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​カ​モん!

   幕間3*「GJ」
​    ※海雲視点

 目の前には”好きになった子”。

 それも湯上りのバスローブ姿でベッドに横たわっている。なのに聞こえてくるのは安らかな寝息。

 

「マジか……」

 呟きは静かな寝室に虚しく響き渡った。

 

 

* * *

 

 

 日曜は『カモん』に行けなかった。

 『行きたければ仕事をしろ』と言う寺置に苛立ちを覚えたが、殴るのを我慢したおかげで、月曜に博多駅構内にある会議場で行われる話し合いの場に招待された。そこで何社かと商談を取り付けることにも成功し、エレベーターから降りること数歩。

「藤色のお兄さーーん!」

 

 一人にしか呼ばれない声が聞こえた。

 一日会ってないだけで幻聴かと不安になり、声の方を向く。が、知らない人だと顔を戻した。が、手を振る笑顔に覚えがあり、二度見。それは間違いなく彼女だった。

 店で見る時とは違い、髪を下ろして“女性”ぽい服装。

 女は服や髪型だけで変わると内心感心した。当然せっかくのチャンスを逃すわけにもいかず身振り手振りで『待っていろ』とジェスチャーしたが、何故か地面にしゃがみ……どう解釈した!?

 慌てて『違う』と手を振ったが、彼女はわかっていない様子。

 これは彼女の元へ行った方がと考えたところで寺置登場。お前どっから沸いて出た! しかも小バエのような扱いするな!!

 げんなりとしながら会社の人達と別れ戻ると、彼女はいつもの笑顔で大きな爆弾を落とした。

「デートです!」

 

 ……ん? 誰と? 誰が?

 自分でもわかるほど背景にはヒビが入り、ブリザードが吹いている。珍しく寺置も引いている気がしたが、今はどうでもいい。

 そんな俺に気付いているのかいないのか彼女は続けた。

「友達の女の子と遊んでました」

 落ち着きを取り戻すように一息ついたが、実際失念していた。

 店でも人気があるようだし、男相手でも気軽に話す。もしや付き合っている男がいるのか、と。しかし、そんな心配も料亭での提案で吹き飛んだ。

「三人で割り勘しましょう!!!」

 わりかん……割り勘?

 まさか高級料亭で『割り勘』を耳にするとは思わなかった。しかも『三人』と、シッカリ寺置も数に入っている。さすがの寺置も一本取られたようで、勘定云々言う彼女をスルーし、本場のもつ鍋をいただいた。

 こんなに楽しい食事は久々だ……寺置が俺の過去なんぞ喋らなければ。

 夜も遅くなり、彼女も火照ったように頬を赤色に染めていた。

 次はいつ会えるかと考えていると、突然彼女の悲鳴が上がり驚く。だが『家の鍵を忘れた』と脱力した。

 そこで聞いた彼女の家庭は中々に複雑そうだ。

 しかしビジネスホテルは寺置が言うように通報されそうで俺も迷う。実際俺も間違えたからな。可能性を否定出来なかったのもあるが、逃したくはないと、車から出て行く彼女の手を掴んでまでホテルへ来いと言ってしまった。

 ホテルに着いてからも料亭のように支払いや遠慮を続け、少しは甘えてもらいたいところだ。もっともそれは俺に心を許していないせいかもしれない……あ、一瞬凹みそうになった。

 

 彼女を先に風呂へ行かせたが、酒を飲んだ後はマズかったかもしれない。

 反省するように、頭を冷やすように冷蔵庫から出したミネラルウォーターを飲むが、静かな部屋に恋人でもない男女が二人っきり。早まった感が否めないが、別々に寝れば理性は保てる……はずだった。

 

「藤色のお兄さん見てください! ペンギンですよ!!」

 

 頭上で彼女の必死の声が聞こえ、瞼を半分開ける。

 なんだ、その可愛い姿は。なんだ、この生き物。俺は試されているのか。

 心臓がうるさいほど早鐘を打つ。必死に抑えようと彼女の濡れた髪をフード越しに拭いた。いや、ちゃんとタオルで拭け俺。

 理性を総動員するように拭くためだとフードを取る。

 ぱさりと音を立てながら彼女の長い髪が落ちると、幼い顔立ちなのに色っぽさがあった。いかんと髪の話題を振るが、耳を疑う言葉を出される。

 

「彼女さんが……そうとか?」

 

 ……は? 彼女?

 学生時代にいたことはあるが今はいない。と言うより目の前の君が……すると、彼女は恥ずかしそうに目を伏せた。理性が保てるかわからないのに額と額をくっつけ、聞きたかった恋人のことを聞く。その答えを聞くのが怖かったが彼女は言った。

 

「いたことない……ですけど……」

 

 瞬間、誘われるように彼女の肩に顔を埋めた。

 好きとも言っていないのにキスするのは反則だろうとギリギリ理性が働いたからだ。しかし石鹸と彼女にしかない甘美な匂いに我慢は効かず、舌を這わせると赤い花弁を付ける。

 これをつけるのも俺が最初だ……誰にもやらないというように。

「ああっん……んあっ……」

 彼女が啼く度に高揚感に包まれ、背中をなぞり、小さなお尻へと手を這わせる。が、妙な違和感があるのは気のせいか?

 すると首に抱きつかれた。耳元で息を荒くする声にそそられ、うなじにも赤い花弁をつける……と。

「もぅっ……だめぇ……っ……」

「っ!?」

 

 それは俺の台詞だと、言いたいほど厭らしい声が炸裂した。

 とろんとした眼差しがさらに煽ぎ、寝室へ運ぶと押し倒す勢いでベッドに倒れ込み、額にキスしてしまった。しかし、どこかボケている彼女とは思ったがまさか。

 

「気持ちいい……ベッド……」

 

 寝落ちとか、マジか……。

 

 

* * *

 

 

 ある意味理性が切れなくて良かったが、ここまで来て俺の下腹部破裂寸前だ。と言うか、寸止めは身体に悪い。

 しかし髪が濡れたままの彼女を放っておくこともできず、布団の中に入れようと抱えるように背中を撫でた。そこで何も当たらないことに気付く。もしかして……下着付けてないのか?

 

 遠慮がちに胸辺りをローブ越しで触る。

 ふにゃり、と柔らかい感触に彼女ごとベッドに沈む。同時に下着をフロントに頼むのを忘れていた自分を、寝息立てる彼女を呪った。

 だが魔が差したように床に膝を折ると、そろりと彼女の足を開く。

 即ベッドに顔が沈んだのは予想通り穿いてなかったからだ。おかげで直で見てしまった上……割れ目からは蜜が出ていた。ゴクリ、と喉が鳴る。

 最高の料理をお預けされているなんて最悪だ。

 しかも身体は“食べたい”と疼いている。でも食べたくない食べたいを行き来し……少しだけと理性に負け、蜜に口付けた。

 

 “くちゅ”と音を立て舐め上げると、甘い蜜の味が口の中に広がる。

 その音がいっそう欲情を駆り立て、急かすように舌を動かした。水音は止まることなく鳴り響き、蜜が喉を潤わすと『んあっ』と、足を閉じた彼女は横を向く。

 おかげで理性破裂は免れた、ありがとう……多分。

 

 これ以上はマズイと彼女に布団を掛けると、女性スタッフに下着類を着せてもらうよう頼んでから部屋を後にする。行き着く場所は二十四時間営業している室内プール。水着に着替え、勢いのまま泳ぎまくる! こんな夜になんでとか知るか!! 途中で一人で抜いたなんて言えるか!!!

 悲しくなりながら天井を見上げたまま水中を漂う。

 こういう時リゾートホテルで良かったと、親父に感謝するように親指を立てた。GJ(グッジョブ)。

 

 風呂に入って寝室に戻ると、やはり彼女は寝ている。

 それが羨ましいような恨めしいようなで苦笑しながらベッドに入ると、小さな身体を抱きしめた。ふんわりとした抱き心地にまた勃ちそうになるが我慢だ。ちゃんと手に入れてからだ。

 

 全部の君を手に入れて全部を満たす――――必ず。

                    本編 /

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