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​モん!

08話*「気持ちいい」

 降り立った先は福岡タワーとドームの真ん中に建つ高層リゾートホテル! マジですか!! 弁解しますがちゃんと断りましたよ!!!

 

 仲良く話せても藤色のお兄さんはお客さんで年上の男性で……私も女。一応。

 そう呟くと藤色のお兄さんは困った顔をしましたが、お秘書さんの『ご自宅にお送りするよりホテルが近いので行きましょう』笑顔に負けてしまった。

 

 地元ですが入るのははじめて。

 お秘書さんはフロントで話をしていますが、ビクビクの私はつい藤色のお兄さんの後ろに隠れてしまう。そんな私に彼はまた申し訳なさそうに言った。

 

「悪いな……こういうホテルで……」

「あ、いえ、眩しいだけです。でも本当にいいんですか?」

「俺は構わない……明日も『カモん』の近くで仕事があるし送っても行ける。部屋も広いし……問題…………ないだろ」

 

 最後、間があったような気がしましたが、お秘書さんが戻ってきたのでエレベーターへ乗り込む。ハラハラドキドキの緊張もガラス張りに見える夜景にすっ飛んだかのようにテンションが上がってしまった。

 でも階に着くと動悸が速くなる。だってほぼ最上階!

 

 引っ張られるように部屋に入ると、絶景に目を奪われる。

 夜遅く外灯しか灯ってませんが、路を描くように光り、目の前に広がる海も今は静かで別世界。部屋もリビングソファやミニバーと……うん、別世界。

 思考が飛んでいると、明日の予定を話し終えたお秘書さんが部屋から出て行くのに気付く。

 

「あれ? お秘書さんは一緒じゃないんですか?」

「こんな男と仕事以外も一緒なんて嫌ですよ」

「こっちも願い下げだ……」

 

 藤色のお兄さんは溜め息をつくとコートを脱ぐ。

 あれ、つまり私は……と視線をお秘書さんに向けるとニッコリ笑顔。

 

「海雲様とごゆっくりお休みください」

「……お秘書さんも……ゴユックリ……」

 

 片言返事にも構わず、お辞儀をしたお秘書さんは部屋を後にした。

 えーと、つまり私は藤色のお兄さんと……ニ人っきり!?

 い、今から別室……取れるかな……財布の残金はあああぁぁ!!!

 

「辻森さん」

「ふはっいっ!」

 

 不意に呼ばれたせいか、大袈裟なほど身体が跳ねる。

 藤色のお兄さんは苦笑しながら座ったソファを叩く。

 

「俺はソファで寝るから……ベッドを使うといい……」

「いえいえいえいえ! 私が迷惑掛けてる上に藤色のお兄さんの方がお疲れじゃないですか!!」

「いや、女性をソファに……」

 

 互いに引くことなく一悶着ありましたが、結局言い包まれてしまい、お風呂まで先に勧められました。しかもぶくぶくが出てくるし夜景付き……贅沢です。

 それにしても、お秘書さんどころか藤色のお兄さんにも押し負けるなんて……ああ、私どうやってお礼しよう。

 

 結局何も浮かないまま上がると、着替えがないことに気付く。

 置いてあるのは使っていいと言われましたが、さすがに女性用の下着があるわけない。と言うか藤色のお兄さんに彼女さんとかいたら最低なこと……彼女さん、東京にいるのかな。

 ふと考えたことに胸がチクリと痛むが、マイナス思考はダメだと両頬を叩きバスローブを手に取った。

 

 

* * *

 

 

 リビングに行くと藤色のお兄さんはソファに座ってミネラルウォーターを飲んでいた。

 上着を脱いでシャツのボタンを数個空けている姿は色っぽい。そんな彼に私は笑顔で言った。

「藤色のお兄さん見てください! ペンギンですよ!!」

 フードを被り、バタバタと両腕を羽ばたかせる。単純に袖と裾が長いだけですが、ダボダボでペンギンっぽいんです!

 すると藤色のお兄さんは凝視して沈黙。次いでバタリとソファに倒れ込んでしまった。

 

「おおおおお兄さん!?」

 

 急いで駆け寄るが、藤色のお兄さんは俯せのまま何も言わず、私は後悔した。

 

「うわーん、ごめんなさい! バカなことして!! しっかりしてくださーい!!!」

 膝を折り、半泣きで必死に肩を揺する。

 ちょっと明るくいこうと思っただけなのにハズしちゃっいましたよ! そうだ、お秘書さん呼べば!! って、何号室なんですかーーっ!!!

 焦っていると大きな腕が私の頭を撫で、お兄さんの顔が上がる。

 

「……っ大丈夫だ……予想外すぎて……」

「すみません……本当に大丈夫ですか?」

 

 長い袖から手を出すと、お兄さんの頭を同じように撫でる。

 男の人を撫でるのは失礼かなと思うが、お兄さんは微笑んでくれて、顔が熱くなった。けれどすぐ藤色のお兄さんの表情が険しくなる。

「髪が……濡れたままだ……」

「あ、お兄さんがお風呂入っている間に乾かそうと思って。お風呂どうぞ」

 

 そう微笑むと藤色のお兄さんは起き上がり、フード越しに私の頭をガシガシと拭きはじめた。つい寄り掛かる体勢になってしまいましたが、動いたらいけない気がしてジっとしておく。

 まったりしてたらフードを外され、長い髪がパサリと流れた。一房手に取った彼は優しく指先で撫でる。

 

「……長いな」

「子供の頃からですからね。でも天パは絡みやすいので、この際バッサリ切ってみようかなと思ってます」

「……バッサリまでは……しなくていいんじゃないか……」

「お兄さんはロング派ですか? ……彼女さんがそう……とか」

「……は?」

 

 藤色のお兄さんは目を見開く。

 ああ、なんか余計なこと言った気がします。私のバカ!

 脳内で反省していると藤色のお兄さんは溜め息をつき、私の頬に手を寄せる。

 

「……彼女とかいない……」

「ふえ?」

 

 大きな手と言葉に顔を上げると、額と額がコツンと小さく当たった。

 

「君は……彼氏がいるのか……?」

「……いたことない……ですけど……」

 

 あと数センチで唇と唇が届く距離に私の動悸はとても速くなっている。恥ずかしくて顔を逸らすと、藤色のお兄さんが私の肩に顔を埋めた。

 

「ひゃあっ!」

「可愛い声だな……もっと聞きたくなる」

 

 耳元で囁かれるとゾクリと身体中が熱くなり、何故だか下腹部がウズウズする。

 そのまま耳元から首筋まで舐められ吸われるという経験したことない刺激に、自分の声とは思えない声が出た。

 

「ああっん……んあっ……」

 

 大きな手が背中を這ってお尻へ移ると、ゾクゾクがいっそう高まり、首に抱きついてしまった。荒くなった息を整えるが、お兄さんはうなじにも舌を這わせる。

 

「はぅん、ああ……」

「……もっと……啼いてくれ……」

 

 な、泣くんですか!?

 困惑と羞恥でいっぱいの私は彼の耳元で囁いた。

 

「もぅっ……だめぇ……っ……」

「っ!」

 

 ガバッと藤色のお兄さんが顔を上げるが、私は頭がぼーとしていて上手く考えられない。すると急に浮遊感が漂い、気付けば横抱きされ、寝室に運ばれた。

 

 大きなベッドに身体が深く沈む。

 顔を上げると藤色のお兄さんが覆いかぶさり額に小さくキスしてくれた。そのキスがとても優しくて優しくて……。

 

「気持ちいい……」

「辻森……さん……?」

 

 なんて気持ちいい……。

 

 

「……ベッド」

「…………は?」

 

 

 ふわふわなシーツとお酒の影響と感じたことない高揚感に私は……寝落ちた。

 おやすみなさーい……――――。

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