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​モん!

28話*「プレゼント」

 とても心地良い気分。頬を寄せると優しく撫でて──。

 

「ふひゃあんっ!」

 

 突然上下に揺れた衝撃で目を覚ますと、頭上から苦笑の声。

 あ、おはようございます海雲さん。あわわ、膝枕とか美味しい状況!

 恥ずかしくて窓の外に目を向けると、景色が次々と過ぎ去って行く。

 

「おはようございます、みっちゃん様」

「お秘書さん……おはようです」

「起こしてしまい申し訳ありません。年末になると道路状況悪いですよね」

 

 運転席から顔を向けたお秘書さんに、ここが車内だとわかる。

 少しずつ頭が起きてくると顎を持ち上げられ、見目麗しい海雲さんの口付けが落ちた。“ちゅっ”と軽いものから歯列をなぞり、隙間から舌を挿し込み、口内を掻き混ぜては快感を与えるものまで。

 

「みき……」

「んっ……ふぁ……ぁあん」

「ところで、みっちゃん様」

「はひっ!?」

 

 ここここの状態で話すの!?

 無理やり意識を起こされた私とは反対に海雲さんの手は首筋を滑り、Uネックの隙間を通って乳房を掬い、揉み解す。

 

「ひゃぁんっ!」

「明日お帰りになられますよね?」

「ひゃいっ!」

「今夜海雲様のご本宅に行かれますよね?」

「ひゃっいぃ~!」

「三箇日まで宿泊みたいなのでチケット譲ってください」

「ひゃ? ……あぁぁああんっ!」

 

 一瞬何を言われたかわからず思考停止したが、乳房を強く摘まれ押されの刺激で快楽に溺れ……ちゃ、ダメダメダメ!

 

「泊まり……ん……なるんです……かあぁぁん」

「華菜子様の性格からして恐らく。手続きはこちらでしますので、今夜から三箇日まで休みの私が代わりに福岡行きますね」

 

 『ね』って、既に一択しかないんですけど。

 そんな状況でも海雲さんは気にせず胸への愛撫を続け、首筋に顔を埋めて花弁を散らす。必死に耐えようとしても気持ち良くて意識を引っ張られそう。

 確かにチケット取ってるけど……迎えに来てくれるまきたんとかに言わないと。

 

「それは内緒で」

「ふゃんでですか!?」

 

 お秘書さんはくすくす笑っている。

 なんか怖いですよ。これはさすがに断った方がいいよね!? ていうか海雲さん、上着巻くって乳首に吸い付かないでください!!!

 羞恥の悲鳴を上げていると楽しそうな声でお秘書さんが言う。

 

「まあまあ、私への誕生日プレゼントだと思って」

「へ!?」

「私、一月一日が誕生日なんですよ」

 

 誕生日?

 目下乳首に花弁を散らし中の海雲さんを見ると“ちゅっ”と音を鳴らしながら頷く。あ、本当なんですねーと思っていると、お秘書さんは苦笑した。

 

「その信頼度の違いはなんでしょうかね」

「いえいえいえいえいえいえ!」

「難しい場合は“冬コミ”の告げ口しますけど?」

「どうぞ福岡に行ってください!!!」

 

 昨夜海雲さんに大事な用事=コミケの事を喋るよう攻められ、なんとか死守した私。

 だって海雲さんに知られるって恥ずかしいと言うかイメージと言うか……あ、海雲さんが不機嫌な顔した。そして秘部に指を入れるのやめてください! と言うか今、お秘書さん脅迫しませんでした!?

 

「それじゃ、お願いしますね」

「ひゃあああぁぁんっ!!」

 

 ご機嫌なお秘書さんの声と共に不機嫌な海雲さんの指が勢いよく三本入り、早くも果てた。

 

 

* * *

 

 

「それでよくコミケ駆け抜けれたわね……」

「火事場の馬鹿力……」

「いや、海雲様に失礼でしょうが……」

 

 無事ニ日目の戦場を駆け抜けた私は海雲さんを待つため今日も会社のカフェで、ほしりんとお茶をしていた。ほしりんもコミケの事は知ってるみたいで助かりました。

 そこでふと、俯せになっていた顔を上げる。

 

「ほしりんは海雲さんのお母様知ってる?」

「知ってるって言うか“明野(あけの) カナコ”名で宝飾デザイナーしてる有名人よ」

 

 あんまり『Earth』とは結びつかないような……まあ私も海雲さんとは『カモん=居酒屋』でしたし、出逢いは様々ですよね、うん。

 それにしても宝飾関係。確かに高価そうなイヤリングしてましたし、デザインも……。

 

「ん? みきどうしたの」

「あ、いえ。ついデザイン関係を聞くと絵描きにはネタになると言うか」

「そういえば前まで絵関係してたんだっけ? 漫画も?」

「まあ、それなりに」

 

 そう苦笑してしまうのは、良い思い出のような違うような気持ちだから。

 実際、会社の中やカフェを見ると写メ撮ったりラフ絵を描きたくなる衝動は治りません。話題を変えるように昨夜かな様が言っていた人のことを思い出す。

「それじゃ“峰鳶”さんって知ってる?」

「みねとび……みねとび……って、こら!」

 

 頭を叩かれた。突然のことに疑問符を浮かべていると、顔を寄せたほしりんが小声で話す。

 

「みきに言うのもあれだけど、ウチのライバル会社んとこよ」

「そうなんですか!?」

「しかも相手社長の奥さんはカナコさんの元部下で、別会社立ち上げたって話」

「それはそれは修羅場ですね」

「だーれが修羅場ですって?」

 突然の乱入声に私もほしりんも肩が大きく跳ねる。

 そろりと真後ろを見ると渦中の……かな様こと、海雲さんのお母様がビシッと今日もロングスカートのスーツに毛皮のコートを決め、眼鏡を光らせていた。急いで立ち上がった私はお辞儀する。

 

「ここここんばんは、かな様っ!」

「その呼び名は許してないってーの! このっちんちくりん!!」

 

 私もちんちくりんじゃないですよと半泣きながらペンペン叩かれる。

 すると、かな様の後ろから女性が二人。一人は茶髪セミロングパーマに、白のムートンコートを羽織った人。その微笑みは淑女のよう。

 反対に黒髪で腰までのストレートに編み込みをし、白のAラインコートに黒のニーハイブーツを履いた美人だけど無口そうな十代ぐらいの女の子がやってきた。

 

「華菜子先輩、女の子にそんなことダメですよ」

「……いいのよ、このちんちくりんは。だいたいなんでこっちきてんの峰鳶。本宅で集合でしょ?」

「主人がこちらにきていまして、待っているんです」

 

 淑女の方が微笑んだまま言うと、かな様の眼光が鋭くなる。

 うわぁ、バチバチ火花飛んでるのが見えます。と言うか、この方が峰鳶さん……の、奥さんとお子さん……?

 淑女さん一七十センチぐらいありそうだし美人系ですね、とても六十代には見えませんよ。

 

「「「は?」」」

 

 かな様と淑女さんとほしりんが一斉に私を見る。なぜ?

 すると海雲さんがお秘書さんと一緒にエレベーターから降りてくると私達を見て仰天した。この場面多いですね、海雲さん。

 険しい表情で近付いてきた海雲さんに、淑女さんの娘さんが目を逸らすのが見えたが、かな様が声を掛ける。

 

「海雲、ちんちくりんにあたしの年齢言った?」

「……いや?」

「ちんちくりん、あたしと峰鳶、何歳だと思う?」

 

 え、と、突然言われましても! しかもはじめて会う女性に年齢は失礼でしょ!? と言うか、さっきの脳内台詞聞こえてたんですか!!?

 

 また六人の目が刺さって痛いが考え込む。

 えーと、海雲さんが二十八歳で私の母が……ポクポクと頭で木魚の音を鳴らし、チーンと鈴の音を出した結果。

 

「かな様は六十四歳ぐらいで、淑女さんは六十一歳ぐらいですかね」

 

 沈黙が訪れた数秒後、かな様が大爆笑。お秘書さんはニコニコ、ほしりんは唖然、峰鳶さんの娘さんはジと目、淑女さんは目を細め私を睨んで………あれ? 冷や汗が出てきましたよ?

 すると海雲さんの手が私の頭を撫で、感心するように言った。

「よくわかったな、両方」

 まさかのビンゴ! 大変素敵な若作りを目撃したようでピンチ!! みなさん、人様の年齢を口に出してはいけませんよっ!!!

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