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いちご

​番外編19*キスシリーズ「背中」

「寺置さんって浮気しないの?」

「ぶふっ!」

 

ココアを吹き出しそうになるのをなんとか堪えると、向かいに座る同期で友人。仕事帰りに晩御飯を共にしていた“えり”さんに目を向けた。

 

「きゅ、急に何?」

「いや、毎度超絶絶倫の腹黒様だから、辻森っちだけで足りてるのかなって」

 

 愚痴を聞いてくれていた彼女の目は真剣だが、額には汗が見える。

 腹黒呼ばわりされていることに呆れるが『ふふふ』と笑う男が浮かんだボクの背筋にも悪寒が走った。暖かいココアを口に運ぶと、一息ついたえりさんもグラスを手に取る。

 

「毎日求められるのは幸せなことだけど、男と女じゃ体力の違いがあるんだから、抑えてもらわなきゃ辻森っちがミイラになっちゃうわよ」

「否定出来ない……」

「それだったら、いっそう浮気とか別の女で発散してもらった方が良い気がするのよね。あの人に言い寄る女なんてたくさんいそ……」

「昔は女をとっかえひっかえしてたらしいからね」

 

 低い声で返したせいか、えりさんの顔が引き攣る。

 でも怒ってるわけじゃない。『足りているか』不安なんだ。ボクはすぐに嫌々いうし(かといって止める男ではないが)イくのも早い。彼は不完全燃焼なんじゃないかと。

 

 それならえりさんが言うように他の女と……。

 

 

* * *

 

 

「おや、お帰りなさい」

 

 玄関入って早々、荷物を落とす。

 濡れた髪から無駄に輝く水滴をポタポタ落とし、ガッチリとした上半身を笑顔で見せる風呂上がりの男が目の前にいた。

 

「変態いいいいぃぃーーーーっっ!!!」

「ズボン履いているので違います」

 

 大絶叫を響かせるボクに笑う守は、髪を拭きながらリビングへと向かう。

 その背に突進か膝蹴りでも食らわしてやろうかと考えるが、ふと傷跡が目に入った。それはハッキリじゃなく、薄っすら見える程度の傷。でも何箇所にもあって、昔やんちゃしていた頃に出来たのだろうと推測する。

 

(いいな……)

 

 未だに残る傷。本来なら痛々しく見たくないもの。なのに不思議と羨ましく思ってしまった。いつまでも残る“形”に。速まる動悸に自然と足が進み、両手を伸ばすと、抱きしめた背中に──キスを落とした。

 

「まき……?」

 

 視線を上げれば、目を丸くした守。

 頬に集まる熱を隠すように顔を背中に埋めると、堅い身体、まだ拭き取れてない滴、石鹸の匂い。全身に伝わる“守”に、小さな笑みが零れた。

 

「確認……」

「確認? なんの?」

 

 くぐもり声でも聞き逃さなかったことに内心苦笑しながら顔を上げるが、見下ろす彼の目に、少し視線を反らして呟いた。

 

「キ、キスマーク……ないかな……とか」

「風呂上がりに探すんですか」

「う、うるさい! 浮気ぐらい疑ってもいいだろ!!」

「ふふふ、浮気ですか」

「あ……わっ!」

 

 一言余計だったと思った時には既に遅し。

 反転するように後ろを向かされ、咄嗟に両手を壁に着ける。振り向いても、あっという間に上着を捲られ、ブラホックも外された。露になった背中に這う冷たい空気よりも、ジッと見つめる目に身体が震える。

 すると腰に両手が添えられ、背中に柔らかな唇が触れた。

 

「っあ……!」

 

 さっき自分がしたのと同じキスなのに、大袈裟なほど跳ねる。

 振り向けば、唇を離した守が、くすりと笑っていた。

 

「まきにはいっぱいキスマークが付いてますね……浮気ですか?」

「は!? バッ、それ全部お前のっあぁ!」

「正解」

 

 今朝しまくっていた犯人に反論すると、腰から胸に移った両手に乳首を引っ張られる。ぐりぐりと回される他、うなじや肩、背中に何度もキスが落ちた。

 

「あ、っああ……」

「ん、今日はやけに感度が高いな……内宮様とエロい話でもしたか?」

「してない!」

「へえ? 俺の愚痴を零すなら避けられない話だと思うが」

 

 こいつ、盗聴器でも仕掛けてんの?

 すべて見通していそうな悪魔に心底身震いするが、胸を揉まれ、耳朶を舐められると疼きに変わった。彼の肩に頭を乗せると、ボクを見つめる目と目が合う。

 欲情も含まれていることに、吐息を漏らしながら訊ねた。

 

「……足りてる?」

「ん?」

 

 顔を寄せると唇が重なる。

 それはすぐ離れるが、また顔を寄せると訊ねた。

 

「ボクだけで……守は満足してる?」

「当然」

 

 即答と共に唇が重なる。

 今度は深く、舌まで挿し込まれたばかりかズボンも下ろされた。ショーツは既に濡れ、大きな手でお尻を撫でられる。

 

「あっ……」

「俺はまき以外に欲情しないし、満足もしない。そういつも言ってるのに、なんで不安になるんですかね」

「だって……ボク、ん、すぐ……イくし」

「まきが満足してイけば俺も満足するんですよ。しなかったら寝ててもシますし」

「おいっ!!!」

 

 悪びた様子もなく言われ怒るが、濡れた秘部に宛がわれるモノにビクリと反応する。気付けば彼の身体には水滴だけでなく汗も滲み、耳元をくすぐる息も熱く荒い。興奮しているのがわかる。

 

 毎日求められるのは辛い。

 でもそれは身体だけで、気持ちは高鳴っている。自分だけに欲情する男。自分もまた彼でしか満たされない事実に不安が消えると、腰をくねらせ、肉棒を食い込ませた。少しだけ呻いた守に、そっと囁く。

 

「浮気したら……ぶん殴る」

「はいはい、毎日確認していいですよ。背中も……ナカも」

 

 不敵な笑みに口付けると挿入される。

 

「あ、あああぁぁーー! く、苦し……んん゛っ!!」

「すぐ馴染む。ほら、動かすぞ」

「あ、ああぁ!」

 

 解されていない分、痛みと圧迫感があるが、胸を弄られ、キスを落とされ、甘く囁かれれば快楽へと変わった。

 

「んっ、あああぁぁ……イい……気持ち」

「それは良かった……じゃあ、もっと満足して、俺を満足させてください……!」

「ひゃあああぁんんっ!!!」

 

 身体と心に刻むように、激しい矯声を今夜も響かせる。

 満足する、その瞬間まで──。

 

 

 

 

「だから、もう少し頻度を……」

「まきは動かなくていいんですよ。甲斐甲斐しく私がお世話しますから」

「そういう問題じゃねーーーーっっ!!!」

 

 

 確認するまでもなく、こいつは絶倫魔王だ────。

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