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花のフィールド

​12話*「マーク」

「ほら、行くなりよ~」
「そげに急がんでも~」

 備品庫の奥といっても扉は開いたままで肌寒い。なのに、シロウさんは顔どころか耳まで真っ赤で、私は手を伸ばした。

 

「シロウさん?」
「Wait a mome(ちょっと待っ)……!」

 制止より先に頬に触れる。徐々に手の平が熱くなり、顔を顰めた。

 

「熱いですよ? やっぱり風邪じゃないですか? 昨日、ちゃんとホテルに泊まりました?」
「Ah-……」

 

 見上げると視線をそらされる。
 何か言えないことでもあるのか、両手で頬を掴むと顔を寄せた。

 

「シロウさ……!?」

 

 苛立ちを含んで呼んだが、ゆっくりと視線を合わせた彼はなぜか恥ずかしそうに唇を噛んでいた。色っぽいや可愛いでも、テレビや雑誌用でも、家用でもない。見たことない表情に私も恥ずかしくなり、伝染した頬が赤くなる。
 肌寒いはずなのに互いの熱が全身を伝い、次第に顔が近付くと唇に触れ──。

 


「あーっ! SHIRO、いたーっ!!」
「「っ!?」」

 


 知らない女性の声に身体が跳ねる。
 咄嗟に私を胸に抱いたシロウさんも動転した様子で上体だけ振り向かせるが、すぐに眉を吊り上げた。

 

「What do you want(なんか用)?」

 

 冷ややかな声と不機嫌な横顔に背筋が寒くなる。だが、彼に隠れて姿が見えない女性も同じ声を響かせた。

 

「ずいぶんな言いようね。昨日突然きたと思ったら、一回ヤってすぐ出て行って」
「っ!?」

 

 声にならない悲鳴を出したのはシロウさん。次いで視線だけ落とすが、ジと目の私と目が合うだけだった。彼と備品棚が壁になっているのか、女性からも私は見えていないようで愚痴が続く。

 

「まったく、いつもなら満足するまでシてくれるのに……なに、あたしに飽きたの?」
「こっちにも気分があるんだよ。文句を言う女とは二度と寝ない」
「はあ!?」

 

 修羅場とは、こういう場を指すのだろう。
 刺されたら良いのにと思わなくもないので構わないが、汚い罵倒は他所でやってもらいたいのも、他の女性とヤっていたことに怒っているのも事実。
 四兄弟とシている身としては矛盾しているが、ついボタンが外れたシャツの間から覗く胸板を指でなぞる。

 

「っ!」

 

 ピクリと反応したシロウさんに見下ろされる。それは一瞬だったが、魔が差した私は胸板の汗を舐め取った。

 

「っぁ……」

 

 小さな声が喜悦にも聞こえシャツを開くと、いつも薄暗い中で見えない引き締まった身体をゆっくりと舐める。

 

「っあぁ……」
「な、何? そんな声だしたって……」

 

 艶やかな声を自分が出させていると思っているのか、女性は落ち着かない。でも違う、させているのは私と主張するように、少しだけ勃って見えるシロウさんの胸に、先端にキスした。

 

「っ!」
「ちょっと、SHIRO。聞いてるの!?」
「No……」

 

 頭を横に振る『No』が苛立つ女性に向けてだとわかるのは、自分でズボンチャックを開き、雄々しい肉棒を取り出したからだ。息を乱しながら私を見下ろす目には欲情が見え、舐めている先端を唇で挟んで引っ張りながら肉棒を受け取る。

 

「っはぁ……あぁ」

 

 両手で扱けば見る見る大きさと硬さが増す。と、シロウさんの手が私の背中に潜り、ブラホックを外した。締め付けから解放された乳房が跳ね、上着を捲った私は胸の先端と肉棒の亀頭を擦りつける。

 

「「ああぁ……」」
「な、何、どうしたの?」

 

 重なった甘い声に、さすがの女性も異常を感じているのが伝わる。それでも今は胸を突く肉棒、反対の胸を揉んでくれる手が嬉しくて、前のめりになる私も彼の胸板や臍を舐めた。

 

「ちょっと、SHI「Shut up(黙れ)!」

 

 痺れを切らした女性よりもシロウさんの声が大きかった。大量の汗と息を零しながら彼は振り向く。

 

「Drop dead(あっち行け)」
「っ……最低!」

 

 聞き覚えのある台詞と共に、勢いよく扉を閉められた。
 横から見ても鬼の形相だとわかるので、正面から見たら悲鳴ものだろう。だが、振り向いた彼は力の抜けた表情で私はほっとする。瞬間、口付けられた。

 

「んっ、んんんっ!」

 

 噛みつく勢いで唇を塞がれ、両手で激しく胸を揉まれる。
 感度が高まった身体は求めることしかせず、彼の首に腕を回すと口付けを深くした。

 

「んっ、はぁ……家性……婦ちゃ……ヒドイよ……オレをこんなにして」
「いつも……のンン、仕返しですンンっ」

 

 喋っては口付けを交わすと、スカートに潜った手にショーツを下ろされ、長い指が秘部に挿し込まれた。容赦なくナカを掻き回される。

 

「ふああぁっそんなすぐ激しくしなあぁぁっ!」
「オレも……仕返し」
「ひゃああああ!」

 

 奥で掻き回される刺激に我慢できず、蜜が噴き出す。
 床どころかダンボールも濡らしたが、力が抜けて何も考えられない。そんな私を抱え上げたシロウさんは首筋を舐めては吸い、耳元で囁いた。

 

「ねぇ……もう挿入(いれ)てイい? 挿入(いれ)たい……」

 

 許しを乞うが、既に亀頭が挿入(はい)っている。
 それ以上いかないよう我慢しているのも興奮しているのも伝わり、伝染したように零れた蜜が亀頭を濡らした。同時に昨夜のはじめさんの言葉を、嫌じゃない気持ちにシロウさんの顔を両手で包むと口付ける。

 

「……Yes」

 

 はにかみにシロウさんの顔がまた真っ赤になる。背中に回った腕にも力が入り、ぐっと奥まで挿入された。

 

「あああぁぁっ!」
「もう……こんな……ガマンできないっ……なんて」

 

 矯声を響かせる私とは違い、シロウさんは呟きながら腰を振る。
 いつも暗い室内で背後から犯されるせいか、前からの刺激に慣れない上に激しい。何より、ハッキリ見える結合部と余裕のない表情に身体も心も悦ぶ。

 

「っあぁ……家性婦ちゃ……締めない……で」
「気持ち良すぎ……て、無理ぃ……!」
「ナカで……っぁ出しちゃうよ」
「ふああぁ……それはダメんんんっ!」
「っあ゛!」

 

 咄嗟に『No』と、首筋に噛みつく。
 ビクリと大きく身体を揺らしたシロウさんは、苦痛を浮かべながら肉棒を引っこ抜いた。瞬間、先端からは白濁が噴き出し、お腹や太股に掛かる。先ほどより一段低いダンボール山に下ろされた私は、同じように息を切らすシロウさんを見上げるが、バイブ音が響いた。
 気付いた彼は、後ろポケットに入れていた携帯を取る。

 

「っはあはあ……Hallo……ああ……家性婦ちゃんと一緒だよ……うん」

 

 電話相手はジューンさんのようだ。
 荒い呼吸を整えながら反対の手で掻き回す髪も身体も汗まみれなのに色っぽいのはさすがだが、また魔が差した私は上を向いている肉棒を胸で挟んだ。

 

「Wow!?」

 

 突然のことに声を上げたシロウさんに構わず胸で扱くと舐める。

 

「っ……Never mind(なんでもないよ)」

 

 そう言いながらも腰を振り、肉棒が谷間で動く。
 ショッピングモールでの仕返しをするように胸で強く挟んでは亀頭を咥え、腰に合わせてしゃぶる。

 

「んふっ、ンンっ……んんん!」
「っあ……Ok、イくから……待って……待っ!」

 

 ジューンさんへの返事が懇願にも聞こえ、乳房から肉棒を離すと彼の腰に抱きつく。肉棒を喉奥まで咥え込み吸い上げれば、脈動を打った亀頭から白濁が飛び散った。

 

「んんんん゛ん゛ん゛!」
「っ…………ぁOk……Bey」

 

 口内に溢れた白濁を呑み込んでいると頭を撫でられる。
 口から引っこ抜けば白糸と涎が止まることなく落ち、携帯を置いたシロウさんに抱きしめ口付けられた。自身の白濁も唾液も構わず舐め取っていく。

 

「んっ、ん、っはぁ……困った家性婦ちゃんだね……外は契約外って言ってなかった?」
「あふっ、んっ……身体を好きになってもらってこその……仕事ですから」
「Ahー……そういう意味」
「? 他に何が? あ、安心してください。私はシロウさんのことLoveじゃなくてLikuでの好きなっひゃあ!」

 

 ダンボールの山から降ろされたと思ったら背を向かされ、背後から乳房を荒々しく揉まれる。

 

「Oh……それはそれで今は複雑ー」
「な、なんでですか! あんっ……好きになったら……っ捨てるんでしょ」
「人聞き悪いなー……犯したくなるよ」
「シてるじゃないですかあぁ!」

 

 溜め息をつきながら胸の先端を引っ張ったり捏ねられる。
 その手つきと表情はいつものシロウさんで、目が合うと笑顔を向けられた。それだけで心臓が跳ねたが、片脚を持ち上げられると亀頭が挿し込まれる。

 

「あんっ! もう……ジューンさん、探してるんじゃないんですか?」
「No problem(問題ないよ)。Momならわかってるだろうし……家性婦ちゃんは家性婦ちゃんの仕事、オレを満足させることに集中して──ね?」
「あああぁぁっ!」

 

 首筋に噛みつかれると挿入される。
 慣れているはずなのに、いつもより大きく激しい律動に嬌声を響かせては蜜を噴いた。その度に『カワイイ』『大好き』と囁くのは謳い文句なのか、勘違いしてしまいそうになる。

 

 それでも嬉しそうな笑みに悪い気はせず、わだかまりを消すように口付けた。

 


* * *

 


「いいよいいよ、SHIROくん! 絶好調じゃないか」

 

 ご機嫌なカメラマンの声がスタジオに響く。
 同様に女性スタッフさんたちが舞い上がって見えるのは、最初の撮影よりシロウさんが生き生きしているからだろう。

 

「ふふっ、レイカとは正反対デスね」
「ええ……まったく」
「でも、気持ち良かったのでしょ?」

 

 耳打ちするジューンさんに、新品シャツのボタンを留めていた私は赤めた頬を膨らませる。服も下着もぐちょぐちょにされながら快楽に溺れたので反論できない。

 

 何より、カメラの前に立つシロウさんの明るさに憤りも消える。
 流されてる感はあるが、それが彼の持つ力なのだろうと残りのボタンを留め……る前に、撮影OKの声と共にシロウさんと目が合った。すると、自身の首元を指す。
 何か付いているのがわかり目を凝らすと、襟元で少し隠れているが赤い痕──キスマークがあった。

 

「えっ!? は、あ」
「レイカもデスよ」
「はいっ!?」

 

 ジューンさんに渡された手鏡を見ると、自分では見えない首元にシロウさんと同じ赤い痕が付いていた。慌てて両手で隠した私は周囲を警戒するが、シロウさんは笑いながら自身に付いた痕。私が付けたマークを指でなぞると、その指先に“ちゅっ”と口付けた。


「っ~!」
「Oh~、我が息子ながら大胆デスね~」


 声にならない悲鳴と一緒に私の顔は真っ赤になる。
 対してシロウさんは笑顔で手を振り、ジューンさんが振り返す。『ほら、レイカも』と促されるが、羞恥が勝っている私は『いー』っと、舌を出した。当然二人は目を丸くするが笑い、シロウさんは手を振りながら撮影へ戻る。

 

 その横顔は『大好き』で、侮れない時任家の末っ子だ────。

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