番外編6*旅行
ぽかぽかと気持ち良い太陽と青い空。
ウグイスも綺麗な声で『ホー、ホケキョ』と鳴いている。すると、目の前に大きなイチゴが現れた。イ、イチゴ!
目を爛々に輝かせながら向かうが、突如晴れていた太陽が月に、青かった空が真っ暗に変わる。終いにはウグイスすら『マーケッカ!』と意味不明な事を言い出し、イチゴも消えはじめた。慌ててボクは飛び付く──。
「…………アンタ、何やってんの?」
「まきが途中で起きるなんて珍しいですね」
駐車した車内で目覚めると、窓から射し込む夕日。
助手席のシートを半分倒したボクのシートベルトは外され、上着とブラも捲くし上げられていた。が、丸見えの双丘よりも跨る眼鏡の男を睨む。すると、弧を描いていた唇に尖った先端を吸われた。
「あっ、ちょっ……!」
「んっ……途中で起きられると……興奮が増しますね」
「こんのっ……変態、あぁっ」
両手で乳房を揉み込まれると先端を舐めては転がされる。
甘噛みまでされるといっそう身体が跳ねるが、狭い車内と跨る身体にどうすることも出来ず、息を荒げるだけ。冷たい眼鏡が頬に当たると耳元で囁かれた。
「“妻”に興奮するのは“夫”として当然だろ?」
「っ!」
声と吐息だけで全身が熱くなると、互いの結婚指輪が光る。
そう、ボクはついに魔王と言う名の寺置守に嫁ぎ、地獄のツアーと言う名の新婚旅行に来たのだ。名前も辻森まきから寺置まきに変わり円満──。
「……け……か」
「はい?」
「マーケッカー(負けるか)!!!」
「っだ!!!」
旦那になろうが変わらず頭突きをお見舞いしてやった。
* * *
三月に双子の姉みきと海雲お義兄さんと一緒に式を挙げたボクら。
そんな二人よりも先に婚姻届を出す男に離婚届の紙を取ろうとしたが阻止され、あっちゅう間に夫婦。マジかい。
早速何をされるか内心ヒヤヒヤドキドキしたが、さすがに魔王も支社創設、ボクも新人教育で忙しく、前と変わらない生活が続いた。
それが一段落した頃『新居どうします?』と聞かれ『姉さんとあんま離れたくない』と呟いたら、なんと藤色家が購入したマンションの隣室になってしまった。引っ越し蕎麦を持って挨拶しに行った時の二人の点目をボクは忘れない。ごめん。
同時期に新婚旅行の話が出たため即却下したが『じゃ、勝手に決めときますね』と、変わらず笑顔無視で近県旅行三泊四日、今日に至る。
老舗旅館にチェックインを済ませたボク達が泊まるのは離れの部屋で檜の露天風呂付き。玄関入ってすぐ荷物を落とした。
「どうしました、まき」
背後で頭突き後も変わらず笑みを浮かべる男が玄関扉と鍵を閉めた。
その音に肩が大きく跳ねると後ろから抱きしめられる。横から顔を覗かせるのは魔王。
「なんで結婚後も“魔王”なんですかね? ちゃんと私には“守”と言う名前があるのに」
「いや……もうどっちが相応しいか読者に聞いても同じだよ」
「ふふふ、そんな可愛い事を言う奥様には期待通り露天風呂エッチをしてあげましょうかね。けど、その前に」
想像していた内容を耳元で囁かれ、顔が熱くなる。
が、腕を引っ張られ、格子で出来た玄関扉に押し付けられると唇を奪われた。良く知る舌が口内を混ぜ、片手で動く身体を止めると、反対の手でズボンとショーツを下ろされる。
「ちょっ……何……あんっ」
「んっ……お風呂エッチの前に……玄関エッチが……先だろ」
うおおおぉぉーーいっ! なんだよそれ!! 一歩入っての罠!!?
そんなツッコミを入れている間に長い指がニ本秘部に押し込まれ、水音と玄関扉が揺れる音を響かせる。
「あんっ、待っ……」
「さっき車内で出来なかったからな……溜まってるんだ」
「溜ま……っ!」
首筋を舐めながら指がほどよくナカを解していくと、彼は自身のズボンチャックを開いた。そして『準備万端☆』といった雄雄しく勃起した肉棒を取り出す。行き先は言わずもがな、片脚を上げられるとすぐ指を抜いた膣内へと挿入した。
「ああぁーーっっ!!!」
「あっ……まき……もっと奥」
両脚を持ち上げられ、慌てて彼の首に両腕を回すと抱き上げられる。
同時に繋がった場所は深くなり、狭かった膣内が徐々に広がりはじめた。口付け、身体を揺すって刺激を与える男は汗を流しながら笑みを零す。
「ナカ……出すから名前……呼べ」
「まおおおおおうっっ!」
「そっちじゃなくて……あー……萎えたじゃないですか」
口調が戻ると同時に彼のモノが萎んだ気がした。
大きく息を吐いた魔王は繋がったまま座るが、当然その刺激も大きい。
「ちょっ、抜いてから……あぁあん!」
「まき、名前呼んで中出しさせてくださいよ」
「人の話を聞けっ……あぁ」
不満そうに胸を揉む男の意図がわからず、息を荒げたまま顔を近付ける。小さな口付けにボクは片眉を上げた。
「何……何に怒ってんの?」
「いえ、名前を呼ばれないのが寂しくて」
「はあぁっ?」
「愛しい妻に呼ばれないなんて愛されてないみたいじゃないですか。だから妊娠の兆候もないのかなと」
不満そうにボクのお腹をペチペチ叩く男に唖然。
だが、眉を落としていたはずの男はすぐ笑みを浮かべ、ボクの腰を持つと上下に浮かしては落とした。
「んあああぁぁっ!」
「と言うわけで……今日はいっぱい呼んでくださいね」
「まおおおおおっっ!」
「いや、だから……仕方ないですね。では、第二ラウンドのお風呂に行きましょうか」
溜め息をつきながら肉棒を抜かれる。
あれだけされてもイかない自分が怖いと思いつつ、ボクを抱えたまま風呂に向かおうとする男の肩を叩いた。振り向いた彼を睨む。
「次……ボクのターン……」
「さすが、まき。素直に行かせてはくれませんか」
「いや……望みの風呂には行くよ……行ってやる……昼間だけで疲れたんだから」
観光がメインのはずなのに、場所を弁えない男にどこでも求められ、何枚ショーツを変えたかわからない。そんだけ変えを持ってきていたボクもなんとも言えないが……だからこそゆっくり風呂に入るんだ! せっかくの温泉!! 日頃の疲れも癒してやる!!!
ボクの目が燃えているのに気付いたのか、旦那は若干後退りしながら笑みを向けた。
「本当にゆっくり出来ると思ってるんですか?」
「ふっふっふっ、ボクを甘くみるなーーーーっっ!!!」
大浴場──男湯← →女湯
「じゃ、一時間後ね」
浴衣を手に、スリッパを履いて大浴場の出入口に立つボクら。
露天風呂が部屋に付いていようと大体どの旅館にも大浴場はある。それを楽しむのも旅行のひとつだと頷くボクに、隣の男は額に手を当てた。
「…………さすがまきと言ったところでしょうか……負けました」
「一勝一敗ね」
「ええ、仕方ありません。私も湯に浸かりながら第三ラウンドを考えましょう」
大きな溜め息を吐きながら、ボクの頭を撫でた男は素直に男湯へと姿を消した。
なんかアッサリしてて怖いな……つーか車内のアレは入らない……だろうな。まあ、ともかく風呂だ。
湯煙が舞う岩風呂でしっかりと肩まで浸かるボク。
時間帯的に利用客も多いのに静かだと思えるのは、結婚後もじゃれるように邪魔してた男のせいだろう。ホントあの魔王……じゃないや、寺置さん。いや、ボクももう“寺置”か。
考えただけで顔まで真っ赤になり、縁に座る。自然と指輪に視線が落ちた。
顔が熱くなるのも名前を呼べないのも、まだ結婚したって実感がないせいなのか。ううん、ちゃんと“好き”だよ……一緒なれるって喜んだよ……でも。
「素直になれないんだよなー……」
思うのは簡単なのに言葉は反対のことを言ってしまう。そんな性格を直したくても直せない自分はすぐ嫌われてしまいそうだ。あ……考えただけで落ち込んできた。コンチクショー。
そんな不安から早めに上がり、浴衣を着て髪を乾かす。
せっかくの新婚旅行なんだからちゃんと名前で呼ぼう、もう“恋人”じゃなくて“夫婦”なんだから呼んでいいんだ。お構いなしだ。
そう決意したように両頬を叩くと、のれんから出る──が。
「ええ~、お兄さん既婚者なの?」
「そうなんですよ。申し訳ありませんが別の方をお誘いください」
逆ナンを受けている男に転けそうになった。
て言うか出てくんの早くないか!? まだ三十分ぐらいだぞ!!?
突然のことに、自販機の後ろに隠れると様子を窺う。
バッチリと浴衣を着こなした男の髪はまだ濡れているのか、緩いウェーブはなく、どこか幼くも見えた。だが結局は水も滴るなんとやらで、女性ニ人の頬は赤い。
「でも、まだ奥さん出てきてないんでしょ?」
「一緒に卓球でもしようよ」
おいおい、そいつと卓球しても一点も取れず終わるぞ。やめとけ。いや、ボクは頑張るけど……じゃなくて。
他の女性と話している所をあまり見たことないせいか胸の奥がズキズキする。しかも胸も身長もあるけど、ボクと同い年っぽいし……なんかムカムカしてきた。
このまま一人で部屋に戻ろうかと考えるが、口を開く彼の表情に目を瞠る。
「申し訳ありませんが、大事な妻を置いて他の女性と遊ぶのは浮気と同等と思っていますので、お引取りください」
それは久し振りに見る“いつもの”笑みだった。
ボクにはもう見せない“偽り”の彼に全身が熱く胸が高鳴ると、無意識にスリッパを脱ぎ、自販機から出る。足音も立てず背を向ける男に手を伸ばすと──抱きしめた。
驚いた様子で見下ろす目と目を合わせたボクは、眉を上げたまま呟く。
「行くぞ……守」
「…………はい、まき」
“普通”に微笑んだ“旦那”は、頬を赤く染めたボクを抱き上げると歩き出す。
女性達どころか周りの視線も受けるが、今はただ『この人はボクの』と見せびらかすように肩に顔を埋め、抱きしめていた。甘美な声が耳元で聞こえる。
「まき……御飯は?」
「…………いらない……守を……食べる」
「煽ぎ方が上手いな。さすが、俺のまき」
顔を上げると口付ける。
それが、はじまりの合図──。
* * *
カーテンの隙間からは月が覗き、白い布団の横には脱ぎ捨てられた着物。
露天から出る湯気以上に火照った身体を密着させたまま、目先にあるモノを咥える。
「んっ……ん……むぐっ!」
「んんっ……まき……どうした……口が留守になってるぞ」
「守の……舌が早ぃ……ひゃあっ!」
下腹部の方を向いて肉棒を咥えていたが、ボクの秘部と愛液を舐める彼の方が上手な上に、冷たい眼鏡が肌に当たる。それだけで新しい愛液を零すと、素早く舐め取りながら、自身の肉棒をボクの唇に当てた。
「ほらっ……まき……もっと舐めて咥えて……名まっ!」
言い終える前に咥えると、濡れた両手で擦り、白液を出させる。まだ全部は無理でも飲み込み、愛しい人にせがんだ。
「守っ……もうナカ……入れて」
「……いいぞ。ほら、こっち戻って来い」
くすりと笑い上体を起こした男は眼鏡を外すと手を伸ばす。
誘われるように身体を反転させると、汗ばんだ厚い胸板に抱きついた。同じように抱きしめられると唇を重ね、何度も何度も舌を行き来させては角度を変えて布団に沈む。
頬に首筋に胸元に幾つもの証がつくと、両脚を曲げられ、待ち望んでいたモノが挿入される。
「ああ゛っっ……ふああぁぁっ!」
「んっ……ちゃんと食べないと……満たされないぞ……っ」
「んっあ……気持ち良いぃっっ」
“食べないと”が“締めろ”と捉えた身体が彼の肉棒を締め付ける。
荒い息と一緒に汗が頭上から落ちてくると、両手を伸ばし、頭を抱き込む。腰を動かしながら胸をしゃぶられる刺激に、ボクも彼の汗を舐め取っては耳元で囁いた。
「あぁっ……守……好き……大すっあああぁぁっっ!!!」
素直になれている今じゃないと出せない言葉は、大きく膨張したモノによって掻き消される。けれど彼の口元には笑みがあり、癒着を止めることなく口を開いた。
「その素直さは……なんだ……さっき……女達に声……かけられていたのに……嫉妬したか……っ!」
「ち、違うぅぅ……ああぁあっ!」
「嘘つけ……」
そう、嘘だ。本当は嫉妬した。重原君関連で彼が怒っていたのがわかったように、他の人と一緒にいるのを見るのが嫌だった。そう認めれば良いのにボクの口はやっぱり否定してしまう。でも甘い声は笑うだけ。
「そのままのまきで良い……それが嘘か本当か俺はわかる……俺はお前の旦那だからな」
「うううぅぅ~~っ、我慢せず早く出せっ守!」
嬉しい言葉にも素直になれないボクだったが、ドクンドクンと脈を打つモノが限界なのはわかっていた。叫びの声に意地の悪い笑みが向けられる。
「さすが──俺の奥様っ」
「あああ゛あ゛あぁぁぁーーーーんんっ!!!」
大きく膣内で噴出すモノはボクのすべてを包む。
何度も何度もされてきたけど、いつも以上の気持ち良さを感じたのは本当にこの人と……守と一緒になれたからかもしれない。
旦那の愛は変わらず重いが、その愛を受け止める身体は着々と出来上がっていた。
そんなお腹の中で命の鼓動が聞こえはじめるのももうちょっと────。