カモん!
21話*「交渉成立」
『俺と結婚を前提にお付き合いしてください』
海雲さんと……けっこんをぜんてい……けっこん。
「けっけこここっここここっん!!?」
「……大事なところで言動が変になるんだな」
額に手を当てた海雲さんは呆れた。
すすすすすすみません! だって突然そんなっ!! というかさっき買ってたのって!!?
内心アタフタ、顔真っ赤な私を、膝を折っている海雲さんが見上げる。
「正式には『婚約指輪』だ」
「こん……やく……?」
「ああ……俺はみきに『愛してる』とは言ったが『付き合おう』とはハッキリ言ってないからな……」
海雲さんはバツが悪そうに視線を逸らす。
いえ、愛してるでも充分な告白だと思うのですがと考え、今度は『告白』の言葉で顔が真っ赤になった。この人はどれほど私の体温を……『好き』を上げる気なんでしょうか。
海雲さんの『好き』がいっぱい身体の中に響き熱くなる。
その一方で黒い想いが覆い、いつの間にか涙が零れていた。両手で顔を覆った私に、慌てて海雲さんは立ち上がる。
「どうした!?」
ぐすぐすと涙を零す頬を彼は優しい両手で包んでくれるが止まらない。
「私……定職就いて……ない……ですし……海雲さん……東京帰る……のにバイト……とったし……」
口から出てくるのは戯言ではない本心。
ちっぽけなことでも、私にとってはいけないことだと捉える事柄。せっかく綺麗にお化粧してもらったのに、ぐしゃぐしゃにしてしまうほど深く考えてしまう。海雲さんがどんな表情をしているのかはわからない。でも、私は独白するように続けた。
「海雲さん……大好きなのに……いつも会いたい……声だけじゃ……なくて……全身で愛されたいって……もう長く一緒……いられないのに……」
「……それでいいじゃないか」
「へ……っ!」
気付いた時には強く抱きしめられ、何呼吸か置いた後に口付けられる。
まだ出逢って間もないのに、何度キスをしただろう。その度に『もっと』と全身が言っているような気がするが、キスはすぐ終わり、離れていった。
「あっ……」
反射的に腕を伸ばし、彼の腰に掴まる。
すると耳元で『みき』と囁かれ、下腹部から蜜が零れた気がした。それを知ってか知らずか、私を抱き上げた海雲さんはタワー側へと歩き出す。そしてまた耳元で囁いた。
「みき……さっき“くちゅり”と音が聞こえたぞ」
「き、気のせいですっ!」
まだ涙目の状態で反論する。
そんな私を下ろした海雲さんはくすくす笑いながらスカートを捲り上げ、脚を両手で掴む。そのまま膝を折ると、あろうことか股の間に顔を埋めた。ショーツ越しに舌で舐められる。
「ふあぁぁぁ……ぁん」
「……どうした? 気のせい……と、言った割りに濡れているような……違うような」
突然の刺激に、背をガラスに預ける。
海雲さんは楽しそうに舌で舐めては隙間から指を一本入れ、淫らな水音を響かせた。
「ほら……濡れている……心については正直でも身体については嘘つきだな」
「そんな……こと……ひゃあっ!」
指で膣内を掻き回され、身体が唸る。
ぐしょぐしょになったショーツは外され冷気に晒されるが、すぐに生暖かい……海雲さんの舌に愛液が吸い込まれていった。
「あぁああ……あぁん!」
「んっ……良い味だ……虜になる」
吸い込む音は卑猥なのに、海雲さんにされているというだけで歓喜に変わる。
脚の間から顔を上げた海雲さんの口には私の蜜がついていた。それを舌で舐め取る姿は夕日の力のせいか色気を増し、ドキドキしながら見つめる。
すると反対向きにされ、ガラスに手をつき、前屈みの格好にされた。
「な……何を!?」
「ん? みきの不安をひとつずつ取り除いてやろうと思ってな……そのために少しお仕置きも必要ってことだ」
お、お仕置きってなんですか!?
そう聞き返そうと思っても、先に胸元をはだけされ、乳房を揉みしだかれてしまった。
「やああぁぁっっん!」
「ひとつ……俺は別に定職に就いてなくても構わない」
「構わないって……ひゃあっん」
乳首をコリコリ捏ね繰り回され引っ張られ、冷たいガラスに押しつけられる。
「あああっ……冷……たい」
「その姿エロいだろうな……目の前で見れないのが残念だ……」
「海雲さ……ん」
「話の続き……どんなに安月給でも後ろめいた事でも、必死にやっているなら立派な仕事だ。それを負い目に感じることは違うと俺は思う。だからバイトを続けたいのなら今のところ構わない……俺のところに永久就職というのが一番良いが」
淫らに掻き回される刺激のせいで、“永久就職”の意味に辿り着くのに時間がかかる。
その間にドレスを脱がされ、パクリと首筋に噛みつかれると、赤い花弁が幾つも散った。
「あ……あぁぁぁ……っ」
「ふたつ……俺が帰るのは今回ばかりは仕方ない。まさかみきと会えるとは思わなかったからな……すべてを愛するみきに……」
「すべ……て……んっ」
振り向けば濃厚な口付けを受け、膣内の指が二本に増えた。
愛液も溢れんばかりに太腿を這うように垂れる。
「今のこの状況……例えば目の前のタワーから双眼鏡で見られていたりしたらどうする……?」
「ひゃぅっ……!?」
「想像したのか? 俺の手がぐしょぐしょになるほど蜜が出てきたぞ……」
「いじ……わ……るぅ……」
「どっちがだ……ともかく出会えたことで俺のやることも変わった……そのための準備に仕方ないが東京に戻る」
淡々と話しながら『離れるのは寂しいがな』の呟きに胸が痛み、膣内にある指を締めつける。
「っ……その準備と合間を取って『婚約期間』ってわけだ……」
「そ……う……ああぁん……!」
指を一気に抜かれ、嬌声を上げた。
力が入らず膝を折ろうとしたが海雲さんは許してくれず、頬に首に背中に舌を這わせられる。すると、スーツの着崩れやズボンのチャックを開く音がした。
その音に全身汗と蜜で濡れていても、胸の高鳴りは止まない。
ガラスに付けた私の左手の上に、一回り以上大きな彼の左手が乗る。日も暮れた夜空と星明かりと一緒に、ガラスが私達を映した。
「そして……最後」
息を乱す彼の吐息を感じていると、目の端に『婚約指輪』を持つ彼の手が映る。涙を零しながら振り向いた。
「いつでもどこでも愛していいのなら、もう我慢せずやる……今みたいに。すぐ離れても手に入れるぞ……いいな?」
「……はいっ!」
「……交渉成立」
柔らかく熱い唇を受け入れると、左手の薬指にそっと指輪が嵌められる。
瞬間、タワーには煌びやかなイルミネーションが一斉に灯るが、後ろから貫く彼の楔に、私は快楽の海に溺れた────。