カモん!
26話*「空気」
真冬だというのに身体はポカポカ。
ふー、今年も戦場を駆け抜けてやりました! 戦利品もバッチリ!! しょうちんのコス写真も、なっちゃんとのハグ写真もいっぱい!!!
無事に冬の祭典コミケの一日目を終えた私は夕日を背に、電車で海雲さんの会社へと向かう。
昨夜は手加減してもらえたようで、腰も無事。六時前には起こしてくれました。お礼に朝御飯を作ろうとしたら冷蔵庫が空っぽで、さすがの私もお手上げでしたよ。
外食ばかりは健康に悪いですよと目で訴えると無言で目が泳いでいたので反省はある様子。
行き先は反対なので駅前で降ろしてもらい、帰りの早い私が会社へ行くと連絡。昨日に続いてきましたよ! 今日もなんだか目立ってる!! あ!!!
「森星さ~ん!」
昨日会った海雲さんFC1番(仮)、ふんわりセミロング美人の森星のお姉さんを見つけた。
今から帰るのか、白のコートにファーバックを持った彼女は仰天の目で私を見ると後退りする。疑問に思うも、私が叫んだせいで注目を浴び、渋々きてくれたので頭を下げた。
「ごめんなさい」
「は?」
「いえ、つい知り合いを見つけると叫ぶ癖がありまして……」
「知り合いって……昨日ちょっと話しただけでしょ?」
「いえ、貴女は“森星さん”です。名前も知っていて話したこともある人は私にとって“知り合い”なんです」
馴れ馴れしくてウザイともよく言われますけどと苦笑すると、森星さんは溜め息をついた。海雲さんもですが、美人&美形は溜め息ひとつ綺麗ですね。
「貴女ホント変な人……毒気を抜かれるって言うか、構える方がバカバカらしいわ」
「人はバカになって動いた方が良い時もありますよ。考えすぎると土壷にハマリますからね」
どうしたらいいのかわからなくて、考えに考えるだけ深くハマリ抜け出せない。暗闇に光が灯るか灯らないかで道は決まる。私は抜け出せても落ちたけど。
笑顔を消したせいか、森星さんが心配そうに私の額に手を当てる。お花の良い香りがした。
「熱は……ないわね。何、昨日の勢いはどうしたの?」
「えへへ、午前中に力を使い果たしたかもしれません」
「何それ。ま、いいか。あたし、森星 りんか、二十五歳。よろしく……辻森……さん?」
「呼び捨てで良いですよ。同い歳ですし、私も“ほしりん”って呼んでいいですか?」
“同い歳”にビビられ、“ほしりん”も意味わからないと言われましたが、OKもらいました。何やらお友達が出来たようで嬉しいです。
* * *
その後、私達は昨日と同じ会社のカフェに入り、お茶をしながら色々お喋り。どうやら私が海雲さんの『婚約者』というのがバレたようで、周りの目がチラチラ。
「昨日の全力疾走ですか?」
「そう。海雲様ったら二十階にある部署から階段で降りたもんだから何事かって……そしたらみきと一緒に行くからさ」
海雲さん二十階から階段で……それはすごいと唾を呑み込んでしまった。
「ほしりんは海雲さんのファンなんだよね?」
「まあ、イケメンだし社長の息子だし長身だしクールだし……とかいっぱいじゃない。やっぱり惹かれちゃうのよね。付き合い悪いけど」
ほしりんはくすくす笑っている。笑うとやっぱり美人で可愛い。私なんて敵うところないのにな……ああ、この不安はなんでしょ。スカイチャペルの時のようにちゃんとお化粧とか洋服着た方がいいのかな。
突然の不安にぐるぐるしていると、ほしりんに額をグリグリ押された。
「いたい~」
「考えすぎるなって言ったのどこの誰だったかしら?」
はっ、そうでした! それは面目ないです!! 気を取り直して海雲さんについて語り合いましょう!!!
そんな女子トークは尽きることもなく、ほしりんから海雲さん情報を聞き出した。
好きな食べ物はご飯系と甘い物。特に隠れ(てもない)チョコ好き。
毎週フィットネスセンターに通うほど運動も好きだが、非常階段で寝ていることも有。機械イジリは配線から車の整備までなんでも手を出し、几帳面で綺麗好き。
そう言えば部屋も随分綺麗でしたね。物がないというか寝るだけって感じもありますけど。ふむふむ、ほしりんありがとう!
「女の趣味まではわからなかったけど……みきねー」
「うぐっ……その辺りは私も謎な部分あるけど……私は海雲さんの女ものなので!」
「お、言い切ったなコンニャロー!」
ペンペンと頭を軽く叩くほしりんも海雲さん好きじゃと不安になると『ファンと本当の愛は違うのよ』と言われた。カッコイイです姐さん。
そして、海雲さんとお秘書さんが降りて来た時に『友達になりました!』と報告すると仰天の目をされた。なぜ?
* * *
「……誰とでも仲良くなれるな、みきは」
「そうですか?」
途中スーパーに寄ってもらい、食材を買い足した私はキッチンで晩御飯作り。
それが珍しいのか、着替えた海雲さんはカウンターに座り、ジーと見ている。なんだか可愛い。
「昔の癖もあるかもしれませんけど、自分から歩み寄らないと交流はダメですからね…」
「……苦手な相手とかいるのか?」
「まきたんやお秘書さんみたいに逆らえない空気を持ってる人ですかね」
「…………………………同感」
納得するように頷かれ私も苦笑する。
そんな話をしながら出来上がったのは親子丼とお吸い物にきゅうりとわかめの和え物! 海雲さん目を見開かないで!! 庶民なのはスルーで!!!
椅子に座り『いただきます』をすると海雲さんはもぐもぐと変わらぬ表情で食べている。目が合うと『美味い』と頷き完食! ヤッター!!
食後には海雲さん大好きチョコをニ人でソファに座っていただきます。すると、ポツリ呟かれた。
「俺は料理できないから……すごいな」
「私も簡単のしか出来ませんよ。母の方がやっぱり上手ですし」
「……俺のお袋はあまり得意じゃなくてな、家政婦さんの方が多かった」
家政婦さんってすごい。
そう考えると海雲さんって本当お金持ちなんだなーと今更ながらに思う。その隙に口付けられた。
私ってば隙ありすぎ。でも、口から甘いチョコの味がする。
優しくて甘い口付けは感覚すべてを溶かすようで、離れるのが寂しかった私は『もう一回』とお願いした。すると、海雲さんは笑みを見せながらチョコをひとつ食べ、ソファに押し倒しながら口付ける。
「んっ……ふん……」
「甘いな……みきだからか……」
「違います……よ……んん」
口付けは徐々に長く、身体も熱くなる。
次第に彼の手が上着に掛けられた──が、突然インターホンの嵐が鳴り響いた。当然私は驚き、海雲さんは昨日のようにガックリと倒れた。けれど、インターホンは止まない。
「この……鳴らし方は……」
溜め息をついた海雲さんは玄関へ向かう。
知っている人なんだろうかと考えていると玄関の方が騒がしくなった。
「──ら、待ってろって」
「から貴方は──どきなさい!」
女の人の声だと思ったら、景気よくドアが開いた。
入って来たのは黒と白髪が混じったショートボブに眼鏡。両耳にはパールのイヤリングを付け、ロングスカートのスーツにコートを羽織った身長一六十後半ほどの女性。
美人さんですが、鋭い眼差しで私を見ている……えーと。
「……この子ね。また、ちんちくりんを選んだこと」
ちんちく……いや、身長低いのは確かですけど遺伝だけはどうしようもないですよ! 父が身長低かったんですもん!!
半泣きになっていると、後ろから海雲さんが慌てて入ってきた。
「おいっ、御袋!」
御袋……おふくろ……おっかさん────お母さん!?