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​モん!

  39話*「大仕事」

『海雲をね『Earth』福岡支社の責任者にするんだよ』

 

 ダンディさんの言葉が何度もリピートされる。海雲さんを責任者。ん? 福岡に?

 隣の海雲さんを見ると頷かれるが、私は首を傾げた。

 

「海雲さん……福岡に『Earth』ってあったんですか?」

「ない」

「ないね」

「ないわよ」

 

 親子三人にツッコまれた! そして一緒に溜め息まで!! 親子ですね!!!

 混乱中の私に、ダンディさんが要約してくれた。

 

 それによると『Earth』は大阪に支社がひとつあり、注目されはじめた今、他にも創るかの検討をしていたそうです。そこで海雲さんとお秘書さんが最初福岡でどれだけの商談と言う名の顧客を作るかが鍵だったとのこと。

 

「……海雲さん、大仕事だったんですね」

 

 ニ人だけで創るかどうかが決まるって、すごいプレッシャーです。

 冷や汗を掻きながら海雲さんを見るが、当人は顔を青褪め、お腹まで押さえている。うん、あとで胃薬持ってこよう。

 そんな海雲さんとは反対にダンディさんは楽しそうに笑った。

 

「いやぁ~知っての通り愛想もない堅物な息子だからね。ここは『可愛い子には旅をさせよ』に習って任せたのさ」

「……死ぬ」

 

 ダンディさんは背景キラキラで笑っているが、さすがの私も言葉を失う。

 するとダメージが頂点に達したのか、海雲さんが抱きついてきた。ああ、怯えてるウサギみたいで可愛いですけど、可哀想が大きいです。背中を撫でる私とは反対にかな様は『ヘタレめ』と呆れた。

 か、かな様! 海雲さんはやれば出来る人ですよ!! カッコイイですよ!!!

 

「そうそ、みきちゃんのおかげで軌道に乗ったんだからやれば出来る子だよ」

「はひぃ!?」

 

 わ、私の思考はそんなに読みやすい……じゃなくて。私のおかげって、私何かしましたっけ?

 首を傾げていると、かな様が何度か頷いた。

 

「初日ちんちくりんに会ったのが大きかったわね。“早く会いたい”とか変な理由かもしれないけど、おかげで予想以上の会社と契約してきたのよ」

 

 ほ、褒められているような違うようなですが『初日』って、海雲さんそんな最初の頃から私のことを……そう考えると顔が熱くなる。海雲さんは黙ったままですが、抱きしめる力が強くなった気がした。

 ダンディさん達を見た私は確認する。

 

「ええと……じゃあ、支社の話は……」

「うん。そう遠くない内に博多に創ろうと思ってね」

 

 その嬉しそうな笑顔に実感が湧いてきた私も海雲さんを強く抱きしめる。驚くように顔を上げた海雲さんに私は笑顔を向けた。

 

「海雲さん、すごいですね! ご両親に褒められてますよ!!」

「……この歳で褒められてもな……」

 

 ぶっきら棒な口調だが頬は少し赤く、照れているのがわかる。

 その後かな様に『責任者できるかは知らないけど』とまた槍を刺され、お腹を押さえていた。胃薬……持ってきますね。

 

 

* * *

 

 

「へー、海兄ちゃんやったじゃん」

「それも一ヶ月でですよね?」

「そうそ、ふゃっ!」

「みき……ゆっくり歩け……」

 

 ダンディさん達との話を終え、両家揃って近くの神社に徒歩で初詣へ来ました。さすが東京。元旦はすごい人です。人混みに酔いそうになっていると、手を繋いでくれている海雲さんがポツリと言った。

 

「……みきの家の近くにある太宰府天満宮よりはマシだろ」

「梅ヶ枝餅は食べたいですが近場ほど行かないと言いますか、そもそも元旦に初詣行かないです」

「なんだ、嬢ちゃんとこは明日か明後日に行くのか?」

「いえ、十日恵比寿に行きます」

「「「「「「「は?」」」」」」」

 

 人混みで全員が団子状態なせいで伝わったのか、初日以来の視線を集めてしまった。なぜ?

 疑問を投げかけたのは、かな様。

 

「それって商売繁盛を願うとこでしょ。アンタんとこ何か商売してたの?」

「あ、父がちょっと。それで人混み苦手なウチはついでに初詣するんです」

 

 父と別れた後も恒例になったので、母もまきたんも十日を待ちます。むしろ、まきたんはそれのために休みを取っていた気がしますね。

 さすがに“ついで”はマズかったかと思いましたが、みなさんは慣れたのか特に何も言わず、かな様が海雲さんの背中を叩いた。

 

「よっし、海雲。ちんちくりんと一緒に願ってらっしゃい」

「おいおい……」

「海雲さん福引しましょ! 福起こしよりは万福がいいですかね」

「みきさんが謎の言葉を……」

 

 謎って、達磨さんと団扇さんの事ですよ、かえでん。

 そんな会話をしている間に本堂に着き、お参りをする。去年は“楽しいことありますように”と単純に願いましたが、今年は“海雲さんと一緒に幸せになれる女になりますように”と願った。

 隣の海雲さんを見ると小さく微笑まれ一緒に微笑むと、仁くんの声が響く。

 

「海兄ちゃん、御神籤引こうぜー!」

 

 すると海雲さんは足早に向かった。なぜ?

 私も促されるように籤を引くと……末小吉。これは前途多難というヤツでしょうか。海雲さんのを見せてもらうと同じ末小吉で笑うしかない。

 

「ニ人で合わせると『大吉』になれますね!」

「なれるわけないでしょうが」

「華菜子様は大吉ですか」

「四年連続じゃないかい?」

 かな様の意地悪にウジウジしながら、みくじ掛に結ぼうとするが、届く範囲は既に埋まっていた。困った私は隣で高い所に結ぶ海雲さんを見て、自分のを差し出す。

 

「海雲さん、代わりに結んでくれませんか?」

「……自分で結べ」

「ふへ……きゃっ!」

 

 瞬間、抱えられて注目を浴びる。

 ここここここんな大勢の前で恥ずかしい! ああ、しかもかえでん達が他人の振りかのように反対方向を見ている!! 順応早っ!!!

 海雲さんは恥ずかしがる風もなく『ほら結べ』と御神籤を渡し、私は急いで結んだ……が。

 

「おおおお下ろしてください~!」

「この方が楽だ……親父、俺達は先に戻るぞ」

「ああ、ゆっくりな」

 

 ゆゆゆゆっくりってなんですかダンディさん! しかも海雲さん歩くの早い早い!! 私は急患じゃありませんよ!!!

 参拝客の人やお店の人の眼差しを受けながら観念したように首に両腕を回していると『あ』と急に立ち止まった。なんでしょ、家の鍵でも忘れたんでしょうか。

 過去自分にあった事を思い出しながら彼を見ると──キスされた。

 

「んっ……!」

 

 門前だったせいか大勢の人から黄色い悲鳴が上がり、羞恥でポックリ逝きたい気分です。唇はすぐに離れましたが、私の頭はクラクラ、顔を真っ赤にしたまま背中を小さく叩く。

 

「いったい……なんなんですか……」

「いや……みきに言うの忘れていたと思ってな」

「何を……?」

「あけましておめでとう」

 

 今更それをこんな場所で!?

 そう怒りたかったはずなのに優しい微笑に動悸が速くなり、周りの女性のように悲鳴を上げたかった。キラキラ笑顔とは違う表情に直視できず、私は肩に顔を埋める。

 

 

「今年も……よろしくお願い……します」

 

 

 耳元で小さく囁くだけで精一杯だった。

 新年早々海雲さんのとびっきりな笑顔を見れて早くも幸せです。

 

 でも、抱えらたまま家に戻った後はベッドの上でした────はい。

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