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​モん!

   13話*「答え」

 質問:なぜ飛び出したんですか?

 答え:身体が動いたから!

 回答と同時に勢いよく頭を叩かれた。

 

「いったあ~~いっ!」

「姉さんってバカだよね? バカだったよね? うん、バカだったよ」

「辻森さ~ん、病院ではお静かにお願いしますね」

 微笑ましい姉妹を見るように、看護師さんに軽く注意される。

 まだ頭に包帯を巻いているのに遠慮なしとか、まきたん酷い。シクシク涙目の私はベッドに座って荷物を片付けはじめる。

 あの日『カモん』で、わにはばのおじさまにガラスお冷を投げつけられて三日。

 頭から結構な血が出てましたが幸い脳に異常もなく軽症。でも検査で疲労困憊やらなんやらで軽~く引っ掛かりまして、入院することになってしまいました。そして今日退院なのです。

 

「高校卒業後、一度も健康診断してないんだから当然だよ」

「だって病院の臭いキライなんだも~ん」

「世話になっていながら我侭言うな」

 眉を上げながら見舞いの品を片付けるまきたんに私も手を動かす。

 たった三日の入院なのに大将と奥さん、常連さん、りんちゃんも翌日仕事を休んでまでフルーツやお花を持ってお見舞いに来てくれた。申し訳なさもあったけどやっぱり嬉しかったです。

 でも、その中に藤色のお兄さんの姿はなかった。

 忙しいのもあるだろうし仕方ないと、大事にお財布の中に入れていた名刺を見つめる。すると、まきが溜め息をついた。

「会いたいなら電話すればいいじゃん」

「うひぇっ!?」

「しばらくバイトも休んでいいって言われてるんだし、会って話せば?」

「……忙しい人だから無理は言えないよ」

 えへへと笑ったら小さくデコピンされた。地味に痛い。

 でも、眉を上げたまきは真剣な目を向ける。

 

「そんなんじゃいつまでたっても会えないよ。藤色のお兄さん……だっけ? 好きなんでしょ」

 

 “好き”って言葉に胸の鼓動が速くなる。

 そうだ。ずっとこの鼓動が増えていくのが怖くて、わざと放置していた。“恋”をしてはいけないようで……でもやっとわかった。

 

「うん……藤色のお兄さんが……好き」

「ボクにそれを言われてもね……」

 

 呟いたことにニ人で苦笑する。

 外に目を移すと寒そうな風が吹いていた。でも雲間から陽射しが見え、帰りにどっかまきたんと寄ろうかなと考えていると、ノック音。

 返事をし、扉が開いた先には……藤色のお兄さんと袋を持ったお秘書さん。

 

「うひょほっ!?」

「「「は?」」」

 

 ついに三人がハモった! 毎回ながら藤色のお兄さんタイミング良すぎです!! 心臓バクバクです!!!

 羞恥に顔を真っ赤に染めていると、まきたんが察したように前に出た。

 

「もしかして“藤色のお兄さん”って貴方ですか?」

「……ああ、そうだが」

 

 返事をしたお兄さんにまきたんはニ人を中に促し、ペコリとお辞儀をする。

 

「はじめまして、辻森みきの妹のまきと申します。この度は姉がお世話になりました」

「妹……? ああ、藤色海雲だ。こちらこそ巻き込んでしまって申し訳ない」

「みっちゃん様は双子だったんですね。はじめまして、秘書の寺置と申します」

 

 そう言って三人は名刺交換をする。

 ふむ、そんな風にするのですかと一人頷いている間に交換は終わり、藤色のお兄さんが私の横に椅子を持って来ると腰を下ろした。

 

「体調は……どうだ?」

「もう大丈夫ですよ! 元気ピンピンになったので今日退院です!!」

「そうか……悪いな。早めに見舞いにきたかったんだが片付けることが多くて遅れた」

「こちらは私からのお見舞い品になります」

 

 まきの隣に並ぶお秘書さんが少し大きい袋を差し出す。開けていいと言うのでガサガサ包みを開くと、出てきたのはクッション。しかも!

 

「うわあ、豚バラ型だ!」

「こんなの売ってんだ……」

「ドン●ーってなんでもありますよね」

 

 まきたんと藤色のお兄さんは呆れていますが私の目はキラキラ! 子豚さんの絵もある!! 可愛い!!!

 

「ありがとうございます!」

「いえいえ、喜んでいただけたのなら何よりです。ほら海雲様も」

「……ああ」

 

 促されるように、藤色のお兄さんも小さな袋を取り出す。許可をもらって包みを広げると以前貰ったことのあるチョコレートの箱。

 

「ふおおおお、チョコレート! ありがとうございます!!」

 

 笑顔でお礼を言うと藤色のお兄さんも小さく微笑む。

 それを見たまきは洋服や見舞い品の荷物をまとめると、お秘書さんに声を掛けた。

 

「今日ってもう仕事終わりなんですか?」

「ええ。福岡(こちら)にきてから休みという休みも取れなかったのですが、抗議しまして土日休みをモギ取りました」

「……なら姉さん、帰りは藤色のお兄さんと帰ってよ」

「「へ?」」

 

 藤色のお兄さんとハモる。まきたん、何を言ってるの?

 そんな眼差しをスルーするように妹は続ける。

 

「ボク、今日明けで来たから眠いんだよ。寝ながらの運転もヤだし、荷物は持って帰るから勝手に帰ってきて」

 

 ちょちょちょちょお姉ちゃんを捨てるのっ!? 退院のお姉ちゃんを!!?

 冷や汗をダラダラ流していると今度はお秘書さんがポンっと手を叩き、笑顔で続けた。

 

「それでしたら私がまき様の車を運転しましょう。私の車は海雲様が使ってください」

「は? お前はどうやって帰ってくるんだ?」

「『カモん』で今夜こそ飲んで終電かタクシーで帰ります。先日はビール六杯も誰かさんが飲んで羨ましかったので」

 

 うえええええっ!? あのジョッキの数は藤色のお兄さんが飲んでたんですか!!?

 呆気にとられているとお秘書さんは見舞い品を抱え、まきたんも『よろしく』といった感じ。ちょっとちょっとと慌てるが、ドアに足を向けるまきは口だけを動かした──それは。

 “が・ん・ば・れ”

 激励に、私も意を決したように頷く。

 荷物を持って出て行く二人に、藤色のお兄さんは戸惑った様子で私に訊ねた。

「帰るなら、あのニ人と一緒が良かったんじゃないか?」

「いえ……帰りどこかに行きたいなと思ってたので。もしよかったら一緒に……海でも行きませんか?」

 真実(ほんとう)の私を受け入れてもらえるかわからないけど────伝えたい。

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