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​番外編15*双子の日曜日

いちご

*第三者視点です

*「カモん!」のニ人(みきと海雲)も登場しますが、途中まきと寺置になります

 今日は至って普通の日曜日。

 デパートもクリスマスが近いせいか華やかに彩られ、多くの家族連れで賑わっている。そんな笑顔で溢れているはずの群衆の中で、不釣り合いな顔をした男達がいた。

 

「…………おい、寺置」

「しっ、移動しましたよ」

 

 呆れた様子で声をかけたのは、前髪を下ろしている私服の藤色 海雲。

 そんな彼の声を遮った寺置 守もまた私服だが、仕事以上に真剣な目をしている。人混みを盾に追う先には、似た背格好をした小さな背中が二つ。

 

 一人は腰まである長い漆黒の天パに、ベレー帽を被り、ロングスカートを履いた海雲の嫁、みき。

 一人は同じ天パは肩まで。オレンジのマフラーを巻き、もこもこのロングコートを着た寺置の嫁、まき。

 仲良しな双子姉妹は手を繋ぎ、楽しそうに喋っては目に入った店で立ち止まっていた。その度に寺置と海雲も立ち止まり、数メートル先から様子を伺う。

 

「まきたんもたまにはスカート履いたら?」

「ヤダ。寒い」

「私のロングスカート、あったかいよ」

「みっちゃん様、もう一声!」

「お前……何がしたいんだ」

 

 口は“へ”の字でも、みきのロングスカートを握るまきはぽっと頬を赤める。その様子に壁際から顔を覗かせている寺置は握り拳を作るが、海雲は今日何度目になるかわからない問いを呟いた。

 

 はじまりは昨夜のこと。

 みきから妹と二人で買い物に行きたいから明日子供をお願い出来ないかと頼まれた海雲は二つ返事で引き受けた。直後、寺置から『明日、嫁の真相を掴むため、子を預ける』とメールが入り、クエッションしか浮かばなかったため電話。

 なぜか義母に子供達を預かってもらい、密偵……嫁のストーカー化していた。

 

「……どう見てもただの買い物だろ。何を心配してるんだ?」

 

 フードコートで注文待ちしている二人を見ていた海雲に、寺置は自販機で買ったコーラを手渡す。礼を言った海雲はプルタブを上げるが、振ってあったのか、勢いよく炭酸が噴き出した。

 顔面泡だらけになった男をスルーした寺置は缶コーヒーに口をつける。

 

「いつもなら程々気にはしないんですが、頼み方がいつもと違ったので何かあるのではと」

「頼み方?」

「『行っていいですか』が、ツンと照れたものじゃなくて土下座だった」

 

 ハンカチで顔を拭く海雲の手が止まった。同時に不審な目を向けるが、注文品を受け取った姉妹がキョロキョロと席を探しているのに気付く。長身の二人は向こうが空いていると指すが、内密だったことを思い出し、互いに腹を殴った。

 痛み分けのように大の男二人が蹲っていることなど知らず、席を見つけた姉妹は話しはじめる。

 

「ハピーセットのおもちゃって今『妖怪チッチ』なんだね。まきたん、ココマさんいる?」

「なんで良い大人が……まあ、りまが好きだから貰うけど」

 

 付属のおもちゃを受け取るまきの頬はどこか赤い。立ち上がった寺置は眼鏡を上げながら溜め息をついた。

 

「好きなのはりまじゃなくてまきでしょうに……」

「そうなのか? みきが『よーでる体操』してるアニメのキャラだろ?」

 

 サブカルチャーに疎い海雲が珍しく話題アニメに乗っかる。柱に背を預けた寺置は頷くと、おもちゃを鞄に仕舞うまきを見つめた。

 

「本人は隠してるつもりでしょうが、明らかにココマさんが映ってる時と映ってない時とでは姿勢が違います」

「姿勢?」

「ココマさんが映った時は正座になる」

 

 眉を顰めた男に海雲は黙る。その顔は『とてもわかりやすい』と言っているようにも見えた。そんな旦那達を他所に、ポテトを食べる嫁達の会話内容が変わる。

 

「姉さん、今年も年末年始は東京?」

「うん、海雲さんの実家。でも向こうの都合でニ日に行くことになってるんだ」

「え、コミケは?」

「ん~……無理かなあって。だから本はしょうちんに頼もうと思って。あ、なっちゃんのプレゼントどうしよう」

「なっちゃんって、数年前マンホールに墜ちて行方不明になった友達だっけ?」

「そうそ。いつか帰ってきた時に渡そうと思って。女の子好きだからやっぱり百合系かな」

 

 さほど大きくはない二人の会話は、賑やかな休憩場では掻き消されるはずだが、数メートル先の席に着いた旦那達にはハッキリと届いていた。向かい合ったまま天井を見上げていた二人は目を合わせる。

 

「………………戦場で百合が売られてるのか?」

「マンホールって私達のサイズでも墜ちますかね?」

 

 チョイスした言葉の違いに沈黙が漂う。

 しかし顔つきが真剣だったのと容姿端麗が合わさったのか、二人組の若い女性達が声をかけてきた。頬を朱に染めた女性達に男達は目だけ向けると同時に左手を見せる。その薬指から効果抜群の光が放たれるように、みきの爛漫な声も聞こえてきた。

 

「だから今年はお秘書さんの誕生日も一緒に祝えるよ。その前にクリスマスだけど……中々決まらないね」

「そもそもあの二人、好きな物がなさすぎるんだよ」

「やっぱり本人に選んでもらった方がいいのかな……プレゼント」

 

 花が散ったようにしゅんと声を落としたみきに、男達は石像のように固まった。

 特に海雲は訝しい目つきで寺置を見据えるが、逆光で眼鏡の奥にある表情が読めない。そんな男の愚痴が背後から零れた。

 

「特にウチのは無趣味に等しいから困るんだよ。聞いてもアレだし……」

「アレ……ああ、まきたんが欲しっぐ!」

 

 前屈みになって姉の口を両手で塞いだまきの顔は真っ赤。寺置は密かにOKサインを出していた。モガモガと口を動かすみきから手を離したまきは大きな溜め息をつく。

 

「もうクリスマスまで外に出れる日ないし、今日中に決めないとマズいよね……あんまり遅くなっても怒られるし」

「お秘書さん過保護だからね~。もうビビッときた物を即買いするしかないよ」

 

 会話内容から、どうやら姉妹はクリスマスプレゼントを買いにきたようだ。しかも旦那達の。無言の彼らを他所に、ジュースを持ったみきが苦笑しながら立ち上がる。次いで立ち上がったまきもジュースを飲みながら頷いた。

 

「姉さんはいいよね。変なの買ってもお義兄さん優しいから」

「お秘書さんも笑って終わるでしょ?」

「終わるけど、夜がねちっこくなる。すっごいねちっこくなる。ゴ●ホイホイ並に」

「あ~……捕まったが最後だよ。諦めよっだ!」

 

 後ろから姉の脚を蹴ったまきとは反対に寺置は頷く。

 海雲は呆れるしかなかったが、ゴミを捨て、ベレー帽を被るみきを捉える。

 

「でもね、最近海雲さんも意地悪だから、私も慎重に選ばないと後が怖いかも」

「意地悪?」

「うん、ちょっと俺様になるからドキドキしてね……」

 

 話しながら思い出してしまったのか、みきの頬が簡単に朱色に染まる。ゴミを捨てているまきは気付かないまま話を続けた。

 

「あのお義兄さんがね……まあ、いつもと違う調子で来られるとそうかもね。なに、俺様のお義兄さん嫌いなの?」

「う、ううん! 嫌いじゃないよ俺様海雲さん!! ば、爆死するかもしれないけど嬉しいもん!!!」

 

 両手で握り拳を作ったみきは顔を真っ赤にしたまま宣言する。

 その大きな声に周りは驚いたように凝視し、海雲は両手で顔を覆った。ゲシゲシと寺置が足を蹴っていると、熱が移ったように顔を真っ赤にしたまきが慌てて姉の手を取る。

 

「もう、恥ずかしいこと言わないでよ!」

「ま、まきたんだってお秘書さんが俺様になっても嫌いにならないでしょ!?」

「あいつは元から俺様で腹黒なの! これ以上酷くなっても受け止めれるのはボクだけだから良いの!! ……あ」

 

 必死なみきにつられるようにまきも声を荒げてしまったが、口走ってしまった内容にピタリと止まる。姉以上の視線が集中し、その顔は真っ赤。口も金魚のようにパクパクさせている。そんな妹の頭を撫でたみきは手を引っ張るように人混みから離れて行った。

 

「良い嫁に巡り逢えたな……寺置」

 

 どよめきが起こる休憩場で、海雲はポツリと向かいに座る腐れ縁に呟く。片手で顔を覆う寺置は反対の手で三本の指を立てた。

 

「一、今から二人と合流する。ニ、今すぐヤる。三、拉致って犯す」

「四、俺達は帰る」

 

 指折りしていた寺置に溜め息をついた海雲は立ち上がる。

 口元は変わらず結ばれているが、頬が緩んでいるようにも見えた。その様子に寺置も一息つくと立ち上がり、メールを打つ。数分後、海雲の携帯に『お秘書さんから二人で飲んできなさいってきたんですけど、遅くなってもいいですか?』というメールが届き、隣の男に目を移す。

 いつもと変わらないように見えたが、長い縁から読み取ったのか、了承の返信を送った。

 

「俺達も……飲んで帰るか?」

「こんな昼間っから飲むわけないでしょ。素直に瑞希様のとこに戻って父親しますよ」

「…………明日は雪か」

「りまに『ママのサンタミニスカコスが見たい』を言わせる練習をします」

「…………お前、本当に離婚されるぞ」

 

 並んだまま外に出た海雲は白い息よりも重い息を吐いた。

 それでも暖かな日差しと晴れ渡った空に二人は自然と笑みを零す。早く会いたい、抱きしめたい。でも、今日は少しだけ待つことにした。

 

 可愛い嫁姉妹が変わらず想ってくれていることを知ったから──。

 

 

* * *

 

 

 日を跨ぐ少し前、まきが静かに帰宅した。

 その頬はお酒で赤くなっているが、青くも見える。玄関で待ち伏せされているかもという不安からだろうが、予想していた姿はなかった。それどころか、抜き足差し足で入ったリビングにもいない。

 明るい電気と暖かなエアコンに喜ぶよりも先に辺りを見渡した。

 

「靴……あったっけ……?」

 

 途方に暮れていたまきは荷物を持ったまま慌てて玄関に戻る。

 廊下の明かりを点けるまで動悸が嫌な音を鳴らしていたが、見慣れた靴に安堵の息をついた。次いで寝室、息子の部屋、トイレ、風呂場を順に見ていくが誰もいない。

 

 腕を組んだままリビングに戻ってきたまきは考え込む。

 すると、キッチンの横。まだ小さい娘の遊び場、たまに寝室にしている和室の襖が僅かに開いているのに気付いた。荷物を下ろし、暗い七畳ほどの部屋を覗くと、差し込む明かりが二組の布団を映す。そこにはすやすや眠る二人の子供と旦那──守がいた。

 

「珍しい……」

 

 ポツリと呟いたまきは音を立てないよう足を入れる。

 手前で寝転がる守が実は起きているのではないかと恐る恐る身を屈めるが、規則正しい寝息が聞こえてきた。本当に寝ていることに驚きながらも、掛けっぱなしの眼鏡をそっと外す。

 

「んっ……」

「げっ」

「げげの……鬼太ろっだ!」

「しまった!」

 

 ついツッコミの手を入れてしまったまきは逃げようとするが、手首を捕まれる。

 眼鏡が畳に落ちるように、引っ張られたまきは堅い胸板へと落ち、大きな両腕に抱きしめられた。髪を撫でられながら額に口付けが落ちる。

 

「お帰り……まき」

「た、ただいま……今日は……ありがと」

 

 お酒のせいか、頬を撫でる手のせいか。素直な礼を口にしたまきに、寝惚けた目を瞬かせていた守は柔らかな微笑を浮かべた。それがヒットしたようにまきは俯くが、伸ばした両手を彼の首に回すと腰が自然と浮く。守もまた上体を屈め、まきの顎に手を添えると唇を重ねた。

 

「んっ……ふ」

「酔ってるのか? 積極的だな……」

「うるさ……ん」

「煽る羊に……ん、狼は加減しませんよ」

 

 くすくすと笑いながら舌を挿し込む守だが、なんのことかわからないまきは片眉を上げる。熱い舌同士を絡め突く守は、まきのコートについたフードを被せた。それは愛くるしい羊の顔。今年の元旦、家族お揃いで買ったコートだ。

 

 次いで、首元で巻かれたマフラーが解かれる。

 出逢った年のクリスマスに貰ったオレンジ色のマフラーに、顔を真っ赤にさせたまきは唇を離す。だが、抱きしめる腕に敵わず、開いた首筋に噛みつかれた。

 

「ひゃあ、んっ!」

「声、禁止」

 

 痛さに上げた声は守の手に塞がれる。

 すぐ傍で眠る子供達にまきも気付くが、誰のせいだと睨むのは忘れない。その目に守は愉しそうに笑い、空いた手で彼女のハーフズボンとタイツ、そしてショーツを下ろした。口を塞がれているまきは大きく目を見開くが、容赦なく無骨な指を二本挿し込まれる。

 

「っ!」

「ああ、濡れてないから狭いですね……お義姉様と厭らしい話はしなかったんですか?」

「厭らしいのは……お前……ん」

 

 指が一本口内に挿し込まれ、上からも下からもぐちゅぐちゅと水音が鳴る。次第に息を上げるまきの下唇からは唾液が零れるが、守は気にすることなく耳元で囁いた。

 

「どこを触られると感じて、どういう体位をするかという話です。まあ、まきは何をされても悦びますけどね。俺限定で……ほら、濡れてきた」

「あっ、あ……あふ、ん」

 

 蜜口に挿し込まれた指から愛液が伝う。

 耳朶をしゃぶられながら指を速められると零れる愛液が増し、口から指を抜かれたまきも喘ぐ。

 

「あ、んあ……ああぁ」

「イっていいんですよ……ほら、イけ」

「──っっ!!!」

 

 甘美な声にぎゅっと瞼を閉じたまきに絶頂が襲った。

 勢いよく蜜口から抜いた指を守は浅い呼吸を繰り返すまきの口元に付ける。それを反射のように舐めるまきだったが、眉は吊り上がっているように見えた。

 

「いつもに増して……酷くない?」

「何を仰います。いなかった分ねちっこくなるのはご存知でしょ」

 

 顔を顰める彼女に『まだまだ序の口ですよ』と言うように守は口付ける。

 すると、冷えていたまきの股に熱く硬いモノが宛がわれた。いつの間に取り出していたのか、僅かな明かりでも聳り立っているのがわかるモノに、まきは喉を鳴らす。

 愛液がついた指を舐める守は目を細めた。

 

「ですので、まきから挿れてください。跨って」

「ま……!」

 

 意識朦朧だった彼女の目が大きく見開かれる。

 その目は隣で眠る我が子に向けられるが、守の両手がロングコートを掴んだ。

 

「こうすれば俺以外には見えません。後はまきが……ね?」

 

 命令のようにも聞こえる声に、まきは戸惑う。

 だが、充分に火照っていた身体は自然と腰を浮かせ、気付けば四つん這いで跨っていた。震える手で熱いモノを扱く彼女の胸を、守は服越しに揉む。

 

「あっ……」

「ふふふ、良い子……そんな子のクリスマスプレゼントはどうしましょうかね。まきは俺に何を買ってくれますか?」

「な、何かが襲来するかもね……」

 

 まきの目が一瞬床に置かれた荷物に移る。

 内心笑う守は両手を下から上着の中に潜らせたが、相変わらず何枚着ているかわからない厚着に溜め息を零した。その隙に肉棒の先端がまきの蜜口に食い込む。

 

「あっ……イいな」

「ひゃっ!」

 

 奥へと肉棒を招いていたまきに、守もブラジャーから掬い出した乳房を弄る。大きな手の平で尖った先端を捏ねては引っ張り、刺激を与えていく。

 

「や……やめ……」

「気持ち良くしてもらっている礼はしな……っあ!」

 

 ゆっくり下ろしていたまきの腰が力を失くしたように落ちる。

 濡れきった膣内に滑るように入った肉棒はよく知る容に収まり、まきは声を漏らさないよう両手で口元を押さえた。だが、乳房を弄っていた守の両手が腰を持つと、上体を起こした彼に揺さぶられる。

 

「んっ、あ、んっンンっ!!!」

「バレないよう必死になるまきの姿は……厭らしくて興奮する……っ!」

「んんん──っ!!!」

 

 膣内でびゅくびゅくと噴き上げる熱に、まきの身体が大きく弓形になる。

 そのまま倒れる彼女の手を取った守は自身の胸板に抱きしめるが、そのまま反転するようにまきに跨った。息を荒げるまきの顔が青くなる。

 

「ちょ……待っん!」

 

 荒い口付けが落ちると、厚着の服が捲られる。

 露になった乳房を舌先で舐めながら、守はまきの両脚を持ち上げた。白濁を零す先端が宛がわれ、まきは必死に顔を横に振るが、真上にはニッコリ笑顔。

 

「どんなに酷くなっても受け止めてくれるんだろ?」

「コンニャ……──っっ!!!」

 

 まさかと気付いたまきの声は口付けと快楽によって掻き消された。

 子供達にバレないよう必死に声を我慢する嫁と、それを愉しく見るため寝ていた旦那の攻防はいつ終わるかは知る由もない。

 

 ただひとつ、長時間の外出はやっぱりダメだと悟ったまきだった。

 

 

 

 

 

 ちなみにクリスマス当日。

 まきの元にはバル●ン星人、守の元には使徒フィギュアが襲来。

 二体を使った戦いをはじめる両親に子供達は始終盛り上がり、娘が笑顔で『マんマ、さんたこしゅきたい!』と言えば、願い通り可愛い娘のサンタコスが拝めた。

 

 旦那の計画は失敗に終わったが、別の快楽が待っていたのは言うまでもない────。

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