カモん!
番外編15*「酔いの災い」
*みき視点からはじまり「***」で視点変わります
今年も残り僅かとなった十ニ月。
温暖化といわれようと寒さは増すばかりで、自然と恋しくなるのが暖かい物。こたつに、もふもふパジャマ、マフラーに手袋、おでんに肉まん、もつ鍋に水炊き、海雲さん。
「最後の違うくない?」
「しょう?」
もつ鍋の締め、ちゃんぽんを啜る私に、鍋を挟んだ向かいに座る双子の妹まきは不機嫌そうに睨む。忘年会シーズンで盛り上がる周りに構わず見つめ合っていると『お待たせな~り!』と、元気な男性店員さんが割って入ってきた。
「酎ハイのカルピスとカシスオレンジ、あと豚バラとつくねな~り」
「ありがとうございまーす。あ、キャベツの追加いいですか?」
「かしこまりな~り」
どこかで会ったことがある気がする店員さんに考え込むが、ま、いいかと、カシスオレンジをまきたんのところに置く。しばらくしてザルを持ってきた店員さんは空になりつつあった大皿にキャベツを足した。お礼を言うと追加のやきとりを乗せる。
「寒い日って人肌恋しくならない?」
「年中くっついてる人が何いってんの」
「そう言って~、まきたんも帰ったら絶対お秘書さんにくっつくでしょ~?」
「な、なんでボクが! そ、そんなわけないじゃん!!」
「またまた~、今いないんだから、遠慮しなくていいんだよ~?」
からかい半分で言うと、まきたんは一気飲みするかのようにグラスを高く上げる。
グラスに隠れた表情を窺い知ることは出来ないが、両頬が赤いのは丸見え。当然それがお酒ではなく恥ずかしさからくるものだと、双子で姉の私にはお見通しです。もちろん指摘すれば怒られるのもわかっているので、くすくす笑いながら豚バラを咥えた。
そんな居酒屋に居るのは私とまきたんだけ。
年末が近付くにつれて海雲さん達は帰りが遅いし、二人で飲もうかと誘ったら珍しく外でのOKをもらったのです。お秘書さんに。
子供達も実母にお願いし、久々姉妹水入らずのトークは話が弾みます。まあ、何年経っても妹から出てくるのは旦那様の愚痴ですけどね。
「でさ、先に寝たら絶対起こすんだよ。帰りが遅いのは自分のくせに!」
「ひえ~、一度寝たら中々起きない上に、超絶不機嫌になるまきたんを起こすなんて……さすが、ドS変態腹黒鬼畜俺様魔王お秘書さん!」
「お願い、外でそれ言わないで……」
大きく頷いた私に、若干顔を青褪めたまきたんは後ろをチラ見した。
衝立を挟んだ奥に座る会社員らしき人達が数名無言になり、女性の中には若干頬を赤くしている人がいる。ごめんなさいと一礼すると、溜め息をついたまきたんは豚バラを咥え、私もグラスに口を付けた。くぴくぴ飲みなが考えるのはお秘書さんのこと。
いつも笑顔で、エスパーかと思うほど察しが良い、海雲さんの秘書。
スケジュール管理はもちろん、一手もニ手も先を読み、決して裏をかかれることはない。むしろ利用して楽しむ……秘書というより、盤上の駒を動かしているような人。
そんな人がまさか妹の旦那さんになって義弟に……。
「姉さん? どうしたの?」
「う、うん……急に寒くなって」
「は?」
ブルリと、なんでか背筋に悪寒が走り、暖かいちゃんぽんを啜る。
お秘書さんはお秘書さんですよねと納得しようとしても、海雲さんの恨み言や妹の愚痴、果ては身内になって嫌というほど理解した恐ろしさにまた悪寒と身震いがした。変態で、鬼畜で、魔王かはわからないけど、ドSで、腹黒の俺様なのは当たってると思う。
そして、小首を傾げている妹が大好き。
私や海雲さんと同じイタズラをしても、まきに怒られている時が一番楽しそうで嬉しそうで、ちゃんと愛してくれているのがわかる。
「むしろ守さん、Mかもね」
「ぶふっ!!!」
「うわっ、ビックリしたっ!」
つい口に出すと、盛大にまきたんが吹いた。咥えていた豚バラが鍋に突っ込んだほど。既にちゃんぽんは空だったので良いお出汁になりそうです。
そんなことを思いながら視線を上げると、咳き込みながらお酒を一気飲みする妹に小首を傾げた。
「まきたん、飲みすぎは身体に悪いよ?」
「そ、そうじゃ……げほっ、げほっ、なくて……姉さん……あいつの名前……げほっ」
「名前? お秘書さん? ドS変態腹黒鬼畜俺様魔王さん? Mさん?」
「そ、それは、あだ名と称号と隠れ……じゃなくて、ま、守って……」
「ああ、そっち!」
合点がいくと、おしぼりを口にあてたまきたんは頷く。
昔の癖で『お秘書さん』と呼んでますが、親戚の集まりなどではさすがに名前呼びです。まあ、滅多に呼ばないので、お酒の力かもしれない。と、言うと、まきたんは頬杖をついた。
「ふーん……」
「ま、まきたん?」
なんでか顔に青筋を立ててる気がする。あ、唇まで尖った。な、何?
だらだらと冷や汗を流していると、お酒を注文したまきたんにチラ見され、ビクッと身体が跳ねる。
「姉さん……」
「はいっ! ごめんなさいっ!!」
「海雲お義兄さんと話しててヤツの話題が出たら、守って言ってね」
「え?」
座布団から下り、土下座していた私は疑問符しか浮かばない。
そこに店員さんがお酒を運んできたが、なんでか四杯も置いた。間違いではないかと思うも、一礼したまきたんは二杯を自分のところに、残りの二杯を私のところに置いた。
あ、あの、まきたん……私、まだ半分残ってるのが……と、口が裂けても言えない状況に黙っていると、グラスを取ったまきたんは微笑んだ。
「それで、S降臨したお義兄さんに苛められるといいよ」
「なんでーーーーーーっっ!!?」
発狂に店がざわつくが、まきはぐびぐびとお酒を飲み干す。
対して私はガクガクと震えていた。何しろ妹の微笑が、まんまキラキラ笑顔の旦那様と被った……つまるところ、それを言ったら海雲さんにも怒られるということ。
ごくりと唾を呑み込むと、残っているグラスを両手で持ち、誓った。
絶対言いませんよ──!!!
* * *
「こ、これは……」
「おやおや」
0時を少し過ぎた、とある居酒屋。
店内で立ち尽くす俺と寺置の目の前には、数本のグラスが置かれたテーブルに突っ伏した嫁達。事前に飲むことも場所も聞いていたため会社帰りに迎えにきたが……どう見ても潰れてるよな?
連絡した時は返事のあったみきも動かないため、そっと肩を叩く。
すると『んん~』と言いながら顔を上げた。その頬は赤く、目もとろんとしているが、にへら~と笑う。
「あ~海雲しゃんと~守しゃんだ~」
一瞬で鳥肌が立つと、顔を青褪めた。
今、ものすっっっっごく違和感のある言葉、というか名を呼ばなかったかと両腕を擦りながら隣を見るが、構わず寺置は自身の嫁を起こしている。凝視していると、みきの両手がコートを掴んだ。
「海雲しゃん~私~Sな~海雲しゃんも~好きですよ~」
「は?」
突拍子もないことを言われ目が点になる。
だが、奥にいる客達がひそひそと見ているのに居た堪れず、コートを着せたみきを抱えた。同じように義妹を抱えた寺置が勘定のため店員を呼ぶと俺に伝票を差し出す。見ると食い物より酒が多い。
「珍しいな……」
「ですね、っだだだ」
「守~守~」
限界値を超えたのか、珍しく義妹が笑顔で寺置を抱きしめては背中を叩いている。花見の席でロクな目に遭ってないせいか距離を取ると店員がやってきた。
「伝票拝見するな~り」
「は? あ!? 俺持ちか!!?」
手にあった伝票に慌てて振り向くが、既に寺置は外に出ていた。
しかもポケットにはいつの間にか車の鍵──運転も俺?
「それで~まきと~守さんは~」
助手席に座るみきは陽気に喋り続けている。
対して、シートベルトを外している俺は相槌を打ちながら運転席に持たれ掛かっていた。腕時計から窓の外に視線を移すが、出てくる気配がないことに内心溜め息を零す。
三十分ほど前に居酒屋を後にし、後部席に寺置達も乗せ帰宅。の、途中で、具合が悪くなった義妹がリバースするといって、近くにあった公園のトイレに駆け込んでいった。そして寺置と共に帰ってこない。
幸い駐車場はあったが、これ以上エンジンを掛けっ放しにしていては車に悪いし近所迷惑だろと上体を起こした。
「……切っても大丈夫か?」
エアコンも消すことになるため訊ねるが、みきはいつもの笑顔を返した。
「大丈夫ですよ~飲んで~暑いですし~まき~守さんと~イチャイチャ~してるんでしょうね~」
そう言ってコートを脱ぎはじめるみきに同意したいが、眉間に皺が寄った。
理由は呼称。みきは殆どの人をあだ名で呼ぶが、完全に酔ってると名前呼びに変わる。聞き慣れない寺置の名がどうしても嫌だ。
「海雲しゃん~どうしました~?」
シートベルトを外し、身を乗り出してきたみきにエンジンを切ると、同じよう顔を寄せる。真っ赤な頬に手を添えると口付けた。
「ん……」
唇は少しカサカサで酒の匂いが強い。
それでも深く口付けると腕を腰に回し、反対の手で服越しに胸を揉んだ。
「なら……俺達も……イチャイチャするか?」
「え……でもんん……」
柔らかくなってきた唇を吸うと、服の中に手を入れる。
みきの視線がチラチラ動くのは夜の駐車場とはいえ街灯はあるし、金曜だけあって未だ人の声が聞こえる。さらに正面は林だが、みき側には車が停まっていて誰かに見られる可能性があるからだ。
酔っているとはいえ羞恥があるのは褒めたいが、構わず片手はお尻を、片手は下着に隠されていた乳房を揉む。
「あっ、あぁ……」
「身体が熱いな……冷やそうか」
「ひゃっ!」
上着をたくし上げれば、乳房が露になる。
徐々に冷えてきた車内のせいか元からか、先端は赤く尖っていて、顔を近付けると舌先で舐めた。
「ああぁ……」
嬌声にまた熱くなった身体のように、お尻の下に潜らせた指先に生暖かいモノがかかる。そのまま秘芽を擦りながら先端を吸っていると、隣の車にカップルが戻ってきた。
『う~、さっみいぃ~』
『早く入ろう』
「か、海雲さ……んっ」
当然やめず、反対の乳房をしゃぶりながらナカに挿れた指をかき回す。ぐっと、俺の頭を抱え込んだみきは必死に声を堪え、卑猥な水音だけが響いた。
しばらくして隣からエンジン音がし、去って行くのがわかると先端を唇で引っ張り、最奥まで指を挿し込んだ。
「ひゃあああぁぁーーーーっっ!」
甲高い声と共に愛液が吹き出し、独特の匂いと熱気が車内に充満する。
達したみきのお尻から手を引っこ抜くと、ショーツごと服を脱がした。ポタポタと愛液がシートを濡らすが、構わずみきを抱えると膝の上に乗せる。胸を晒したまま林側を正面に。
「や……ま、待って……」
息を乱しながら真っ赤な顔を左右に振るが、ズボンのファスナーを下ろしながら耳朶を食(は)む。ビクビクと腰が動くと囁いた。
「Sな俺でも……好きなんだろ?」
「あ、ああ……」
さすがに付き合いも長くなり、SとMも認識している。
それが自分に当てはまるとは思わないが、徐々にみきの身体は熱くなった。愛液を零す場所に屹立した先端を宛がうと、浮かせたみきの腰を一気に下ろす。
「はっ、あああぁ……っ!」
滑るように挿入されたモノに悦ぶ顔がフロントガラスに写る。
それに感化されたように腰を突き動かすと、乳房を荒々しく揉みしだく。卑猥な水音よりも嬌声が響いた。
「ああぁん……イいんっ……気持ち良いで……ふ……っ!」
「じゃあ……ドアガラスに胸を押しつけて……さらに突こうか?」
「そ、それは……や、ああぁ……!」
運転席側は植え込みを挟んですぐ歩道がある。
さほど周りは明るくないとはいえ、見える可能性がさっきよりも高い。それを想像したのか、締まりを強くされた。
「っ……それじゃ、ナカで……果てようか……っ!」
「あ、あああぁぁ……っ!!!」
ぎゅっと抱きしめると、最奥を突いた肉棒から溢れた白液がみきに注がれる。同じように俺自身も支配されていくことは、狭い車内と月夜が隠した──。
* * *
翌日は二日酔いと腰の痛みにベッドでぐすぐす。
心配する羽実ちゃんを他所に頭を撫でる海雲さんは静かに訊ねた。
「寺置の名前は?」
「ドS変態腹黒鬼畜俺様魔王お秘書さん……です」
「よっし」
大変満足そうに頷かれ、羽実ちゃんは小首を傾げる。
涙を零すしかない私は改めて誓った。
もう絶対呼ばないし、お酒も控えます────。