家性婦
10話*「長男」
「ノッポがおかしい?」
晩御飯の席で訝しい顔をするのは三弥さん。
食事を続ける慶二さんは何も言わないが、向かいに座る三弥さんの隣。シロウさんの席を見つめた。いつも空席だが、今日は専用茶碗もカップもお箸も用意されている。なのに晩御飯はいらないと言われ、空のままだ。
「授業終わった後の買い物も食材だけでしたし、帰ってきても部屋に閉じこもってて……らしくないっていうか」
普段なら洋服を見たり、カフェでお茶をする。家でもずっとリビングに寝転がって話しかけられては弄られるので変な感じだ。
「俺からすれば、家に居る方がらしくねぇけどな」
「同感です」
意外な指摘に目を丸くすると、三弥さんは食事を再開する。
「アイツ、基本ジッとしてんのがダメなんだよ。陽気な性格と外国慣れが合わさって、日本きても夜な夜な女遊びしてたし」
「当時は未成年で、私も何度か警察に呼ばれましたね」
「普通に止めましょうよ」
「「No chance(無理)」」
ハモりに脱力する。
だが、手をつくした感に溜め息をつくと、物寂しそうな空席と食器を見つめた。
* * *
「シロウさーん、起きてますかー?」
夕飯の片付けを終えた私は、おにぎりと飲み物を乗せた盆を持ち、二階のシロウさん部屋をノックした。が、返事はなし。それでもノブを回すと鍵は掛かっておらず、扉を開くと電気も点いていた。
「うわー……服だらけ」
白と黒のシックモダンとお洒落な部屋だが、案の定、散らかし魔Ⅱに相応しい服の山。片付けたい衝動を抑え、テーブルにお盆を置くと、ベッドで寝転がる上半身裸の彼に声を掛けた。
「シロウさん、体調でも悪いんですか?」
顔を覗かせると、腕で隠れていた目と目が合う。
「nothing(別に)……」
寝息が聞こえなかったので起きていると思ったが、返事といいダルそうだ。何より笑顔がなく、額に手を乗せる。自分の額にも。
「んー……ちょっと熱い。風邪ですかね?」
「……だったら、家性婦ちゃんは看病してくれる?」
「そりゃまあっひゃ!」
問いに視線を落とすと腕を引っ張られ、態勢を崩した身体が彼の上に落ちる。よく知る硬くて暖かい胸板に落ち着くが、お尻を揉む手で我に返った。
「もうっ、元気じゃないですか!」
「No。人肌が恋しくて死んじゃう」
「じゃあ、他の女性に頼んだらどうです?」
つい、つんけんな態度を取ると、シロウさんは目を丸くする。だがすぐに口角を上げると両手でお尻を揉みだした。
「Oh……家性婦ちゃんがそんなこと言うなんて、オレの気を引きたいの?」
「何を……っあ!」
スカートどころかショーツの底をズラした指が秘部に挿し込まれる。加減なく抜き挿しされ、四つん這いになった腰が動いた。
「っああぁ……シロ……さ……やめんんっ」
「同じことをオレが他の女性にしてるのを想像して? 許せる? ねぇ?」
「それはぁ……ん、嫌です、けどンンン」
「Why?」
「なぜって……普通に知ってる人が別の人と、んっ……Hしてるの見たくあああぁっ!」
三本の指を挿し込まれただけでなく掻き回され、嬌声と蜜が噴き出す。あまりの刺激に胸板に突っ伏すが、手に付いた蜜を舐めるシロウさんを見上げると冷ややかに微笑まれた。
「見たくないって言う割りに、家性婦ちゃんは兄(にい)ズともSexするよね。まあ、家性婦になるぐらいだから、誰でも良いビッチちゃんか」
「っ!」
瞬間、シロウさんの頬に平手打ちしていた。
鈍い音はいつしか消え、静寂が包むが、手には熱と痛みが残る。無表情のまま見上げる彼に声を振り絞った。
「そげはっ……アンタもでしょ……だらくそが」
涙が滲むと同時に起き上がると、振り向くことなく部屋を出た。
勢いよく閉めた扉の音が廊下に響き渡ると肌寒さが伝う。扉に背を預けたまま手で触れるのは首元。昼間、シロウさんに噛まれたところがまだ痛むが、それ以上に胸が苦しい。小刻みに震えながら顔を伏せると涙ぐんだ。
「レイちゃん……?」
突然の声に顔が上がる。変わらず全裸で絵の具まみれの人が自室から顔を出していた。
「はじめさ……っ」
「……どうしたの? シロくんとケンカ?」
ポロポロと涙を零す私にはじめさんは驚くも、すぐ笑みを浮かべ、頭を撫でてくれた。優しい手に我慢が利かず抱きつくと、声にならない嗚咽を腕の中で零す。
* * *
「寒くてごめんね……窓、閉めるから」
「いえ、大丈夫です……あ、おにぎり持ってきましょうか?」
ベッドに座った私は彼が晩御飯を食べていないのを思い出すが、平気だと制止される。
いつも以上にキャンバスも筆も散乱し、床に敷いたシートも絵の具で汚れているのは個展用の作品が佳境に入ったからか。窓を半分閉めたバルコニーに置かれた画を眺める横で、はじめさんはミニ冷蔵庫からペットボトルの水を取り出す。
「ちょうど休憩してたんだ……そしたら大きな音がして……シロくんに何か嫌なことされた?」
水を含ませた新品タオルを受け取った私は腫れた瞼に被せると呟いた。
「ビッチって言われたので……平手打ちしました」
「Wow……」
驚きと共に口笛を吹かれる。
シロウさんと重なるが、冷たいタオルを外せばはじめさんで、隣の部屋を見ていた。すると、扉を開閉する音、階段を下りる音。しばらくして玄関の開閉音も響き、シロウさんが出て行ったのを察する。
振り向くはじめさんに、じわりと滲む涙をタオルで拭った。
「でも私……ところ構わずするし、欲しがるから」
「レイちゃん……僕たち以外ともシてるの?」
「シ、シてないです! 元彼以外とはシたことないです!!」
慌てて反論すると、くすくす笑いながら隣に座ったはじめさんに頭を撫でられる。
「なら、違うよ……ビッチはところ構わずより誰彼構わずだし……英語だと『嫌な女』だからね。そもそも強要してるのは僕たちだから……嫌なら『No』で良いんだよ」
そう言いながら反対の手で私の腕を掴むと、隠す気もない自身のモノに手を乗せた。
「嫌じゃ……ないから、困ってるんです」
最初は騒いでいた全裸にも出ているモノにも慣れ、今も躊躇いなく握ると扱く。頭を撫でる手が止まり、艶やかな声を聞きながら肉棒を見つめた。
「促されて欲しがるのは……強要じゃないでしょ? だから……」
「っあ……」
自分から肉棒を咥える。
乾いた亀頭を口内で舐め回し、奥まで咥え込むと、上下に動かす頭を撫でられた。
「んぁ……っ、レイちゃんは……僕たちとのセックスがっ……好きなだけじゃないかな」
「しょれは……んっ、良いこしょ?」
「少なくとも僕は……ん、ね」
しゃぶりながら見上げると、はじめさんは息を零しながら微笑む。と、スカートの中に手を入れた。
「あ、すごい濡れてる……シロくんとシた?」
「ご、ごめんなさ……あっ!」
先の件で身体が強張り、肉棒を離す。笑うはじめさんはショーツを下ろすと、私が持っていたタオルで秘部を拭いた。
「僕は兄弟内のセックスなら許せるよ……弟たちが好きだから……でも、そっか……シロくんは戸惑ってるのかも」
「え……あん」
タオルに包まれた指が秘部に挿し込まれる。
変な感覚にはじめさんの膝に頭を乗せると、握らされた肉棒を舐めながら視線を上げた。目が合った彼は続ける。
「僕たちがハーフで、シロくんが十五までアメリカで過ごしてたのは聞いたよね? それは……彼だけ出産がアメリカで、多忙な両親が日本に連れて帰ってこれなかったからなんだ」
「はじめさんたちは?」
「ずっと日本で親戚のとこにいたよ……だから、シロくんとは年に数回かテレビ電話でしか会ったことなかった……兄弟仲が一番薄い」
苦笑に舐めるのも忘れていると、上着を捲られ、乳房が露になった。下着をズラしたはじめさんは赤い先端を引っ張る。
「あんっ……」
「シロくん、明るい性格だから日本でも大丈夫だと思ってたけど……やっぱりハーフってだけで偏見があるみたいで、あまり馴染めてなかったみたい。最悪、モデルにならなかったら……アメリカに戻ってたかもね」
そう話すはじめさんが辛そうに見えるのは、彼もまた金茶の髪に灰色の瞳だからか。前髪が長い理由にも聞こえた私は両手で頬を包む。目を丸くされるも、すぐ微笑んだ彼に口付けられた。
「んっふ、んん……」
「んっ……モデルは母さんの伝手ではじめたんだけど……顔と職業だけで言い寄ってくる女の子に飽き飽きしてたよ……ストレス発散のセックスには良かったみたいだけど」
「贅沢最低ですね……あんっ!」
「そう、まさにね」
口を尖らせると、声を弾ませたはじめさんが胸にしゃぶりつく。
舌先で先端を刺激しては強く吸い上げ、タオル越しではない生の指が秘部に挿し込まれた。
「ひゃああぁあ!」
「んっ、レイちゃんは……そうやって嫌がって怒る子……でも、ヤらせてくれるからシロくん戸惑ってるんだと思う」
「私が、んぁ、いんぐりもんぐりて……ことっんん!」
「? まあ、外国だと『Yes』『No』……ハッキリが良いからね」
「ああぁああぁぁ!」
くすくす笑いながら食んだ先端を引っ張り、ナカで指を掻き回される。容赦ない刺激に矯声も蜜も噴き出し突っ伏した。力ない私を抱え上げたはじめさんは額にキスを落とす。
「だから……兄弟内で許せないことがあったら『No』て、叩いたり回し蹴りして怒って良いよ。もちろん、ドアを壊すのも」
さすがにそれはと息を切らしながら見上げるが、はじめさんは意地悪く微笑んだ。
「いいよ……長男(僕)が許す……代わりにレイちゃんは、嫌じゃないなら『Yes』て言って?」
艶やかな声と共に肉棒が秘部を突く。
重なる視線は優しく、苦しさも渇望に変わった私は求めるように腰を浮かすと応えた。
「……Yes」
頬を赤め微笑む自分が灰色の瞳に映ると、口付けと共に望むモノが挿入された。嫌だとは到底思えない一本を。
*
*
*
「んっ、あん……あっ」
薄暗い室内に響く嬌声。
空の皿とカップをキッチンに置いて出て行った彼が帰ってきたのか、いつものように長い両手が背後から胸を揉み、先端を弄る。
が、なぜか当たるモノが柔らかい。
しかもお尻ではなく背中に当たり、弾力がある。おかしいと瞼を半分開いて振り向くと耳元で囁かれた。
「I want tohear your|gasp(喘ぎを聞かせて)?」
「っ、No!!!」
厭らしい流暢な英語だが、明らかに女性の声。
即座に拒否ると起き上がり、部屋を出る。まだ夜明け前なのか廊下は寒く真っ暗だが、電気が点いている脱衣所から顔を出す人がいた。
「あ? 何やってんだ、ハレンチ女」
「みみみみ三弥さんっ! ここここの家やっぱり外国人の幽霊があああぁぁ!!」
「Oh~、ミッツ~!」
「きゃあああああぁぁっ!」
「のわっ!」
風呂上がりらしき全裸三弥さんに抱きつくが、背後から別の人に二人とも抱きしめられた。が、顔に当たるのが乳房だとわかると振り向く。
脱衣所の明かりで見えるのは緩いウェーブが掛かった肩下までの金髪。垂れ目は灰色で、身長が一七十以上ある細身の──全裸女性。
「なんだ、御袋か……」
「はいっ!?」
ズレた眼鏡を戻した三弥さんの溜め息に声を上げると女性は微笑む。
「Hi、ミッツ。元気デスか?」
四十代にしか見えないのが驚きだが、容姿と全裸サンドイッチされていることに『母親』だと納得した────。