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​1の間*「沼」

*はじめ視点

 僕の世界に人間(ヒト)はいない。
 いても溶け合わないし、稀有な存在だ。居続けられる人間がいるならそれは──。

 


* * *

 


「Hi、イチ兄」
「シロくん、遅かっ……て、ケイくん?」
「寝坊者のアッシーです」

 

 某出版社の一室で一人待っていると、元気に手を振る末の弟と、眠た気に眼鏡を上げる下の弟がやってきた。
 三週間の個展を終えて数日。午前は協賛社への挨拶回り、午後はモデルとして活躍するシロくんとのインタビューや撮影が組まれていた。

 

「話題性のためとはいえ、兄弟で雑誌に載るのって恥ずかしくないですか?」
「Why? オレ、イチ兄好きだよ」
「僕も……兄弟となら別に」

 

 隣に座るシロくんと笑顔で抱き合うが、向かいに座るケイくんは眉間の皺を押さえている。前髪も乱れていることに小声でシロくんに訊ねた。

 

「……寝起き? 大学は夕方からだったと思うけど」
「Ya。サン兄は明日が〆切だからニイ兄を起こしたんだけど、家性婦ちゃんが良かったって文句言われてさ」

 

 家政婦のレイちゃんは大学がはじまり、今日も朝から授業だ。
 起こしてもらえたら嬉しいのはわかるが、ケイくんがこだわるのは意外で首を傾げる。と、珍しく眉を顰めたシロくんがケイくんを指した。

 

「だってイチ兄、知ってた? ニイ兄ったら家性婦ちゃんに毎朝お目覚フェラしてもらってるんだってよ!?」
「Wow……」
「指でささない。あと、毎朝ではないです」
「それでもズルい!」

 

 泣きわめくシロくん同様知らなかった僕は口笛を吹くが、ケイくんはなんでもないようにお茶を飲む。
 確かに彼以外は不規則な仕事で起こしてもらう必要はないし、寝起きもまあ悪くない。けれど、フェラで起こしてくれるレイちゃんを想像する……と。

 

「イいね……閃けそう」
「でしょーっ!?」
「フェラとイラマが私の性癖なんですから仕方ないでしょう」
「Boo! 開き直った~」

 

 シロくんはいっそう声を荒げるが、僕は特に気にしていない。
 むしろ、ミツくんがやっていたようにシているところを見たいとイメージが沸いていると、両手で耳を塞ぐケイくんと目が合った。

 

「私より、兄さんの新作に疑問を呈しますがね」
「ああ、あれ? レイちゃんだよ」

 

 即答に、二人は目を瞠ったまま固まる。
 テーブルに広げていた事前インタビュー集にも『はじめて日付以外のタイトルが付いた他、人物も描かれていますが、その意図は?』とあるし、関係者にも聞かれたことだ。もちろん脚色して伝えたが、兄弟にウソはつかない。

 

 新作が掲載された新聞を横目に、弧を描いた口元をゆっくりと開いた。

 


* * *

 


「……あ」

 

 夕刻に帰宅すると、リビングソファで携帯を弄る父がいた。
 既に全裸の僕に眉を顰めるも『おかえり』と、ぶっきら棒な挨拶をされたので反射で返す。

 

「ただいま……今日、来る日だったんだ」
「ジューンの荷物を取りに来ただけだ……もう出る」

 

 ふいっと視線を携帯に戻され、僕も気のない返事をする。いつものことだ。
 週末、アメリカに戻る両親はホテルに泊まっている。たまに母さんが実家(こっち)に泊まっていくので手を焼いているようだが、レイちゃんの美味しいご飯を知れば泊まりたい気持ちも理解できた。

 

「……お嬢さん(レディー)なら風呂だ。俺が来る前からな」
「え……」

 

 指摘に驚くのは、周囲を見渡していたのが無意識だからだ。
 風呂場から聞こえる音よりも父を凝視していると、携帯を締まい、立ち上がる。

 

「三人もだが、お前もやたらとお嬢さんを気にかけるな……ただの家政婦じゃないのか?」
「違うよ」

 

 ハッキリとした口調に動きを止めた父が振り向く。
 数時間前の弟たちと同じ顔につい苦笑が零れると、テーブルに覚えのある新聞を見つける。

 

「新作……レイちゃんを描いたんだ」

 

 突然の話題転換に父の眉が動くが構わず続けた。弟たちに伝えたように。

 

「僕……殆んど人間で閃くことないんだ……ほんのたまに……見た目で閃く人間はいるけど……好きじゃない」

 

 僕が描くのは現実とも切望とも違う空想の世界。
 そこに人間が出てきたことはない。たとえ人間をモデルにしても人の型を取っていない。何かに変わる。それはきっと否定し続けられたからだ。

 

 容姿も思考も性格も普通の人とは少し違う。
 善く言えば『天才』。悪く言えば『変人』。どちらにしか当て嵌めてもらえず、身内からすれば後者。父もそのひとりで、描くことが好きだから認めてもらいたい一心で今がある。
 その代償ではないが、信じられるのが否定しなかった弟たちだけになった。信用できない存在は描けない。

 

「でも……レイちゃんは見た目でも中身でも閃けるし描きたい……ううん、傍にいてもらいたい」

 

 喜怒哀楽が激しくて、僕の突拍子な行動やお願いも呆れては顔を真っ赤にさせて応えてくれる。弟たちも大切にしてくれて、少し離れた場所から笑顔をくれる。
 安定剤とか癒し効果だと思っていたが先日の個展。静まった美術館まで来てくれた時の嬉しさと湧き上がった想いははじめてだった。

 

「画より……レイちゃんを犯したい……子供作りたいって」

 

 はにかみに室内が静まり返る。
 よく見れば父は銅像のように固まっていて『大丈夫?』と、目前で手を振った。少しの間を置いて、震える手で眼鏡のテンプルを上げる。

 

「お前……今、すごいこと言わなかったか?」
「? レイちゃんを愛してるってだけだよ」
「ほ、本人には言ったのか?」
「ううん、言ってない」
「なぜ俺に言う!?」

 

 はじめて見る戸惑いと焦りに目を瞬かせると首を傾げた。

 

「ケイくんとシロくんにも言われたけど……なんとなく?」
「なんとなく!?」
「あ……ちゃんと後でミツくんと母さんにも言うよ」
「待て待て待て。なんで本人(レディー)より先に家族……そもそも犯すって」
「? もうみんなで犯してるよ」

 

 眼鏡を外した父は絶句し『ちゃんと避妊してるよ(多分)』も付け足すとソファに倒れ込んだ。貴重な姿に口笛を吹くと口角を上げる。

 

「ケイくんもミツくんもシロくんも……レイちゃんが大好き、愛してる……口には出してないけど……彼女を見る目が僕と同じ……だから嬉しい」

 

 笑う僕に、父は手で口元を覆った。
 その顔は真っ青だが、目は『奪い合いになるのでは』と心配しているように見える。

 

 昔だったら何バカを言っているんだと勘当されていたかもしれない。でも、不定期に開く個展は国内外問わず必ず記帳されているし、美術館まで来てくれた彼女を送ってくれたこと、心配していたことも聞いた。
 本当かはわからないが、今も止めようとはしない。むしろ真剣な眼差しに嬉しくなるのは四人の子を成した意が少しわかったからだろう。

 

 話したのも、家族だからだと。

 

 

 


 

「ひゃっ! ……あ、はじめさん。おかえりなさい」

 

 脱衣所に顔を出すと、バスタオルを巻いたレイちゃんが驚く。
 半年前なら反射の回し蹴りを食らっていたが全裸同様に慣れたようで、一息つくと髪を拭きはじめた。くすりと笑うと抱きしめる。

 

「ただいま……んっ、いい匂い」
「ジューンさんに貰ったお高いシャンプーですからね!」

 

 得意気に話しているが、鼻梁をくすぐるのは違う。

 

「ううん……レイちゃんの匂い」
「? 私っん」

 

 顎を持ち上げると口付ける。
 舌を伸ばせば控えめな舌を重ねてくるが唇で捕まえ、後ろから股間に手を差し込んだ。ビクビクと小刻みに身体を震わせるのを感じながら、何も履いていない秘部を弄る。最初は擦るだけ、次に秘芽を、そして第一関節まで指を沈めた。

 

「んあぁ……待っんんんっ」

 

 離した唇を再び唇で塞ぐ。
 指を動かせば動かすほど蜜音が響いては零れ、匂いが増した。レイちゃんという官能的な匂いに頬が緩み、髪に口付ける。

 

「んっ……イいね……美味しそう」
「た、食べ物じゃっひゃ!?」

 

 引っ張ったバスタオルが床に落ちる。
 真っ白な肌と赤い実を付けた大きな乳房。そして、茂みの先。ナカを弄られている身体が露になった。

 

「きゃっ、あっ、ああ、待っンンン!」

 

 顔を真っ赤にさせたレイちゃんは後ろを向く。が、また抱きしめると、秘部から抜いた蜜付きの指をしゃぶらせる。蜜を零す秘部にも勃起したモノを宛がった。

 

「ふっ、んんんっ!」
「ふふっ、ごめんね……ホントは声をたくさん聞きたいけど……まだ父さんがいるんだ」
「っ!?」

 

 耳元で囁くと、居たことすら知らなかったレイちゃんは目を瞠る。
 身体もピタリと止まったことに内心笑いながら締めてる股間を亀頭で突くと、振り向いた彼女は羞恥に頬を赤め、涙目になっていた。だが、欲情もチラついていることに高揚感が増し、亀頭を挿し込む。

 

「ふゅっ!?」
「ふふっ……レイちゃん可愛いっ……!」
「っ──!」

 

 挿入に、のけ反ったレイちゃんは洗面台に両手を乗せる。
 それをいいことに腰を打ちつけ、柔らかな乳房を揉み込んだ。対してレイちゃんは刺激の度に口に押し込まれた指を必死に噛まないようにする。それが可愛くて、ナカで大きくなったモノでいっそう奥を突いた。

 

「んぐっ、ふっ、んんんっ!」
「噛んでイいんだよ……蜜もいっぱい出して」

 

 口に咥えさせた指を奥まで挿し込むと、甘噛みしてはしゃぶり、涎を落とす。そんな可愛い姿と破顔の自分が鏡に映っていた。

 

 すると、玄関の開閉音にレイちゃんの身体が強張り噛まれる。同時に締めつけられたモノに呻きながら引っこ抜くと、白濁が彼女のお尻に散った。
 指も引っこ抜けば、慌ててレイちゃんが振り向く。

 

「すっ、すみません! 大丈夫ですか!?」
「んっ……大丈夫……むしろ、良いタイミングで父さん出て行ったね」
「え……ひゃっ!」

 

 息を切らしながら噛んだ手を握られるが、反対の手で彼女の秘部を擦る。
 それだけで蜜が付き、彼女のモノで濡れた両手を舐めた。腕に垂れたモノも、手首や手の平も、指の先までも全部舐め上げる。

 

「んっ、はぁ……美味し」

 

 リップ音を鳴らしながら恍然と微笑む。と、レイちゃんは両手で顔を隠していた。その身体は震えていて首を傾げると、そっと目元を見せる。

 

「は、恥ずかしエロい……もう、はじめさんは卑怯ですよぉ」

 

 そう呟く頬は赤く、悶えているように見えた。
 だが、それ以上に熱い僕は彼女を抱き上げると、洗面台の平ら部分に座らせ口付ける。何度も重ねては舌を挿し込み絡ませ深くした。

 

「んっ……卑怯はレイちゃんだよ……レイちゃんを好きになったから……んっ、家族会議するんだから」
「へ……あんっ」

 

 なんの話かと目を瞬かせるが、構わず口付けては胸の両先端を引っ張る。
 兄弟揃ってレイちゃんが好きなことを聞いた父は画家になりたいと言った時以上に頭を抱えた。初の家族会議をせねばと。でも僕は問題ないと思っている。

 

 僕はレイちゃんも兄弟も大好き。
 今ではレイちゃんが上で愛してるけど、大好きな兄弟に愛されるレイちゃんも大好き。三人がどうかはわからないけど、奪い合いより愛(め)でることに自信を持てるのは長男の勘だ。
 くすくす笑っているとレイちゃんは赤めた頬を膨らませ、そっぽを向く。

 

「もう……流行ってるんですか? 私を好きって言うのっあ!」

 

 腰を引き寄せると、濡れている秘部に肉棒を滑らせる。
 秘芽を擦る度にレイちゃんの身体は反応し、新しい蜜を零した。それを亀頭に絡ませながら頬を寄せる。

 

「うん……イいところで言えば『Yes』も貰えるかなって」

 

 口角を上げると亀頭を挿し込む。
 右往左往していたレイちゃんの視線が僕に移ると首に手が回り、僕もまた手を回した。先ほどと同じ表情が鏡に映るも苦笑する。とても画にはできないと。

 

 だって、イメージが沸く前に全部レイちゃんに変わるんだ。
 空想だった世界がレイちゃん一色に染まり、熱いモノを挿入すれば弾けて消える。それだけ愛は強く重く狂わせる。おかげで新作以外の彼女は描けそうにないし、描けても彼女ばかりで、正直仕事になりそうにない。

 

 画家の沼より深いなんて、愛ってのは面白いね────。

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