カモん!
番外編17*「思い出の場所」
それは突然のことでした。
『速報です。今年を以って『なりーワールド』が閉園することが決まりました。『なりーワールド』は今から──』
朝のニュース速報に、朝食を摂っていた私は顔を青褪めると箸を落とす。
「あ……ああ」
「……みき?」
「ママ、どうしたの?」
海雲さんと羽実ちゃんの視線よりも、報じられる内容、映像に私は釘付け。次のニュースがはじまると、震える口を開いた。
「まきたあああぁぁ~~~~んっっ!!!」
突然の叫びに二人は仰天するが、私は泣きながら妹に電話した。なのに『ツーツー』と無機質な音。
なんで~~~~っ!!!
* * *
迎えた今日。天気は晴れ、気温も十ニ月にしては暖かい。
隣を見ると、いつも寒々と震えている妹も嬉しそうに頷いた。
「良い気温だ……」
「良かったね、まきたん! よっし、行こう!!」
「「待て待て待て待て」」
元気に駆け出す私達を止めるのは、海雲さんとお秘書さん。
次いで子供達に抱きしめられると、海雲さんの手が頭に乗った。その顔は不安そう。
「はしゃぐのはわかるが……さすがに今日ばかりは迷子になっても捜せる気がしない」
「大丈夫ですよ! ここは私の庭のようなものですから!! 絶対見つけます!!!」
「心強いが……迷子前提はやめてくれ……そもそも、大晦日の遊園地だぞ?」
徐々に顔を青褪める海雲さんとは反対に、大行列の先にある出入り口から『『なりーワールド』グランドフィナーレ! 開園です!!』と、元気なアナウンスと共に歓声と拍手が沸く。つられるように笑顔で拍手する私に海雲さんは脱力した。
今日は十ニ月三十一日。大晦日。
私たち藤色家と寺置家の七人が訪れたのは、今日で閉園する遊園地『なりーワールド』。異世界探検をコンセプトに小学生の頃に開園し、学生の頃は毎年誕生日に遊びにきていた場所。
成人してからは足が遠退いてしまいましたが、閉園と聞いて訪れないわけにはいきません。
「普通……大晦日を選ぶか?」
「最後ですよ!? 一緒に迎えて、次の冒険を見送らなきゃダメなんですよ!?」
「よくわからんが……冬の戦場を一日諦めるだけの価値があるんだな」
「かなちゃんもだんまりしちゃったもんね」
海雲さんは溜め息をつくが、おんぶされている羽実ちゃんは笑っている。
いつもなら二十九日から三十一日は冬の戦場コミケに参加し、海雲さんの実家で年末年始を過ごしますが、今日のためにコミケ三日目は欠席。かな様も通りもんもんをたくさん持って行くと説得して、明日の飛行機で向かうことを約束しました。
そして迎えた今日。
やっとのこと入園すると、昔と変わらない『なりーワールド』の看板と、探検隊員『なり男』くんの着ぐるみが迎えてくれた。早くも舞い上がっていると、羽実ちゃんを下ろした海雲さんに頭を撫でられる。
先ほどまでの呆れとは違う、優しい笑み。
「そんだけ思い入れあるなら……たくさん遊べ」
「はいっ!!!」
私も笑顔を返すと、まきたんと手を繋ぎ、最後の冒険へと駆け出した。
*
*
*
アトラクションの待ち時間、一、ニ時間は当たり前。
でも、コミケで慣れているし、まきたん達も一緒。制覇は無理でも、懐かしい乗り物やステージショー。数百万個のイルミネーションも灯れば、一日なんてあっという間。
時刻が夜の十一時を回っても、最後であり、大晦日であり、年越しカウントダウン花火も行われるのもあって人は減らない。むしろ最後を見送ろうと増えるばかりで、いっそう賑わっていた。
けれど、さすがに羽実ちゃんどころか、人混みに慣れてない海雲さんもクタクタ。さらに明日の準備もあるため、まきたん達に別れを告げて退園することにした。が、駐車場も帰る車で長蛇の列。
エンジンを掛けることなく運転席に背を預けた海雲さんに、後部席で眠る羽実ちゃんに上着を掛けていた私は提案する。
「私が運転し「いや、大丈夫だ」
即答で断られると、瞬きするしかない。
はっと気付いた私は助手席に座り直すと、彼の腕を掴んだ。
「もしかして怒ってます? また迷子になったこと……」
「それは予想通りだったが……“あの”アナウンスはないだろ」
「ああああれは本当に私いってませんよ!?」
溜め息交じりの視線に慌てて頭を横に振る。
案の定といってはあれですが、はぐれてしまった私を保護してくれたなりー隊員さんが放送をかけてくれた。のですが、なぜか『ぴんぽんぱんな~り。東京都出身、焼き鳥屋で出会ったお嬢様に一目惚れして、真冬の綺麗な海と星空の下でめでたく恋人になって結婚した旦那様。奥様がお待ちなりよ~』と、話してもいないアナウンスまでされたのです。
それから数分後に鬼の形相ながらも顔を真っ赤にした海雲さんが現れ、お秘書さんは大爆笑。まきたんには冷たい目を向けられました。
「で、でもまあ、思い出になりましたし……ね?」
「毎度毎度、迷子の思い出しかないな」
「うえ~ん、ごめんなさ~い!」
間がなかったことに、半泣きで腕へと抱きつく。
すると頭を撫でられ、顔を上げた。コツンと額と額が当たり、鼻同士がくっつく。目の前には口元を緩めた海雲さんの顔。
「けど……楽しかったんだろ?」
「……はい」
笑みを零すと、触れた唇と唇を重ねた。
それはすぐに離れたけど、啄ばむような小さなキスを何度も交わしながら、最後深くなる。羽実ちゃんの寝息にドキドキするが、挿し込まれた舌に身体がビクりと揺れると気持ち良さが増した。
「んっ……あん」
「じゃあもっと……思い出を残しておかないとな」
耳元で囁かれるだけで下腹部が疼く。
さらに耳やうなじに落ちる口付け、服越しに胸を揉まれるとダメだった。身体が前に倒れると抱き留められる。同時に膝に置いた手に硬いモノが触れた。
見上げれば欲情を潜めた目があり、ズボンのファスナーを開くと大きな肉棒を取り出す。先端を指で捏ねながら訊ねた。
「閉園する遊園地の駐車場で……しゃぶられる思い出が……いいんですか?」
「アトラクションを楽しむのとは違う……愉しそうにしゃぶる嫁を覚えていたいんだ」
「旦那様……エロいですね」
頬を赤めたまま両手で肉棒を扱くと、パクリと先端を食(は)んだ。
「っ……どっちがだ」
一瞬呻いた海雲さんは、荒々しく私の髪を撫でる。
その手に合わせるように肉棒をしゃぶる口を速めると、前屈みになった海雲さんの片手がお尻を撫でた。さらに長い指が股に潜り、服越しに秘部を擦っては押し込まれる。
「んぐっ、ふゅんん……」
「濡れている……気がするな……」
息を荒げる海雲さんは両手で秘部を擦る。
その動きが速いせいか、イいところを攻められているせいか、彼が言うように蜜が零れた気がした。身体の疼きも増すが、咥える肉棒の硬さも厚さも同じように増していて、自分だけじゃないことに嬉しくなる。
「っあ……みき……っ!」
「ふゅんんんっっ!」
無意識の内に、ぐっと喉奥まで咥え込むと白濁が口内で噴出す。
独特な精の匂いにクラクラしながらも、吸い切れなかった白濁もちゃんと舌で舐め取った。上体を起こした海雲さんは座席に背を預けると息を吸っては吐く。けれど、未だ白濁を零す先端と頬を擦っている私を見下ろすと、両手を伸ばした。
誘われるように私も起き上がり、彼の首へと手を回す。抱き合えば何度も口付けを交わす。
「んっ、は……んんっ」
「ん……花火が上がってるな」
「え!?」
呟きに唇を離すと振り向く。
見れば、『なりーワールド』の上空を、何万発の鮮やかな花火が舞っていた。普通の形もあれば、ハートや星など様々。とっても綺麗……だけど。
「もしかして、もう0時過ぎました?」
「……寺置に、誕生日おめでとうLINEでも送るか?」
取り出した携帯が0時と新年を報せていることに、私達は沈黙。次第に笑いが込み上げてきた。
「早く出た意味なかったですね~」
「しかも、これからまた混むだろうな……」
くすくす笑う私のように、車の列を見ていた海雲さんも肩を落とす。
けれど、私の顎を持ち上げると顔を近付けた。
「どうする? 明日の飛行機もあるし……また渋滞に巻き込まれる前に帰るか? それとも……」
そっと囁かれると、濡れている股間に、濡れている肉棒がコツンコツンと当たる。花火の音よりもうるさい心臓の音。何より自分を見つめる熱と笑みに答えは出ていた。
ゆっくりと自分で下着ごと脱ぐと、ショーツもぐっしょり濡らした秘部を肉棒の先端に宛がう。眠る娘には内緒、聞こえないように口付けると、花火の音に混じって大きなモノを受け入れた。
小さい頃から通い続けた思い出の場所。
久し振りに訪れると乗り物が小さく感じたり、怖すぎて乗れなかったジェットコースターが乗れたり、どこか古びた建物に永い年月を感じた。片方の手を繋ぐ愛しい旦那様と、片方の手を繋ぐ愛娘の暖かさがいっそうそれを感じさせる。
成長と共に歩んできた場所。
たとえなくなっても、家族と、友達と、新しい家族と刻んできた思い出は消えない。きっとまた懐かしむように思い出す──秘密の情痴と一緒に。
「それで? ちんちくりん、通りもんもんは?」
「そ、それが、飛行機の床に突然穴が開いて落ち……」
「誤魔化すんじゃなーーーーいっっ!!!」
「忘れてごめんなさーーーーいっっ!!!」
思い出より忘れちゃいけないことってありますよねー……────。