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​番外編18*思い出の場所で

いちご

 それは突然のことだった。

『速報です。今年をもって『なりーワールド』が閉園することが決まりました。『なりーワールド』は今から──』

 目覚めない頭で朝のニュース速報を観ながら朝食を摂っていたボクはパンを落とす。

 

「あ……ああ」
「まき、まだ眠いんですか?」
「というより……」
「かお、まっちゃお~」

 

 守、紫苑、りまの視線よりも、報じられる内容、映像に釘付けとなったボクは顔を青褪める。次のニュースがはじまると、震える口を開いた。

 


「姉さあああぁぁ~~~~んっっ!!!」

 


 突然の叫びに子供達は驚き、守も目を瞬かせるが、急いで姉に電話した。が、『ツーツー』と無機質な音。

 なんでだよ~~~~っ!!!

 


* * *

 


 天気は晴れ、気温も十ニ月にしては暖かい。
 隣を見ると、いつも以上に笑顔の姉にボクも頷いた。

「良い気温だ……」
「良かったね、まきたん! よっし、行こう!!」
「「待て待て待て待て」」

 

 元気に駆け出すボク達を止めるのは、守と海雲お義兄さん。
 次いで、子供達に抱きしめられると、寄ってきた守が一息つく。

 

「こんなハイテンションまき、はじめて見ます」
「逆にお前のテンションは微妙だな」
「さすがまき……ええ、微妙というか困惑しています。寒がりで人混み嫌いで、暖かいココアを飲みながらこたつで丸まっているのがデフォルトの貴女が大晦日の遊園地を訪れるなんて奇跡かと」
「そこまで言うか!?」

 

 視線を空へと移した男にツッコむが、大行列の先にある出入り口から『『なりーワールド』グランドフィナーレ! 開園です!!』と、元気なアナウンスと共に歓声と拍手が沸く。オレンジのマフラーを結び直したボクの頬が緩んだことに、守はまた一息ついた。

 

 今日は十ニ月三十一日。大晦日。
 ボクたち寺置家と藤色家の七人が訪れたのは、今日で閉園する遊園地『なりーワールド』。異世界探検をコンセプトに小学生の頃に開園し、学生の頃は毎年誕生日に遊びにきていた場所。
 成人してからは行く機会がなかったが、閉園と聞いて訪れないわけにはいかない。

 

「それにしてもなぜ大晦日(今日)なんです? 閉園のニュースがあったのは春。誕生日でも良かったでしょうに」
「最後の日に来ないでどうする!? ネズミ王国がなくなるようなもんだぞ!!?」
「そこまで?」
「ママのめ~もえてりゅ~」
「普段なら、明日のために絶対動かないのに……」

 

 楽しそうに両手を叩くりまとは違い、守と紫苑は呆気に取られている。
 そう、明日は一月一日。元旦。つまるところ腹黒魔王こと旦那こと守の誕生日。いつもなら大晦日といわず、クリスマス後から身体をゆっくりゆ~~~~っくり休ませ備える。が、それを放棄してでも行きたいと土下座で頼んだのだ。

 

 そんな念願が叶い、やっとのこと入園する。
 昔と変わらない『なりーワールド』の看板と、探検隊員『なり男』くんの着ぐるみが迎えてくれた。姉さんのように飛び跳ねたりしていないのに心は舞い上がっているとわかったのか、苦笑を漏らす守に頭を撫でられる。

 

「そんなに楽しみにされていたのなら仕方ありません。気が済むまでどうぞ遊んでください」
「んっ!」

 

 口を結んだまま頷いても頬が緩んだのがわかる。
 それから姉さんと手を繋ぐと、最後の冒険に向けて駆け出した。

 

 アトラクションの待ち時間一、ニ時間は当たり前。
 でも、姉さんや守がいるせいかおかげか、並んでいても会話は途切れないし苦でもない。ステージショーのノリも案外楽しく、一日なんてあっという間──だが。

 

「嫌だ嫌だ嫌だ! 絶対嫌だーーっっ!! 乗りたくなーーいっ!!!」

 夜の十時を回った園内は数百万個のイルミネーションに包まれている。
 幻想的な世界に足を止めた人達が笑顔で写真を撮る中、ボクは泣き叫んでいた。喜びではない、恐怖で。反対に、無理やりボクを抱える男は満面笑顔。

 

「さすがまき。まだ何も言ってないのにわかるとは愛ですね」
「そうなっ! だからお前も“あそこ”以外で乗るのやめよ!? どうせ明日も乗るんだろ!!!」
「そうなんですが、どうしても足が向くといいますか、乗らないと死んじゃう病で」
「ボクは乗ったら死んじゃう病だーーっっ!!!」
「夜景撮ってきてね~!」

 

 魔王と変わらない笑顔で手を振る姉さんの傍には、疲れて眠る羽実ちゃんとりま。背後では海雲お義兄さんと紫苑が無表情ながらもどこか嬉しそうにクレープを食べている。
 つまるとこ助ける気なし。いつものようにボクは拉致られることとなった。

 

 最後のアトクション──観覧車に。

 


 


「あ、ほら見てください。パレードしてますよ」
「ふっ、あぁ……」
「まき、聞いてます?」
「き、聞いてるからやめんんんっ!」

 

 くすくすと笑う声に頭を横に振るが、耳孔に挿し込まれた舌に身体がのけ反る。
 胸板に収まった身体を嬉しそうに片腕で捕らえた男は、当に分厚い服の中に潜らせていたもう片方の手に収まる乳房を転がした。指先でクニクニと揉みながら、たまにきゅっと乳首を引っ張られる。

「っああ!」
「ふふふ、パレードより気持ち良い方が良いなんて、まきは我侭ですね」
「それはお前んんんっ!」

 

 反射的に顔を上げれば口付けられる。
 顎に添えられた手はさほど強くはない。でも、重なる唇の柔らかさ、挿し込まれる舌の気持ち良さにゆっくりと上昇するゴンドラの音は聞こえない。

 

 そう、ゴンドラ。観覧車。
 いつもとは違う高さ、スペース、乗り心地。特に景色は鮮やかなイルミネーションに彩られ、大通りで行われているパレ-ドも合わされば光の道。長い待ち時間の気持ちを吹っ飛ばすほど綺麗だが、“観覧車”という密室でイタズラする旦那の膝の上にいることだけは変わらない。

 

「ちょっ……最後なんだから……ちゃんと……見せてよっ」
「見せてますよ。まきが俺のこと大好きでこっち見るんでしょ?」
「お前が上げるんだろっんん!」

 

 また顎を持ち上げられ、最後となる景色からよく知る男の顔が映る。
 眼鏡の奥にある瞳には睨むボクがいるが、顔が近付くと唇が重なった。観覧車というだけで身体が正直になるのか、震える両脚が自然と開く。

 

「はい、良い子……景色も身体もどうぞ楽しんでいってください」
「お前が……アトラクションかよっああ……!」
「それは良いですね」

 

 くすくす笑いながらズボンの中に潜った手が茂みを割って秘部を擦る。くちゅくちゅと厭らしい水音が響くと耳元で囁かれた。

 

「水上アトラクション、今から激しくなりますのでご注意ください」
「ふあっ、ああぁぁっ!」

 

 意地悪い囁きと同時に擦る指を速められ水音が大きくなった。必死に声を抑えるも、次のアナウンスがされる。

 

「続いて、メリーゴーランド。はい、スタート」
「ああぁっ!」
「ゆっくりと回りまーす」

 

 ボタンのように乳首を押されると膣内の指が一本になり、ゆっくりゆっくりと回される。ほっとするも、物足りなさを感じてしまうのはヤバいだろうか。そう思わせる男に視線を向けると、わかってますよと言うように微笑み、指を三本に増やして奥に挿し込む。

 

「ああっ……!」
「はい、このままコーヒーカップになりまーす」
「ふあああぁぁっ!」

 

 メリーゴーランドとは違い、勢いよく指を回される。かと思えばゆっくりになったりと緩急をつけられ、物足りなさが快楽で埋まっていく。

 

 次第に思考が揺れるが、淡いイルミネーションが見えた。
 気付けば頂上へ着いていたゴンドラからは子供の頃から観ていた遊園地が広がる。大人になって遠退いていた場所。だから閉園するのかなと思うと寂しくなった。

 

「急に大人しくなってどうしました? 刺激が足りませんでした?」
「お、お前はなんでそういうことばっか……!」

 

 感傷に浸る時間もないと頬を膨らませると徐々にゴンドラが降下し、身体も冷えてくる。すると、胸からも膣内からも離れた両腕に抱きしめられた。すぐに暖かくなるのは守マジックなのか単純な自分なのかはわからない。
 頬が寄せられると、意地悪ではない優しくどこか切ない声が耳をくすぐった。

 

「俺は今日はじめて来て今日で終わる……まきとは違いますが、寂しいのは同じですよ」

 

 視線を移せば変わらない笑みがあるが、その目は今日しか見れない景色を映しているようにも見える。だがすぐボクに向き直すと微笑んだ。

 

「なので愉しい思い出をたくさん作らせてください」
「絶対“たのしい”の漢字違うだろ!」
「さすが、まき。では最後に守ジェットコースターにご乗車ください」

 

 急上昇する体温が頬を赤く染めると、まるで椅子だという両手にお尻を撫でられた。次いでポンポンと叩かれ、上っていくコースターのように腰を浮かせるとズボンもショーツも脱がされる。
 息を漏らしながら両手を付けた窓には欲情した自分と不敵に笑う旦那が映り、冷気に晒されていた秘部には熱いモノが宛がわれた。

 

「はい、では……落ちます」
「あ、あああぁぁーーっ!」

 

 ぐっと腰を引っ張られると硬く熱い肉棒が挿入される。
 頂上から落ちるコースターのように勢いよく挿し込まれ、ぐりぐりと回されてはまた上るように奥を突かれた。

 

「あ、あぁぁ……激しっ……気持ちいいいんん!!!」
「まだまだです……よ!」

 

 お尻を突き出すと、中腰になった守が肉棒を押し込む。
 最奥を突くように何度も腰を振られ、激しい水音と嬌声が響き渡る。

 

「はあぁン……そこイいっ……」
「ここですね」
「あぁぁん!」

 

 察したようにイいところをすぐ突かれ、秘部からは愛液が溢れる。徐々に頭も真っ白になってくると抱き上げられた。

 

「ほら、まき……一緒にイくぞ」
「っぁ……守んんっ」

 

 繋がったまま向き合うと口付けを交わす。
 大晦日に宙に浮くゴンドラで何してるんだなんて今さらだと言うように、何度も何度も口付けては寂しさを愉しさに、快楽に変えた。彼と最初で最後の思い出の場所で──。

 


『三、ニ、一──HAPPY NYW YEAR!!!』

 

 

 アナウンスの大きなカウントダウンと共に何千発の花火が打ち上げられた。
 夜空には煌びやかな花が舞い、眠い目をこする娘と息子は笑顔。ボクは真っ青。旦那は光臨の笑顔。

 

「はい、言うことは?」
「……あけましておめで……お誕生日おめでとうございます」

 

 花火も合わさった笑顔に祝いの言葉を素直に述べる。
 『ありがとうございます』と返した守はゆっくりと自身の唇に人差し指をつけると『では』と艶やかな声で、欲情の目でボクを捉えた。

 


「早速……『俺の命令は絶対』いこうか?」

 


 フィナーレを迎える遊園地よりも新年を祝う周りよりも遥かに大変で大事な旦那の誕生日。なぜ魔王は新年と共に生を享けたのだろうかと腰を押さえた────。

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