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​27話*「誓約」

 ふわふわな白い雲に乗り、気持ち良く寝ているボク。

 雲に頬ずりしていると下腹部がムズムズしてきた。伸ばした手で下腹部を隠すが、何かに跳ね退けられる。同時に熱く痛いモノが押し付けられる衝撃で目覚めた。

 

「んんっ、あ、あああぁぁぁーーーーっ!」

「ああ……んっ、やっと起きたか……あっ、締まる……」

「ちょっ……何勝手に挿っ……ああああぁぁんっ!」

 

 窓から射し込むのは太陽。

 だが裸体のまま跨り、大きな肉棒を突き刺している男の笑顔の方が眩しかった──。

 

 

* * *

 

 

 まさかの職場でイってしまった。

 よくよく考えれば、イくと真っ白世界にご招待(気絶)されるんだから、無理にでも止めないと仕事なんて出来るわけがない。そんな事も忘れていたボクは気持ち良さで綺麗に寝てしまい、気付けば朝の五時。

 青褪めた顔で急いで事務室に向かったが、魔王が夜勤の男性と楽しそうに会話していた。

 

「おうっ、辻森。よく寝れたか?」

「お仕事は代わりにしておきましたので後で何かお礼くださいね」

「なんでだよっ!!!」

 

 早朝から怒声が響いたが、朝が早いおじいちゃんおばあちゃんはニコニコ笑顔でボクを見守っていた。どんどんボクの性格がおかしくなりそう。

 そして八時前に仕事を終えると、彼の運転で家ではなくホテルに帰宅。ファイトしては白いベッドに沈むの繰り返しで、冒頭のように起こされたのだ。

 

 時刻は十時過ぎ。まだ眠いのに、跨っている男は気にする事無く腰を動かし、膣内で大きくなる肉棒を突き上げた。

 

「んやぁっ……あ、ああぁっ!」

「はあっ……んっ……悪戯しても起きなかったくせに……やっぱ……挿入した方が良いんだな……んあっ」

「悪戯って……あんっ、ちょっ激しいぃぃんんんっ!」

 

 膣内の奥を激しく突いた肉棒を締め付けると、膨らんでいた熱い汁が噴出す。同時に荒い口付けを受け、腕を彼の首に回すと上体を起こし、抱き合う。繋がった部分がいっそう深まった。

 

「ふわぁあん……んっ、ひゃうっ」

「ふふふ、朝から……んっ、可愛い子ですね……でも……十一時にはチェックアウトなので……頑張って起きてください」

「む、無理ぃぃっ……ああぁっ!」

 

 じゃあ挿入するなよ! また白の世界に沈むよ!! 苛めてんだろお前!!!

 そんな考えはわかっているだろう魔王は、繋がり合ったまま楽しそうに囁く。

 

「あ、繋がってる部分は自分で抜いてくださいね」

「うえっ!?」

「だって私は抜きたくないですから」

 

 爽やか笑顔と敬語口調の魔王は言葉の通り抜く事はせず、額に鼻に頬に耳に首にキスを落とし、手は乳首と腰を弄る。その刺激は繋がった部分にも大きく伝わり、一気に快楽が襲った。

 

「やあっ……あんんんっ!」

「どうした……そんな小さい動きじゃ抜けないぞ……それとも抜くんじゃなくて……イきたいのか?」

「んんっ!」

 

 耳元で悪魔の声が官能的に響く。

 いつものボクなら意地になって抜くだろう。けれど目覚めてすぐ、こんな気持ち良くされたら……我慢出来ず、荒い息を吐きながら彼の耳元で囁いた。

 

「もっと……気持ち良く……んっ、イ……きたい」

「ふふふ、素直なまきは大好きだ」

 

 髪を優しく撫でられると繋がったままベッドに沈み、両脚を上に屈曲させられる。そのまま膣内に勢いよく肉棒が押し込められた。

 

「あぁあああああ゛ーーーーっ!!!」

「ああっ……気持ちいぃっ……まきっ」

 

 痛みなど気にすることなく、挿さっている大きな肉棒。そして白濁が噴出すのを涙目で見ながら彼の口付けを受け──イった。

 

 

* * *

 

 

 気付けば車の中だった。

 隣で運転している寺置さんは私服で、ボクに気付いたように視線を移す。その笑みに、ボクは呟いた。

 

「……これは地獄行きですか?」

 

 低い問いに彼は笑いながら『天国行きです』と言って飴玉をくれた。イチゴ味。コンニャロー!

 飴玉を食べながら自分の服も違う事に気付き、隣の人に向かってお辞儀した。

 

「ありがとう……ございます」

「ふふふ、素直なまきが継続中で嬉しいですね」

「降りたら鬼になるよ」

 

 拳を見せると笑われる。

 そんな彼にそっぽを向いたボクは窓の外を見る。

 

 連泊する気なんてなかったため買ってくれたんだと思う。

 けど……下着までって恥ずかしいにもほどがある。魔王色に染まりつつある事に顔が赤くなっていると、見慣れた物が見えてきた。

 

「何……また観覧車にでも乗りたかったの?」

「そうですね。最初の“デート”場所でもありましたから」

 

 着いた場所は以前彼と“デート”した事のある、観覧車があるアウトレットモール。

 観覧車が好きなのかモールが好きなのかわからないが、車を降りると新年三日目と昼過ぎなのもあって人が多い。既にげんなりしたボクは彼の手を握る。

 

「……何するの?」

「観覧車に乗るんです」

「え、ホントにそれだけ!?」

「はい」

 

 手を繋いだ彼はスタスタ歩くと、四十分待ちとある観覧車の列に並んだ。おいおい、マジか!? マジでコレのためだけにきたの!!?

 内心ツッコミを入れながら『待っててください』と一人で順番待ちし、数十分。半分前が進んだところでクレープとココアを持って帰ってきた。

 

「過去を繰り返してお別れ会したいのか!?」

「そんな悲しいことしませんよ。第一今回はイチゴ雪見だいふくクレープです」

 

 グレートアップしたものを買ってきやがった。

 けど、いつもなら『雪見なんて寒い!』と言うところだが、実を言うとボクは雪見が好きだ。あのモチモチ感がね……そんなの教えてないはずなのになぜこやつは知ってるんだと疑いながら礼を言った。

 

 冷たくても美味しいクレープを食べていると頭を撫でられる。

 顔を上げると楽しそうな笑みを向けられたが、それよりもクレープだと食べてココアを飲む。途中ココアを取られ間接キキキキスとかしたけど……気にしないぞ!

 そんなジタバタや会話をしている間に順番が回り、久々のゴンドラに乗り込んだ。

 

「お隣に座りましょうか?」

「結構です!」

 

 両手でバツを作ると、彼は笑いながら向かいに座った。

 海を見ながら以前乗った時の事を思い出す。その時と違うことは昼間なこと、知っている人がいないこと、羊を持っていないこと……そして目の前の人への気持ち。

 彼と会って三日も経ってなかったのに、デートに誘われ口付けされ……。

 

「顔、赤いですけど、どうかしました?」

「べ、別に!」

「ふふふ、以前乗った時の淫らな話か」

「うおおおぉぉーーいっ!」

 

 図星だけどハッキリ言われると恥ずかしくて、解いたオレンジのマフラーを投げつける。くすくす笑いながらマフラーを受け止めた彼は自分の首に巻き、口付けた。

 

「あああ~返せ~っ!」

「まきは“俺のモノ”。ならこれも“俺のモノ”だろ?」

「ボクのだ~~っ!!!」

 

 また変な屁理屈を言われツッコミを入れる。次いでイジけていると、立ち上がった彼は膝立ちし、解いたマフラーをボクの肩にかけた。

 

「気に入ってくれていたのか?」

「うっ……まあ……それなりに」

「俺があげたものだから?」

 

 ゴンドラが静かに頂上を目指す。

 あの時とは全然違うはずなのに胸の動悸は変わらず激しく鳴っている。下から端正な顔に覗かれ、羞恥の顔が丸見えだが、ボクは小さく頷いた。

 

「す、好きな人に……貰ったから……」

「………………………………早くも犯していいか?」

「お、犯すっておいっ!」

 

 真面目顔で言いやがったため頭を叩いてやった。

 『痛っ』と呟きながらも、彼はボクを抱きしめ、肩に顔を埋める。眼鏡の冷たさはマフラーで遮られ、無意識に抱きしめた。すると笑い声。

 

「ふふふ、本当素直で可愛くなって嬉しいですよ」

「ど、どうせ怪しんでたよ!」

「それが今では“俺の恋人”?」

「~~っ!」

 

 顔を赤めたまま背中を叩くが、くすくす笑いながら顔を上げた彼は微笑む。

 あの時と違って今では“普通”の顔しか見せない。一人称も“私”から“俺”。小さなことに見えて大きい変化。何よりボク自身がこの人を……愛してる。

 心臓の動悸がまた激しさを増していると頂上が見えた。

 

「ま、また頂上で……キスするの狙ってんの?」

「いえ、違います。お望みなら下に降りるまでず~~~~とキスしてもいいですよ」

「そんなに出来るか!」

 

 けど、こいつならやりかねない。

 そう瞬時に判断し、ボクは両手でまたバツを作るが、彼の両手によって解かれた。そのまま端正な顔が近付き、額と額がくっつく。彼の目が鼻が頬が唇が近い……けど離すことは出来ず、見つめるだけ。すると小さな声が聞こえた。

 

「まきは……“俺の恋人”だよな?」

「う……ん」

「愛してる……よな?」

「……うん」

「それは……俺をずっと愛してくれるか?」

 

 恥ずかしい尋問のようだが、何度も彼に聞かれ応えたことだ。それでも聞く寂しがり屋な男に呆れ半分、睨みながら言ってやった。

 

 

「ボクはもう寺置さん以外愛せないし、寺置さんもボク以外を愛してはいけません!」

 

 

 豪語するような言葉に、彼は目を見開く。そして笑いはじめた。

 自分でも恥ずかしい事を言っている自覚はあるが、ここで目を逸らすのも変なので、笑う彼を睨む。

 

「そういう台詞を……ははっ、睨みながら言うの……やめろ……ははは」

「う、うっさいな! そっちがしつこく聞くから誓「約をしましょうか」

 

 人差し指がボクの口を制止させると、彼は片方の手をポケットに入れた。出てきたのは手の平サイズの箱。唇から指を外した彼は微笑んだ。

 

 

「俺と結婚しましょう」

 

 

 開かれた箱には、プラチナリングに真ん中にはダイヤのある指輪────。

いちご
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