カモん!
20話*「ペア」
「それじゃ、それで頼む……」
「かしこまりました。少々お待ちください」
海雲さーん、貴方は何をやってるんですかー、ここ宝石屋さんですよねー。
後ろで点目のまま、事の成り行きを見ているしかない私。なぜ?
* * *
なんとか下ろしてもらい、地下街を出て百貨店などを手を繋いで歩く私達。
クリスマスが近いせいかセールもやってますが私はスルー。海雲さんは首を傾げた。
「……ショッピングに興味ないのか?」
「どちらかと言えばないですね。好みのあれば即買しますが、服はまきたんとサイズが同じなので交換したり、母が私達より身長あるので貰ったり……でも海雲さんと一緒のなら嬉しいですよ。ペアルックなんて意外でしたけど」
「……別に。もう一緒に居られる時間がないから何か同じのでも持っておこうと思っただけだ」
その言葉に私も押し黙る。
今日は日曜で、今週の金曜に海雲さんは東京へ帰ってしまう。いわゆる『遠距離』になってしまうのです。遠距離なんて私は大丈夫なんだろうかと一抹の不安が襲うが、まだきていないことに暗くなるのはダメだと海雲さんの後ろに回ると抱きついた。
「大丈夫ですよ。私は海雲さんの彼女で全部海雲さんのものです!」
海雲さんは目を見開くが私は笑顔。
それにしても身長差三十センチ以上は辛いですね! 母は一七十あるのに悔しい!! 天パと元気なとこだけ受け継ぎましたよ!!!
そんなことを考えていると抱き返してくれた。
相変わらず場所を考えてくれませんが、今回は私もなので何も言えません。すると苦笑が聞こえた。
「ここで……その台詞を言うな。ベッドの上で言え……」
「ベ、ベッドじゃ……ちゃんと言えない……ですもん」
頬を赤める私に海雲さんは笑うと手を繋ぎ直し、歩き出す。
そして向かった場所がショーウインドーからキラキラ綺麗な輝きを発する宝石売り場だったのです。なぜ!?
「みき、誕生日はいつだ?」
「え……八月の三十一日……ですけど。海雲さんは?」
「ん、ニ月の二十二日……それじゃこれとそっちので……」
そう言いながら店員さんと話し込んでいる。
よくわからない場所で海雲さんの誕生日を知ったので、あとで携帯にメモしておきましょう。って、店員さん、何が『少々お待ちください』なんですか!? 海雲さんに聞こうと思っても電話中!!? 真剣そうな顔なのでお邪魔できませんね!!!
そんな感じで一人でボーと隅っこの椅子に座って数十分。
店員さんから袋を受け取った海雲さんが戻ってきたと思ったら、私の手を引っ張ってスタスタ歩き出す。
「ど、どうしたんですか?」
「今日はバイトないんだよな?」
「え、はい。火曜から予約がいっぱいあるので、今日と海雲さんが帰る日に休みを取ってます」
「……そうか。明日は定休日だから今夜は泊まれるな」
独り言のように呟きながら駐車場に戻ると車を発進させる。
確かに泊まれます。お泊り道具もちゃっかり用意されてます……けど、なんか聞ける雰囲気でもなく黙っていると、海雲さんが泊まるホテルに到着した。
一週間振りです。と言うかホテルまできたら本当にベッドインでは!? 啼かされる!!?
さっきの深いキスを思い出し早くも顔が赤くなるが、引っ張られるがままエレベーターに乗り込む。けれど、海雲さんの部屋の階を通り越し、最上階で停まった。あれ、押し間違いですか?
手を繋いだまま降りると、スタッフの人達が『お待ちしていました』と礼をし、反射的に私も礼を返した。すると、はいよーはいよーと海雲さんと離され、別室に連れて行かれる。
手を振ってる場合じゃないですよ、海雲さーーーーん!!!
* * *
されるがまま声を掛けられ、閉じていた瞼を開く。
鏡に映るのは胸元がカシュクールになっている白のフィット&フレアのミニワンピ。後ろにはリボンが付き、リボンパンプス。髪も夜会巻きに花のアクセがされ、ネックレスとイヤリング。そして化粧も施された……どちら様ですか!?
混乱する私にスタッフさん方は笑いながら別室へと促す。
扉を開いた場所にはスーツ姿のまま座った海雲さん。でも、私を見た瞬間目を丸くし、慌てて駆け寄った私は肩を揺らした。
「海雲さーーーーん! これ誰!? 誰って思いましたよね!!?」
「……ああ……みき…………だな……」
間が飛び飛びですよ! 馬子にも衣装とか思ったでしょ!! 私も思いますから!!!
「んっ…!」
脳内発狂していると口付けられた。
薄いピンクのグロスが付いていたのに、それごと舐め取られるように全身が蕩けてしまう。唇が離れると小さなリップ音が鳴った。
「……想像以上に綺麗だ……特にその表情は……誘ってるな」
荒い息を吐く私の手を取った海雲さんは椅子から立ち上がり、前へ進む。
左右ガラス張りの窓の先にある福岡タワーとドームは夕日と海が重なり、朝とも昼とも夜とも違う絶景を輝かせている。ここはホテルの屋上にある、スカイチャペル。
「海雲……さん……?」
まったく状況が掴めない私は彼を見つめる。
いつの間にか私達ニ人だけになっているチャペルで、海雲さんの表情は今まで見たこともない綺麗で優しくて……なんか。
「みき」
「は、はいっ!」
見惚れていたせいか、突然の呼び声に身体が跳ねた。
静寂が包んでいるはずなのに動悸が早鐘を打っていて、ない鐘の代わりに響かないか心配になってしまう。けれど、海雲さんの声の方が綺麗に響いた。
「……さっきの言葉をもう一度言ってくれ」
「さっきの?」
どれのことだろうと思い返していると、後ろから抱きついてきた時と言われ思い出す。
でもあの時にはなかった恥ずかしさがあり、もじもじと顔を伏せてしまうが、視線だけ上げた先にいる海雲さんは待っているようにも見えた。それに応えるように必死に口を開く。
「わ……私は……海雲さんの彼女で……全部海雲さんの……もの……です」
「それは……みきの全部は俺のもの……と、解釈しても?」
「……はい」
こんな場所でこんな格好で言葉にするのは恥ずかしい。
でも、溢れる想いはどうしようもなくて、止めることはできない。
「私は……海雲さんが大好きです……愛してま……す」
顔は真っ赤になっていようとも、心も身体も全部この人の前では本心でいようと決めたから、真っ直ぐ海雲さんを見上げた。そんな気持ちが伝わったのか優しい微笑を返される。
「俺も……みきしか愛さない……改めてその証と言葉を君に」
そうして私の前で膝を折り、懐から小さな箱を開けた彼が差し出した物。
それは――――プラチナにダイヤと誕生石のペリドットをあしらったリング。
「俺と結婚を前提にお付き合いしてください」