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​モん!

  38話*「あけおめ」

 新年あけましておめでとうございます。

 本年度もどうぞよろしくお願い……言い切る前に頭を叩かれた。

 

「な~にが“よろしく”よ! このっ、ちんちくちん!!」

「はい、ご迷惑とご心配かけて申し訳ありませんでした」

 

 海雲さんのおかげで晴々とした私でしたが、一月一日元旦早々土下座していました。

 かな様は怒っていますが、ダンディさんや峰鳶家のみなさんは安堵していて、さらに私は深く頭を下げる。すると、ダンディさんが優しく頭を撫でてくれた。

 

「元気になったのなら良かったよ。華菜子も昨夜は『ちんちくりんがちんちくりんが』ってソワソワしてたからね」

「海人さん! あたしはちんちくりんがいなくて静かねと言っただけよ!」

「か、かな様~~~~!」

 

 “ちんちくりん”連発でも私の事を考えてくれていた事が嬉しくて、かな様に泣き付く。怒られたけど最後はポンポンと頭を撫でてくれた。

 すると、ちーパパさんが顔を伏せた淑女さんを連れ、前に立つ。笑みを浮かべたかな様に私は背中を押された。

 

「嬢ちゃん、ウチの事情に巻き込んじまって悪かったな」

「いえ……私の方こそ失礼なことばかりすみませんでした」

 

 お辞儀すると『あの……』と、淑女さんのか細い声が聞こえ、顔を上げる。怒られるかと思ったが、淑女さんは昨日とは違い柔らかい表情で私を見つめた。

 

「……私も昨夜は気が立ってしまって……数々の無礼をお許しください……。それから私と主人の間を取り持ってくださった上……子供達とも仲良くしていただきありがとうございます」

「いえいえいえいえいえいえいえ! そんなっ……」

 

 深いお辞儀に私も困ってしまい両手を勢いよく左右に振る。

 “取り持つ”とか大層な事をしたつもりはないですが、幸せそうなニ人に後ろの仁くんとかえでんと一緒に私も嬉しくなった。

 

「おーい、御節届いたぞー。楓仁、手伝えー」

 

 玄関から海雲さんの大きな声が響く。

 はじめて聞く大声にビックリするが、返事をした仁くんが慌てて玄関に向かった。私も続こうとするも、かえでんに止められると、一枚の葉書を貰う。それは可愛い女の子のイラストが描かれた年賀状。

 

「ふわあああぁぁっ!!!」

「みきさん、あけましておめでとうございます……」

「かえで~~~~んっ!」

「きゃっ!」

 

 恥ずかしそうに笑うかえでんに抱きつく。

 イラスト以外にも『年末最後に私達家族をありがとうございました。夢に向かって頑張ります』と書かれているのを見て、また泣きそうになる。いつの間に涙腺弱くなったのかな。

 

 目尻を擦っていると、御節を持ってきた海雲さんに驚かれましたが、察してくれたのか笑みを浮かべ、和室へと入って行く。私も後でお返し年賀描くぞ!と意気込むと、携帯に何件か“あけおめメール”が届いていることに気付いて開いた。

 

『From*りんちゃん*あけおっめ~** みきっちゃんの春に乾杯b☆d またコミケ土産受け取る時に話を聞かせてね~』

 りんちゃん、コミケは重要だよね! ご主人に内緒のB漫画買ったよ!!

 

『From*ほしりん*あけましておめでとうv 新年早々海雲様んトコでバカしないように。また帰る前に会いましょ**』

 すみません、ほしりん。とっくに土下座しました。

 

『From*タキシード少年*みききんあけおめっー。去年も会えてうれしかった! 彼氏記念に今度メイド服贈るね☆』

 しょしょしょうちん! 嬉しいけど何故メイド服ですか!?

 

『From*なっちゃん*みきちゃん、あけましておめでとうっ! たとえ彼氏が出来ても、私の第二婦人に変わりはないからなっ(泣)』

 なっちゃん、早くも酔ってるのかな?

 

『From*母*ついにお泊り正月おっめ~。しばらく帰ってこなくていいよ。一人満喫しとくから☆』

 ちょちょちょ母! 昨日の涙を返してくださ~~~~い!! ん? 一人?

 

『From*まきたん*縁を切ります』

 きゃああああぁぁぁっ、まきた~~~~ん!!! ……っと、思ったら、改行幾つか空いて『……ウソです。でも帰ってきたら殴る。』。ほっ、ちょっと良かった。

 

『From*なし*寺置です。新年早々素敵な誕生日プレゼントありがとうございました』

 …………あれ? アドレス知らない人からきてるぞ? ん?

 

 ひとまず登録して、ハピバメールを送ろうか考えていると海雲さんが顔を覗かせる。

 お秘書さんからのメールを見せると海雲さんにも来たらしく『先に誕生日失礼、ぼっちゃん』と書かれてあった。海雲さん、ニ月生まれですからね。

 

 苛立った様子の海雲さんの背中を叩きながら和室へ向かうと、みなさんお揃いで、豪華な御節料理が並んでいた。伊勢海老や鯛、大きな物から黒豆や数の子や伊達巻と定番の物まで様々。

 私的にがめ煮がないのは寂しいですけど……あ、がめ煮は一般的に言うと筑前煮のことですよ。

 

 初日と同じ席順で座るが、みなさんの顔は最初よりも優しく楽しそうで、ダンディさんも嬉しそうにお酒を手に持った。

 

「揃ったね。それじゃみんな、新年あけましておめでとう。今年は峰鳶とも一緒で嬉しいよ」

「おうっ、よろしくな海人。今年は忙しくなるぜ」

「ああ、今年も会社と家族共々よろしく」

 

 ダンディさんの声で全員が新年の挨拶を交わし乾杯。

 新しい年がはじまった。

 

 

* * *

 

 

「ちんちくり~ん、海雲。ちょっといらっしゃ~い」

 

 新年の挨拶と食事を済まし、初詣へ行く準備をしていると、かな様に呼び出される。私達は顔を見合わせるが、急いでダンディさんの書斎へ向かった。

 

 ソファには既にダンディさんが座っており、隣にはかな様。

 ニ人に促され、私達も向かいのソファへ座るが……なんか急に緊張してきました。ドキドキしているとダンディさんが笑う。

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。私と華菜子もニ人の婚約について呼んだだけだから」

「無茶苦茶緊張するお話じゃないですか!」

「こういう時もブレないのがちんちくりんよね……」

 

 はっ、しまった! 早速失礼なことを言ってしまった気がする!! 海雲さん、溜め息をつかないで!!!

 涙目になりつつあったが、海雲さんが頭を撫でてくれたおかげで緊張が少し解けた。先に口を開いたのは海雲さん。

 

「ニ人に話さず勝手に婚約したことについては詫びます。でも俺はみきとしか結婚はしない」

「かかかか海雲さん!」

「すっ飛ばして『結婚』って言いやがったわね……」

 

 かな様は呆れているが、間を開けることなくハッキリ言ってくれた海雲さんに胸がドキドキする。ダンディさんが私の方を見ている気がして私も続いた。

 

「わ、私はまだ御二人とも出会って間もないですし、またすぐに福岡へ帰りますが、私も海雲さんのお嫁さん以外は考えられないので良いお嫁さんになれるよう努力します!」

「こっちもすっ飛ばして『お嫁さん』ね……」

 

 あわわ、またかな様が大きな溜め息を……テンパリ過ぎるとダメですね。

 しょんぼりする私だったが、ダンディさんは変わらない表情で私達を見ていることに気付く。

 

「いやいや、ニ人共そこまで想っているなら私は止める気はないよ。みきちゃんのおかげで堅物だった海雲が柔らかくなったしね」

「おい……」

「華菜子もなんだかんだで楽しそうだし良いよね?」

 

 ダンディさん、結構軽い感じですがそれこそ良いんでしょうか?

 それ以前に瞼を閉じ、黙ったままのかな様が怖くて私は未だに胸のドキドキが治まらない。すると、細めた目が開かれると同時に眼鏡も光り、私の肩は勢いよく跳ねた。けれど、変わらず彼女の目を見つめる。

 

「……その目だけは会った時と変わんないわよね。その度胸とバカさ加減に免じて……ま、許してあげるわ。特別にね」

 

 その言葉と優しい笑みに、私の頬を涙が伝う。

 海雲さんも同じ微笑で私の肩を抱き、さらに涙が溢れたが、私の涙が止まるまで三人は待ってくれた。

 

「それじゃ、海雲の話をしようかね」

 

 私はかな様から貰ったハンカチで涙を拭くと、ダンディさんが海雲さんを見る。海雲さんの話?

 瞬きする私に、ダンディさんは微笑を向けた。

 

 

「海雲をね、『Earth』福岡支社の責任者にするんだよ」

 

 

 ────はい?

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