25話*「ご馳走様でした」
腰が痛い……下腹部が痛い……つーか全身痛い……けど、それより。
「お腹空いた~」
気付けば夕方で、繰り返すようにベッドの上で横たわっているボク。
さっきまでの全裸とは違い、バスローブ着てるだけ平和か。すると、ヤツがドアから顔を覗かせた。
「はいはい。もう少し待ってくださいね」
「待ってるよ……て言うか服着てよ……」
寺置さんは黒のズボンを穿いているが上半身は──裸。
寒い! 寒い寒い!! 寒がりのボクに対する苛めか!!?
必死に身体を丸めようとするが、身体が痛くて丸くなれない……あったか形態になれない。半泣きしていると寺置さんに抱き上げられる。
「寒がりなお姫様をお迎えにきましたよ」
「アンタのせいだろ! そして服を着ろ!!」
「私は暑がりですので。大丈夫、人肌は温かいですからいつでも温めてあげますよ。今みたいに」
「わーわーわー!」
厚い胸板に頬が当たって恥ずかしいボクとは違い、笑っている男は絶対遊んでいる。騒ぎながら長ソファに下ろされると、目先に見える福岡タワーに『Happy Neu Year』の文字。
年越したなー仕事休みで良かったなーと安心する。が、あることを思い出して顔を青褪めた。Tシャツを着た寺置さんは机に皿を置くと首を傾げる。
「どうしました?」
「けけけけ携帯! ボクの携帯持ってきて!! 無断外泊しちゃったよ!!!」
よくよく考えれば昨日お母さんに『外に出てくる』とは言ったけど『泊まる』とは連絡していない。心配されると慌てるボクになぜか寺置さんは爆笑。おいなんだよと睨むが、彼は何も言わずボクの携帯を持ってきてくれた。腹を抱えながら。
「なんなのさ! ボクはアンタと違って健全なの!! 無断はヤなの!!!」
「そ、そうですか……あははは」
もうなんなんだと思いながら羊ピラミッドの待ち受けを見るとメールが数件来ていた。
『From*辻森瑞希*あけおめ~** 寺置君と楽しいことした? あたしはのんびり一人を満喫しとくからごゆっくり~☆』
おおーいっ! なんの心配もされてないのかよーっ!!
『From*内宮えり*辻森っち、あけおめ! ストーカー退治頑張ってね!!』
もう捕まっちゃったよーーーーっ!!!
『From*辻森みき*あけおめp(^≧▽≦^)q お秘書さんから美味しいイチゴタルト貰った? またお土産買って帰るねvvv』
元気そうだな! そしてウザッ!! しかもイチゴタルトの告げ口もお前かよっ!!!
『From*なし*藤色だ。みきからアドレスを教えてもらった。昨夜は突然すまなかったな。難儀な男かと思うが寺置を頼む。また時間合えば話せればと思う。今年もよろしく』
……………………藤色のお兄さん!
まさかのお兄さんのメールに和んでいると携帯を奪われた。
慌てて手を伸ばすがバッチリとメールを見られたようで、微笑む寺置さんが隣に座る。悪魔が降臨しそうだ……居た堪れず視線を机の上に逸らすと、ほっかほかのミートスパゲッティに釘付けになった。
「ご飯……」
「スープも作りましたけど、その前にやる事が出来「寺置さんが作ったの!!?」
てっきりルームサービスを頼んだかと思ってたからビックリだ。道理で時間かかる……て言うか、作れるのか! すごいな!! ボクは作れないぞ!!!
そんな事を口走りながら目を輝かせていると、瞬きされた。
「はあ、十年ほど一人暮らししてますし……家事全般は出来ますよ」
「へ~すごいね~。ボクなんて全然なのに」
家に引き篭もってはいたが、家事は苦手で姉さんにほぼ任せっきりだ。買い物メモ渡されても洗剤ひとつ、どのメーカーなのか書いてもらわないと不安になる。なのに彼は一人で……そこでふと思う。
「ボク、何も出来ないけど……いいの?」
「全然なんですか?」
「うん、作れても御飯と味噌汁ぐらいだし後は……あ、洗濯畳みと茶碗洗いは出来る!」
張り切って言ったが、沈黙した彼にマズったと羞恥に顔を赤める。
そんな子供でも出来ることを威張ってどうすんだ。頑張って働くと言っても収入的には寺置さんが上だし……て言うか、なんで将来考えてんだと余計赤くなる。と、勢い良く抱きしめられ、ソファに沈んだ。
「ちょっ! 痛いよ、何……」
肩に顔を埋める彼に強く抱きしめられる。少し苦しい。
軽く頭突きをすると眼鏡を光らせた彼の表情は……はにかんでいた。
「いえ……可愛いなと思いまして」
「な、何さソレっ……んっ!」
柔らかい表情の彼に驚いているとすかさず口付けられた。
その舌も抱きしめる手も身体も熱い。お風呂なんて随分前に上がったのに、まだまだ上昇しそうだ。
「あんっ、んっ……ひゃぁっ……」
熱い口付けを何度も受けながらバスローブの衿を捲り、下着もしていない乳房が片方露になると大きな手で揉まれる。既に尖った乳首に指が擦るだけで身体は痛さなど忘れ跳ねた。
彼は嬉しそうに先端を甘噛みし、さらに跳ねさせる。
「やぁっ……もうっ、ご飯食べれな……ああっ!」
「んっ、俺はお前がご飯で……ん、いいけどな……」
「ぁああ、だめぇ……」
ローブの紐も解かれようとするが、ボクは必死にテーブルのスパゲッティに手を伸ばす……お腹、空いた。それを見た彼は苦笑すると上体を起こし、ボクを起き上がらせる。
「はいはい、途中でお腹が鳴られても困りますからね」
「ごっはんごっはん!」
「はいはい、スープ持ってきますからもう少し待って……」
「ごっはんごっはん!」
「……本当に喰うぞ」
「ごっはんごっはん!」
押し倒しなど忘れたかのようにフォークとスプーンを持つ。
彼は溜め息をつくとキッチンからスープを持ってきてれくれた。もちろんお礼は言ったよ。こういう時は素直なボクなのである。
ミートスパはちょっと冷えてたけどスープ共に美味しかったです。ご馳走様でした。
* * *
お腹いっぱいになったボクはソファに座り、寺置さんに寄り掛かっている。
よもやこんな人に安らぎを感じるとはボクも大概だなと苦笑していると、携帯を見ていた寺置さんが思い出したように言った。
「そう言えば、初詣は行かなくて良いんですか?」
「初詣? ああ、ウチは十日恵比寿だから大丈夫だよ」
「は?」
十日恵比寿。それは商売繁盛を祝う恵比寿様の祭り。
家の近くには有名な太宰府天満宮がある。けど、父親が事業をしていた関係か、子供の頃から十日恵比寿に行っていたため、離婚した今でもそっちに行っている。呆然とする彼に訊ね返した。
「行きたいの?」
「いえ……私も東京に戻って、家近くの神社にでも行きますよ」
「一人暮らしって言ってたけど、どこに住んでんの?」
「お台場ですよ」
その地名に某MSを思い出したのはボクだけじゃないハズだ。
それが彼もわかったのか、頭をグリグリ回される。次いで藤色のお兄さんも同じマンションだったり、ボクは一度も東京に行ったことないなど他愛のない話をした。それだけボクはこの人の事を知らなかったんだ……誕生日も何も。
「誕生日と言えば、まきはいつなんだ?」
「ボク? 八月。八月の三十一……あっ」
言って……しまった。隣を見るとニコニコ笑顔で携帯に何かを打っている。
絶対メモったな! メモらなくても覚えるくせに!! ああ当日が怖いよ!!!
半年も先のことに早くも恐怖を抱くと同時に、すぐこの人と離れることを思い出した。姉さんの代わりで来たのなら明後日にはまた東京へ帰る。また次かなんて……そう考えると胸が痛み、彼の膝に倒れ込んだ。
「どうしました?」
「んー……明日も仕事だなーって……しかも夜勤」
逸らそうと仕事を口に出したが逆に凹んだ。
新年早々夜勤とか寂しすぎる……そんなボクの髪を優しく撫でる彼を見上げると、ニッコリスマイル。
「私も一緒に行きますから大丈夫ですよ」
「……は?」
「あとニ日半しかいられないのに離れるわけないじゃないですか」
うおおおぉぉーーいっ! マジですかーーっ!? アンタまた来るのーーっ!!?
嬉しいよりも恐怖が勝るのはなんでだろうか。冷や汗を掻きながら携帯を置く彼を見るが、スマイルは変わらず……ああ…魔王が降臨しそうだ。ボクはゆっくりと上体を起こす。
「さあ……今日はもう寝よー……」
「まだ七時ですよ」
「明日もガンバロー……」
「夜勤なら夕方出勤ですよね?」
既に勤務時間を把握され冷や汗が増える。だがしかし、ここで負けるわけにはいかないと本音をブチまけた。
「だってもう身体痛いんだもん! 次されたら明日絶対仕事出来ないよ!! もうダメったらダメだかんね!!!」
もうホント痛いんだ。いつだったか、姉さんがおばあちゃんのような身体になっていたが恐らくコレが原因……しかしボクはその比じゃない。けど魔王の笑みは増すばかりでボクは悟った。
こいつが聞くわけねーよなぁ…………。
新年早々ヤツの誕生日という大吉を引き当てたボクは──ベッド行きというお告げを受けた。
* * *
シーツは汗と白液で濡れている。
同じぐらいボクの全身にも白液と赤い痣が付いていた。跨っている男の汗は夜なのにキラキラ光っているようで、嬉しそうな笑みを向けたまま肉棒を突き刺す。
「ああああーーっっ!!!」
「はあ、っ……まき……まだ……動くぞ……っ!」
「ゃあっダメぇ……動かっ……ああぁあっ!!!」
必死にしがみ付くが、腰を激しく動かされ、大きな肉棒が膣内を掻き乱す。白い液が秘部から飛び出しても気にせず膣内で吐き出した。
「もうっ、イくっ……ああん、抜かないでぇえっ!」
「俺の誕生日、まだ……終わってないからな……簡単にはイかさない……」
「い、意地悪~っあああっ!」
魔王はくすくす笑いながら肉棒から指で苛めるのに変えたりと、楽しい楽しい夜を過ごしました。もう新年なんてこなくていい────。