26話*「触っちゃダメ」
以前経験したような長い長い沈黙が漂う。
たくさんの視線に居心地が悪くなるが、ひとまず新年の挨拶をした。
「あけまして……おめでとうございます」
「この度まきさんと結婚し「てません!!!」
とんでもない発言とボクの大声に、静まり返っていた職員達が驚愕の声を上げた。この男はボクに仕事を辞めてもらいたいのか?
* * *
新年ニ日目。やっとヤツの誕生日が終了。
こんなにも誰かの誕生日が嫌だと思った事はない。けど、何度もイかされては愛を囁かれると、ボクがお祝いされてるみたいだった。そんなことを言ったら『俺とお前が繋がった祝いだろ』と笑みが返され、羞恥と嬉しさでイった。
だがしかし。その代償も大きく、案の定筋肉痛で昼過ぎまでまともに動けなかった。その間も彼は甲斐甲斐しく飲み物やご飯など世話を焼いてくれたけど……すべてエロ系に行くというか、食べ物を挟ませたり突っ込むとかもったいない事するなよ!
まるで悪徳商法にでも引っ掛かった気分で、今朝だけで四、五回イかされた。これって普通なんだろうか……。
「いや、それ明らかにヤりすぎじゃない?」
「そ、そうなの?」
再びボクの仕事場に付いてきた寺置さんは施設長と雑談。
ボクは更衣室で着替えながら、同期のえりさんに彼と両想いになった報告をした。そのついでではないが、エ……エッチ系な話を聞いてもらったんだけど……。
「だって、昨日の含めれば辻森っち十回以上イかされてるわよ! しかもどんなプレイしてんの!?」
「ちょっ、そんな大きな声で言わないでよ!」
えりさんは現在彼氏はいないが経験有の人。
そんな人が言うんだからヤツのは問題……だったのか。うわあー……知らずになんか色々しちゃったよ。て言うか今朝のあれこれも“プレイ”に入るのか?
無知な自分に青褪めていると、えりさんは溜め息をつきながらボクの頭を撫でる。
「ま、辻森っちがあの人を好きって言うなら別にいいけどね……腹黒いけど」
「う、うん……」
充分身を持って体験したボクは苦笑するしかないが、えりさんが嬉しそうな笑みを向けてくれて良かった。更衣室を出ると私服姿の重原君が歩いてくるのが見え、心臓が跳ねる。
「あら、新。今日休みじゃなかった?」
「会議だよ。か・い・ぎ。辻森さん、あけましておめでとう」
「お、おめでとうございます」
慌ててお辞儀するとニ人はくすくす笑う。
まだ彼にキスされたこと、告白されたことが脳内に残ってて頬が赤くなる。ん? 重原君と言えば何か忘れてるような……と、考えていると背中に寒気がした。それはニ人も感じたようで、三人で両肩を擦る。
「きょ、今日なんか寒くないか……?」
「ど、同感ね……新年からエアコン壊れたとか洒落になんないわよ」
「私は暑いですね」
「いや、ボクも寒い……と言うか犯人貴方ですよね!?」
ツッコミながら振り向けば、神出鬼没な寺置さんが笑顔で立っていた。瞬間、ボクらは後退りする。だって、背景に雪山が見える……雪山……あっ!
「口調がバラバラなまき様は面白いですね。それと今、思い出しても遅いですよ」
不適な笑みを向けた男にボクは顔を青褪める。
そうだ、重原君云々の事がバレて散々苛められたんだ……やっちまった……。
硬直するボクに、えりさんと重原君が心配そうに手を伸ばすが、先に寺置さんに抱きしめられる。
「はい、触っちゃダメですよ」
今度は三人で固まった。
腰を曲げた男は両腕でボクを抱きしめ頬擦りする。羞恥に慌てて退かそうとするが聞くハズもなく、ゆっくりと彼の手がボクの顎を持ち上げた。端正な顔が近付き、唇が重なる。
「ちょっんっ、あ……ぅん!」
魔王が降臨した男は誰も場所も弁えず口付けを続ける。
それは一瞬のものではなく舌を絡め、ジックリ味わうというもの。全身が蕩けはじめ、虚ろになる目から満足そうな彼が見えると唇が離れた。
「んあっ……はぁはぁ」
「ふふふ、とっても可愛かったですよ。ね、御二人さん?」
「「……………………はい」」
「二人ともーーーーーーーっっ!!!」
呆然と立ち尽くし頷いた二人にツッコミを入れながら寺置さんの足を蹴る。が、変わらない笑みでニ人を見ると、色気のある声で言った。
「まきはもう“俺のモノ”だからな。覚えておけ」
本気で仕事、辞めたくなってきた。
* * *
夕飯の時間。彼と面識のある入居者さん達が笑顔で話しかけている。
驚いたのは寺置さんの表情が、えりさん達の時と違って“普通”だったことだ。そんな彼を見た三森のおじいちゃんは嬉しそうに『良かったな~』とボクに言う。ボクは顔を赤めたが、おじいちゃんのおかげで気持ちに気付けた事に礼を言うと、おじいちゃんは優しく頭を撫でてくれた。
時刻は消灯時間になり、照明が薄暗くなる。
担当の入居所さんの見回りを終えたボクだが、目下筋肉痛のため壁伝いによろけながら歩いていた。すると、犯人が長ソファに座って待っていた。
「お疲れ様です。お辛そうですね」
「誰のせいだと思ってんだ……て言うか、アンタもここに泊まるの?」
「ええ、施設長さんに許可を頂きまして」
部外者がどうやって許可を取ったのか気になるが、知らなければ良いこともあるよね、うん。ボクはヨロヨロになりながら通り過ぎる。
「じゃあ、お休み~」
「なんでそうなるんですか?」
「はあ? だってボクの仮眠室はこっち……って、ちょっと!」
身体が軽くなったと思ったら横抱きされていた。
まだ起きている人も多い上に廊下で何すんだ!、と、ジタバタするが、身体が痛くて固まる。くすくす悪魔の笑い声が聞こえ、顔を青褪めた。
「だ、ダメだよ! ボクまだ仕事ある……ああ、秋元のおじいちゃんどうしたんですか!?」
向かいから、手すりを使って歩いてくる入居者さんに気付き、慌てて下ろすよう肩を叩く。けれど寺置さんはそのまま秋元さんの元へ歩きはじめた。うおおおぉぉーーいっ!
「秋元様、どうされたんですか?」
「ああ~……寝る前にトイレなぁ……」
「左様ですか。足元が暗いので一緒に参りましょう」
「ほーかほーか、どうもありがと……」
おおー……い、自然(ナチュラル)に話してるのは良いけど、ボクを下ろそうよ。おじいちゃんもツッコんで……もしや顔上げてないから見えてない?
そんな不吉な事を思いながら男子トイレ前に着くとさすがに下ろしてもらい、すぐ横にある事務室から男性夜勤の人を呼んだ。ボクら二人を交互に見た男性は笑う。
「なんだ、辻森。彼氏とラブラブなところを邪魔されたか」
「ち、違いますよ。だいたい勤務中にそんな不謹慎な事しませんって!」
「あはは、俺は上さんがいたらイチャイチャしたいがな」
「男はそうですよね」
「こらこらこら」
ノリの良い男性に乗っかる寺置さんを後ろから叩く。
男性は笑いながら秋元さんを手伝い、自室へと連れて行った。ボクの仕事場での人間像が変わりそうだ……そう考えているとお腹が痛くなってくる。
「どうしました?」
「いや、ちょっとボクも手洗いに……って」
痛い腰を支えながら歩こうとすると、また抱えられた上、あろうことか男子トイレに入れられる。小学生でもないので騒ぎはしないが、状況がわからない。
「な、何!? ボクは向こう!!!」
「しーっ、夜なんですから静かに」
「あっ!」
急いで両手で口を塞ぐが、スタスタと個室へ歩く彼。嫌な予感しかしないんだけど……違うよ……ね?
ゆっくりと顔を上げると、降臨しはじめているのに気付き、冷や汗を掻く。魔王はニッコリと微笑んだ。
「“イチャイチャ”したいんだよなー」
ちょおおっと待ってえええええーーーーーーっっっ!!!
* * *
狭い個室で淫らな音が響く。
洋式トイレに座り、寺置さんの膝に乗っているボク。そのままの彼とは違い、施設ジャージのジッパーを下げられ、シャツとブラを捲くし上げられているボク。
尖った乳首の先端を舐められては甘噛みされ、喘ぎを漏らす。
「あっ……ゃん、あ……」
「んっ……まき……声」
「んんー……っ!」
横に事務室がある事を思い出し、口を抑えるように彼の頭を抱きしめる。
でも、乳房に顔を埋めた彼の舌が肌を這う他、ズボンもショーツも下ろされた。次いで三本の指が秘部へと挿入され、グリグリと回される。
「あ、ああぁぁ……はあぁっ」
「こら……声の他に蜜まで溢れて……俺のズボンを濡らす気か?」
「じ、自分も……脱げばいい……ああぁっ」
「言ったな……」
楽しそうな声を発した彼はボクを抱き上げると器用にズボンを下ろし、大きく勃起した肉棒を出す。何度見ても見慣れないソレに怖くなっていると両腰を持たれ囁かれた。
「さ、挿ってこい」
「ボ、ボクから!?」
「そう、自分の手で確認しながらな。早くしないと『辻森さんが帰ってこない』とか思われるぞ」
「うう~~っ……」
くすくす笑う彼は、躊躇うことなく指を動かす。
秘部からは愛液が溢れ、彼の大きな肉棒に落ちた。それだけで全身が熱く疼いてしまう。アレを膣内に挿れたらと……無意識に手が肉棒を握り、秘部に近付けた。擦ると寺置さんが呻く。
「うっ……はあぁ……まき……焦らすな」
「ボ、ボクにやらせといて……文句言う……あっ」
「あぁっ……そこ……そのまま腰……落とせ……ああぁっ」
覚束無い手の中で大きくなるのを感じる肉棒を、勘だけで膣内に招く。先端だけでゾクゾクとした快感が湧き、一気に──押し込んだ。
「あ、ああああぁぁあ──んんっ!」
場所は正解で、膣内が彼で満たされると歓喜の声を上げる。けれど声は彼の唇に吸い込まれ、腰を上下に揺らしては乱された。
誰も場所も弁えてなかったのはボクも同じのようだ────。