カモん!
番外編13*「プール」
暑い暑い夏の日。
テレビで明日も三十度以上になると聞いた私は振り向いた。
「海雲さん、海雲さん! 明日プールに行きませんか!?」
「……プール?」
ソファで新聞を読んでいた海雲さんは顔を上げると瞬きする。
丁度CMでプールが映り、羽実ちゃんと二人キラキラお目めを向けた。海雲さんと羽実ちゃんは私がコミケの戦いに出向いている時に行ったことがあるそうですが、親子では川遊びぐらいしか行ったことない。なのでこれを機に行きましょうと両手を挙げると、海雲さんは新聞を畳んだ。
「なら……水着を買いに行かないとな……あと、浮き輪」
「浮き輪? ああ、羽実ちゃんのですね」
「二つ……」
「二つ?」
首を傾げる私に海雲さんは丸めた新聞紙を羽実ちゃん、そして私に向けた。数秒の沈黙後、笑いながら私は手を横に振る。
「心配しなくてもちゃんと泳げますよ~」
「えっ!?」
「ママ、泳げるの!?」
新聞紙が落ちる音と一緒に仰天の目を二人に向けられる。
瞬きしながら私は小学生の頃に水泳教室に通っていたこと、五十メートルは泳げることを言うと、二人は顔を見合わせた。すると海雲さんは携帯を取り出し電話をかける……相手は。
「あ、もしもし義妹か? ちょっと聞きたいんだが……」
「海雲さあ~ん!」
信じてくれない旦那様の背を叩くが、ソファに上った羽実ちゃんまで必死に耳を寄せている──何故!?
* * *
雲もない晴天の空と燦々の太陽。
さすがに夏休み期間、しかも日曜だけあって海ノ中道にある大型プールは家族連れやカップルで賑わっていた。
『お~い、坊主ども。そこで転けて落ちたら俺の責任になるから走らないな~り』
「変わった……監視員がいるな」
「でも危ないのは本当ですからね。羽実ちゃんも走っちゃダメですよ」
「ママもね」
ピンクとオレンジのグラデーションが掛かったワンピース水着の私と、花柄ワンピース水着の羽実ちゃんは同じ笑顔。でも、信用されてない感に頬を膨らませた私は海雲さんを見る。が、青の海パンだけの姿に頬が萎んだ。
理由は周りの女性達がチラ見するほど腹筋も割れた逞しい上半身が丸見えだから。プールだから当たり前。でも、私自身明るいところで見ることが少ないせいか、新鮮で凝視してしまう。
「…………なんだ?」
「おお~硬い」
なんとも言えない顔で見下ろされる私は胸板をペチペチ叩く。
異性の身体を観察してしまうのは絵描きの性。でも、抱きしめられた時に硬さなどは微塵も感じない。むしろ布団のように心地良く、両手で片方の手を握る。その手の平も指も私の倍以上長くて指も太い。この指が、いつも私のあそこに……。
「ママ、あげタコさんになってるよ」
「羽実、茹でダコだ……手がどうかしたのか?」
「へ、あ、いえっ、なんでもないです!」
とんでもないことを考えていたことに気付くと慌てて離れる。
すると握っていた手が背中へ回り、押されるように胸板に落ちた。当たると少し痛かったけど、やっぱり気持ち良く感じてしまうのは頭を撫でてくれるせいかもしれない。
嬉しさを伝えるように頬を擦っていると、頭上からくすりと笑う声。
「あまり……はしゃぐなよ。拉致られるから」
「拉致って、もう何度も言いますが大丈夫ですって……」
苦笑しながら顔を上げると、すぐ目の前には端正な海雲さんの顔。
見惚れている隙に首筋に吸いつかれ、ちりっとした痛みに声を上げそうになるが、耳に届くざわつきになんとか堪える。唇が離れると吸われたところがジンジン痛み、痕がついたのがわかった。手で隠す私に、海雲さんは小さな弧を口元に描く。
「みきのはしゃぐ姿は可愛いからな」
「ひゃうっ!?」
間もないストレートな言葉に、耳まで真っ赤になる。
それは周りも同じで、中には子供の耳を塞ぐ親御さんもいた。羽実ちゃんに浮き輪を被せた海雲さんは私の手を優しく包み込むように握る。
「離れるなよ……みき」
何も恥ずかしくないと言うように引かれる手と笑み。
それは昔と何も変わらず、私も笑顔で頷いた。だって、幸せだから。
* * *
そう、幸せです。幸せですよ、とても。
何も不満なんてありません。ありませんよ。あるとすれば自分がひとつのことに没頭し易いということでしょうか。
「みき」
「はい、申し訳ありませんでした」
日避けとして張られた施設テントの下で土下座する私。
周囲は何事かと目を向けるが、羽実ちゃんはなんでもない様子で背中を向け、お電話中。そんな愛娘とは違い私の動悸が激しいのは壁際に背を預け、パーカーを着て座る旦那様。眉を顰めている姿に、ペンギン水族館同様怒っているのがわかり、深々と頭を下げた。
「この度は別れという名の流れに遭ってしま「比喩的表現はいい」
スッパリと切られ、背中が大きく跳ねる。
大きな溜め息までつかれると冷や汗がダラダラ流れ、夏とは思えないほど身体が冷えてきた。
それもこれも自分が案の定と言うか、はぐれてしまったせい。
途中までは三人一緒だったのですが、流水プールで人にぶつかってしまった私は羽実ちゃんの浮き輪を離してしまい、文字通り流されてしまったのです。綺麗に人込みを分けながら……突然のことに、泳げる泳げないは関係ないようです。
目尻が熱くなっていると頭に手を置かれ、顔を上げる。
そこには先ほどまで上がっていた眉も肩も落としている海雲さん。呆れを通り越して見放されてしまったのかと震えはじめると腕を捕まれる。そのまま引っ張られると抱きしめられた。丁寧に扱うように撫でられる髪に、不安が消えていく。
「助けられなかった俺も悪いし、無事合流出来た……本当なら怒ることではないんだが……」
見放されてはいないと知り、安堵の息をつくように私は見上げる。でも、怒ってないと言いながらもどこか不満そうに見つめられ、首を傾げた。海雲さんの眉がまた上がる。
「やきとり売ってた時は……無性に腹が立った」
「ええっ!?」
まさかの話に驚くと同時に思い出す。
はぐれた場合ロッカー近くに集合と決めていたので早歩きで向かった私。まだ海雲さんと羽実ちゃんは見当たらず待ってると、なりなり口調が印象的だった監視員さんに声を掛けられた。そして何故かやきとり屋の売り子をすることになったのです。彼曰く、暇で適任そうだったから。
見事『カモん』での力を発揮した私は海雲さんと羽実ちゃんを唖然とさせ、お礼にやきとり数十本と飲み物をいただきました。
「いや~、あのなりなりさん、お口がお上手でついっあ……」
笑って誤魔化そうとしたが、口に一本の指が挿し込まれる。
ぐちゅぐちゅと音を鳴らすように動く指。でも周りには大勢の人がいて、見られないよう慌てて顔を埋めた。自分で抜こうとしても意地悪されそうで、されるがまま指をしゃぶる。
「んっ、ふぁ……ん」
「往来の場で……美味しそうに食べて誘うのか」
「ふぁ……あっ!」
なんのことだろうと喘いでいると急に指を引っこ抜かれた。
寂しさから顔を上げると唇が重なり、抱かれた身体は壁際へと寄せられる。大きな胸板が周りから隠すように塞ぎ、口付けを早めていく。
「んっ……はっん……あ」
「そんなに俺が……怒ってると思ってるのか?」
「だって……ん、腹が立ったって……」
「ああ、デレデレとした顔で……受け取る連中にな」
「はぃ……?」
唇が離され出た言葉に目を丸くする。でも直ぐ背中を押され、バランスを崩した身体は彼の膝に落ちた。俯けの頬に当たるのは、布越しに膨れ上がったモノ。上を向いているのがわかると頭を撫でられる。
「ヤツらにしていた給仕のように、俺もしてもらおうか」
「きゅ、給仕なんてことして……あ」
ただの接客だと否定するが、懐に潜った手に胸を揉まれる。水着越しでも簡単に先端を捉えられてしまい、顔を股に埋め直した。
「尖ってるようだが……まさかそのまま接客してたわけじゃないよな?」
「そ、そんなわけ……ないで……す……あぁ」
首を横に振ると水着の中に手が入り込み、直に先端を摘まれた。そればかりか反対の手も股へと潜り、下腹部を擦る。刺激と一緒に周りの視線を浴びている気がして、羞恥から身体を無意識に丸めた。それがよくなかったのか、先端も下腹部も手の平で転がされる。
「あっ、んああ……」
慣れ親しんだ手と疼く身体は自然と動き、頬に膨れ上がったモノが当たる。
喘ぎを塞ぐように布越しのソレへと食いつくと、頭上から甘い吐息が落ちてきた。でも、口内に感じるのは硬さだけ。口を離し、また食いついても、どこかもどかしさを感じた。
「なんだ……寂しそうな顔して……欲しいのか?」
「あふっ……ん、欲しい……ですけど……」
下腹部から離れた手に頬を撫でられると素直を口にする。
この手に充分な刺激を受けた身体は太陽に当たってないのに火照り、下腹は堪え切れないほど疼いていた。でも周りの目があると理性も残っている。
そんな私の頭に何かが被さった。見れば海雲さんが着ていたパーカー。同時に胸を弄る手が荒さを増し、指で先端を押し込まれた。
「ひゃっ!」
「顔を隠しても、声を出しちゃ意味がないぞ」
「で、でも……」
「欲しいんだろ、みき?」
パーカー越しに囁く声はとても意地悪で、また下腹部に手が潜ると秘部に指が挿し込まれた。ぐちゅぐちゅと鳴る卑猥音が周囲に聞こえないか心配になる。でも今は、来た時に見ていた指が入っていることを考えてしまう。
気付けば膣内で締めつけ、頭上から呻きのようなものが聞こえた。
官能をくすぐる声に理性が弾けた私はパーカーに隠れたまま、彼の股から大きくなったモノを取り出す。脈動を打つ速さが両手に伝わり、チロリと舐めると迷うことなくしゃぶりついた。
「っく、あ……」
「んっ、はふ、んんっ……」
布越しではない、欲しかったモノが口内を満たしていく。
両手で袋を捏ねながら亀頭から零れる白液を舐めては呑み込み、またしゃぶる。そこに光が挿し込むと、頭で太陽を遮った海雲さんが汗を流しながら顔を覗き込んだ。
「蓋を開ければしゃぶりついている妻……エロいな」
「不機嫌な旦那しゃまへのご奉仕……?」
「確かに……給仕しろと言ったのは俺か。なら、膝に乗って挿入も出来るな?」
意地悪と一緒に饒舌になった旦那様の声は、もう命令にしか聞こえない。
それでもさすがに挿入は躊躇ってしまい顔を背けると、膣内に挿し込まれた指が前後に激しく動かされた。
「あっ、あああ……ダメぇ」
「今日はえらく指が好きみたいだからな……膝に乗れないなら、こっちでイかせてやってもいいぞ」
「そ、それはあぁあ……」
卑猥な水音と刺激が増す。
確かに今日は指に敏感。でも、指と肉棒の違いを知っている私はパーカーを頭に被ったまま彼の首に両腕を回した。同じように背中に両腕が回ると、褒めるように頭を撫でられる。そして頬と額に口付けが落ちた。
「羽実もこっち見ないし、揃って良い子だ……」
「一緒にされると、なんだか妬いちゃいます……」
何故だか胸の奥がツンとした気がして、肉棒を股に挟んだまま頬を膨らませた。それが珍しかったのか、数度瞬きする海雲さんに私は顔を逸らした。すると、ふっと小さく笑われる。
「それがさっきまでの俺の気持ちだ」
「へ……あっ!」
顔を戻す前に腰を持ち上げられ、水着の隙間から入ってきた肉棒が秘部を突く。浅く入る先端に私は肩に顔を埋めるが、パーカーから出ていた耳朶を甘噛みされた。
「ひゃっ……あぁっ」
「嫉妬分を互いに埋めようか……みき」
甘く囁く声と一緒に、先端だけの肉棒が擦られる。
それは布越しにしゃぶりついた時と同じもどかしさで、顔を上げた私は紅潮した頬のまま微笑んだ。
「はい……一緒イきます」
場所を考える理性は消えている。
それでも知られたくないのは本当で、内緒の情痴をするようにパーカーを深く被ったまま口付けた。応える唇も腕も優しく、零れる愛液を、全身を満たすように腰を下ろす。
貫く刺激は汗とは違う飛沫を吹かせ、ただ愛欲に溺れた。
* * *
目が覚めると停車した車の中。
窓からは夕日が射し込むが、何故か目の前に見える旗には『金印ドック』と書かれてある。寝ぼけた頭で考えていると、横からホットドックが入った袋を差し出された。
「食えそうか……?」
「食べますぅ……」
運転席の海雲さんから受け取ると、美味しそうな匂いをさせるホットドック。
それはプールのある海ノ中道から陸続きにある志賀島手前にあるワゴンタイプの車で売られてる『金印ドック』。地元ではちょっと有名で、カリカリのパンにはイカのフライとステーキが挟まれた豪華仕様。でも金印がつく理由は知りません。志賀島で金印が見つかったから?
それよりも何故ここにいるのか訊ねると、同じように金印ドックを食べる羽実ちゃんが後部席から顔を出した。
「しーちゃん達をまってるの」
「紫苑くん?」
突然出てきた妹の息子名に瞬きすると、携帯を仕舞った海雲さんが口を挟む。
「羽実が電話したら寺置達が志賀島にいるのがわかってな……取り合えず合流して、晩飯の話でもしようってことになったんだ」
「じゃあ、まきたんは海に行ってたんですね。何したのかな~」
志賀島には海水浴場があり、双子の共鳴的なことを考える。でも、ゆっくりと海雲さんの顔が逸らされた。その目はどこか遠くを見ている気がする。
「……………………こっちと大差ないだろ」
「あ、まもちゃんの車だ!」
中々に長い間を空けられると、パワーウインドーを下げた羽実ちゃんが手を振る。その声に振り向くと、見覚えのある車。
運転席には変わらず微笑むお秘書さん、後部席からは紫苑くんとりまちゃんが顔を出している。でも助手席には息絶えたようにぐったりとしている妹。
車を降りた私は、そっと金印ドックの半分を妹に渡した……────。