番外編16*酔いの小悪魔誘い
*まき視点からはじまり「***」で視点変わります
今年も残り僅かとなった十ニ月。
寒がりのボクにとっては家どころか、こたつからも出たくない季節がやってきた。こたつは布団と違って邪魔され難いし、エアコンも入ってたら最高に贅沢な代物だと思う。ビバ☆電化製品。
「え~、寒い日って人肌恋しくならない?」
「年中くっついてる人が何いってんの」
即返すと、双子の姉みきは唇を尖らせながら追加のやきとりをキャベツの上に乗せる。
完全防寒具も煮えた鍋、ジューシーなやきとり、多数のアルコール。そして、忘年会シーズンで賑わう居酒屋の熱気に意味はなく、もつ鍋の締め、ちゃんぽんを啜る。
姉さんに飲みに行かないかと誘われたのは今朝のこと。
当然ボクは旦那からの外出許可が必要になるが、年末進行で帰りが遅いのもあってか、珍しくOKを貰った。子供達も実母にお願い出来たし、久々に旦那達がいない姉妹水入らずのトークは弾む。
まあ、何年経っても姉から出てくるのは新婚並のノロケ。なのに、ニタニタと気持ち悪い顔をされた。
「そう言って~、まきたんも帰ったら絶対お秘書さんにくっつくでしょ~?」
「な、なんでボクが! そ、そんなわけないじゃん!!」
突然の反撃にカシスオレンジを飲むが、頬は違う意味で熱くなった。
実際ヤツは熱がりで基礎体温が高い。それは子供達や電化製品以上という、まさに人間湯たんぽ。後ろから抱きしめた時はもう至福だよ……見返りさえなければね。
昨夜も就寝中にヤられたのを思い出し、ドンっとグラスを置いた。
「帰りが遅かったのは自分のくせに!」
「ひえ~、一度寝たら中々起きない上に、超絶不機嫌になるまきたんを起こすなんて……さすが、ドS変態腹黒鬼畜俺様魔王お秘書さん!」
声に出すのを堪えたのに、姉さんのせいで台無しだ。
背後をチラ見すれば、衝立を挟んだ奥に座る会社員らしき人達が数名無言になり、女性の中には若干頬を赤くしている人がいる。気付いたように一礼した姉さんに、ボクは話す相手を間違えたと豚バラを咥えた。
それもこれも、姉の旦那である海雲お義兄さんが夜這い的なことをするはずがないからだ。
精力絶倫のウチの旦那とは違い、至って常識人。少しクールすぎるところはあるけど、他愛ない話……特にウチのヤツとは腐れ縁だけあって話が合うし、とても優しい。本当に義兄になってくれて良かったと思っている。
でも、セックスとか縁遠いように見えて意外とガッツリ派。
姉や旦那から『俺様』と称された時は耳を疑ったが、身内になってその意味がわかった。隙をついてのキスはもちろん、中々に恥ずかしいプレイをさせる人だと。
ギャップ違いに驚くが、確かにウチの旦那も大概な俺様S。でもたまに……。
「むしろ守さん、Mかもね」
「ぶふっ!!!」
「うわっ、ビックリしたっ!」
ドンピシャ思っていたことを言われ、口から豚バラが吹き飛んだ。
双子の奇跡に拍手したいところだが、別のことにカシスオレンジを一気飲みする。姉さんは小首を傾げた。
「まきたん、飲みすぎは身体に悪いよ?」
「そ、そうじゃ……げほっ、げほっ、なくて……姉さん……あいつの名前……げほっ」
「名前? お秘書さん? ドS変態腹黒鬼畜俺様魔王さん? Mさん?」
「そ、それは、あだ名と称号と隠れ……じゃなくて、ま、守って……」
咳き込みながら口元におしぼりをあてる。
動揺してしまうのは、姉から『守』を聞いたことがないからだ。ボクが『まきたん』と呼ばれるように、出逢った時からヤツは『お秘書さん』と呼ばれている。結婚し、親戚になってもだ。てっきり名前を忘れているのかと思っていたせいか、大変な違和感と鳥肌が立ち、ムカムカもする。
そんなの知る由もない姉さんは苦笑した。
「さすがにお正月とか、親戚が集まる場所で『お秘書さん』なんて呼べないよ~。まあ滅多に呼ばないし、お酒入ってるせいかな?」
「ふーん……」
頬杖をつくと唇を尖らせる。
声だけで不機嫌になっているのがわかったのか、姉さんは冷や汗をかきながら小首を傾げた。構わず店員を呼ぶと、追加注文する。
次第に増してくるムカムカが嫉妬だとわかる。
未だに『ヤツ』とか『あいつ』としか呼べない……素直になれるセックス中でなければ『守』と呼べないボクと違って呼べる姉に。
「酎ハイの巨峰と桃とレモンと梅酒、お待ちな~り」
元気な男性店員に一礼すると、巨峰と桃を姉さんのところに置く。
まだ半分残っているのがあると言いたそうだが、構わずグラスを手に取ると、顔を真っ青にさせた姉に微笑んだ。
姉さんなんて、S降臨したお義兄さんに苛められちゃえばいいんだ──!
* * *
「これは……」
「おやおや」
0時を少し過ぎた、とある居酒屋。
店内で立ち尽くす海雲と私の前には数本のグラスが置かれたテーブルに突っ伏した嫁達。事前に飲むことも場所も聞いていたので会社帰りに迎えにきたのですが……どう見ても潰れてますね。
そっと、嫁の肩を叩く海雲を他所に伝票を見ると、えらく酒を頼んだようだ。
グラスもまきの方が多く珍しがっていると『んん~』と言いながら顔を上げたみっちゃん様が、にへら~と締まりのない笑顔を浮かべる。
「あ~海雲しゃんと~守しゃんだ~」
海雲の頭に雷が落ちた気がしたが、気にせずまきの背中を人差し指で、す~と下になぞった。予想通りビクッとのけ反った身体と顔。薄っすらと開かれる目に笑みを浮かべた。が。
「あ~守だ~!」
まさかの義姉と一緒。まさかの笑顔返し。まさかの抱擁。
一瞬思考が停止したが、ぐしぐしとお腹に頬を擦りつける様子に溜め息をついた。
「まき……飲みすぎ……んっ」
顔を寄せると口付けられた。
それはすぐ離れたが、奥にいる客達にも見えたようで小さな悲鳴が上がる。また一息吐き、手早くコートとマフラーを巻くと抱えた。いつもなら暴れるはずが、両手がすぐ首に回る。
「守~大好き大好き~!」
「はいはい、それは誰もいないところで言ってください」
「どこで言ってもいいだろ~!」
不満気にバシッバシッと背中を叩かれるが、やはり酒臭い。
普段言わないことを言ったり甘えてくるのは完全に酔っている証拠。嬉しさは半減するが、この状態でしか出来ない遊びをしてやろうと出入口へと足を向けた──伝票と運転を海雲に任せて。
「んっ、ぅん……ンンっ……はあぁっ」
「満足か……っ!」
「んんっ……まひゃいるぅ……ん」
また大きく口を開いたまきは、ベタベタになった両手で掴んでいる肉棒を咥える。くぷくぷと音を鳴らしながら、嬉しそうにしゃぶるエロさと刺激に、立っているのも辛くなり、ドアに背を預けた。
三十分ほど前に居酒屋を後にし、海雲の運転で帰宅。
の、はずが、膝に座るまきにずっと股間を触られ続けた。終いには取り出してしゃぶられそうになり、近くにあった公園のトイレに突撃。個室に入った途端、中腰になったまきに肉棒を取り出され、今に至る。
「まき……そんなに我慢……出来なかったのか?」
「ん……守にょ……欲しい……んふ、ん……精液もっと……ちょうだい」
急かすように口を前後に動かし、両手で袋を揉む。
先走りが出てくると亀頭を舌先で舐め、吸い取ろうと、はしたない音を気にもせず鳴らした。酔いが小悪魔を起こしたようで加減がなく、歯を食い縛る俺の頬からは汗が落ちる。
普段されないことに戸惑いも大きいが『欲しい』『ちょうだい』とねだられるのは好きだ。酔っていてもまきなのに違いはなく、求めているのが自分だけではないとわかると口元が弧を描く。
「なら……もっと気持ち良くしてもらわないと……ほら、胸は……?」
両手で頬を撫でると、見上げたまきの頬が赤くなる。
一瞬俺の目が丸くなるが、肉棒を離したまきはコートの前を開くと、何枚もの上着と一緒に下着も捲くし上げた。ツンと尖った可愛い乳房が露になり、そのまま必死に胸を中央に寄せると、谷間に肉棒を挟む。
「こ、これで……良い?」
伏し目がちに、恥ずかしそうに訊ねたまきは、ゆっくりと胸を動かす。
どこかぎこちないが、一生懸命扱いては亀頭を舐める様子に眼鏡を外すと、手で瞼を覆った。
なんだコレ……理性弾けそう。
ここまで感化されるのは久し振りだ。しかも、まきからの愛撫となれば抑えは効かない。もう場所も忘れて抱き飽かそうかと思った時、誰かが入ってきた。
『いや~稼いだ稼いだ~そろそろ帰るな~り』
陽気な男の声だが、ボソリと『おい、ここ女子トイレだぞ』と、まきがツッコむ。眼鏡を掛け見下ろすと、片眉を上げている。しばらく考え込んだ俺は口角を上げた。
「ほら、まき、気にせず続けて」
「えっ……ンンっ!」
構わず肉棒をまきの口内に挿し込む。
最初は戸惑っていたが、俺の目に観念したのか、さっきよりもゆっくりな愛撫を続けた。確証が得られていると、背後でパンパンと手を叩く音と大きな声。
『開けーーゴマーー!!!』
今時それ言うヤツがいるのかと感心したが、突然眩しい光がトイレを覆った。
さすがに閃光弾を放つのはアホだろと声を上げそうになるが、不思議と耳鳴りなどはしない。以降、男の声もせず、ただ静かな風音と肉棒を離したまきの呟きが聞こえた。
「お前以上の変態がいたのか……ンンっ!」
「失礼な。私が女子トイレ(ここ)に居るのは見事な演技(おねだり)をしてくださった貴女のせいですよ」
「んぐっ!?」
目を見開かれたが、肉棒を咥え込ませると激しく腰を動かす。
さらに、ぐっと頭を押さえ込むと、肉棒が喉元を突き、刺激を受けた肉棒から白液が吹き出した。
「んんん゛ん゛っ!!!」
「零さず……飲んでくださいね」
肉棒を前後に動かし、口内でぐるりと回すと引っこ抜く。
両手で口元を押さえたまきは必死にコクコクと喉を動かし、こっきゅんと呑み込んだ。薄っすらと瞼を開き、息を乱している様子にくすりと笑うと口付ける。
「んっ……んんっ」
「ん、ふふふ……ドロドロ……ほら立って、両手を壁につけて」
「ま、待っ……ああぁ」
数度口付けると後ろを向かせ、下着ごとズボンを下ろす。
既にショーツはぐっしょり濡れていて、愛液が落ちていた。それを亀頭で掬いながら秘部へと宛てがう。
「ああっ……待って……まだ」
「充分濡れてますから大丈夫ですよ……それにこれはご褒美です」
「ご、ご褒……ひゃっ!」
慌てて腰を引っ込めるまきを後ろから抱きしめると、うなじと耳朶をしゃぶり、囁いた。
「酔ってるフリをして、俺を極限まで愛してくれましたからね」
「なっ、なななななん……え、ウソっ!?」
顔を赤くも青くもした“いつもの”まきに、ふふふと笑う。
最初は本当に酔っているのかと思ったが、それなら羞恥のすべてがなくなり、望むままに刺激をくれる。それは以前されて知っていること。なのに今回は躊躇いがあったし、見事なツッコミもした。つまるところ──演技だったわけだ。
「なんでこんなことを? なんてことは聞きませんので、このまま愛され壊されてください」
「や、ヤダヤダ! バカバカ!! このっ魔──あ、ああぁぁんっ!!!」
腰を掴むと、一気に挿入する。
そのまま容赦なく奥を突いてはかき回し、締めつけと同時に溢れんばかりの愛を送って囁いた。さすが、俺のまき──と。
* * *
翌日、二日酔い……ではなく、全身筋肉痛。
紫苑とりまは心配そうに互いを見合うが、ボクはブツブツと懺悔を呟く。
「やっぱ……お酒の力だけにすればよかった……もう絶対自分でとかしない」
「いいですよ、誕生日にしてもらいますから」
「ああああ゛あ゛ぁぁぁーーーーーーっっ!!!」
満面笑顔の男に、悲鳴を上げながら布団を被った。
そして、動けるようになったら姉さんと海雲お義兄さんに謝ろうと誓う。
一番のドSは守でした────と。