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​モん!

33話*「大変よくできました」
*途中「***」で海雲視点に替わり「***」で戻ります

 時刻は0時を過ぎても一際賑やかな応接間。

 そこで私、海雲さん、ダンディさん、ちーパパさんの四人でお酒を飲んでいた。でも、私の横にいるのは海雲さんではなく……。

 

「よっし嬢ちゃん! 次だ!! 次を入れろ!!!」

「はいっ! ちーパパさん、御代わり入ります!!」

 

 顔を真っ赤にし、愉快に御代わりをする“ちーパパ”さんこと、峰鳶 大地さん。

 同じく顔を真っ赤にし、お酒を注ぐ私は『カモん』に居るよう。そんな楽しく話す私達の向かいにはダンディさんと海雲さんが静かにお酒を飲んでいる。

 私はちーパパさんにお酒を注ぐと海雲さんのところへ行った。

 

「海雲さんも飲んでますか~」

「…………飲んでる」

「みきちゃん……だいぶん酔っているね」

 

 そんなことないですよ~お酒さんは~場を盛り上げる偉い人なのです~。

 楽しい気分になりながら、ちーパパさんのところへ戻ると海雲さんが難しい顔をして額に手を寄せた。

 

「…………そーいえば、みきと飲んだことなかったな」

 

 そう呟くと、ダンディさんが肩をポンポンしている。

 なっかよし親子さんですね~やっぱりギスギスするよりは楽しく~が一番ですよ~うふふ~。

 

 

* * *

 

 

 さて、当人がだいぶんヤバいので俺が説明しよう。

 それは三時間ほど前。みきとの楽しみを止めた御袋に『御酌してこい』と言われた俺達は酒を何本か持って応接間へと入った──が、室内は重たい空気が漂う沈黙の世界。

 

 賢いヤツはすぐにわかるだろう。

 そう、沈黙忍耐十分しかないみきが保つわけがない。また泣き叫ぶと、眉間に皺を寄せる親父達に無理やり強い酒を薦めたのだ。気付けば峰鳶の旦那には頭を撫でられ、身長が低い者同士の話も合い、和気藹々状態……おいおっさん、あんまり手を出すなよ。

 酒に強い俺と親父は静かにニ人の会話に耳を傾ける。

 

「第一よ~俺が先に会社立ち上げてよ~海人(こいつ)ったらドンドン上いきやがって~」

「ほほ~ライバルさんに先を越されたのですね~それは悔しいですね~」

「だろ~だから俺も支部を駆け回っては頼みこんで~ちょっとは上げてよ~」

「おお~社長さん自らとはカッコイイですね~そんな人にこそ美人な奥さんと自分似イケメンの息子に可愛い娘が出来るんですよ~」

「いや~マジ俺にはもったいないな~」

 

 テレテレなおっさんを見るのはすっごい違和感あるな。

 しかし、居酒屋定員の力はすごい。本人は無意識だろうが峰鳶の旦那の背景がわかってくる。てっきり同時期に会社を立ち上げたと思っていたが、親父が後だったのか。そう隣を見ると親父は頬をポリポリ掻く。

 

「それじゃ~会社は楓仁くんが継ぐんですか~?」

「いんやぁ~俺的には願いたいが興味なさそうでよ~かと言って楓には無理だろうし~」

「楓ちゃんは漫画家さん志望ですから~ダメですよ~」

「そいやぁ~千秋のヤツがなんか叱ってたな~漫画ね~俺は別に好きなんので良いと思うけどよ~」

 

 ……なんか新事実が出てくるな。

 いつの間にか楓嬢と仲良くなっていると思ったら共通点があったのか。最後に会った三年前は俺と目も合わせなかったのに、今日は随分止められた。

 

「楓仁くんだって~本当は継ぎたいかもしれないじゃないですか~話しました~?」

「んやぁ~俺もあんま帰れねぇからよ~今日久々会ったんだよ~」

「それはいけませんね~奥さんが華菜子様みたいに実家帰っちゃいますよ~」

「マズいよな~」

 

 おい、みき。それ以上は言ってやるな。親父に鋭い槍が何本も刺さりはじめてるから。

 それにしても楓仁のヤツ、さっき話してバイク以外にも俺みたいに機械系好きそうだったがな。それなら継ぐ気も……明日話してみるか。

 

「家出阻止のためにも~お仕事ファイトですよ~お怒り同士では良い案なんて出ませんからね~」

「だな~海人どうこうより~会社かかってんだしよ~」

 

 肩を落とす峰鳶の旦那に親父は瞼を閉じる。

 何かを考えているようだったが、互いに何も言わなかった。

 

 さすがに一時を回りそうなのを見て、みきを抱っこする。

 ジタバタ暴れたがどうってこともない。親父達は少し飲み直して話すらしいが、峰鳶の旦那がどこか遠くを見ているように見えた。若干心配するが、親父の顔付きも柔らかくなっているのがわかり、部屋を後にすると御袋に会った。と言うより、待っていたが正しいかもしれない。

 応接間での会話を話すと小さな溜め息をつかれ、珍しく弱々しいなと感じた。そこに満面笑顔のみきが顔を出す。

「華菜子様~どうしたですか~気持ち悪いですよ~」

「急に名前で呼ぶアンタの方が気持ち悪いわ、この酔っ払い!」

 良い音が、みきのおでこで鳴った。

 みきは俺の首に手を回し、ぐすぐす泣いている。本音を言ったみきが悪い、うん。

 御袋は大きな溜め息をついているが、その表情はどこかスッキリしているようにも見えた。

 

「ま、ちんちくりんにしては上出来ね」

「……謀ったのか?」

「進まない話に投入すれば面白いかなと思っただけよ」

 

 そう言って怪しい笑みを浮かべる。

 つまり沈黙忍耐十分を利用されたわけで、今度は俺が溜め息をついた。だが、御袋がみきの頭を撫でるのを見て仰天する。

 

「でも、ま……『大変よくできました』ってことで許してあげるわ」

「……どういう意味でだ?」

「さあね……んじゃ、おやすみ~」

 機嫌良く部屋に戻る御袋に明日は雨かもしれないと思ったが、場合によっては晴れかもしれないと口元が緩む。自室に戻るとベッドにみきを下ろすが、さすがの俺も“酔っ払い”を抱く気は起きず、抱きしめるだけで瞼を閉じた。

 

* * *

 

 

「──」

「──」

 

 ぼやぼや~と、誰かと誰かが喋ってるのが聞こえるけど頭が痛い。

 久々の二日酔いキターと唱えながら虚ろな目を開いた。

「……起きたか」

「おはようございます、みっちゃん様」

 

 ベッドに座っているのは髪を下ろしている海雲さん。

 その向かいには私服のお秘書さんが立っていた。まだ朝の七時ですが、上体を起こした私は頭を下げる。

 

「おはようで……す。お秘書さん……私服はじめて……ですね」

「ふふふ、貴女の前ではそうですね。さすがにスーツで福岡には行きたくないですから」

「ああ、そう言えば今日私の代わり……あれ? 夜の便なのにもう行くんですか?」

「ええ、大晦日ですから挨拶だけでも先にと。しかし出る前に起きてくださって助かりました。みっちゃん様には言っておきたいことがあったので」

「な、なんでしょうか!?」

 

 一瞬で目が覚め、背筋がピシーンとしたのは気のせい気のせい。

 海雲さんは苦笑し、お秘書さんはくすくす笑っているが、なんだかいつもとお秘書さんの雰囲気が違う気がする。

 

 すると、膝を折ったお秘書さんと目が合った。

 真正面お秘書さんイケメンですね!、と思っていたら海雲さんに後ろ頭を叩かれる。すみません、浮気しません。頭を下げる私にお秘書さんは笑う。

「ふふふ、大丈夫ですよ。同じ顔でも貴女には欲情しませんので」

「よよよよ欲情ってな……ん、同じ顔?」

 

 とんでもない言葉に思考が持っていかれそうになるが、ハタっと止まる。

 ポクポクとまだ頭が起動してませんが、同じ顔と言われ浮かぶのは一人だけ。首を傾げた私は訊ねた。

 

「まきたんには……するんですか?」

「………………そうですね」

 

 認めたお秘書さんの表情は今までにないぐらい優しい。

 そんな素敵なことに感動や驚くことよりも、私は東京に来る前のことを思い出していた。すると隙間が空いていたピースが埋まるように納得し、苦笑する。

 

「お秘書さん……でしたか」

「おやおや、どういう意味でしょうか」

「その辺は頑張って本人に聞いてください。でも補足するなら……まきはイチゴタルトとココアが大好きですよ」

 微笑む私にお秘書さんは一瞬目を丸くしたが、すぐ瞼を閉じると『ありがとうございます』と小さな声で言った。立ち上がった彼は会釈する。

 

「みき様とお会い出来た事に感謝致します。オマケで海雲様にも礼を」

「おい」

 

 黙っていた海雲さんは苛立った様子でドアに手を向ける。

 くすくす笑うお秘書さんは背を向けると『良いお年を』と言って部屋を後にした。手をブンブン振っていた私はなんだか嬉しいような寂しいような気持ちになり、目尻から薄っらと涙が零れる。

 すると海雲さんに肩を抱かれるばかりか頭も撫でられていると携帯にメールが入った。

 

『From*まきたん*今日って夜七時十分到着の便でいいんだよね?』

 

 ……ああ、ごめんなさい妹様。

 私は今からアナタを裏切ります……さっき以上に心が痛いけど愛だと思って! お姉ちゃんを許して!! 縁を切らないでねーーーーっ!!!

 

 そして何故かその後、海雲さんにベッドで愛されてしまったのは割愛────。

                   本編 / 次​

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