家性婦
02話*「保険」
静まった室内に笑い声や足音が僅かに聞こえるのは扉を開けたままだからか。
奥の部屋とはいえ、誰かはいる。なのに、時任先生は気にする様子もなく堂々と見せた。夕暮れよりも浅黒く、目をそらすことができないほど聳え立つ──男のモノを。
「え、あ、ちょ、待っ……!」
「おや、見るのははじめてですか?」
「せせせ先生のははじめてですっ!」
あまりにも突然で混乱しているせいか、おかしな返事をしてしまった。が、目を丸くした先生には面白かったのか、くすくす笑われる。
「確かに……私も貴女に見せた覚えはありませんね」
「……つまり、他の人にはある……と」
余計な一言だったと気付いた時には後の祭り。
先生の目がいっそう細く、口元も弧を描いた。それだけで悪寒とは別のものが全身を走り、咄嗟に顔を背ける。前に、顎を掴まれた。前屈みになった先生の顔が目の前にあり、そっと唇が開く。
「ええ、ありますよ……貴女のように受験票を持って来られた方に」
そう言って、先生は私の手から引き抜いた。あのメモを。
「偶然見つけた方ならどうとでも言い訳をして帰らせますが、貴女のように本気で考えていらっしゃる方にはテストを受けてもらっています。何しろ……兄弟全員の性処理も含めた仕事ですから」
「性しょ、って、兄弟!?」
「ええ。私を含めて四人」
「よんっんん!」
予想外の話に声を上げるが、男のモノ──肉棒の亀頭を口に押し付けられた。
離れようとしても後ろ頭を固定され、独特な口触りと一緒に汁が唇の隙間を通って流れてくる。
「ウチの両親は海外で仕事をしているのですが、私を含めた兄弟はまったく家のことができないばかりか、クセと性欲が強くて……家性婦さんを探していたんです」
「なんか字がちがぅんんっ!」
ツッコミがいけなかったのか、口を開いた瞬間に亀頭を咥え込まされる。
元彼のとは違う大きさと容(かたち)に驚きながらも、つい好奇心から舐めてしまった。
「っ……貴女、頭は少々よろしくないようですが、掴みは良いですね……そのまま舐め続けて」
「んんっ」
前者に文句を言うべきだろうが、頭を撫でられると褒められているみたいで、もっとと舐め回す。最初は亀頭だけ。次第に全体を舐めると、呻くのが聞こえた。
「っぁ……何人かをテストしましたが……出だしから、こんなにイい娘(こ)ははじめてですよ」
「っはぁ……合格した人……いるんですか?」
頭を押さえていた手が緩くなった隙に口から肉棒を離す。だが、逃げる考えはない。むしろ両手で肉棒を扱くと、先生の身体が僅かに跳ねた。
「っあぁ……いますよ……でも、私が良くても……他の兄弟がダメで辞めてしまいました」
「なるほど……それで“あの噂”」
扱きながら亀頭を舐める私は『時任先生に気に入られたらヤらせてくれる』の噂を思い出す。察したように眼鏡を上げた先生は眉を顰めた。
「不合格の方や辞めた方が勝手に流した話ですね……当然、契約違反になるので処罰しましたが」
「普通、処罰されるのは先生じゃんぐっ!」
「貴女、ズバズバと物を言いますね」
急に立ち上がった先生の両手に頭を押さえ込まれると、今度は喉奥まで肉棒を咥え込まされる。ゆっくりと腰を動かす先生に、膝立ちになった私は慌てて脚に抱きついた。
見上げた先には破顔の先生。そして、涙目ながらもどこか嬉しそうに肉棒を頬張る自分が眼鏡に映っていた。
「でも……イいですね、ゾクゾクします。私、フェラ以上にイラマが大好きなんですよ」
「いひゃまってなンンンっ!」
知らない単語を聞く前に頭を押さえ込まれ、激しく腰を動かされた。
容赦なく喉奥を突かれ苦しいが、肉棒の大きさ、熱さ、硬さ、亀頭から出てくる汁に先生が興奮しているのがわかる。無理矢理されているのに、元彼には感じなかった気持ち良さと甘美。何より先生が嬉しそうで、応えるように吸い上げた。
「っ──!」
息を呑む気配がすると、どくりと脈を打つ肉棒から何かが口内で噴き出す。
「んんん゛ん゛っ!」
量が多く、口から零れた白濁が胸元や床に散る。
それでも必死に呑み込んでいると、ズルリと肉棒が引っこ抜かれた。私は咳き込み、先生も息を切らしながら椅子に倒れ込むように座る。さらに眼鏡を外すと、前髪を荒々しい手で掻いた。
額からは汗が流れ、呼吸を整えながら私を見下ろす顔は色っぽい。
きゅうっと下腹部が締めつけられていると手招きされる。
誘われるように立ち上がるが、伸ばされた手に腕を引っ張られた。また倒れるも、今度は床でも膝でもない、先生の胸に埋まる。互いに熱く、零れる息は荒い。
それでも顔を上げると視線が重なり、自然と唇が重なった。
「ふっ、ぅんんっ」
「んっ……イラマも悦んで受ける上に、ちゃんと呑み込んで偉いですよ……貴女は合格ですね」
「だんだ……んっ」
合格よりも、何度も口付けられては撫でられるのが嬉しい。すると、先生の手がスカートに潜る。
「あっ、センセ……」
「こんなに濡らして……私同様、気持ち良かったんですね」
ぐっしょりと濡れたショーツを擦られる。
恥ずかしくて顔を赤めていると、デスクの引き出しを開けた先生は何かを取り出した──ゴムだ。
「なんでそんな物があるんですか! これじゃ噂通りじゃないですか!! 変態講師っ!!!」
「失礼な、テスト用ですよ」
「終わったんじゃないんですか!?」
合格は空耳だったのかと顔を青褪める。が、口でパッケージを破き、取り出した先生はなんでもないように言った。
「フェラがダメでも挿入すれば気持ち良くできると言い張る不合格者用です」
「私は合格と不合格どっちですか!?」
「? 合格ですよ……だから」
「ひゃっ!」
手早くゴムを装着した先生は片腕で私を持ち上げるとショーツを下ろす。そして、ゴムに覆われた亀頭で秘部を擦った。
ヌルリと触れるモノに身体は疼き、蜜が亀頭に落ちる。気付いた先生は意地悪く笑った。
「頑張ったご褒美を差し上げます──ね」
「ふぁああああっ!」
焦らすことなく挿入され、嬌声が上がる。
イかせたと思っていたモノはまた大きくなっていて、キャスター付きの椅子をガタガタ鳴らしながら膣内を進んで行く。あまりの衝撃と大きさに涙を零しながら抱きついた。
「あっ、ふぁ、あああぁっ……センっセ……っ!」
「ああっ……ナカも良く締まって……イい……貴女、イいですよ……これなら三人も……っ」
「あ、ああぁあ……立っちゃダメぇ……そんな激しくっン、されっンンン!」
立ち上がった先生にしがみつくと、いっそう結合部が深くなる。さらに激しい抽迭の繰り返しに頭が真っ白になる私に先生は口付けた。
「これからよろしくお願いしますね、佐々木さ……いえ、零花さん」
「……はぃ」
はじめて会話する先生とキスどころかセックスまでシてしまった。
でも、元彼よりも良くて何も考えられない。ただただ『合格』と、私を映す灰色の瞳に安心し、快楽に溺れた。
*
*
*
時刻は夜八時を回る。
大学から先生が運転する車でご自宅へ向かう途中、家政婦募集メモの裏に署名しながら事情を語ると同情された。
「それはまた災難というか自業自得というか……」
「はい。だから本当、先生には感謝したいような複雑なようなで……このボールペン、使いやすいですね」
「通販でしか買えないのが難点ですけどね……て、普通に感謝してもらいたいです」
溜め息まじりに受け取ったメモとボールペンを胸ポケットに差し込んだ先生に、助手席に座る私は改めて仕事内容を確認した。
要約すると先生家は戸建てで、ご両親は数年前から海外で仕事。
今は先生を含めた四兄弟で住んでいて、全員が家事全般苦手。けれど、先生以外は不規則な生活のため、あまり気にしていないと。
「だ、大丈夫なんですか……それ」
「職業柄もありますね。兄と下の弟は家での仕事ですが、集中していると出てきません。逆に末弟は泊まり仕事や夜遊びで帰ってこないのもしばしば」
「わーお……」
やっと見つけた仕事だが、早くも御先真っ暗だ。
そして、先生が次男ということが判明。長男なイメージがあったので驚くが、それよりも大事なことを恐る恐る聞いた。
「そ、それで、あの……性……処理というのは?」
本来ならあってはならないが、一番の問題。
まさか先生のようなことを毎日……それはそれでどうかと戸惑っていると閑静な住宅街に入った。
「保険です」
「はい?」
「兄弟と顔を合わせることは殆どないのですが、職業と性格上どうしても性関連に向くので、襲われる覚悟がある人が良いと思ったんです」
「強姦の可能性なんて聞いてませんよ!?」
「あれだけ嬉しそうに喘いでいた貴女なら大丈夫でしょう。さ、着きましたよ」
「嬉しくないっ!」
とても失礼なことを言われたが、セックスした時点で同意したも同然だと頭を抱えながら車を降りる。と、目を瞠った。
「大きい……」
周辺住宅も充分立派だが、先生の家は特に大きく見える。
暗くて色はハッキリとわからないが恐らく白と藍。二階建てで、6LDKとのこと。車も先生のと合わせて二台あるが、もう一台ほど駐車できそうだなと早くも頭がショートしてきた。
「何をしているんです。行きますよ、零花さ……ん?」
車の鍵を閉めた先生の声が途中で止まる。閑静な住宅街に不似合いな『パーン』と、軽快な音が響いたからだ。目の前のご自宅から。
顔を見合わせていると、徐々に大きな足音と共に玄関扉が開いた。
「もうっ、ホント信じられない! 最っ低!!」
そう言いながら出てきたのはスタイルの良い美人な女性。
目元には涙を浮かべていて、カツカツとヒール音を響かせながら私たちを通り過ぎて行った。背中を見送って数分。再び先生と顔を見合わせる。
「恐らく……兄さんのお客さんでしょう」
「先生家って……最低な人しかいないんですか?」
「犯しますよ」
冷ややかな笑みに手で口を押える。
そのまま玄関に足を入れると、数時間前に見た光景が広がっていた。服もダンボールも積み重なり、人一人歩けますよのTHE☆散らかり放題☆。立派な家なのに可哀想と内心泣きながら上がると、すぐ横の階段から誰かが降りてきた。
「あ、はじめまして、私……っ!?」
挨拶しようとした瞬間、声に詰まる。
薄暗い階段から出てきた男性は細身で、身長は一七十後半。胸元まである長い金茶髪は先生以上に跳ね、前髪も目が隠れるほど長く、頬には手形らしき赤痣。
絵の具らしき多色で全身汚れているのも気になるが、それ以上になぜか──全裸。
「ひゃああああぁぁぁっ変態二人目ーーーーっっ!!!」
「ちょっ、待っ、零花さ──!?」
制止よりも先に動いた足が見事な回し蹴りを食らわしていた。
我に返った時には既に全裸男は床にノックアウト。荒い息を吐く私の背後で、眉間を押さえる先生がポツリと言った。
「大変……言い難いのですが……兄です」
「あ、通りで変態さえええええぇぇぇっっ!?」
とんでもない正体に頭はショートするばかりか爆発した────。