カモん!
06話*「デート」
月曜午前の博多駅改札前。
いつもはラフな格好の私もチェックのチュニックにレギンス、ニットカーディガン。さらに髪は流し、両房を後ろで緩くシュシュで留め、ショルダーバックを掛けたお出かけスタイル。
改札が見える壁に背を預けたまま待つこと数分。
ごった返す改札付近に見知った人を見つけると互いに手を振った。
「みきっちゃ~ん!」
「りんちゃん、久し振り~!」
今日は友達の“りんちゃん”こと、仲畑 香織ちゃんとデートです!
* * *
りんちゃんは高校の同級生で親友。
一六五センチで、ストレート茶髪のボブヘアー。マキシ丈ワンピとシャツにシッカリとしたお化粧、とても美人さんなのです。
構内にあるカフェで注文すると訊ねる。
「そういえば、こうちゃんは?」
「主人が休みだから任せてきた」
“こうちゃん”とはニ歳になる彼女の息子、幸喜くんのこと。
りんちゃんはニ十ニ歳の時に大学時代から付き合っていた人と結婚した一児のママで、子育てしながらWEBデザイナーをしているのです。
「じゃあ別の日にすれば良かったね」
「ううん。夜に食事行こうって約束してるし、久々みきっちゃんと会えるなら全然」
そう言って、りんちゃんはOKサインを作る。
こうやって気兼ねに話せる友達は少ないので嬉しくて笑顔になると、指で額をぐりぐり押された。
「や~め~て~」
「ふふふ、ついイジメたくなるのよね。で、みきっちゃんは最近どう? ついに彼氏とか」
「ん? 変わらず『カモん』でバイトしてるだけだよ」
「……もうちょっと変化あってから会いたいわ」
溜め息をつかれてしまった。謝るべきでしょうか……ごめん!、と、内心謝ると、ふと藤色のお兄さんとお秘書さんを思い出す。
「そう言えばイケメンさんが来てくれたよ」
「どんな人っ!?」
目を輝かせながら身を乗り出す彼女はメンクイ。ご主人、フツー顔ののほほんな人だけど。
苦笑しながらニ,三日前の出来事を話すと、カップを持ったりんちゃんは考え込むように呟いた。
「Earthって……もしかして東京の企業メーカーの?」
「知ってるの?」
「最近市場で注目されてるわよ。ウチの会社でも導入するか話が来てたし……社長の名前が藤色だったから、息子じゃない?」
まさかの情報に口が開いたままになる。
ふへー息子さん。そう言えば仕立ての良いコート着てたし、車もピッカピカ光ってましたもんね。そんな人が来てくれるなんてありがたやありがたや。
感謝するように拝んでいると、呆れた眼差しを向けられた気がした。でもそこはりんちゃん。気にせず紅茶飲んでます。
「そんで、その人にドッキューン!って、ときめいたとか好きになっちゃったとかは?」
「んー……子豚さんが矢を放った気はするけど、カッコイイーって思ったぐらいかな」
「子豚……は、まあいいか。昨日は来なかったの?」
「うん。今日は『カモん』定休日だし……東京から来たならそんなに長くいないと思うよ」
そう考えるとちょっと寂しくなってしょんぼりしていると、りんちゃんに頭を撫でられた。
「あたしも主人に告られた時は『絶対付き合えない』って思ったけどさ、十分でも喋って一緒過ごすと変わるもんだよ。なんて言うか人間性も見えるし、途中からドッキューンって爆発したし!」
力説するように拳を握るりんちゃん。
最初は『うざい男が!』って怒鳴ってたのに、今は幸せそうで私はくすくす笑う。すると恥ずかしそうに怒られてしまい頭を下げた。同時に思うのは、私ももう少し喋ったり一緒にいたら何か変わるのかなということ。
初恋とは違う気持ちに胸の奥で戸惑いが広がる気がした。
それを抑えるようにショッピングやゲーセンを見て回る。
互いにアニメや漫画が好きなせいか、一番盛り上がったのはアニメショップかもしれない。戦利品を手にふと窓を見ると夜空が見える夕刻へと変わり、時刻も六時を回っていた。
「じゃあね、みきっちゃん。今度は幸喜も連れてくるから遊んでやって」
「うん、また連絡するね!」
旦那さんと食事に行くりんちゃんと改札口前で抱き合うと見送る。
帰宅時間のせいか大勢の人が行き交い、私も切符を買おうと鞄から財布を取り出した。が。
「あれ……ない?」
財布はあるのに“ある物”が見当たらず、慌てて切符売り場から離れると鞄の中を探る。と、エレベーターからスーツ姿のおじ様達が出てきた。上の階で会議でもあったのかなと考えていると、見知った顔に気付く。
「藤色のお兄さーーん!」
つい声を上げて手を振ってしまい注目を浴びる。
藤色のお兄さんも一瞬こっちを見たが、すぐに顔を戻してしまった。
が、仰天した顔付きで向き直した────なぜ?