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​カ​モん!

   幕間5*「大物」
​    ※海雲視点

 俺の『婚約者』となった辻森みきという女はすごいと思う。

 怖いもの知らずというか無鉄砲というか。誰にでも声をかけ『あだ名』を付けるところは馴れ馴れしく、苦手にするヤツはいるだろう。俺は特に気にしたことないが、さすがに御袋の『かな様』には冷や汗が出た。

 

 御袋は言いたいことをハッキリ言う人だから俺は苦手だ。二十八の今でも恐れるほど。

 けど、みきは会っても怯まなかったせいか、御袋は結構気に入ったように見えた。しかし頑固で往生際が悪いのは問題だな。

「ふ、あ……ぁ……んっ」

「ほら、みき……気持ち良くイきたければ白状しろ」

「ゃだ……あああんっ」

 

 御袋が帰った後の寝室は既に身体もシーツも濡れていた。

 目の前には前屈みの状態で枕に顔を埋め、お尻を突き出しているみきが指で秘部を一本ニ本三本と愛でられている。もっともその指はゆっくり入ったり出たりを繰り返し、イけずにいた。

 

「海雲……さ……ん……もうイき……たい……す」

「なら答えろ。俺より“大事”だったものは…?」

 

 問いに、俺が得意とする沈黙が漂う。

 

「……みき」

「ひゃうっ!」

 

 三本の指を一気に突き刺すと、秘部から蜜が噴出す。痙攣で腰を下ろしたみきの上に跨り、耳元で囁いた。

 

「言う気になったか?」

「……………………ゃで……す」

 

 頭を必死に左右に揺らしている。さっきからずっとこの調子だ。

 みきが俺と会うより前から東京へ来ると決めていた“大事な用事”。頑なにその理由を拒み続け、小さく呟いたのが“冬の戦場”。冬に戦場が起こるって何事だ。

 みきより先に俺の苛立ちが募り、後ろから勢いよく挿入した。

 

「ひゃああああぁぁぁっ!!!」

 

 全身に快楽が押し寄せるが、先にみきの意識が飛ぶ音が……あ、しまった……。

 

 

* * *

 

 

 ぐったりと倒れたみきの身体を綺麗に拭き取り、服を着た俺は外へ出る。

 結局聞けなかった。こうなったら明日ついて……仕事収めで、今から会う男に刺されるだろうからやめておこう。

 

 溜め息をつくとエレベーターに乗り込む。

 目指すのは同じマンションに住む寺置の部屋。明日本宅に帰ることを言っておこうと電話したが話し中で、珍しさを感じながらも向かっている間に終わるだろうと足を運ぶことにした。

 俺は三十七階でヤツはニ階……ただの嫌がらせだろうな。聞いたことないが。

 

 部屋の前に着くと“俺”という合図でインターホンを二回鳴らす。“ニ階”だから。

 時刻は深夜一時だが返事はない。いつもは起きているし、出掛けているのかとも思ったが、インターホン越しに何かで叩く音がした。“電話中だが大丈夫”の合図だ。

 

 合鍵で入ると、電話中の寺置がリビングソファにいた。

 風呂上がりなのか髪が濡れているのはまだしも、なぜか上半身裸。こいつ……真冬に大丈夫か。さっきまでみきの体温で暖かくなっていた俺の方が寒くなってきた。そんな俺に構わず寺置は電話を続けている。が。

 

「……じゃ、またな」

 

 ん? “またな”?

 “素”で話していることに珍しがっていると、電話を切って振り向いた。

 

「みっちゃん様とお楽しみ中じゃなかったのか?」

「……先にイかれてな。お前こそ口調が戻ってるぞ」

「ああ……」

 

 今頃気付いたように呟いた寺置は立ち上がると、Tシャツを着る。おい、長袖じゃないのか。

 呆れていると冷蔵庫からビールをニ本取り出し、ニッコリ笑顔。

 

「飲みましょうか、海雲様」

「気持ちわりーよ」

 

 即答した。

 

 

* * *

 

 

 ソファに腰を掛け、ビールを飲みながら御袋が来たことを話すと、寺置は“素”で話す。

「それじゃ、三箇日まで泊まりになるんじゃないか?」

「……やっぱりそうなるか」

「まあ、華菜子様相手でも変わらないなら悪いイメージは持たれてないだろ。あとはお前でなんとかするんだな」

「……お前は一緒に帰らないのか?」

 

 寺置は毎年一人か、俺の実家で年を越す。

 自分の実家とは縁を切っているせいもあるが、妙な違和感に問いかけると面白そうに笑い出した。なんだ、背筋に悪寒がするぞ。

 

「みっちゃん様が本宅に泊まるのなら、俺が代わりに使う」

「……代わりって……お前が福岡行くのか?」

「ああ」

 

 意地の悪そうな笑みって事はマジだな。

 寺置は一人事や何かでタガが外れると口調が戻る。これが“素”ではあるが、最近では俺の前でも滅多に戻らない。なんだ……タガが緩むことなんてあったか?

 思考を巡らせ、導き出されたのは──。

 

「……みきの妹か?」

 

 問いに、寺置は答えない。

 妙な親密度を感じてはいたが、あの姉妹は大物だな。溜め息をついた俺はそれ以上の追及を止め、ビールを飲む。

 

「……俺は構わないが、みきから許可貰えよ」

「口では海雲より俺の方が上だろ、問題ない。誕生日もあるしな」

 

 そう言えばこいつ、一月一日生まれだったな。エイプリルフールに生まれた感あるのに。まあ、腐れ縁親友に春がきたと思えばいいか……妹が可哀相に見えてくるがな、スマン。

 

 内心合掌しながらビールを飲み干すと立ち上がる。

 時刻はニ時を過ぎ。明日も早いし、みきを抱いて寝ようと思ったところでふと訊わねた。

「……お前、“冬の戦場”って知ってるか?」

「? 主語が欲しいところなんですが……」

 

 口調の変わりが激しいヤツだと思いながらさっきのことを話すと、肩を揺らしはじめた。おいおい、冬の戦場って笑い系なのか?

 戸惑っていると、寺置は笑いを堪えながら忠告した。

「悪いことは言わない……知らない方がいいぞ。気にしてネット検索もしない方がいい。それ以上残念でヘタレでジレジレ野郎になりたくなければな」

「……てめー、ケンカ売ってんのか」

 

 “素”に戻ると苛立ちが倍になるな。

 結局わからず寺置の部屋を後にすると自宅に戻る。寝室にはみきがすやすやと寝ていたが、もやもや感が溜まっていた俺は寝たままのみきに挿入した。

 

 当然、悲鳴が上がったが。

 

 

* * *

 

 

「どうぞ福岡に行ってください!!!」

 

 翌日、車中で寺置はみきと交渉したが、まさか冬の戦場……冬コミ?

 が、決め手になるってどんだけすごい戦場なんだ。と言うかみき、妹を売ったことになるぞ。知らないだろうが。

 

 そして東京にきてから何かを招くのが得意なようだ。

 ニ人っきりにもなれないのは今年お神籤を引いていない俺のせいかもしれないが、峰鳶婦人と御袋ニ人を黙らせたのはみきの力だ。女の年齢っていうのは怖いな。みきの年齢を誤っていた俺が言うのもなんだが。

 さて、すごすぎる『婚約者』をこれからどうすべきか────。

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