top of page
花のフィールド

​24話*「女絡み」

「どうも、はじめまして! 零花の兄の佐々木 八作(はっさく)いいます!! 妹を大事にしてくれてだんだいげぇえー!!!」

 

 隣に座る兄の頬を容赦なく引っ張る。無表情で。
 そんな私たちに海鮮デラックスを食べ終えた三弥さんは眉間に皺を寄せていた。

 

「御袋といい親父といい、俺は遭遇率と恋人にされる率が……つーか、コイツ見たことあるぞ。本屋とケーキ屋で」
「こん人、いろんなとこでバイトしとるだがぁ」
「あっははは、そんでよくクビなるがぁ次があるだに!」
「すっげぇポジティブ……」

 

 呆れを通り越して感心する三弥さんに私は頭を抱えるが、兄はなんでもないように続けた。

 

「しっかし、零花。よく俺(わー)がココおるんわかっただぁ」
「彼女さんに聞いたが。それより(そーよも)、お父が入院がして、お母が探しとったが」
「マジかやぁ!? 電話ああ~、払うの忘れちょったぁ! 米(コメ)にも言われとったんに!!」
「私(あだん)のから掛ければええがや」

 

 顔を真っ青にした兄に携帯を手渡すと、慌てて店の外へ出て行った。
 しばらくして会話らしき声が聞こえると、兄を見ていた三弥さんの視線が気怠気にお皿を重ねる私に移る。

 

「嫌いなタイプじゃねぇけど、身内にいると面倒そうだな」
「三弥さんがシロウさんに苛立つ感じだに」
「ああー……うぜぇな」

 

 的を射る例えだったのか首肯が返される。
 活発で安気な性格は好印象なのか友人は多いし、仕事の採用率も高い。が、誰に対しても同じ態度な上にポジティブすぎるので好き嫌いが分かれる。
 当然シロウさんにはない嫌悪感を抱く私は後者だが、知る由もない兄は笑いながら戻ってきた。

 

「いやぁ~、困(よわ)った困(よわ)った。帰ってこい言われたがぁ」
「……そげか」
「零花も帰「らんがや!」

 

 募る苛立ちに声を被せると勢いよく立ち上がる。睨む私に兄は苦笑しながら重ねていたお皿を持ち、テーブルを拭きはじめた。

 

「そげか。そーよも、お前は大丈夫なんがぁ? 辛(しわ)いことねぇだが?」

 落ち着いた声に心配してくれているのだとわかる。わかってる。わかっているが、そんなこと貴方に言われなくても、貴方だけには言われたくないと腸がちぎれる思いだ。
 それを言葉にできない私は唇を噛みしめたまま顔を伏せると両手を握りしめた。

 

「いらねぇ心配だよ」

 

 咄嗟に顔を上げると、立ち上がった三弥さんが店員さんに伝票を渡す。兄が払うと言う前に支払いを終えた彼は私の腕を掴むと引き寄せた。

 

「コイツはちゃんと学校行きながら家のことも俺たちのことも面倒見てくれてる。バカみたいに楽しそうにな」

 

 胸に収まると肩を抱かれる。
 その手は力強く、三弥さんは自信満々に兄を見上げていた。昨日のシロウさんと同じ顔に兄弟だなと思うと共に胸の奥が暖かくなると、目を丸くする兄を他所に店を後にした。

 

 しばらくは無言でモール内を歩いていたが、周囲の目に肩を抱かれたままだったことに気付く。特に三弥さんは恥ずかしかったのかすぐに離すが、腕に抱きついた私は呟いた。

 

「……ありがとう(だんだん)」

 

 肩に顔を埋めたままでも聞こえたのか、頭を撫でられる。荒々しい手に顔を上げるとそっぽを向いていたが、先ほどとは違う横顔にはにかんだ。

 

「三弥さん、顔真っ赤だがぁ」
「うっせぇぞ、方言女……まあ、嫌いじゃねぇけど」
「ネタになるに?」
「おう。帰ったら犯させろ」

 

 堂々発言に怒りよりも笑いが込み上げてくる。
 それはきっと息苦しさから助けてくれたから、評価してくれたから、いつもの彼だから。抱きしめる手を強め、当然のように『Yes』を返すと、見慣れた舌舐めずりと一緒に口付けが落ちた。

 

 

 

 


 が、すっかり性癖と言う名の職業を忘れていた──しかも。

 

「へぇ……レイちゃんのお兄さんか……僕も会ってみたかったな」
「はじ兄なら気が合うかもな。斜め上に……あ」
「ひゃああぁっ!」

 

 携帯で動画を撮る三弥さんの『斜め上』を指示と勘違いしたのか、はじめさんは私の秘部に挿し込んでいた二本の筆を斜め上にズラす。
 それがイいところを突いた上に三弥さんがボタンを押したせいで、下着をしていない胸に装着されたローターの同時攻めを受けた。蜜を噴き出した私はシーツに沈み、はじめさんは首を傾げる。背後では三弥さんが嬉々として親指を立てていた。

 

 帰宅早々、三弥さんの部屋で方言女子とのセックス設定でローター攻めをされていたのだが、ドアがないため丸聞こえ。自室にいたはじめさんが顔を出し、筆攻めも加わったのだ。

 

「てっきりまた……レイちゃんの機嫌が悪いのかと思ったら……モデルしてたんだね……でも、僕もシていいの?」
「いいんだよ。兄貴たちとのセックスも描かなきゃなんねぇし」
「何を言っ……ひゃうっ!」

 

 肩で息をする私は所得顔で座る三弥さんに疑問を持つが、はじめさんは抜いた筆の一本で秘部周りを塗っては毛先で秘芽を擦る。

 

「は、はじめしゃ……くすぐっははは!」
「そっか……ミツくんの役に立つんだね……そういえば、ミツくんはなんで漫画家になったの?」
「「っ!?」」

 

 自然な問いに、身動いでいた私も三弥さんも固まると携帯が落ちる。
 静寂が包む中、知らなかったのかという衝撃に冷や汗が止まらない。仕事になっているとはいえ、キッカケとなった兄を前にさすがの三弥さんも思案に暮れていると、筆を止めたはじめさんが『でも』と振り向いた。

 

「理由はなんでも……昔はミツくんと一緒に絵……描いてたから嬉しいよ」
「はじ兄……」
「特に僕……人間(ヒト)は苦手だから……細かでしなやかに描けるのすごいね……レイちゃん描いたら絶対本人と同じぐらい可愛いくなるね」

 

 真っ直ぐな称賛と笑顔に三弥さんどころか私も赤面する。と、目が合った三弥さんにボタンを押され、ローターの威力を最大にされた。

 

「なんひぇえええぇぇっ!」

 

 凄まじい刺激に嬌声を飛び越え悲鳴を上げた私は達する。潮を噴きながら痙攣する様に、はじめさんは首を傾げた。

 

「……どうしたの?」
「なんでもねぇよ! つーか、家(いえ)電が鳴ってんの、はじ兄じゃねぇか?」
「あ……そういえば電話するって……ちょっと携帯見てくるね」

 

 鳴り響いていた家電が止むと、私の頭を撫でたはじめさんが自室へ向かう。戻ってこないのを見るに折り返し電話をしているのが窺えるが、今は三弥さんを恨むのが先だった。

 

「もうっ……ひゃんで私に……」
「なんか無性に押したくなった」
「酷いっンン」

 

 髪を荒々しく掻きながらベッドに座った三弥さんは、挿し込まれたまま潮で濡れた残りの筆を柄近くまでナカに沈める。が、異物感より、目の前の紅葉を散らした顔に頬を膨らませた。

 

「素直に喜べば良いのにあああぁぁっ!」
「孕むまで犯すぞ」
「短気っ! 少しははじめさんの落ち着きを見習ってぇああぁっ」

 

 容赦なく筆を回され、イいところを突いては毛先で擦られ悶える。その度に出てくる蜜を股間に顔を埋めた三弥さんは舐め取るが、ふと気付いたように視線を上げた。

 

「そういや、んっ……はじ兄が怒ってるの見たことねぇな」
「ああぁっ……私もない……です、んっ」
「親父との口喧嘩でも怒鳴ったりはしてなかった……はず」

 

 筆が抜かれると、蜜が付いた毛先を口元に運ばれる。
 躊躇いもなく食いついたことに三弥さんは目を丸くするが、気にせずしゃぶりながらこの一年で慶二さん、三弥さん、シロウさんが怒った場面を思い出す。

 

 けれど、はじめさんだけ記憶にない。
 個展前は疲弊していて不満を言ってはいたが基本は鷹揚な人。怒るところなんて想像できない……そんな彼が。

 

「怒るとひたら……兄弟らひく女性絡みでんっ!」

 

 しゃぶったまま口走ると、下腹部からの刺激に腰が跳ねる。
 見れば、片足を持ち上げた三弥さんが亀頭を挿し込んでいた。通常時だけでも充分なのに、今はいっそう肥大していて、既に結合部はぎゅうぎゅう。隙間からも蜜が零れ、身体中が熱くなってきた。

 

「ああぁ……」

 

 まだ亀頭だけなのに悶えてしまい、しゃぶっていた筆を涎と共に落とす。愉しそうに見下ろしながら腰を持つ三弥さんは舌舐めずりした。

 

「確かに……俺も怒るのは兄弟以外だと女絡み(お前だけ)だな。その鬱憤を晴らす役もお前だけ──どっ!」
「あああ゛あ゛ぁぁっ!」

 

 容赦ない巨根が押し込まれる。
 それだけで達っするが、両脚を持ち上げた三弥さんはまだまだと腰を打ちつけた。

 

「あぐっ、あっ、ああっ、待っ……っあああ!」
「力抜け……どんだけっ、はっ、広げてやったと思ってんだ……余裕で挿入(はい)るだろっ」
「んああぁぁっ!」

 

 得意気に話しながら抱きしめられると繋がりが深くなり、自然と両脚を彼の背に回した。それを肯定と捉えたのか、激しく押し込まれながら口付けられる。

 

「んふっ、んんっ、んんんっ!」

 

 過激な抽迭に唇は軽く触れるだけ。額には眼鏡が当たるし、ナカを蹂躙するモノは恐ろしく獰猛だ。けれど、痛みより愉悦感が上回り自然とはにかむと、汗を落とす三弥さんが口角を上げる。

 

「はっ……その表情(はにかみ)が……俺は一番好きだぜ」

 

 甘美な囁きと微笑に顔から火が出る思いで、気付けば両手を首に回し口付けていた。驚く気配がしたが、それは一瞬。熱い舌先が挿し込まれ、応えるように絡めては互いの唾液を落とす。

 

「レイちゃーん……Wow」
「ひゃい……ンっ」

 

 戻ってきたはじめさんが口笛を吹く。だが、調教された身体は羞恥より快楽を優先し、蕩けた顔を向けた。その間にも三弥さんは腰を速め、はじめさんはくすくす笑いながら話す。

 

「あのね、来週土曜から三泊四日で……台湾に行くことになったから伝えておくね」
「あっ」
「ひゃっ!」

 

 椅子に座るはじめさんの報告に、三弥さんが腰を振りながら割って入る。

 

「そういや俺もっ……同じ土曜から二泊三日……箱根に取材……行くんだった」
「いいなぁ……ンンっ!」

 

 仕事でも羨ましがるが、奥を突くモノと虚ろな三弥さんの目に限界を感じる。抱擁を強める私たちを眺めるはじめさんは机で頬杖を付いた。

 

「じゃあ……レイちゃんの家性婦一周年のお祝いは帰ってからだ……ね」 
「「あああ゛あ゛あぁぁぁっっ!」」

 

 微笑むと同時に、傍にあったボタンが押される。
 最大威力のままだったせいか、強烈なローターの刺激でナカを締めつけた私と三弥さんは甲高い声を上げながら蜜を噴き出すと倒れ込んだ。

 

 『あれ?』と、悪意のない顔に怒らなくても天然コワイが薄れゆく頭に刻まれた……。

 


 

 

 


「で……なしてまた会わないかんがぁ」

 

 週明け。講義を終えて教室を出た私を待っていたのは部外者の兄だった。不機嫌な私に苦笑しながら、兄は首から下げている関係者パスを見せる。

 

「零花に話があるに決まっとるがや。電話しても出らんし……」
「わざわざなんの用だに」

 

 訛りに他の生徒の視線やヒソヒソ話が聞こえるが、月に何度も会いたくない聞きたくない兄から早く逃げたくて、その場で問う。と、珍しく眉を落とした兄は髪を掻いた。


 

「いや……携帯代が払って実家に連絡しだら、週末に零花も連れて帰ってごい言われだに」

 


 さらに予想外で嫌な話に眩暈がする────。

bottom of page