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写真撮影のセットアップ

​4の間*「兄弟喧嘩」

*シロウ視点

 I love you。

 愛を伝える言葉。結ばれる手伝いをする言葉。
 だからこそ、相手の心を無視して使われるのは嫌いだ。安易で曖昧な『好き』と『愛』の日本語を、オレは信用しない──。


* * *

 


「よう、ノッポ」
「Wow、サン兄!」

 

 午後の撮影現場に入ると、三番目の兄がいた。
 場所が場所なだけにジャージではないが寝癖がついた髪に、眠た気な顔。首からは関係者パスをぶら下げ、背後にはスタッフと話し込む母がいた。

 

「どうしたの? 遊びにきっだ!」

 

 容赦ない蹴りを受け、跳ね回る。対してサン兄はあくびをしながら答えた。

 

「背景を撮らせにもらいにきたんだよ。次作、アイドルとヤるから」
「Oh、Sexy mangaの゛っ!?」

 

 再び蹴りを受け、跳ね回る。
 サン兄が余計に不機嫌になったのは『エロ漫画家』と言われるのが嫌だからだろう。なぜ日本人、特に成人漫画や小説を作っている人は隠したがるのか不思議だ。みんなエロ大好きなのに。

 

「てめぇ、そんな頭してっからネットが騒ぐんだぞ」
「Why? オレ最近なにも……」

 

 してないよと続ける前に、サン兄が携帯を見せる。
 表示されているのはSNSで、先日発売された雑誌に載るオレについての呟きが連なっていた。『カッコイイ』や『エロい』など見慣れたワードだが、それ以上に『これ、キスマーク!?』『ウソウソやだー!』が多い。

 

「首にキスマークっぽいのが写ってるとかでプチ炎上してんぞ」
「Oh、家性婦ちゃんのね」
「やっぱり女と……Say what(なんだって)!?」

 

 他の女と思っていたのか、驚きのあまり英語で聞き返したサン兄の目が覚めるように見開かれる。くすくす笑いながら兄の頭に顎を乗せると英語で話しはじめた。

 

〔撮影前に家性婦ちゃんに襲われて付いちゃったんだよ〕
〔そういや、御袋と行ったとか……どうせてめぇが怒らせたんだろ〕
〔首を折られるところだったのをセックスで我慢してもらった〕
〔折れちまえば良かったのに〕

 

 酷いと身体を左右に揺らすが、一緒に揺れるサン兄に肘で胸を突かれる。

 

〔けど、そのまま撮らせるヘマをするわけねぇからワザとだろ?〕
〔テーマは大人スタイルだったからね。匂わせもひとつの……あ、それ観せて観せて! 家性婦ちゃんのオナっが!?〕

 

 SNSを消したサン兄の携帯に残る動画。恥ずかしそうに玩具を持っている家性婦ちゃんを指したが、本気で肘を入れられ唸る。屈んだオレの頭を掴んだサン兄は小声で叫んだ。

 

〔英語でも濁せ! 動画(こんなの)てめぇが持ってたらヤベぇだろ!!〕
〔残してるサン兄に言われたくないよ~……あ、オレと家性婦ちゃんのセックス撮らない? いろんな体位するよ〕
〔てめぇ、モデル辞めてエロメンになれよ……けどまあ、有りか〕

 

 溜め息をつきながらもまんざらではない兄に笑顔で頷く。
 するとサン兄は母に、オレはカメラマンに呼ばれ『Bye』と背中を向けた。直後、呟きが届く。

 

〔今回の家性婦、えらく気に入ってんだな……てっきり女嫌いかと思ってたぜ〕

 

 皮肉にも聞こえたが、背を向けたまま手を振るだけにした。カメラマンの元へ向かうと興味深そうに問われる。

 

「見かけない人と話してたけど知り合い?」
「My Brother……兄です」
「へー、お兄さん。仲良さそうだったね」

 

 一瞬だけ目を丸くするが、すぐ笑顔で『Yes』と答えると撮影に入った。

 

 

 

 


 四兄弟。
 認めるのに時間が掛かったのは傍にいなかったからだろう。

 一番上とは十二も離れているし、一人だけアメリカで生まれ育った。
 

 両親の都合もあるが、環境や過ごした時間が異なる兄ズを受け入れるのは容易じゃない。嫌いではないが賑やかなのは好きじゃないようで、母にモデルをしないかと言われた時は安堵したものだ。

 逆に兄ズからも家からも遠ざかった今、日本にいる意味がわからずアメリカに戻ろうかとも考えた──彼女に出会うまで。

 


* * *

 


「Oh……誰もいない?」

 

 撮影が終わった夕刻。一週間振りに帰宅するも、静まり返っていた。
 玄関を閉じてすぐ上着を床に脱ぎ捨てようとしたが止まる。少しの間を置いて上着も靴下も傍にある籠に投げ入れると上半身裸になり、壁ボード『4』のマグネットを不在の×から帰宅済の〇に替えた。

 

「……あ!」

 

 他を確認していると頬が緩み、早歩きでリビングに向かう。
 窓から差し込む夕日を手で遮り、目を凝らすと、ソファで丸くなっている影を見つけた。まだ肌寒いのに何も掛けず寝ている女性を。

 

「Oh,Nap time(お昼寝時間)」

 

 夕寝かなと荷物を置くと、膝立ちになって顔を覗く。
 寝息を立てているのは我が家の家性婦ちゃん。オレたちのために雇われた子は兄弟が不在なせいか安眠している。

 

「むにゃ……正拳突きぃ」
「寝言がコワイ!」

 

 つい腕を擦ってしまうのは、小さい身体に似合わず強いからだ。過去か弱く見せる子ばかりだったので戸惑うが、寝返りを打つと服が捲れ、お腹が見える。

 

「でも……誘い上手だよね」

 

 くすりと笑うと、ゆっくり上着を捲りながらお腹や臍を舐める。次第に下着に隠れた大きな胸が露になり、両手で揉み込みながら谷間に舌を這わせた。

 

「んっ……」

 

 反応はあるが目を覚ます気配はない。
 それだけで身体が疼き、下着から掬い出した乳房を両手で揺らしたり顔を埋める。柔らかい弾力を楽しみながら赤く実った先端を指先で捏ねると吐息が聞こえた。

 

「んっ……あ」
「カワイイ」

 

 乳房を中央に寄せると、いっそう尖った二つの実にしゃぶりつく。

 

「ふあ!」

 

 一瞬身体が浮くが、舌先で弄っても吸い上げても目は開かない。代わりに頭を撫でられた。

 

「シロ……さ……ノーです……よ」
「Oh、起きてる?」

 

 狸寝入りかと聞くが、背を向けた彼女は寝息しか返さない。しばらく経っても変化はなく、ソファに顔を落とした。

 

「もう……驚かさないでよ」

 

 名を指したのはオレ以外に寝込みを襲うのがいないからだろうが、寝言の『No』はカウントしていいか悩む。

 

 というのも、日本語も日本人も難しい。
 アメリカは意思表示がハッキリしていたから『No』と言われたら本当にダメだと止めるが、日本は『ダメ』と言っておきながらシてもらいたい意がある。
 そんな焦らしやシャイなところが良いのかもしれないが、オレとしては曖昧すぎて萎えてしまう。そしたら女性は怒るし不貞腐れるし、本当に天気のようだ。

 

「でも……家性婦ちゃんは別のことで怒るよね」

 

 苦笑しながらズボンも下着も脱ぐと跨がる。そして彼女の股間に肉棒を挟んだ。

 

「んっ……」
「胸が『No』なら、下を犯せばOk」

 

 良い方に解釈し、小さな身体を抱き寄せると腰を動かす。
 擦れ合う肉棒と太股。次第に零れてきた蜜が肉棒に掛かり、興奮が増した。

 

「あぁ……ホント、今回の家性婦ちゃんは……イい」

 

 今までも六、七人の『家性婦ちゃん』が雇われた。
 半分は顔を見ることなく兄ズの関門で落ち、残りはオレを知る子や『好き』と寄ってきた子。オレにはいらない子。ただセックス相手になってくれるのが、オレにとっての家性婦。
 オレが寝込みを襲うのも、後ろや横からの挿入が好きなのも、曖昧な返事を聞きたくない、恋愛感情の目が嫌いだからだ──なのに。

 

「んっ、あぁ……シロウさ……んんっ」
「Morning(おはよう)、家性婦ちゃん」
「ひゃっ!」

 

 目覚めた家性婦ちゃんの秘部に亀頭を挿し込む。突然のことに驚いた彼女は眠た気ながらも眉根を寄せた。

 

「もうっ……急に挿入(いれ)ないで……ぁん」
「Oh、家性婦ちゃんが挿入に『Yes』て言ったんだよ?」
「ウソっあああぁっ!」

 

 ウソだけどとは言えず、根本まで挿し込む。大きくのけ反った身体を抱きしめると腰を打ちつけた。

 

「あっ、あんっ、あっ、大きぃんん!」
「昂らせたからね……家性婦ちゃん、こっち向いて」
「ひゃ……んっ」

 

 素直に振り向いた彼女の顎を持つと口付ける。
 最初は軽く重ね、次は長く。次第に舌を絡ませると涎が落ち、家性婦ちゃんも腰を動かしはじめた。

 

「あぁっ……ココがイいの? 好き?」
「ああうぅ……好きいぃっ」
「っ!」
「ひゃあああぁ!」

 

 頬を赤め、涎を落としながらの『好き』に疼いた肉棒が膣内で大きくなる。
 『好き』は嫌い、信用していない。なのに全身が熱く震えるのは『シロウさんも私を好きになってくれたんじゃないんですか?』と言われた時からだ。

 

 身体の相性だとわかっている。
 でも、不快な言葉もオレを映す目も気にならない。むしろもっと言って、映してほしいのは。

 

「……ねぇ、ナカに出してイい? 家性婦ちゃんのお腹いっぱいに」
「ダメです! ゴムもしてないのに」
「Please」
「お願いじゃないっ! Noっ!!」
「ちぇ……ぶっ!」

 

 口を尖らせると、両手で頬を挟まれた。
 突然のことに変な声が出たし、アヒル口になる。はじめてのことに驚くが、赤めた頬を膨らませる彼女に内心笑うと繋がったまま上体を起こした。

 

「ひゃうっ!」
「じゃあ、代わりにいっぱい犯させて」
「や、あっ、待っあああぁ!」

 

 俯せにした家性婦ちゃんの上から挿入を繰り返す。滑りが良く、さらに奥を突く肉棒に彼女はソファカバーを握った。

 

「あ、あああぁぁ……激しっ奥んんっ」
「もっと奥? 奥が好き? 好きなら好きって言って?」
「っはぁああ……す、好き……好きいぃあああぁぁっ!」

 

 『好き』に反応した肉棒がまた膣内で大きくなると何度も奥を突く。その度に家性婦ちゃんの喘ぎも結合部からの蜜も増し、ぐっと奥に押し込むと決壊した。

 

「ああああぁぁんっ!」

 

 一番の嬌声に肉棒を引っこ抜くと蜜が噴き出し、オレに掛かる。同時に亀頭から射出された白濁も家性婦ちゃんの背中に散った。疼く身体は治まらず、息を切らす彼女を仰向けにすると両足を屈曲させる。
 出したばかりの秘部を擦るモノに、ぎょっとされた。

 

「も、もうダメ……っ、今日のシロウさ……激しすぎ」
「一週間振りだからね。あと、胸触るのは『No』て言われたから『Yes』の下でシないと」
「寝ている時に聞くのは卑怯ですんんっ!」

 

 文句を口で塞ぐと挿入する。
 腰を持ち上げれば繋がりが深くなり、すぐ蜜が溢れた。唇を離せば涙目ながらもオレだけを映していて首筋に口付ける。

 

「家性婦ちゃん……大好き」
「おだてても……あっ、あ……私は引っ掛かりません……よっ」
「お土産に買ってきた『ナオ』のドラ焼きは嫌い?」
「……好きですけど……ひゃっ!」

 

 口を尖らせる表情と『好き』に腰を打ち立てる。
 見たくも聞きたくもなかったそれらに悦んでしまうのは──オレ自身が好きになった子だから。

 

 真っ直ぐオレを受け止め叱り、いろんな表情も声も見たいし聞きたい子。愛しいからこそだと、やっとわかった。残念ながら彼女からの『Love(愛)』はまだ貰えそうにないが慌てる必要もない──だって。

 

「ただいまー……あれ? シロくん、レイちゃん、愉しそうだね」
「Hi、イチ兄。一緒に犯さない?」
「ま、待ってああぁ!」

 

 帰宅してすぐ脱いだのか、全裸の長男がリビングに顔を出すと家性婦ちゃんが達する。そんな彼女の顔に白濁を掛けながら微笑むオレに、イチ兄は目を丸くした。けれどすぐ嬉しそうに笑う。

 

「ふふっ……じゃあ、癒してもらおうかな。シロくん、前と後ろどっち?」
「Front」
「? 後ろじゃないの珍しいね」

 

 性癖を良く知っている兄は首を傾げるが、くすくす笑いながら抱き寄せた家性婦ちゃんの顔を白濁と一緒に舐める。

 

「犯されている家性婦ちゃんを前からすっごく見たい」
「イいね、それ」
「変態兄弟!」

 

 泣き叫ぶ家性婦ちゃんに笑うと抱きしめる。
 『好き』になっても変わらない。だって彼女はオレ“たち”の家性婦で、これからもずっと一緒だ。兄ズに犯されても、オレはその時の表情も声も見たいし酷いことはしないと知っている。それが兄弟というなら気持ちも同じかもしれない──もしそうなら。

 


「初のSibling rivalry(兄弟喧嘩)がレイカの奪い合いか……楽しみだなぁ」

 


 呟くと首筋に口付ける。
 負けない自信と愛の痕と一緒に────。

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