家性婦
05話*「せいやっ!!!」
早朝。まだ肌寒く薄暗い空の下、私は拳を突き出していた。
「せいっ、やあっ、はっ!」
「…………何をされているんですか?」
「あっ、慶二さん。押忍!」
芝生が広がる中庭にいた私は、リビングから顔を出した慶二さんに駆け寄ると頭を下げる。寝ぼけながらも怪しい人を見る目に笑顔を返した。
「早朝稽古ですっ! 空手は辞めましたが、染みついた習慣が抜けなくて」
「……まさか、毎朝されているんですか?」
「はいっ!」
元気に答えるが、しばしの間を置いた慶二さんは大きな溜め息をつくと背中を向けた。
「貴女がフられたの、少しわかった気がします……」
「へ?」
丸くした目を瞬かせながら、時任家二日目を迎えた。
* * *
「Wow……レイちゃん、すごいね……」
正午前。朝食以来のはじめさんが口笛を吹きながら階段から降りてきた。全裸に驚くことも忘れ、笑顔で額の汗を拭う。
「頑張っだが!」
清々しい気持ちになるのは、一階の廊下とリビングダイニングの掃除が終わったからだ。
自室にと貰い受けた和室以外にも部屋がひとつ奥にあるが、ご両親の寝室らしいので二階の兄弟部屋同様、手を付けていない。そもそも大学の慶二さん部屋のように物や衣類が多いだけで、小分けしたり洗濯に出すだけで広い床が顔を出した。
「自分の荷物があったら持って行ってくださいね。あと郵便物……荷物といい、封が切られてないの多すぎません?」
ダイニングに置いていた郵便物からはじめさん名義のを渡すと、同じ宛名のダンボールの山を指す。それは他の人も同じで、床を半分以上占拠していた原因だ。ないのは慶二さんぐらい。
「ケイくんは大学に送ってるみたい……ミツくんとシロくんは献本じゃないかな」
「献本……そういえば、エッチな漫画やファッション雑誌が多かったですね。相反してるような納得するような」
「うん……なにか言わないといけない気がするけど……ひとまず、レイちゃんを犯したくなるよ」
不吉な発言はスルーし、メンズ雑誌の束と可愛い女の子の裸が描かれた成人漫画の束を交互に見る。が、封が切られたはじめさん名義のダンボールに溜め息をついた。
「もう、キャンバスはわかりますけど、絵の具とかは運んでください。足りなくなって取りにきていたら面倒だし、筆だってこんなにいっぱいありますよ!」
呆れ果てながら掃除中に見つけた新品の筆を何十本も見せる。目を丸くしたはじめさんは手を叩いた。
「ああー……筆、あったんだ……ないと思って……さっき注文しちゃった」
「キャンセルーっ!」
慌ててはじめさんを反転させると背中を押す。
一緒に二階へ上がり、廊下で待っていると、アトリエ兼自室から携帯を持って出てきたはじめさんに注文をキャンセルさせた。安堵しつつ、思い出す。
「慶二さんのは聞いたんですが、はじめさんの番号も良いですか?」
「イいけど……僕、あんまり携帯見ないし部屋からも出ないから……入ってきた方が早いよ。今日みたいに油絵を描いてる時は鍵を掛けてるけど、それ以外は開けてるし……レイちゃんなら……いつでも歓迎」
「きゃっ!」
階段の天板に携帯を置いたはじめさんの手が背中に回ると抱きしめられる。
頬には硬い胸板が当たり慌てて顔を上げるが、私を捉える目と目が合うと口付けられる。
「んっ、んふっ……はじめさ……ダメですよ……もうすぐ、っあ、出掛ける時間で……しょ……着替えなきゃンンっ!」
「んっ……じゃあ……レイちゃんもだね」
「わ、私は……っあ!」
唇を離したはじめさんは白のYシャツしか着ていない私の胸を揉む。
休日の明日にでも服や日用品を買いに行こうと話した慶二さんのを借りているのだが、大掃除の成果か汗で濡れている上、ブラもしていないので胸が強調されている。
さらにぎゅっと搾られると先端が浮き立ち、はじめさんはTシャツ越しに吸い付いた。
「ああぁンっ!」
「んっ……染みが広がってイいね……」
「ああっ……やめ……っあ、あぁ!」
涎が広がって染みになり、先端の周りだけシャツの色が変わる。
いっそう勃っている先端を、はじめさんは舌先で舐めながら股間に手を挿し込んだ。当然スカートはなく、ズボンを借りても履けないのでショーツだけ。
「こんな格好で掃除してたの? 知ってたら見たのになぁ……胸を揺らして、パンツを食い込ませて、笑顔で掃除してるレイちゃん……イいね……閃けるよ」
「閃くぐらいなら掃除を手伝ってください!」
赤面で反論するも、反対の胸を搾り上げたはじめさんはくすくす笑う。
「いいよ……レイちゃんを……イかせる手伝いなら大歓迎」
「そういう意味じゃなくてっ!」
違う違うと首を振るが、はじめさんは笑いながら服越しに勃った先端に舌を伸ば──。
「Stoooopっ!!!」
──した瞬間、大きな声に遮られ止まる。
またかと振り向くと、別のドアから出てきた男性を捉えた。
身長は一六十前半と小柄。
寝起きの慶二さん並みに跳ねている黒髪は肩下まであり、首の後ろで軽く結っている。前髪もスクウェアの眼鏡に掛かるほど長いが、ちゃんと黒のジャージを……ん?
「はじ兄っ、そのままStop! pause(一時停止)!!」
「停止……」
違和感があった気がするが、男性は慌てて部屋へ戻る。と、すぐ戻ってきた。真剣な眼差しで、取りに行ったのであろう携帯を向ける。
「Ok、しゃぶっていいぜ! 遠慮なく!!」
「はーい……」
「よくなーっああぁンっ!」
ツッコむ前に、舌を出したまま停まっていたはじめさんに胸をしゃぶられる。痛みがあるほど吸い付きは強く、舌先で先端を転がされながらショーツの中に手を挿し込まれると蜜が零れた。
「おいっ、ハレンチ女! 気分は!?」
「ははははハレンチって私!? ていうか……あんっ……撮らないでくださ……いンっ」
「んなことより感想! どんな気分だ!?」
明らかに動画を撮っている男性に異議を唱えたいが、はじめさんの指が秘部に挿し込まれ何も考えられなくなる。それでも携帯と眼鏡越しに見つめる眼差しに、震える口を開いた。
「ああっ……イいっ……胸も……下も……ゾクゾクして気持ちイい……」
「レイちゃんは……ココが好きだもんね」
「あああぁぁ……そこはっ、イっちゃあああぁあぁぁ──!」
容赦なく膣内を掻き回す指は敏感な場所を執拗に攻め、蜜が噴き出す。
床は濡れ、私も腰を抜かすが、はじめさんに抱き留められた。そのまま首筋、頬を舐め口付けられると意識が遠退く──。
「……よっし、Thanks(ありがと)!」
「こらーっ!」
──寸前で、部屋に戻る背中にツッコむ。
我に返った私は慌ててドアノブを握るが、鍵が掛かっていた。涙を浮かべながら何度もドアを叩く。
「なんですかさっきの! 何に使うんですかっ、ねえっ!?」
「仕事じゃないかな……ミツくん……閃いた顔してたし」
「仕事っ!?」
はじめさんは苦笑しているが、理不尽すぎて納得できない。
しかし、何度叩いて呼んでも、ノブを押しても引いても応答なし……かくなる上は。
「はじめさん……許可をください」
騒ぐのをやめた私の一言に、はじめさんは首を傾げる。が、察したように離れると笑みを浮かべた。
「いいよ……ケイくんには言っておく」
「……ありがとうございます」
了承に、ドアから少し離れた私は深呼吸すると目を閉じる。焦りも動悸も鎮め、一点だけを思い浮かべると目を見開いた──そして。
「せいやっ!!!」
「部屋主(俺)の許可は!?」
勢いよくドアを蹴り破るとツッコミが返ってきた。
大きな音を立てながらドアの残骸が床に落ちると、昼間なのにカーテンは閉まったまま、デスクパソコンの明かりしかない部屋が現れる。
キャスター付きの椅子に座る男性は青褪めた顔でヘッドホンを外しているが、構わず部屋に入った私は声を荒げた。
「入室許可より撮影許可! ネットに流したらしわくぞ!?」
「しばく……じゃねぇな。どこの方言……つーか、ただの資料だ!」
「資料……?」
戸惑いの反論に一点集中が解けると、背後からはじめさんが顔を出す。
「ミツくん……三男の三弥(みつや)くんは……二十五歳で、エッチな漫画を描くのが仕事なんだよ」
「アッサリ説明ありがとう、はじ兄」
溜め息をつく男性=三弥さんに、改めて私は部屋を見回す。
ベッドやクローゼット以外だと本棚とゲーム機しかなく、落ちている成人漫画も掃除中に見つけたのと同じ物。パソコン画面にも似た絵が途中で残っている。
「えっと……つまり、漫画家さん?」
「一応な……ったく、今度の家性婦はブッ飛びすぎだろ。ケイ兄のヤツ」
頭をガシガシ掻きながら文句を言う三弥さんに呆気に取られる。
つまり、先ほど撮られた動画は絵の参考用。私的使用なら……いやいや!
「わ、私は撮影許可を出してないので消してくださいっ!」
「はあ? 堂々とセックスしてたハレンチ女が言うな」
「ポロリしてる人にも言われたくないですっ!」
椅子に踏ん反り返ってる三弥さんは服を着ている。が、それは上だけで、ズボンどころか下着も履いてない、下半身丸出しだ。当然、男の大事な部分も見えているが……その。
「ミツくん……身長の割りに巨根だもんね」
「俺、はじ兄のそういうとこ嫌いだよ」
「もうっ、全裸のはじめさんより変態に見えちゃうよっ!」
「お前もお前ですっげぇ失礼だな。犯すぞ、こら」
両手で顔を覆うも、指と指の間からつい凝視してしまう。
そう、三弥さんのアレは大きいじゃなくて、大きすぎるのだ。兄以上に長さも太さもあって、挿入されたら死ぬのではと思うほど。
ここは動画を諦め退散すべきかと考えていると、はじめさんに頭を撫でられる。
「僕が犯したいけど……打ち合わせに行かなきゃいけないから。あ……晩御飯は肉じゃががイいな」
「え、あ、はい」
「ふふっ、楽しみにしてる。ミツくん……レイちゃんと仲良くね」
「するつもりねぇけど、ちゃんと服は着ていけよ」
人のこと言えるか状態だが、はじめさんは笑いながら部屋から出て行く。顔を真っ青にした私は慌てて手を伸ばした。
「あ、待って、はじめさ──!?」
その手は立ち上がった三弥さんに捕まれた。
同時に引っ張られ、抱きしめられる。そして顎を持ち上げられると、不敵な笑みと目が合った。
「仲良くする気はねぇけど、ドア壊した分は働いてもらうぜ、ハレンチ女」
めちゃくちゃ怒ってる────っ!!!