23話*「降臨」
腕が痛い。
半分開いた目で見上げると、なんでか両腕が上がったまま繋が……逮捕?
ボク何か悪いことしたっけと目覚めない頭で視線を落とすと、点々と赤い……血!? 殺人事件!!?
全身真っ赤という衝撃場面に一瞬で目が覚め起き上がる。が、お腹を大きな腕に掴まれている上──。
「ご、腰……いだ」
腰痛に、またシーツに沈む。なぜに腰が……むしろ全身筋肉痛って。
そこで静かに眠る隣の男と、サイドテーブルに見えるイチゴ絵の瓶を見て思い出す。羞恥に顔を赤めるよりも沸々とした怒りが先で、繋がれた両手で端正な顔を叩いてやった。
『ペチッ……』
筋肉痛のせいか、予想よりも威力は小さかった。
それが悔しくて何度も繰り返す。本当は叫びも上げたいが、喉もガラガラ。赤いのをペタペタ付けながら『こいつが犯人だ!』って証拠残してやる!!!
そんなツッコミを入れていると細い目が僅かに開かれた。
「お……ぎ……」
みっともない声に泣きたくなる。けれど数秒見つめていたヤツは大きな腕で抱きしめると額にキスをし──寝た。
うおおおぉぉーーーいっ! 寝るなよ!! 解けよ!!!
ジタバタしても筋肉痛で思うように動けない。が、唯一動かせる場所を思いつき、ソレをぶつけた。
「痛っ!!!」
大きな悲鳴に頭突きは成功。
“殴ります”って宣言したし、両手塞がれているなら有だろ。ボクも痛いけど。
* * *
「昨夜あれだけ腰を動かせば筋肉痛にもなりますよ」
「アンタが止め刺したんだろ!」
「おや? 浮気してたの誰でしたっけね」
「うと、えと……」
時刻は昼前。
シッカリと目覚めた寺置さんにマフラーを解いてもらい、ガラガラだった喉を水で潤おいながら筋肉痛の謎を聞いた。が、聞くんじゃなかった──て言うか。
「あれは不可抗力だよ!」
「まきが隙を見せたの間違いでは?」
「うぐっ……」
キラッキラ眼鏡なしバージョンの笑顔に布団に篭もりたい。
まさかクリスマスの件を引っ張られるとは思わなかった。しかもボクが喋ったのか!? 全っ然記憶ないんだけど!!! 気付けば殺人現場だよ!!?
でも、冷たくて甘い匂いを覚えているせいか、顔を真っ赤にしたままシーツに沈んだ。顔を覗き込まれる。
「で、俺に電話を掛けた理由は? 俺の嫉妬心でも煽ぎたかったのか?」
笑顔が怖い! 背中に雪山が見える!! 眼鏡かけてた方がマシ!!!
身体が動かないボクにとってコレはマズい、マズ過ぎる。しかも互いに全裸のまま。混乱している頭でも“あの日”を思い出す。
「あの時は……まだ気持ちわかんなくて……なのに重……彼に『好き』とか言われて……キスされて……」
重原君の名は言わない方がいいかと訂正したが、彼は笑みもなく、ただボクを見つめている。全身が熱くなるのを覚えながら、途切れ途切れに声を絞り出した。
「その勢いで電話……掛けたけど……怖くて無理だった……でも……そのあと考えたら……声が聞きたい……会いたいのは……寺置さんだっん!?」
最後まで言う事無く、唇が塞がれた。
その激しさに怒っているのかと思っていると唇が離れる。
「まき……」
「な、何?」
「“好き”って言ってくれ」
「うえぇっ!?」
まさかの発言に顔が赤くなり、つい逸らしていた目を合わせてしまった。
けど彼の口は“へ”の字で、両頬が少し赤い。それは“色っぽい”というより“可愛い”。それだけでこの人も孤独が嫌いなように見えて、苦笑したボクは首へと手を回す。痛い腰を浮かせると耳元で囁いた。
「好きだよ」
彼と目を合わせると、口付けた。
けれど彼は何もしてこない。虐められているのかと腹が立ち、舌で歯列の間を割り、引っ込んでいた舌と舌を絡ませては角度を変え、淫らな音を鳴らす。
こんな恥ずかしい事を自分からするなんて思いもしなかったけど、それだけ彼に溺れているのだと思えば納得した。何度もしている内にボクの方が息切れになり、唇を離そうとする。が、押し付けられた唇から勢いよく舌が挿し込まれ、シーツに沈んだ。
「ふゃあ、あぁっ……んんっ」
「んっ……やっぱり……煽り上手だ……小悪魔まき」
「誰が……こ、あん」
さっきまで“可愛い”だった彼は“意地悪”な笑みに変わり、荒い息を吐きながら何度も口付け、ボクの脚を広げる。ちょちょちょちょっと待て!!!
冷や汗を掻きながら見ると、ニッコリ笑顔。
「ええ、挿れますよ」
「ムリムリムリ! ボクはもう死んでいる!!」
「北斗神拳ならこれからですよ」
「うおおおぉぉーーいっ!」
そんなネタのつもりはなかったのに浮かぶ方がすご……じゃなくて!
もう身体も体力も限界なのにそれ以上はと顔を真っ赤にするが、彼の“あそこ”が目に入った。小さな明かりとは違い、太陽の下で見えるソレは予想以上に大きくて、つい悲鳴を上げた。
「ふふふ、まきが煽るから朝勃ち起こしたじゃないですか」
くすくす笑いながら覆い被さる彼とは違い、ボクは大慌てだ。
“朝発ち”なら勝手に一人で行ってこい!、と内心思いながら、先端が挿し込まれる。
「やあぁ……あん」
「ああ……明るいとこで見るその顔はそそるな……可愛い」
意地の悪い笑みだが“可愛い”の言葉が恥ずかしくて嬉しくて、膣内の半分まで挿入されていたモノを強く締めつけた。
「ぅあ……コラ、まき……締めつけすぎだ」
「ああぁ……!」
全身も膣内も悲鳴を上げているが、最初より痛みはない。
むしろ快感が大きくて、いつの間にボクは淫乱なヤツになったのか恥ずかしくなる。そんな羞恥が原因なのか、さらに締めつけると彼は苦しそうに汗を掻く。でもボクはもう──。
「まき……真っ白に……なりそうな時は……“イく”って言え」
「ひゃあぁあ、あん……い……イくーーーーっ!!!」
ボクの大きな声と同時に奥深くへと貫いたモノに、意識と白濁が飛び散った。
* * *
とってもあったかい。
ぷかぷかと宙に浮いているみたいだ。そして寒がりのボクには気持ち良い……お湯。
「……お湯?」
「お湯、ですよ」
声が良く響き、温かいジャグジーに硬い胸板。
見上げると、笑みを向けている寺置さん。彼の膝の上に乗っているボクは浴槽に浸かっていた。
「ぎ……ぃやああああああああああああっっーーーーーー!!!」
「ふふふ、元気ですね」
変わらない口調で後ろから抱きしめる男は乳首を弄り、うなじを舐める。尖った先端は感度を増しているのか、全身ビクビク動くと股の間にある何かを擦った。
「あーあ……まき。もう俺に我慢させる気ないだろ」
「な、何が……」
「ふふふ、鈍さも凶器だな。股の間に両手を入れてみろ」
上から目線で腹立つが、恐る恐る手を伸ばすと触ったことない手触りに一瞬怯む。すると頭上から『ああ……』と気持ち良さそうな声を発した彼は首筋に吸いついてきた。
似た声をボクも発してしまったが嫌な予感しかしない……まさか。
「俺の肉棒を触った感想は?」
「ぴぃっ!?」
やっぱりか!、と両手を離すが、また恐る恐る手を伸ばし、ソレを弄る。苦笑が聞こえた。
「お前の表情と手付き……ん……全然違うじゃないか」
「き、気になるんだから別いいでしょ……て言うかなんでお風呂に」
「動けないお前の介護だ。散々洗って弄ったのにお前、全然起きなかったんだぞ」
「嘘っ!?」
顔を青褪めながら身体の匂いを嗅ぐと確かに石鹸の匂い……嘘だろ!!!
どんだけだと絶望しながら“散々洗って弄った”の言葉に、お湯以上に頬が熱くなる。するとボクを膝から下ろした彼は立ち上がり、浴槽の縁に座った。イケメンが濡れてると違うなーとか考えていると微笑まれる。
「てなわけで、今度はお前が御奉仕する番だ」
「……は?」
悪魔が見返りを求める声が聞こえた。
そんな男は下を、あの肉棒を指す。
「舐めて咥えろ」
「ちょ、待……」
待ったを掛けても伸びた両腕に引っ張られ、股の間に入る。下にあるモノを見ないようにするが、顎を持ち上げられると、ニヤリとした笑みとぶつかった。
「誕生日なら我儘聞いてくれるだろ、まき?」
なんかドS俺様魔王が降臨しやがったーーーーっ!!!