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花のフィールド

​09話*「痕」

「零花って、なんのバイトしてるの?」
「あ、気になる気になる。遊ぼうって言っても確認しなきゃって言うし、シフト制じゃないよね」

 暑い夏を過ぎ、いくぶん肌寒くなってきた秋場。
 新学期もはじまった大学のカフェテリアでホットコーヒーを飲んでいる私。なのに震えてしまうのは友人二人の好奇な目が刺さるからか。

 

 『住み込みの家政婦』でも問題ないだろうが、雇い主が同じ大学の講師なのはマズい気がして必死に考える。と、長い黒髪を手で流す紗友里ちゃんが微笑んだ。

 

「じゃあ、私とれいりん。どっちのバイトが気になる?」
「「…………紗友里」」

 

 ひと呼吸置いて即答した二人に、私は無言でコーヒーを飲み干した。

 


* * *


 

「気になっても聞かないのはなんでかしらね」
「紗友里ちゃんの場合は圧……な、なんでもないです」

 

 まさに有無を言わせない微笑に、勢いよく頭を左右に振る。
 紗友里ちゃんのバイトを知るのは私だけ。同様に私のバイトを知るのも彼女だけ。この微笑に敵わず、時任先生家なのも話してしまった。
 さすがに噂に当たらずといえども遠からずな『家“性”婦』とは言えないが。

 

「でも、れいりん。先生とお話って続く? いつも無愛想だけど」

 

 他の二人が講義でいないといっても、カフェテリアには人がいる。気を遣って名前を出さない親友に感謝しながら苦笑した。

 

「学校と違って話してくれるし、表情も柔らかいよ」
「あら、ギャップがあって面白いわね。まあ、四人兄弟ってのが一番面白いけど」

 

 くすくす笑う彼女に同意する。
 私にも兄がいるが、四人となると別。御両親は大変だっただろうが兄弟仲は悪くないし、バランスが良いように思える。多才な職業には驚くが。

 

「長男さんは画家の“はじめ いち”さんだっけ。私も作品見たことあるけど、色遣いが鮮やかでふんわりとした画よね。ご本人も落ち着いているからでしょうけど」

 

 画(そ)のモデルは際どいポーズどころか、全裸の作者に筆を突っ込まれるけどね。とは言えず、笑顔で頷くだけにした。

 

「次男さんが先生か。そろそろ准教授になるんじゃないかって話もあるほど授業はわかりやすいって評判よね。見た目は怖いけど」

 

 怖い顔で仕事してる下でフェラさせる人だけどね。とは言えず、笑顔で頷くだけにした。

 

「三男さんは漫画家だっけ? 私は知らないけど、長男さんと似た感じなのかしら」

 

 いえ、すんごいエロチックで実験台にもされてます。とは言えず、笑顔で頷くだけにした。

 

「最後に四男さんは……あの人かしら?」

 

 コーヒーを飲みながら語っていた紗友里ちゃんは笑顔で手を振る。
 また笑顔で頷こうとしていた私も誘われるように窓の先を見ると、笑顔で手を振る背の高い男性──シロウさんがいた。

 

「*#$£☆★׶ΣΨДИфーーーーーーっっ!?」
「やっとれいりん、本物のリアクション取ってくれた。うん、いってらっしゃ~い」

 

 声にならない悲鳴を上げながら立ち上がった私の紙コップを回収した紗友里ちゃんに思うことはある。が、まずは帽子とサングラスをしていても芸能人か不審者にしか見えない彼を止めようと慌ててカフェテリアを出た。

 

「Hallo、家性婦ちゃっととと!」

 

 笑顔で両手を広げるシロウさんの腕を掴み、柱に隠れる。
 周囲に誰もいないのを再三確認すると、サングラスを外して首を傾げる彼を睨んだ。

 

「もうっ、こんなとこで何してるんですか!?」
「Oh、警戒は大事だけど声が大きいよ」
「あっ……ンン!」

 

 気付いた時には唇が重なっていた。
 逃げようとしても抱きしめられ、頭を固定される。いっそう口付けが深くなるばかりか、歯列を割った舌先に口内が犯され、気持ち良くなってきた。

 

「んふっ、んっ、んん……」
「んっ……家性婦ちゃん、カワイイ」
「あっ……!」

 

 力が抜けている隙に大きな両手がスカートに潜り、お尻を撫で回される。啄むようなキスも続け、長い指先がショーツの底を突くが、くちゅりと聞こえた蜜音で我に返った。

 

「ダ~メ~!」
「Oh~、暴力反対~」

 

 掴んだ腕を締める私に、シロウさんは降参の手を上げた。
 今日は仕事だったはずではと睨みを利かせながら問うと、サングラスを掛け直した彼は微笑んだ。

 

「近くで撮影だったんだけどキャンセルになったんだよ」
「誰かを寝取ったんですか?」
「no no! 前の人の撮影が長引いてるだけ。それに、セックスなら今は家性婦ちゃんが……て、行かないで~!」

 

 全力早歩きで去る私に、半泣きシロウさんが追い駆けてくる。歩幅が違うのですぐ追いつかれるが、距離を取ったまま『だから』と続けた。

 

「休みになったから、家性婦ちゃんと買い物しようと思って」
「……すみませんが、授業がひとコマ残ってるんです」
「Ok、その後に行こう」

 

 断られると思っていない笑顔に脱力する。
 有名モデルなのもあって休みは不透明。会うのも寝込みだけを含めて月に十日あるかどうか。そのため突然現れ誘われるのだが、用事があれば引き下がるし、授業をサボれ等は言わない。
 妙な紳士力に憎めず立ち止まると、溜め息まじりに振り向いた。

 

「……授業が終わるまでジっとしててくださいよ?」
「yeah(やったー)!」
「きゃっ!」

 

 瞬間、抱き上げられる。
 身長差を考えれば子供と大人だが、頭を撫でれば頬ずりされ、大型犬を相手にしているのに近い。が、この調子では無理だろうなと考えあぐねた。

 


* * *

 


「で、なぜ私のところなんです?」
「お兄さんだからです……あ、シロウさん!」
「Wow。ニイ兄の部屋、汚~い」

 

 入室してすぐ帽子もサングラスも上着も脱ぎ捨てたシロウさんが上半身裸になる。慌てて拾うと、窓際でパソコンを打っていた部屋の主、慶二さんは眉間の皺を押さえた。

 

「シロウくん……外では脱がない約束でしょ」
「No。ここは室内、しかも身内の。それに、ニイ兄だって同じだよ。ね? 家性婦ちゃん」
「あ……」

 

 慶二さんのシャツやネクタイも拾っているとウインクされる。
 相変わらず雪崩を起こしている部屋に苦笑を零すが、慶二さんの皺は増えるばかりで慌てて頭を下げた。

 

「す、すみません! さすがに外で待たせると騒ぎになると思って……」
「兄として言わせていただくなら感謝ですが、講師として言わせていただくなら部外者を招き入れたイケナイ子……犯さないといけませんね」
「えっ、ええっ!?」

 

 眼鏡を上げながら立ち上がった慶二さんが私の前に立つ。
 咄嗟に後ずさるが、背後に立つシロウさんの胸板に背中が当たった。

 

「Sorry。居座らせてもらうためにも、オレはセンセーの言うことを聞くよ」
「ま、待ってくだっあ!」

 

 悪気もない笑顔で、落ちていた慶二さんのネクタイで私の両手を縛ったシロウさんは背後からブラウスのボタンを外す。止めようとするが、慶二さんの両手に頬を包まれた。眼鏡の奥にある灰色の瞳が私を映す。

 

「では……イケナイ生徒に罰を与えましょう」
「ご、ごめンンっ!」

 

 笑みと共に口付けられる。
 角度を変えては深く重ね、無理やり歯列を割られ、舌を絡まされた。

 

「んっ、ふ、んん……」
「センセー、こっちの用意もできてるよー」
「ふあっ!」

 

 露になった乳房をブラから掬い出したシロウさんが両手で揉む。ぐにゅぐにゅと形を変える乳房を揉み込んでは搾ると、勃ち上がった赤い先端に慶二さんがしゃぶりついた。

 

「ひゃああっ!」
「んっ……イいですね……シロウくん、下も解しておいてください」
「Ok」

 

「あぁ……待っあああぁぁ!」

 

 荒々しく両手で乳房を揉んでは先端を舐める慶二さんの指示に、膝立ちになったシロウさんがショーツを下ろす。と、股間に顔を埋め、秘部を舐めはじめた。

 

「ふああぁあっ……シロ……さ、ひゃめっ……そこはああぁ!」
「んんっ……イケナイ蜜……いっぱい出てきたぁ」
「それならすぐ挿入《はい》りそうですね……私のも滑りを良くしておきましょう」

 

 舐め回す舌と蜜を吸い上げる卑猥な音に膝が震え中腰になっていると、慶二さんがズボンから肉棒を取り出した。ちょうど目の前にあるモノに頬を赤め見上げれば、有無を言わせない笑みと目が合う。

 

「ほら……しゃぶりなさい」
「はぃ……んんっ」

 

 命令に大きく口を開くと咥えた。
 両手を縛られ立っているのもやっとだが、慶二さんに頭を押さえ付けられているせいか肉棒を落とすことはない。むしろ何度も咥えているモノは口にフィットし、彼の好きな部分を刺激する。
 ビクりと慶二さんの腰が跳ねると、スカートからシロウさんが顔を出した。

 

「ニイ兄はホントにフェラLoveだね……」
「違いま、すよ……」
「んぐっ!?」

 

 ぐっと喉奥まで肉棒を押し込まれると腰を振られる。
 激しい突きに蜜や涎が口から零れるが、視線を上げた先には講師では見せない笑みがあった。

 

「イラマ好きで、零花さんだから、です……」
「Oh yaー……」
「んんんん゛ん゛!」

 

 噴き出す白濁に驚き、口から離すと飛び散った白濁を顔で受ける。
 息を切らしながら抱き留めてくれたシロウさんを見上げるが、虚ろだった目を瞠った。はじめて笑みではない、苦渋を浮かべていたからだ。

 

「シロウ……さん?」
「……っ! Oh。トロトロだね、家性婦ちゃん」

 

 呼びかけに応えた彼は、いつもの笑顔を見せると唇を重ねる。
 ちゅっと軽い口付けに違和感を覚えるが、長い両手が私の両脚を持ち、大きくM字に広げた。

 

「ひゃっ!」
「さあ、トロトロのナカをたくさん犯してもらおうね」

 

 くすくす笑いながら指先で秘部を広げられる。
 ドロドロと蜜を零す穴の前には大きな肉棒を構える慶二さん。互いに解れたモノが重なり、ぐっと奥まで挿入された。

 

「あああぁぁあっっ!」
「ああ……よく解れてますね……イいですよ」
「ニイ兄が出したら、次は後ろからオレのね」
「あっ、あんっ、ああぁあ……」

 

 私の両脚を持ったまま、シロウさんは揺れる乳房を舐める。挿入を繰り返す慶二さんは眉を顰めた。

 

「シロウくん……あまり前から挿入(いれ)ませんよね」
「Ya……後ろからシた方が深く犯せるからね」
「ああああんん!」

 

 兄弟の視線が重なると最奥を突かれ、乳房も歯で引っ張られる。
 痛みと快楽に蜜が噴き出すと、引っこ抜かれた肉棒から飛び出した白濁がお腹に掛かった。休む暇もなく慶二さんに抱きしめ口付けられると、後ろからシロウさんに挿入される。

 

「あっ、ああぁ……ダメ……まだイってすぐンンっ!」

 

 容赦ない突きに結合部からまた蜜が噴き出すが、シロウさんは止まらない。叩きつけるかのように激しく、引き千切られるかと思うほど首筋に噛み付かれた。

 

「あああぁぁあ゛あ゛っ!」
「こらっ、シロウくん」

 

 あまりの痛みに涙と悲鳴を響かせると、慶二さんの声で行為が中断する。それからは説教がはじまり、何度も謝罪するシロウさんはよく見る苦笑。

 

 いつも通りに思えるが、首筋に伝わる痛みと痕に妙な胸騒ぎを覚えた────。

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