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​モん!

   27話*「この子」

 仁王立ちで私を見下ろすは海雲さんのお母様。

 ギンッと眼鏡の奥から見える眼光はハッキリ私しか映していない。目を逸らしてはダメだと、負けじと見つめる。先に目を逸らしたのはお母様で、後ろの海雲さんに声をかけた。

 

「ちんちくりんでも度胸はありそうね」

 

 ありがとうございます! ちんちくりんでも頑張ってきたかいがありました!! 決してちんちくりんに根を持ってるわけではないですよ!!!

 しかし、海雲さんとニ人ほっと息をついたのも束の間。

 

「海雲用意なさい。本宅に帰るわよ」

「は?」

「あ、そこのちんちくりんも」

「辻森みきです! って、私もですか!?」

 

 つい手を挙げて名乗ってしまったが、お母様はスルー。と言うか本宅? つまりは海雲さんの実家?

 頭が混乱しているのは海雲さんも同じのようで頭をガシガシ掻いている。中々見れない姿にちょっとトキメいたのは内緒です。そして苛立っているのがわかります。

「連絡もなしに勝手に来て実家に帰れはないだろ。しかも、みきまでとはどう言うことだ」

「勝手に『婚約』したヤツに言われたくないわ。あたしも忙しいんだから早くしなさい」

 

 ……えっと、強引なお母様というのはわかりました。そして海雲さんが頭が上がらないのも。自分の母が呑気なので衝撃です。それでも頑張ってピシッと手を挙げた。

「はい、ちんちくりん」

「辻森みきです! はじめまして!! 海雲さんとは今月からお付き合いをはじめ、婚約も交わしましたが御挨拶が遅れて申し訳ありませんでした!!!」

 

 床に正座し、深々と頭を下げる。

 表情はわからないけど、ニ人の沈黙に胸がドキドキする。が。

「……この子、バカでしょ?」

「…………………………」

「海雲さん、否定してください!!!」

 

 つい頭と声を上げてしまった。半泣きで。礼儀としては失礼でしょうが、海雲さんも失礼ですよ!

 そう訴えるように海雲さんを見つめるが、瞼を閉じ『スマン』といった雰囲気……やっぱり否定はしないんですね。お母様と一緒に溜め息をついた。

 

「それなりの礼儀と度胸に免じて、あたしは藤色 華菜子(かなこ)。海人さんの妻で海雲の母。わかった? ちんちくりん」

「はいっ! かな様っ!!」

 

 再び訪れる沈黙に、あだ名を付ける癖なんとかした方がいいかもしれないと思った。さすがに顔を青褪める私に、海雲さんは額を押さえている。そして睨んでいるかな様(許可貰ってないけど)。

「……前言撤回。度胸以外バカだわ。連れ帰って調教してあげる」

 ひえええええっ! かな様とても不吉なこと言いませんでした!? 私は動物じゃないですよ!!!

 海雲さんも止めているが、かな様はフンッといった感じで支度を促す。これはマズイと私はまたピシッと手を挙げ指された。

「あのあの、ご一緒はしたいのですが明日も朝から用事がありまして!」

「あたしとのより大事って言いたいわけ、ちんちくりん」

「大事も大事です! 一ヶ月以上前から決まってたものなので変更できません!!」

 

 一瞬海雲さんの眉がピクリと動いたが、気にせず続ける。

「ですので明日、海雲さんのお仕事が終わってからでいいですか!?」

「……そうね、ちょうど明日で仕事収めだし……良いわ。明日一緒にきなさい海雲」

「……わかった」

 大きな溜め息をついて了承した海雲さんに私は頭を下げる。勝手に決めてすみません、と。

 玄関に向かうかな様を海雲さんと見送ろうとすると、ふと思い出したように彼女は海雲さんに言った。

「そうだ。明日から三箇日まで本宅で峰鳶(みねとび)んとこが泊まるから」

「……親父、許可したのか?」

「じゃなきゃ呼ばないでしょ。お子さんもくるみたいだからよろしくね」

 

 そう言うとかな様は嵐のように去っていきました……疲れた~。

 私達はぐったりとソファに座り直し、海雲さんの腕の中ですりすりと頬を寄せると頭を撫でられる。

 

 ちなみにマンションのオートロックを解除出来るのはお秘書さんとダンディさんとかな様の三人。

 かな様はインターホン連続鳴らしで事前連絡はなし。ダンディさんは『ピン、ポーーン』と緩やかな鳴らし方で事前連絡あり。お秘書さんは合鍵を持っているらしく、インターホンも事前連絡もなし……さすが、お秘書さん。

 ニ人で溜め息をつくと、海雲さんが申し訳なさそうに言う。

 

「……突然悪かったな」

「いえ。色々と衝撃的なお母様でした」

「ああ見えて寂しがり屋なところはあるんだ」

「海雲さんはダンディさんとかな様、両方の血を継いでますね」

「……どういう意味だか」

 

 苦笑してるけど外見はダンディさん、中身はかな様に似てる。

 海雲さんも強引なところあるし、私の見方……は酷いけど一緒ですし、実は寂しがり屋なとこも。

 考えながらくすくす笑っていると『ところで』と、気付けばソファに押し倒されていた。瞬きする真上にはちょっと怖い顔の海雲さん。なぜ?

「東京くるの……一ヶ月前から決まってたって?」

「? はい。海雲さんとはじめて会うより前に予約を取ってて……」

「言うのを忘れていたと?」

 

 あれれ。間が全然ないし、キラキラ笑顔が見える……ぞ。

 バタバタと身体を動かし、逃れようとするが上半身は腕で、下半身は股に膝を入れられ逃走不能!!

 キラキラな海雲さんの顔が徐々に近付いてくる。

 

「こっちこれないだろうと思ってたんだが……」

「そそそそそれはビックリサプライズですよ!」

「ウソ付け。俺より“大事”なのが上だったんだろ……みき?」

 

 名前を呼ばれた瞬間身体がゾワリとした。こここれは悪寒!?

 

 

「御袋にされる前に……先に『調教』しておくか」

「ひえええええええっっ!!?」

 

 

 悲鳴はベッドでキラキラ笑顔の海雲さんの巧みな技術で快楽の悲鳴へと変わった。

 海雲さんよりコミケ取ってごめんなさああああぁぁぁいっっ!!!

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