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​番外編17*破りし命令の先

いちご

*2016年年賀SS企画のものです

 年が明けた元旦に、うるさいインターホンが鳴り響く。

 自宅ではない、隣の家で。

 

「まきたーん、まだー!?」

「も、もうちょっと!」

「あいつ、蹴りはじめたぞ!?」

「ごめんなさいっ! 頑張って!!」

 

 大声で叫ぶと、真っ青な顔でリビングに入ってきた姉さんと海雲お義兄さんは顔を見合わせた。迷惑かけてるのはわかってるけど、もうちょっと頑張って!

 

 新年の今日は(一応)旦那である守の誕生日。

 例年通りプレゼントは『俺の命令は絶対券』で、0時と同時にあれやこれやと恥ずかしくて言えないことを命令され、既に腰が逝っている。

 

 そんな中、なんとかヤツが寝ている隙に隣の藤色家に逃げ込んだのだ。

 で、あまりにも帰ってこないため、怒って玄関ドアを蹴っているらしい。子供には絶対見せられないが、こっちにだって事情があるんだ!

 

「よ、よっし、出来た! 会ってくる!!」

「ま、待って、まきたん! 今いったら壁ドンの股ドンだよ!! 見たいけど、それじゃ話を聞いてもらえない気がする!!!」

「よくわからんが、 まず俺達が出る……!」

「姉さん……お義兄さん……!」

 

 気遣いに涙が出てくる。抜き足差し足、ビクビクしながら玄関に向かっているが。

 リビングドアを盾に様子を窺っていると、玄関が開くなり邪気が漂う。背筋に悪寒が走るが、聞き慣れたものより低い声が届いた。

 

「まきを出せ……」

「お、お秘書さん。お誕「ありがとうございます。そして新年あけましておめでとうございます。お邪魔します」

 

 まくし立てながら遮った上に、押し切る勢いで靴を脱ぐ音。お義兄さんが慌てて止めるのが聞こえた。

 

「な、何もそんなに怒ることないだろ! 親戚の家なんだから!!」

「親戚でも姉でもヘタレでも俺の嫁を奪うことは許さん」

「ふわあ~カッコイイ!」

「「違うだろ!!!」」

 

 一人違う脳に、つい顔を出してツッコんでしまった。

 バッチリと目が合い、笑顔なんてないドス黒い気配を纏った魔王降臨に真っ先に逃げる。守も大股でリビングに足を入れた。

 

「まき、待……!」

 

 苛立った旦那を前に、どうしても通したいことがある時のボク必殺技、THE☆土下座で迎えた。

 守の勢いが止まると、傍に置いていた皿とフォークを差し出した。歪な形をしたショートケーキ……ぽいものを。少しだけ頭を上げるが、顔も見ることなく言った。

 

「逃げてごめんなさい……でも……やっぱりなんかあげたくて……毒味は姉さんがしてるので大丈夫だと思います……納めください」

 

 旦那相手とは思えない光景に姉さん達が絶句している気がするが、これが一番有効な手なのだ。数分の沈黙後、溜め息が落ちてくると頭に手が乗る。顔を上げると口付けられた。

 

「ん……!」

 

 押しつけるような荒い口付け。

 でも、0時を過ぎてから刻まれた身体は逃げようとせず、すぐに下腹部が濡れる。離しては口付けを繰り返し、次第に力が抜けてしまったのか腰を支えられるが、そのまま床へと押し倒された。跨がった男はどこか疲れたような顔をしていて、ボクは眉を上げる。

 

「何さ……」

「……起こしてから行ってくれ。色々焦るから」

「ぬ、抜け出すのに必死だんっ」

 

 最後まで待たず口付けされると、片方の手が股を撫でる。

 慌てて人ん家だと止めようとするが、目の端にゆっくりとドアを閉める姉さんが見えた。次いでガッチャンと玄関ドアが閉まる音も。ウチに避難したことが推測できた。

 上着を捲くし上げる彼にとってはよくやった、 ボクにとっては余計なお世話。すると、下着から零れた乳房の先端を舐められる。

 

「ちょ……ぁん」

「不足を補ってもらいます……ほら……料理下手ながら俺のために内緒で作って喜ばせるケーキを食べさせてください」

「余計なこと言いすっ……ああ!」

 

 通常の意地悪モードに戻った守だが、我慢が効かないのか、すぐショーツごとズボンを脱がした。

 

「ひゃああ!」

「まき、食べさせてください……命令」

 

 両手で胸の先端を弄りながらお腹から臍、そして茂みへと舌を這わせる守の目がボクを捉える。その目と“命令”が染み付いた身体は逆らえず、震える手を伸ばすとフォークを手に持った。プスリと刺したケーキは少し崩れてしまったが、股に顔を埋め、愛液を舐める男の元へ運ぶ。

 

 蜜の糸を引きなげら顔を上げた守は艶やかに微笑む。

 充分効果のある攻撃に顔が真っ赤になっているとケーキを食われ、もぐもぐしながら守は天井を見上げた。

 

「あー……海雲の野菜炒めよりは断然美味い」

「どういう基準だ!」

「ふふふ、秘密の料理特訓して、ある人を喜ばせたかったそうですよ。誰かと一緒で」

「う、うっさ……んっ!」

 

 反論するが、顔の傍に座った彼の肉棒の先端が唇に宛がわれた。

 ついでに片方の手は愛液を零す秘部に挿し込まれ、片方の手はフォークを持ってケーキを食べている。行儀が悪いと睨むが、ニッコリ微笑まれた。

 

「私は食事中ですので、その間の遊びにどうぞ」

「……噛んでやる」

 

 宣言しながらも舌先でチロチロ舐めるボクに、守はくすくす笑いながらケーキを頬張る。その顔が嬉しそうに見えるせいか、噛むのはやめてやろう。うん、仕方ない。今日だけだ。

 

 そう頬を赤めたまま夢中で口を動かしていると、コトリと皿を置く音。食べ終わったのかと視線を移すが、なぜか真上にあるのは胸板。

 瞬きしていると、股に顔を埋めた守は秘部を舐めた。

 

「んんっ!」

「喉渇いたので……ん、ください」

「んん~~っ!」

 

 手で握った肉棒を無理やり口に捩じ込まされ、声を塞がれる。

 行儀悪すぎると怒りが沸くが、茂みを、太股を、秘芽を、愛液を舐める速さが増すと快楽に変わり、肉棒を咥える力も強めてしまう。それだけ調教されているのだと考えると凄く恥ずかしい。

 

「どうしたまき……蜜が止まらないぞ……」

「んんっ……」

「ああ……これは貫いた方がよさそうだ……俺のよりフォークがいいか?」

「んんんっ!」

「あっ!」

 

 さすがにそれは嫌だと首を横に振るが、咥えたままだったせいで痛かったようだ。恐る恐る見ると、顔を上げた男は笑顔でフォークを見せた。キランと。

 

「ごごごごごめんなさい! フォークは嫌だ!! 守のしか挿入(いれ)たくない!!!」

 

 肉棒を離した口で必死に抗議する。が、口走ったことに気付いた時は顔が赤くも青くもなり、最終的にピタリと停止した。そんなボクの目が捉えたものは振り向いた男の笑顔……笑顔……笑顔が……魔王だ。

 見なかったことにしようとゆっくりと視線を反らす。と、再びボクの方を向いて跨がった男は頬を撫でながら首筋や耳元を舐める。そして囁いた。

 

「まきは俺とフォーク、どっちが好き?」

「多分……守」

「まきは俺とフォーク、どっちに貫かれたい?」

「ま、守……」

「まきは俺を愛してない」

「愛してる! こんな時に引っ掛けんな!!」

「可愛い」

「~~~~っ!!!」

 

 囁きから耳孔に舌を這わせられると、両脚を持ち上げられた。

 濡れきった秘部には肉棒の先端が宛てがわれ、息を乱しながら今か今かと瞼を閉じたまま待ちわびる。が、中々来ない。また引っ掛けだったのかと目を開けると口付けられた。

 

「んっ!」

 

 驚きは口付けではなく、口から口へと移された物。

 それは甘くてふわふわしてて果汁もある……それが作ったケーキと、添えらていたイチゴだと気付いた時は目を見開いた。

 

「まき……」

 

 唇を離した守の声は優しく、零れた愛液が肉棒にかかった気がした。

 でも今は、羞恥より魔王の気配をなくした彼がただ優しく微笑んでいることに目を奪われる。その唇がゆっくりと『あ・り・が・と・う』と描かれると一気に貫かれた。

 

「ああぁあぁぁーーーーっ!!!」

 

 誕生日の彼を気持ち良くさせなきゃいけないのに、自分が気持ち良い声を上げていいのか迷う。でも、腰を動かしながら攻めたてる男の笑みは変わらず、愛撫されたところ、解されたところ……すべてが快楽となって満たされていく。

 

 聞いたことがある。本当に『なんでもします券』だけでいいのかと。

 すると、少し考え込んだ彼は困ったように言った。

 

『俺が“命令”するのは“抑制”の意味を込めてるんですよ。だってそれ以外を貰ったら──嬉しすぎて壊れるほど抱きたくなるんだ』

 

 彼のタガを緩めてしまったのだとわかる。

 それでも愛されるのも求められるのも好きで嬉しくて、後悔なんて気持ちも全部絶頂の時に弾けた。

 

 新年早々、人ん家を汚したのは反省すべきことだけど────。

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