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花のフィールド

​14話*「本人の意志」

「なるほど、今度は三弥くんですか」
「今度は?」

 食後のパフェを食べていた私は、店員さんからコーヒーを受け取った慶二さんを見上げる。

 

 学会の資料を取りに帰宅した彼はシロウさんと会い『家性婦ちゃんの話を聞いてあげて』と言われたそうだ。戸惑いながらも三弥さんのことを話すと、彼が居る家より外が良いだろう、ついでに昼食を取ろうとレストランを訪れた。
 平日の昼時で混んではいたが、ピーク時を過ぎた今はゆっくりと話ができ、冒頭に戻る。

 

「先日まではシロウくんとケンカされていたでしょう?」
「ケ、ケンカというか、ちょっとした言い合いというか……い、今は大丈夫です」
「そのようですね。あの利かん坊の手綱を締めるなんて、全関門クリア以上にすごいことです。ボーナスを差し上げないといけませんね」
「パフェ(これ)で充分です」

 

 スプーンで掬った大きなイチゴと生クリームを頬張ると、美味しいとお花を飛ばす。コーヒーを飲む慶二さんは何かを含んだ目で見つめるが、カップを置くと一息吐いた。

 

「では……三弥くんの何を聞きたいのですか?」

 

 問いに、口も手も止まると顔を伏せる。

 

「……正直、わかりません。何を聞いたらいいのか、聞いてもいいのか」

 

 幸せになるほど甘くて美味しいパフェとは違い、三弥さんの話は慶二さんが飲んでいるブラックコーヒー以上に苦い気がした。

 

 あくまで私の仕事は炊事洗濯。
 それなりに認められ一緒に住んでいるとはいえ、シロウさんの時とは異なり個人の話。しかも三弥さん本人がいないところで聞くのは気が引けるし、今後は口も利いてもらえないかもしれない……でも。

 

「『はい』って……言っちゃったんです」

 

 スプーンを置くと、三弥さんにはじめて犯された日を思い出す。次第に頬が緩んだ。

 

「『せいぜい役に立てよ』に返事しちゃったので、スランプの原因を知って役に……自分の仕事をしなきゃいけないんです」

 

 私は家性婦。
 『性』なのだから性処理はもちろん、仕事のパートナーと言ってもらえた分の手伝いもしないといけない。それが創作でも役に立つなら、約束したのなら私の仕事だ。

 

「……ドMな家性婦ですね」
「はい?」

 

 首を傾げるが、頭を横に振った慶二さんは飲み干したカップを置くと窓の外を見た。視線を移せば下校時間か、黄色の帽子にランドセルを背負った小学生たちが楽しそうに走り去って行く。

 

「……三弥くんが絵をはじめたのは小学校低学年。兄の影響でした」
「はじめさんの?」
「ええ。それこそ兄は物心つく前から描いていて、中学に上がった頃には数々の賞を取っていました。それが幼い三弥くんにとってはとてもカッコ良かったのでしょう。兄と一緒にチラシの裏どころか壁や家具にまで落書きして、さすがの母も発狂していましたよ」

 

 掃除する身としては、ジューンさんに同情するしかない。
 対して慶二さんは当時を思い出しているのか遅れて追い駆ける男の子に口元が緩んでいるが、それは一瞬のこと。

 

「けれど、どんなに描いても兄のように描けないし、なれるはずもない……そう言いはじめた頃、美大の受験すべてに落ちたんです」
「っ!」

 

 息を呑むのと同時に、追い駆けていた男の子が転倒する。
 大きな泣き声がガラス越しにも聞こえ、見つめる慶二さんの表情も曇った。

 

「……それからですね、部屋に引き篭りはじめたのは。しばらくはそっとしておこうと何も言わなかったのですが、私も兄も忙しくなって気にかけるのも忘れていました」
「慶二さん……」
「それから一年後でしたか……確定申告を教えてくれと言われまして」
「か、確定申告っ!?」
「あ、零花さんもしないとダメですよ」
「ふぁっ!? あっ、私のパフェ!」

 

 突然話を振られた挙げ句、スプーンを奪った慶二さんにパフェも食べられる。混乱する私を他所に食べる彼は、泣きじゃくる男の子と駆け寄ってくる数人に目を向けた。

 

「どうも、息抜きでネットに上げた漫画が出版社の目に留まったそうで」
「そ、それはすごいで……あ」

 

 咄嗟に拍手するが止まる。慶二さんもスプーンで残りを掬うと頷いた。

 

「御察しの通り、それが成人漫画だったものだから今も描くしかないのでしょう。本人の意思とは無関係に」

 

 最後にと残していた大きなイチゴを食べられる。
 外では先に行っていた子供たちが泣きじゃくる男の子を迎えにきたが、男の子は少し恥ずかしそうに、悔しそうに顔を伏せた。

 

 三弥さんも同じだったのかもしれない。
 何かが脚光を浴びるのは傍から見ればすごいこと。でも、本人にとっては頑張ってきたものとは違うものが選ばれたのだから、喜びより悔しさが大きいはずだ。

 

 でも、仕事になっている。お金になっている。
 生きていく上でお金も仕事も大切だ。それは私自身も身を持って知っている。たとえイヤな仕事でもあるだけ良い、無職よりマシ。文句なんて言えない。

 

 

 

 


「おや、家性婦はイヤですか?」
「イヤじゃないですよ……んっ、でも……それよりイチゴ食べたかった……バナナじゃなくてイチんんっ」
「っあ……私は蜜だけで満足しているんですけどね」

 

 レストランを出ると車で家まで送ってもらい 学会がある慶二さんとはお別れ。の、はずが、なぜか駐車した車内でイチゴとは似ても似つかない、バナナという名の肉棒を咥え込まされていた。
 運転席のシートを一番下まで倒した彼の下半身側に顔、彼の顔に私の下半身があり、互いに肉棒と秘部を咥えては舐める。

 

「慶二しゃ……せめて家でんんっ」
「そんな時間はありません……っはあ、今日は……ん、大学に泊まりますから……零花さんのフェラも蜜も……お預けです」
「シロウさんみたいなこと言わんんん゛ん゛!」

 

 ぐっと頭を押さえ込まれ、亀頭が喉奥を突く。
 住宅街とはいえ、帰宅中の学生や親御さんの声が聞こえる。そんな中で車内。後部席ならまだしも運転席でのセックスは恥ずかしい。

 

「っん……零花さん、蜜が増えてますよ?」
「だ、だって……誰かに見られたらああぁっ!」

 

 長い指で秘部を広げられると、羞恥から零れた蜜どころか秘芽も荒々しく舐められる。

 

「私は……見つかるか見つからないかのセックスっん……好きですよ……ゾクゾクします」
「もうっ……あぅ……変態兄弟っんん」
「どうも。まあ、だいたい見つかってないと思ってるのはセックスしてる側だけで、殆どの人にはバレていると聞きますけどね」
「それダメじゃないでああぁああぁぁっ!」

 

 衝撃発言したくせに、蜜を吸い取るだけでなく指を挿し込まれる。奥を弄れば弄るほど新しい蜜が零れ、待っていたと言わんばかりに吸われては食まれた。

 

「あああぁぁ……慶二さ……イっちゃあぁ」
「まったく……全然フェラしてないのに、一人でイかないでください」

 

 不満気に秘芽を舐められるが、既に達している私と腕時計を見た慶二さんは一息吐くと上体を起こした。さらにシートも起こし、向かい合わせに抱きしめる私の秘部に肉棒を宛がう。

 

「あぁ……ズボン……濡れますよ」
「着替えはあるのでご心配なく。そもそも零花さんがイかせないから悪いんですよ」
「慶二さんだって……イチゴ食べた」

 

 同じく不満を漏らすと、慶二さんの表情が無になる。
 だが、苦笑が混じった溜め息をつくと、私の顎を持ち上げた。眼鏡の奥にある目は柔らかい。

 

「わかりました。仕事がひと段落したら、デザートバイキングに連れて行ってあげますから」
「うぅ~、絶対ですよ」
「はい。代わりに兄弟の世話をお願いしますよ……家性婦さん」

 

 笑みに変わった唇と唇が重なる。
 同時に挿入され、声にならない嬌声と蜜で応えた。

 


* 

 

 

 


 目覚めると、自室に敷かれた布団の中。
 外は真っ暗で、近くにあった携帯を見ると夜の八時。カーテンを閉めると部屋を出るが同じく真っ暗。廊下の電気を点けるどボードを確認した。

 

「そっか……いないのか」

 

 はじめさんは個展の打ち合わせ、慶二さんは大学、シロウさんも泊まりとなっている。兄弟の母であるジューンさんもホテルに長期滞在なので、今夜は私と三弥さんしかいない。でも、既に晩御飯はいらないと言われている。

 

「どうしよう……あ」

 

 ふと玄関を見れば、小包が置いてあった。
 三弥さん宛で献本と書いてあるので慶二さんが受け取ったのだろう。考え込んだ私は電気を点けた自室に持って行くと封を切った。というのも、献本=新刊を貰っても読まないから一冊を除いて捨ててくれと言われているからだ。

 

「それなら読んでもいいよね……うわぁ、えっちぃ」

 

 同じ単行本が数冊あり、表紙は制服が乱れ泣いている女の子。
 TL漫画は読んだことあるが、男性向けは初。表紙の時点で違うし、三弥さんが描いているのを知っていると緊張してしまう。なんとかページを捲ると一度閉じる。そしてまた捲っては閉じる。
 それを何度か繰り返すが、捲る度に全身が熱く、茹でダコになっていた。が、あるページで止まる。

 

「あ、この前の!」

 

 ガン見してしまうのは、以前アトラクションのようだと試された玩具のシーン。キャラは違うとはいえ、覚えのある台詞と体位に布団へ倒れ込む。

 

「ふあぁぁ……完全にこれ私だ……恥ずかしいぃ」

 

 許可云々は今さらだが、本当に撮られていたものを使われる上に見るとか恥ずかしすぎる。でも、目が離せず、本を開いたまま服どころかブラの中に手を入れると胸に触れた。

 

「っあ……尖ってる」

 

 先端は尖り、指先で弄ると下腹部がムズムズする。
 慶二さんとシたはずなのに、漫画読んでるだけなのに、弄れば弄るほど息が荒くなり疼く。ついにはショーツに手を入れた。

 

「ふあっ……んんっ!」

 

 茂みを割った先は濡れていて秘芽を擦る。
 だが、あまり気持ち良くないし、漫画を捲っても眉を顰めた……理由は。

 

「大きくない……」

 

 撮った時同様セックスが描かれてあるが、男のモノが小さいように思える。『お兄ちゃんに突かれるの気持ち良い♡』の台詞も、彼のが大きくて気持ち良かったからで、この大きさでは……と、考え込むこと数分。

 

「もおおおおぉぉっ!!!」

 

 勢いよく起き上がると、漫画を持ったまま階段を上る。そして、作者の部屋を叩いた。

 

「ちょっと三弥さん、言いたいことあるんですけど! ねぇっ!?」

 

 相変わらず応答がなく、鍵も掛かっている。
 迷うことなく助走をつけた私は勢いよく扉を蹴り飛ばした。

 


「聞いてますっ!!?」
「お前がなっ!!!」

 


 二度目の扉破壊に、またツッコミが返ってきた。
 一度目同様、デスクパソコンの明かりしかない部屋でヘッドホンを外し、ポロリしている三弥さん。さすがに今回は苛立った様子で身体を向けた。

 

「なんなんだよてめぇは! 何また壊してんだ!!」
「長男(はじめさん)の許可は取ってあります。それより、これどういうことですか?」

 

 頭を抱える彼に単行本を見せる。
 一瞬だが眉を顰めたのは私を使ったことを考えたのだろうが、私は別のことを言った。


 

「五番目の話の男性のモノが小さいんですけど!?」
「は……?」
「もっと大きいのじゃないと、こんなイい顔しませんよ! あと漫画のせいでセックスしたくなったので責任取って犯(セックス)してください!!」
「は……ああぁっ!?」

 


 一気に捲くし立てた私に目を丸くした三弥さんは悲鳴と共に顔を真っ赤にした────。

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