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花のフィールド

​13話*「引け目」

 最近、変化があった。それは私ではなく──。

「家性婦ちゃん。ゴミ、出してきたよ」
「ありがとうございます。あとは服をハンガーにっひゃ!」

 

 服を取る前に、絶賛掃除中の部屋主シロウさんに背後から抱きしめられる。五十センチもの身長差と体格差に捕まると、服の山に転がった。

 

「もう、また……これじゃ終わらないですよ」
「No problem(問題ないよ)。次の休みにすればいいんだから」
「そうやって後回しにしたら溜めっん」

 

 振り向き様の文句は口で塞がれる。
 さらに上着に潜った両手が下着越しに胸を揉み、うなじに吸いついてはリップ音が鳴った。半休だからと部屋の掃除を頼まれたのは良いが、隙を見つけては襲われ手が止まるの繰り返し。
 だが、激しいものではない……むしろ。

 

「ウチはいつからでけぇ犬を飼いはじめたんだよ……」
「み、三弥さん!」
「Morning(おはよう)、サン兄」

 開けっぱなしのドアから寝起きの三弥さんが顔を出す。
 変わらず巨根ポロリだが、シロウさんも上半身裸な上に家なので何も言わずにいると、足を入れた三弥さんは物珍しそうに見回した。

 

「久々に入るな……つーか、服ばっか」
「これでも減らしたんですけど、まだクローゼットにあるんですよ」
「サン兄、いるならあげるよ。あ、でも身長が足りあああっI’m sooo sorry!」

 

 三弥さんの足蹴りと私の肘の低身長総攻撃を受けるシロウさんは涙目で謝る。ジと目を向ければまた『Sorry……』と、しゅんとした様子で私の肩に顔を埋めた。ちゃんと謝ったので良しと頭を撫でるが、すぐ笑顔に変わって頬ずりする様子に、三弥さんは眉を顰める。

 

「なんだ? 家に居るのも変だが、えらくノッポが懐いてんじゃねぇか」
「あははー……」

 

 苦笑しか返せないのは私にも理由がわからないからだ。
 三弥さんが言うように休日でも外出していたシロウさんが最近は家に居る。そればかりか帰宅も早くなり、以前より手伝いをしてくれるようになった。その分セックスも増えたが優しく、大型犬に懐れている気分だ。

 

「No。懐いてるんじゃなくて、好きだから」
「はあ?」
「い、いえ、Likuって意味のっあん!」

 

 顔すら顰めた三弥さんに訂正しようとするも、会話中も胸を揉んでいた手に先端を引っ張られる。さらに反対の手がスカート、さらにショーツに潜り、秘部を擦った。
 秘芽を弄る指先に自然と身体が丸くなるとシロウさんが囁く。

 

〔────〕
「……てめぇ……本気か?」
「ああぁっ!」

 

 最初の英語は聞き取れなかったが、耳元で囁かれた『Yes』はよく響き、挿し込まれた指がナカで不規則に動く。見下ろす三弥さんが渋い顔をしているのが気になるが、敏感なところに当たった指に身体がのけ反った。

 

「家性婦ちゃん、ココ? ココが好き?」
「ああぅ……好き……好きぃああっ!」 
「Ok」
「ハレンチ女は全然じゃねぇか」

 

 呆れている三弥さんとは違い、攻め立てられた私は達する。力が抜けた身体を自身と向き合わせるように反転させたシロウさんは、首筋を舐めながら兄を見上げた。

 

「でも、これだけで興奮するほどオレが本気ってわかるでしょ?」

 

 熱が篭った声と脚に当たるモノに疼くが、何も返さない三弥さんと妙な空気に戸惑う。振り向こうとするもシロウさんの手に顎を持ち上げられ、口付けられた。

 

「ふっ……んん」
「んっ……大丈夫だよ。兄ズに犯されてる家性婦ちゃん見るのもオレは大好き……だから」
「あっ!」

 

 私のショーツを下ろしたシロウさんは両手でお尻を、秘部を大きく広げる。兄に見せるように。

 

「犯してよ……サン兄のでイくレイカ、見たい」

 

 艶やかな声に蜜が零れたのは、はじめて名前を呼ばれたからか。
 やっぱりシロウさん変と思っていると、背後から大きな溜め息が聞こえ、床に膝を付いた三弥さんの両手がお尻を掴んだ。濡れている秘部を擦るモノに身体が震える。

 

「あ……三弥さ……」
「ったく、寝取りをネタにする日がくるとはな」
「Oh、描いたことないの?」
「ねぇよ。玩具と自慰が俺の性癖だし……けど、ちょうど困ってたから試すか。つーわけで、ノッポ、ハレンチ女」
「あっ!」

 

 蜜を塗りたくした亀頭を挿し込まれる。
 指と違うのは当然だが、それ以上に彼のモノは危険だと知る身体が逃げようとする。が、シロウさんに抱きしめられ、身動きが取れない。笑顔の彼とは反対に涙目の私は振り向くが、渋々だったはずの三弥さんは舌舐めずりしていた。

 

「俺に教えろよ。寝取りの気持ち良さを」
「Sure(もちろん)」
「No! Noでっあああぁあぁぁんっ!!」

 

 私の許可は無視し、大きな肉棒を挿入される。
 何度かシているとはいえ、今日は三弥さんのが濡れていないのもあって痛みが大きい。それでも指では足りなかったところを突かれると涙が落ちてきた。

 

「Wow。家性婦ちゃん、大丈夫? 苦しい?」
「バーカ……それはっ、気持ちイいけど認めたくない時の涙……だっ!」
「ひゃうっ! い、言わないでえぇっ!!」

 

 図星に顔が真っ赤になると激しい抽送を繰り返される。目を丸くしていたシロウさんは笑みを浮かべ、私の涙を舐め取った。

 

「気持ちイいなんて……オレがいない間にどれだけ犯されてたの?」
「いない時は毎日だ……彼氏のお前より兄貴の俺のがイいって……っは、咽び泣きながら何度もイってたぜ」
「Oh my gosh!」
「ノリよすぎんあああ゛あ゛ぁ!」

 

 芝居に文句を言うが、根本まで巨根を挿し込まれ達する。シロウさんの胸板に突っ伏すと、三弥さんはうなじを舐めながら囁いた。

 

「ほらっ……彼氏に謝らねぇと……他の男のでイってごめんなさいって」
「あうぅ……」
「Wow……サン兄。それホントに寝取った男のセリ……?」

 

 ドン引きするシロウさんの頬を両手で包むと、息を切らしながら見つめた。口角を上げた三弥さんが小刻みに腰を打ち立てる。
 設定になりきってのセックスに慣れてしまったのか、作者(三弥さん)の命令に逆らえない身体になってしまったのか、涙も涎も蜜も零しながら震える口を開いた。

「っあ、あぁ……シロ……ウさ……っひゃん、ごめんなさっ……お兄さんのっあぁ、大きいのでイってんんんっ!」

 

 犯されながらの謝罪はシロウさんの唇で塞がれる。
 絡んでくる舌は荒いが白糸が繋がったまま離れると、頬を赤めたシロウさんは唇を噛み締めていた。いつかの備品庫で見た表情に目を丸くするが、お腹に回った腕に上体を起こされる。
 繋がりが深くなるばかりか、抽迭が速くなった。

 

「あうっ、あっ、ああぁっ!」
「なーる……あながち間違いじゃなさそうだな……で、ノッポ。気分は?」
「……っ、ゾクゾクする」

 

 自身を跨いで犯す兄の問いに答えたシロウさんは手で口元を隠すと顔をそらした。が、結合部を見ているのがわかり、恥ずかしさから締めつける。

 

「っあ、急に締めんな……」
「だ、だって……シロウさんに見られてて」
「Ya……犯されながら涙目でオレを見るレイカはカワイイし、締めつけて落とす蜜がオレのズボンに掛かるのエロい……せめて顔の上で犯してもらえたら、その蜜を飲め「「変態かっ!!!」」

 

 三弥さんとハモると行為も止め、シロウさんから離れる。
 顔を青褪める私たちに上体を起こした彼は『ちぇっ』と言いながらズボンに付いた私の蜜を手に絡め、舐めた。指先についたのも残さず舐め取り、ちゅっとリップ音を鳴らす。

 

「美味しいのになぁ……」
「っ!」

 

 私だけを捉える目と笑みに全身が熱くなるどころか蜜が零れる。シた後だからだと締めていると、三弥さんは荒々しく頭を掻いた。

 

「っだあぁ、やっぱ俺に寝取りは合わねぇ!」
「すっごいノリノリでしたけど?」

 

 ジと目を向けるが、無視した三弥さんはシロウさんを睨む。

 

「つーか、いつも寝込み襲ってるノッポがやれば……いや、顔が良すぎてモデルになんねぇ」
「? Thanks」
「ハレンチ女もコイツだから舐めて良いんだろ? これが知らないおっさんとかだ「知らない人ってだけでキモいですし、速攻で腹パンします」

 

 拳を見せると、大きな溜め息を吐いた三弥さんは天井を仰いだ。私は首を傾げるが、背後からシロウさんに抱きしめられ、頭に顎を乗せられる。

 

「サン兄、珍しくネタに詰まってるの?」
「おう……担当が代わって性癖が合わねぇんだ」
「Oh、大変だね。担当さんの性癖は?」
「逆レイプと輪姦……て、二次元の話だからな! 俺たちとお前は合意有だから輪姦じゃねぇぞ!?」

 

 自分の立場を思い出す内容に震えていると、慌てて三弥さんは補足する。ハッキリ言ってもらえて安堵する私にシロウさんも笑顔で頬ずりしてきた。

 

「Ya。少なくともオレは愛あるセックスだから安心して」
「ま、また変なことを……あ、携帯鳴ってますよ。マネージャーさんじゃないですか?」

 

 気付けば正午を過ぎ、シロウさんの携帯が鳴り響く。が、口を尖らせた彼は身体を大きく揺すった。

 

「Noooっ! まだ家性婦ちゃんに挿入(いれ)てない!! お預けのまま四日は帰れないとか……てことで、今すぐシよ?」
「Noooっ!」

 

 勢いよく両手でシロウさんの頬を挟むと、溜め息まじりに三弥さんがシロウさんの携帯に出る。予想通りマネージャーさんが家の前まで迎えにきたらしく、私はシャツを渡した。が、シロウさんはごねる。

 

「ヤダヤダ~、仕事に行きたくない~。家性婦ちゃんとセックスする~」
「何が愛あるセックスだ。ただの我儘じゃねぇか……おら、とっとと行け」
「ううぅ~。オレもサン兄みたいに家でゴロゴロ出来る仕事が良かったぁ~」
「……シロウ」

 

 地を這うような声に、私の肩に顔を埋めていたシロウさんの背中が僅かに跳ねる。それは私も同じで、三弥さんは目を細めた。

 

「それ以上言ったら、マジでブッ飛ばすぞ?」
「……Got you(わかったよ)」

 

 怒っているのが伝わり、一息吐いたシロウさんは着替えをはじめる。出て行く背中に私は声を掛けた。

 

「三弥さ……」
「今日はもう部屋に篭るから飯はいらねぇ」

 

 振り向くことなく言い切った彼は自室へと姿を消した。
 着替えを終えたシロウさんを見ると肩をすくめ、階段を降りる背に私も続く。

 

「サン兄ね、なんかエロ漫画家がイヤみたい」
「え?」
「本当にイヤってわけじゃないと思うけど、なんだろ……引け目を感じてるみたいなんだ。オレは手伝うって言ったんだけどね」

 

 なんのことか戸惑う私に靴を履いたシロウさんは苦笑すると何かに気付いたように玄関扉を見つめる。が、向き直すと、軽く重ねる口付けをされた。

 

「ふゅっ!」
「んっ……詳しくはオレより付き合いが長い兄に聞いて。じゃ、行ってくるね」

 

 ウインクしたシロウさんは帽子を被ると玄関を開ける。
 その姿が消えるようにゆっくりと閉まる音を聞きながら立ち尽くしていると、すぐにまた玄関扉が開いた。身体が跳ねると、身長も肩幅も髪色も違うスーツの男性が眼鏡を上げる。

 


「おや、零花さん。シロウくんの見送りですか?」
「け、慶二さん!?」

 


 いつもより帰宅が早い次男に目を瞠った────。

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