで、心置きなく犯せるな」
「こ、心置きなくってあっ、あんっ」
「Oh、オレももう我慢できない!」
「ちょ、シロウさあぁぁっ!」

 

 手早くスカートをたくし上げ、ショーツも下ろしたシロウさんが興奮気味に挿入する。トイレで犯されてから一時間も経っていないせいか余裕で挿入(はい)り、イいところを突かれた。

「あぁン……そこ好きっ……好きいぃんンンっ」
「Ya……知ってる!」
「こっちも忘れんじゃねぇぞ」
「あっ、ああ、ああぁ……っ!」

 

 抽迭を繰り返す肉棒の気持ち良さに喘いでいると、谷間を突く巨根も速くなる。突き出でてくる先端を舐めれば先走りが滲み、三弥さんの額から汗が流れた。

 

「っあ……やっべ……」
「Oh……オレももう……射精(で)るぅ!」
「ふふっ……みんなで気持ち良くなろう」
「あっ、ああ、あああぁぁ……っ!」

 

 前後から呻きと囁きが聞こえると、顔とナカに二人の熱が放出される。
 まだ靴も脱いでいない玄関には蜜溜まり、ボタンが引き千切られたスーツには白濁。みっともない恰好だとわかっていても、顔に付いた精液を拭った手を舐める私は歓喜に震えた。

 

「レイカってばエロい顔してるね」
「犯される気満々だな」
「レイちゃん、可愛い」
「言わんでくだ……って、はじめさん!?」

 

 恥ずかしさから口調が崩れ顔をそらすと、蹲踞でジっと見つめるはじめさんと目が合った。
 海外個展の打診もある中、画よりも掴みどころのない性格と艶やかな容姿に人気を博している裸体の恋人。実際いつからいたのかと三人驚くが、ブレスレットに繋がれた『Ⅰ』のパーツ以上に輝く笑みを返される。と、頬を撫でられ、気付けば唇と唇が重なった。

 

「んっ、ふ、んんっ……」
「ん……ミツくんの味だね」
「イチ兄もすっごいエロティック! サン兄もそう思「退けっ」
「ひゃうっ!」

 

 楽し気なシロウさんを蹴った三弥さんは頬を赤め、仰向けになった私の両脚を抱える。立ったままの彼に合わせ腰が浮くと、容赦なく巨根を挿入された。

 

「ああぁ……あ、ああぁっ!」
「っあ……締まる」
「イいね……僕も勃ってきちゃった……レイちゃん、あーん」
「ンンん゛ん゛ん゛ぐっ!?」
「Wow、イチ兄カゲキー!」

 

 逆さまの顔を持ったはじめさんは、喘ぎと共に開いた口に肉棒を捩じ込み腰を振る。喉奥と子宮を突く二本に加え、跨ったシロウさんも乳房を揉みながら谷間に肉棒を挟んだ。
 大きさも速度も異なる三本の肉棒に犯され身動ぐ私を他所に会話が続く。

 

「そういえば今日……ハチくんからシジミが届いたよ。秋にはまたお米も送ってくれるって」
「Oh、本家のお米! オレも田植えや稲刈りしたいな~。ねえねえ、やっぱりレイカの実家に行ってみない? 『娘さんをください』もしたいっ」
「ふんごおおおぉぉ!!!」
「Noだって……よっ!」
「ふんんん゛ん゛ん゛っ!」

 

 実兄と縁ができても訪問は断固拒否。代わりに、最奥に押し込まれた熱を受け入れた。
 引っこ抜かれても三ケ所から流れ落ちるモノと匂いは増すばかりで身体も痙攣している。それでも破顔しているのが見下ろす恋人たちの目に映っていた。口角を上げた三人は私の瞼、口、胸に白濁を垂らす肉棒を乗せると擦る。

 

「あっ……ああぁ」
「ふふっ……実家がダメならどこに行こうか? みんなで旅行もイいよね」
「Ya、ハワイは? レイカ、ホエールウォッチしたいって言ってたよね?」
「Yesんっ、んんっ」
「まず、てめぇの仕事が空かねぇだろ」
「No。レイカのためなら必死こいて働いて、一週間ぐらい休み取「私が取れません」

 

 割って入ってきた低い声に肉棒を舐めては食んでいた口も会話も止まり、全員の視線が玄関に移る。溜め息まじりに開けた扉と鍵を閉め、鞄を置いた手で眼鏡を上げるのは准教授になり、多忙を極める慶二さん。

 

「「「おかえりー」」」
「なひゃ~い」
「帰りました……まったく、帰宅早々に犯しているのは構いませんが……」
「ひゃっ!」

 

 三人が退くと、伸びてきた手に上体を起こされる。顔を上げればすぐ眼鏡の奥にある目と目が合い、唇も重なった。

 

「んふっ、ん、んんっ……」

 

 荒々しい口付けと口内を蹂躙する舌。
 調教されきった身体は敏感に反応し、離された唇からは唾液と精液が零れた。そこで彼の性癖を思い出すが後の祭り。小刻みに震える手首を持ち上げられると、ブレスレットに繋がれた『Ⅱ』のパーツに口付けが落ちた。が、目に映るのは冷笑。

 

「零花さんのお口は私のモノだと言っているでしょ? なぜ先に他のを咥えているんですか?」
「いや、あの、それは抵抗虚しくというか……」
「とても美味しそうにしゃぶってくれたよ」
「Oh、ニイ兄の頭に落雷が見えた!」
「地雷を踏みまくるはじ兄、嫌いじゃねぇぜ」

 

 笑顔で暴露したはじめさんに三弥さんは感心、シロウさんは仰天、私は顔面蒼白。慶二さんは固まっているが溜め息と共にズボンに手を掛け、自身のモノを取り出した。
 疲れているはずなのに立派に勃っているモノに反射で後退るが当然頭を掴まれ、唇に亀頭を押し付けられる。薄く開いた隙間に先走りが流れ込んでくると自然と口が開き、咥え込んだ。

 

「んくっ……んっ、んんっ」
「っあ……そう、イいですよ……もっと奥……喉奥まで犯しますよ」
「ひゃあいんンンっ!」

 

 返事をした私の顔を跨いで立つ慶二さんは肉棒を押し込む。今朝より大きくて容赦ない突きに嘔吐き涙が零れるが、気持ちは見下ろす恋人と同じだ。

 

「ったく、ケイ兄のイラマ好きにも困ったもんだぜ」
「Ya……フェラすら怒るんだもん」
「ふふっ……じゃあ僕はナカを貰おうかな」
「ンンン゛ん゛っ!?」

 

 呆れる弟たちとは違い、座ったはじめさんは私の腰を浮かせると背後から勢いよく挿入する。突然のことに慶二さんの肉棒に歯を立ててしまった。

 

「ちょっ、兄さっ……!」
「あ……ごめんね、ケイくん……お詫びに手伝うよ」
「ふんんん゛ん゛ん゛っ!」

 

 苦痛に顔を歪ませる慶二さんに、詫びた様子もない笑顔を向けたはじめさんは両手を床に着けると激しく腰を突き上げる。繋がった身体も上下に動き、噛んでしまったモノを包んでは喉奥へと招いた。

 

「っ……!」
「あっ、レイちゃん……出すよ」
「んぅんんっンン゛ん゛っ!」

 

 呻きと艶やかな声と共に白濁が放出される。
 上からも下からも流し込まれる熱に酔いしれるが、引っこ抜かれても零さないよう呑みこみ、両手で秘部を押さえた。

 

「っはあ……はあ……はじめしゃんと……けーじしゃんのしぇーえき」
「完全アへ顔にハート目じゃねぇか」
「ふふっ……可愛くてイいじゃない」
「ええ……イい子には、ご褒美あげましょうね」
「ズルいー、オレも混ぜてー!」

 

 多様な声が聞こえるが、私を含め全員笑顔だ。
 背後からはじめさんに抱きしめ口付けられると寝転がり、乳房を弄られる。それを舐めるシロウさんと、頬や顎を巨根で擦る三弥さんの肉棒を扱きながら大きく股間を開いた。目前には上着を籠に投げ捨てた慶二さんの肉棒があり、白濁を零す秘部に挿入される。

 

「あ、ああぁっっ……!」
「それで旅行……っあ、でしたか……私は長期っ……難しいんですが」
「近場っつーと……あ、俺……前に行った箱根の宿から案内きてたな」
「Oh、イいね! 卓球して、コーヒー牛乳飲んで、浴衣セックス!!」
「ふふっ……湯船と精液まみれのレイちゃん……イいね」

 

 再び犯されながらの会話には私も入っている。
 血の繋がった四兄弟とは違い赤の他人でただ炊事洗濯をこなし、性処理をしてお金を貰うだけの家性婦だった──でも今は。

 

「Oh? どうしたの、レイカ」
「何ニヤニヤしてんだよ」
「そんなに……っあ、私たちに犯されるのが……」
「好き……?」

 

 くすくすと笑う声は優しくて甘美にも聞こえる。
 後ろから抱きしめるはじめさんと顔を寄せ合うと、長い前髪から覗く灰色の瞳を見つめながらゆっくりと声に出した。

 

「Yes……っ」

 

 一言に四人の目が丸くなる。
 だが、私のように直ぐはにかむと愛撫も激しくなった。

 

「あああぁっ!」
「煽られては……っはぁ、仕方ありませんね」
「Ya……お腹空いたけど、オレ我慢するよ」
「つーか、コイツを喰えば良いしな」
「うん……買い物袋も冷蔵庫に入れておいたから大丈夫だよ」
「ひゃああぁ……て、買い物袋?」

 

 言われてみれば四袋あった買い物袋がない。
 普通に考えればはじめさんが片付けてくれたのだろうが“この”長男だ。察した弟たちも愛撫を止めると、私と共に兄を見つめた。

 

「あー……はじ兄。一応聞くけどさ、袋ごと入れてねぇよな?」
「冷蔵じゃない物は……入れてませんよね?」
「Ya Ya。お菓子や歯ブラシもあったんだけど……」
「うん。冷蔵庫ぎゅうぎゅうになっちゃったけど、僕がんばって押し込んだよ」
「Noooooooっっ!!!」

 満面笑顔の暴露に快楽もすべて吹っ飛んだ私は急いでキッチンに向かうと、ビニール袋の持ち手がはみ出ている冷蔵庫に再び悲鳴を上げた。

「もうっ、旅行より家のこと考えてくださいよおおおぉぉっ!!!」
「Oh、それは“家性婦”ちゃんの仕事だね」
「家のことも俺ら兄弟のことも」
「すべて貴女に面倒を見てもらいますよ」
「ふふっ……もちろん、それ以上の愛を僕たちは返す……Ok?」

 

 ウインクする四男、舌を出す三男、口角と眼鏡を上げる次男、くすくす笑う長男が集まり、泣き喚く私に口付けを落とした。
 台詞だけなら以前と変わらない。でも、口付けも私を映す目にも確かな愛があり、ひと息付くと自然と口元が綻んだ。

 


「Yes……!」

 


 端から見れば道理に背き、ありえない関係でも幸福(しあわせ)には敵わない。
 私の居場所は時任家(ここ)で、今日もこれからも時任四兄弟の愛され家性婦として恋人として愛し愛され尽くすのだ────。

 

 

 

 

 


Fin

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