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​番外編14*海とリベンジ

いちご

 暑い暑い夏だと蝉が鳴く。

 今日は土曜日。やっと休日になったと喜ぶように、エアコンが入ったリビングソファで寝転がるボク。腕にはウリィクッションも抱き、快適快適。すると“ぷにっ”と頬を突かれた。見上げた先には旦那の笑顔。

 

「まき、海に行きましょうか」

「ヤダ」

 

 スッパリ断ると、背を向けるように身体を丸める。が、両くびれを掴まれ勢いよく跳ねた。

 

「ふんぎゃあ!」

「ふふふ、相変わらず面白い啼き方しますね。もしや、泳げないんですか?」

「泳げるわ! 普通に当日行こうって言われて行けるわけないだろ!! 準備だってあんのに!!!」

「私が考えなしで言うわけないじゃないですか」

 

 厭らしい手付きで悪戯する守は、傍に立つ息子と娘に『ねぇ』と小首を傾げる。気付けば無表情の紫苑は青の浮き輪と海水浴バックを持ち、りまは笑顔でピンクの浮き輪と麦藁帽子を被っていた。が、手には虫取り網。紫苑が隣室に放り投げると、何事もなかったように旦那から袋を手渡される。

 起き上がって開いた中身は、白のフリル付きワンピースの水着。

 

「ちょっ、待っ、ボ、おまっ!!?」

「ええ、まきのですよ。買ってきました」

 

 驚愕といったボクの言葉を読んだ笑顔男に袋を投げるが、当然のように受け止められた。顔を真っ赤にさせたまま文句を言おうとしても、唇に付けられた人差し指に制止をかけられる。

 

「では、まきに二つの選択肢をあげましょう」

「絶対一択だろ!」

 

 噛んでやろうと大きく口を開いたが、押し付けるような口付けを受け、ソファに沈む。子供達がリビングから出て行く声に、跨る男はいっそう唇を押し付けた。

 

「んっ……ふぁ、んっあ……」

「ん……ひとつ目、一緒に海へ行って水着を着る」

 

 言い方に違和感があるのは気のせいか?

 片眉を上げると、唇を離した男は水着が入った袋と携帯を取り出した。

 

「二つ目。室内で水着を着て、俺に写真を撮られまくるか。さあ、どっちがいい?」

 

 満面の笑顔が向けられる中、蝉の声だけが響いた──。

 

 

* * *

 

 

 雲もない晴天の空と燦々の太陽。

 海もキラキラと光り、海水浴場は家族連れやカップルで賑わっていた。

 

『それ以上行ったらサメがくるなり~食われても自己責任なりよ~』

 

 笑えない監視員の声を聞きながら木陰に座るボクは、旦那に貰った水着の上にパーカーを羽織っている。アハハウフフと楽しそうに駆け回る客から、隣に座る海パン姿の紫苑に目を移した。

 

「お前さ……父親の言うこと全部聞かなくていいんだぞ」

「いえ……本能が『逆らうな』と言っているんです」

「そっか……ごめんな」

 

 自分の血もシッカリ入っている様子に、つい謝罪と一緒に頭を撫でてしまった。五歳児だというのに血筋とは恐ろしいもんだ。溜め息をついていると視線が重なる。

 

「母さんこそ、なんで海を選んだんですか?」

「野郎より……その辺の変質者に撮られた方がマシだと瞬時に思った……けど、“ここ”ってわかってたなら考え直したよ」

「ここ?」

 

 前半部分を見事にスルーした息子は瞬きするが、ボクは両手で顔を覆う。

 海水浴客で賑わう海と砂浜。家から近いのは福岡タワーのある百道浜のはずなのに、別の場所に連れてこられた。紫苑とりまはドライブで通るぐらいだが、ボクは一度だけ足をつけたことがある。まだ旦那の恋心にも気付いてない寒空の下。月明かりと潮水を被り、背後に建つホテルで一夜を過ごした──志賀島だ。

 

「今日は落としますよ」

「ぴいっ!」

 

 心を読んだ声にビクリと身体を揺らす。

 振り向けば、フルーツとリボン柄のワンピース水着を着た娘を抱える守。眼鏡をかけずサーフパンツだけというのは新鮮だ。そして無駄にカッコ良いことが周りの女性達の視線でもわかる。左手の指輪と、りまを抱っこしているせいか残念そうに去って行ったが。

 

「結婚指輪と子供の組み合わせって最強ですよね」

「嫁(ボク)はスルーだがな」

 

 相変わらず嫁として見られない現実に口を尖らせる。

 まあ、傍にいても大体『え、奥さん?』って感じで見られるし、未だに釣り合いが取れてないとも思う。姉さんと海雲お義兄さんは夫婦に見えるのになんでだろ。

 

「まき」

「ん……っ!」

 

 考え事をしていたせいか隣に座ったのも気付かず口付けられる。

 当然視線を浴び、勢いよく背中を叩いた。周りはなんともいえない顔をするが、唇を離した旦那は変わらず微笑む。

 

「不安解消です」

「はあ?」

 

 意味がわからないといった声を上げるが、くすくす笑う男は立ち上がると子供達に浮き輪を被せる。次いで手を差し出したため、不満ながらも手を乗せた。ふわりと浮くように立たされると、大きな手がパーカーを脱がす。

 水着を着ているとはいえ、手が肌に触れるだけで身体は熱くなり恥ずかしい。けれど、頭上から落ちてきたのは溜め息。

 

「どうせまた他の女は一粒五万円の美人姫(イチゴ)、自分はその辺に実った野イチゴだとか比べてたんでしょ」

「例えが極端だな!」

「おや? では似たようなことは考えていたんですね」

 

 力強く胸板を叩くが、間違いではない指摘に顔を伏せる。

 すると背中に回った両手に押され、抱きしめられた。いつもは部屋の中でしか感じない胸板に心地良さを覚えるのは、意地悪をしない手が髪を撫でてるせいかもしない。

 

「私は丹精こめて育てられたハウスイチゴよりも、根性で実る野イチゴが好きですよ」

「ケンカ売ってんの?」

「ええ、そうやって噛みついては逃げようとするまきを出逢った時から愛してます」

 

 睨んだ後に向けられた笑顔と台詞にボクの顔は真っ赤になる。

 それが伝染したように周りの顔も真っ赤になっているのは聞いていたからだろう。慣れた様子の子供達が浮き輪を被ったまま海へ駆けだすと、ボクを抱き上げた守も歩きだした。

 いつもならジタバタしながら文句を言うが、何も言わず運ばれる。

 

 『出逢った時から』。ボクが不安がる度にこいつはそれを言う。

 未だに半日惚れも信じられない時があるが、降り注ぐ太陽と穏やかな海。あの時とは違う風景でも抱きしめる腕とぬくもりは変わらない。動悸もやっぱり激しくて、首に回した両腕をぎゅっと強くした。耳元をくすぐるような笑い声が届く。

 

「まだ不安なら、大海原に私がどれだけまきを愛しているか叫んであげましょうか?」

「すんなっ!」

「水着の可愛さを叫ぶのは?」

「すんなっ!」

「俺の悪口を叫ぶのは?」

「ボクがするっぶ!」

 

 大きく挙手したが、海に放り投げられた。

 熱くなった身体を冷やす水に、独特の潮。だが見事鼻にも入り、水飛沫を上げながら顔を出した。文句も一緒に。

 

「おっまえなあ!」

「落とすって言ったじゃないですか。大人しいので何事かと思いましたが、いつも通りで良かったです」

 

 咳き込みながら、腕を組んで佇む魔王を恨む。

 でも、知らない人が声をかけた時の作り笑いではなく、心の底から楽しんでいる顔。それは家族、特に嫁(ボク)にしか向けないもので、とても……。

 

「愛されてるなあ……」

 

 苦笑しながら呟くと、守は瞬きを繰り返す。

 何年たっても不安は消えない。それは旦那の容姿、自分の性格、様々なところから駆られる気持ち。でも、察したように返される言葉とぬくもりのおかげで水のように流れていく。簡単に。

 

 そんな偽りのない気持ちを再認識すると、水音を立てながら彼に近付き、伸ばした両手で抱きしめた。周りの視線も羞恥も関係なく胸板に頬を擦り、普段言えない言葉を口にする。

 

 

「守……大好き……」

 

 

 ピシリと、何かヒビが入るような音が聞こえた気がしたが、構うことなく頬を擦る。それに応えるように抱きしめられると、肩に守の顔が埋まった。

 

「……デレ中のまきって凶悪だよな」

「は……っん」

 

 耳元で囁かれる声に反応するが、首筋に吸いつかれ、別の声を漏らす。そのまま抱き上げられると陸に上がるのではなく海中に身を屈めた。胸元まで浸かるとお風呂みたいだが、これは海水。

 

「ちょっ、何っ!?」

「浜辺より、海中で挿入する方が良い」

「よくねええええぇぇっ!!!」

 

 真顔でとんでもないことを言う男に抗議の悲鳴と一緒に身体をジタバタさせる。周りは何事かとざわつくが、子供達は波打ち際で砂山を作る安定度。しかし、下腹部を撫でる手を止めるのが先だった。

 

「やめろやめろっ! 他のお客さんどころか監視員だっているんだぞ!! 捕まりたいのか!!?」

「夫婦を止める権利は誰にもない。それに俺の半径ニメートル以内に入れば容赦なく犬●家にしてやるし、あのなりなり監視員なら遊戯だと思ってスルーするだろ」

「揃って捕まっち……あっ!」

 

 下腹部の隙間を広げられ、冷たい水と指先が秘部を刺激する。

 波の音に混じりながら喘ぐボクに、守は肌へと口付けを落としはじめた。触れられる箇所は水に浸かっていても熱く火照るが、布越しに膨れ上がったモノはもっと熱い。早く挿入したいというように突かれると簡単に墜ちてしまいそうだ。

 でも、周りのはしゃぐ声に、残っていた理性を総動員させる。

 

「ダメだっ……て……挿入るなら……誰もいない……とこで……」

 

 そう必死に言うと、口付けも宛がわれるモノもピタリと止まった。本当にピタリと。

 不気味さを感じ、息を荒げながら顔を上げると、瞬時に間違った選択をしてしまったと悟った。何しろ守の顔は満面笑顔。つまるところ“魔王光臨”。血の気が引く思いで逃げ出そうとしたが、耳乱に舌を這わされた。

 

「ひゃっ!」

「その言葉、絶対だぞ」

 

 囁かれる声に身体が歓喜するように震える。が、すぐに寒気が襲った。

 ボクを抱き上げた守は頬に口付けると、楽しそうに子供達がいる砂浜を目指す。水音を聞きながら水面に映る自分を見ると、海のように顔は青かった。

 

 家に帰った時、はたもや疲れて眠る子供達がいる車内か。

 今から何をされるのか不安でならない──。

 

 

* * *

 

 

 しかしそれは甘かった。

 出会いと共に結婚して早五年ちょっと。それなりに旦那のことを知った気でいたが、真っ黒な腹を見据えることは不可能のようだ。

 

「心外ですね。日々楽しんでもらえるよう考えているだけなのに」

「自分“が”愉しむためだろっ……ひゃっ!」

 

 シャワーの音よりも、背後でくすくす笑う声の方がよく聞こえる。

 うなじを吸いながら身体を撫で回していた手がワンピース水着の両紐を引っ張ると、勢いよく離された。パシリと、肩に当たる大きな音が木霊する。

 

「ちょ……痛いって」

「ふふふ、赤くなってもすぐ痕をつけてあげますから大丈夫ですよ」

「そういう意味じゃ……ああっ!」

 

 言ってすぐ肩に吸いついた男は一枚一枚花弁をつけていく。それだけで動悸が激しくなるのは場所のせいだろう。

 

 互いに水着のまま、守の胸板に背を預け座るボク。

 湯船には浸からず、ただ床に座ったまま降り注ぐシャワーを浴びているとあの時と同じ。いや、まんま同じ。何しろここは海水浴場の後ろにあるホテル。つまり、ボクと守が潮水をかぶって泊まった一室の浴室なのだ。

 

「あの時と同じように、誘ってる顔してるな……」

「誘ってない! 呆れてるんんっ!!」

 

 怒るように振り向けば、唇が重なった。

 かかる湯など構わず、ひたすら貪るような口付け。だが態勢的に辛く、ボクは横向きになる。それを見計らっていたのか、離れた唇が胸元に落ちると、水着越しに先端を舐められた。

 

「あんっ、あ、もう……同じことするなよ」

「ふふふ、それだけ俺の中では悔しさが残ってるってことですよ。だからリベンジしたかったんだ」

 

 舐めた方を指先で弄る守は、反対の先端を舐める。

 あの時と同じように……。

 

 リベンジ。そう……ただ海に来るのがこいつの目的ではなかったのだ。

 まだ本当の気持ちに気付いてなかったあの時。たまたまとはいえ、浴室で二人っきりというシチュエーションだったのに、ボクが拒否したがために寸止め。

 それが今でもモヤモヤするらしく、解消のため、いつかきてやろうと目論んでいたらしい。

 

 そして今日、わざわざホテルに宿泊予約までして実行。

 子供達もいるので四人部屋だが、海で『誰もいないとこ』と言ったせいで、続きは風呂場ここが選ばれた。騙された感があるが、見たことある浴室に動悸が無駄に激しくなったものだ。

 

 それは今も同じだが、あの時とは違い下腹部が既に濡れているのがわかる。そんな股に手が差し込まれると激しく動かされた。

 

「ああっ……!」

「どうしました……お湯とは違うモノの感触があるが……」

「お前こそ……ん、口調コロコロ変え……て、余裕……ないだろ」

 

 遊んでる時も口調が混じるが、お尻に当たるモノの大きさを考えれば明確だった。すると両乳首を摘まれ、ビクリと身体が跳ねると抱き上げられる。そのまま浴槽の縁に座らされ、膝を折った男の手によって肩紐と一緒に水着を下ろされていくが、胸元で止められた。

 

「今日は……いいんですよね?」

 

 艶やかな声に見下ろせば、真っ直ぐな目と目が合う。

 速まる動悸に熱くなった頬を逸らすとゆっくりと頷いた。くすくす笑う声と共に張り付いていた水着が脱がされ、露わになった先端に吸いつかれる。

 

「あんっ……」

 

 口に含まれただけで喘ぎが漏れ、身体が小刻みに揺れる。

 それを利用するように守は水着を脱がしはじめた。肌が露わになる度に舌を這わせ、腹部、臍と舐める。水着が足元に落ちた頃には股に顔を埋め、愛液を舐めていた。その舌先は速い。

 

「ひゃああっ、あ、あ、激し……っ!」

「ん……いつもより感度が高いな……興奮してるのか?」

「バカっ……!」

 

 意地悪な笑みに睨み返すが、激しく舐めては吸われる刺激に我慢は効かず、達したように頭が真っ白になる。よろける身体を受け止めた男は頬と唇に口付けを落とし、耳元で囁いた。

 

「ほら、まき……後ろ向いて」

「っ、どうせ……壁に手を付けろって言うんだろ」

「まきが言ってくれると興奮しますね」

「うっさい!」

 

 余計な一言に蹴りを入れるが、腰を抱かれる。

 そのまま壁際で下ろされると、彼に背中を向けたまま両手を壁につけた。動悸が激しさを増す中、背後でサーフパンツを落とす音がし、ビクリと肩が跳ねる。その肩を、身体を包むように胸板が背中にくっつくと、手の甲に大きな手が重ねられた。

 

「あ……」

 

 とくんと胸が高鳴れば、股の間にも何か……今ではわかる肉棒が挟まれた。首筋に吸い付きながら腰を動かされ、肉棒に下腹部を擦られる。一度達しているせいか、とても焦らされている気がした。

 

「ちょ、あっ、そこまで……再現しなくても……」

「ふふふ、少しは俺の苦悩がわかったか?」

 

 自身の経験をさせるように腰を動かされるが、先端が秘部を通り過ぎる度に下腹が疼く。喘ぐボクに、また囁きが落ちた。

 

「まき……あの時と比べて……俺への“好き”はどれだけ上がった?」

「ひゃああっ、あ、ああ……!」

「まき……?」

 

 官能な声と共に腰の動きが速くなると、胸も揉みしだかれる。

 さっき海で言ったはずなのに、また言わせるとか……でも、快感に満たされればされるほどボクは……素直になる。喘ぎながら振り向くと、ボクを映す目に、彼に、口を動かした。

 

 

「好き……っあ、好き……大好き」

「…………俺も大好き」

 

 

 微笑と共に口付けられ、雫なのか唾液なのかもわからないモノが落ちていく。

 気付けば腰を持たれ、挟まれていた肉棒に最奥まで貫かれた。揺すられ、膣内を掻き乱すモノからは彼のすべての気持ちが伝わるようで、受け止めるように、認めるように声を上げた。

 

 あの時の気持ちに嘘はない、愛していると──。

 

 

* * *

 

 

 当然代償も大きく、翌日になっても腰は動かなかった。

 せっかく一泊しても、これでは遊べない。そう思っていたが、計算高い旦那はそんなボクでも楽しめるようにと、近くの防波堤で魚釣りを提案。はしゃぐ子供達の横でボケーと竿を持ち数時間。意外と守より釣れることに、新しい趣味にしようかと考えてしまった。

 バケツの中に入れていると、口元に手を寄せた男が眉を顰める。

 

「嫉妬しますね……猫にまで人気で」

「狙ってるだけだって!」

 

 ニャーニャーとボクの周りを囲む野良猫数十匹は、明らかに釣った魚を狙っている。その捕食者の目が旦那に似ているのは気のせいだろうか。

 

「ちょ、ちょっと、なんとかしてよ!」

 

 身体が痛いせいで動くのもままならないボクは守に助けを求める。

 本当は子供達がいいのだが、りまは疲れてお休み中。そんな妹を車に連れて行った紫苑は何やら電話をしていて気付いてくれない。ジリジリと詰め寄ってくる猫に怯えるボクに、口元から手を離した守は微笑んだ。

 

「岩陰で猫の真似をしながらエッチしてくれるなら助けてあげますよ」

「ふぎゃあああぁぁーーーーっっ!!?」

 

 とんでもない提案に変な悲鳴を上げるが、一歩一歩近付いてくる猫達は待ってくれない。反対に言うまで待つであろう旦那は愉しそうに見ている。岩礁に当たる波の音を聞きながら、ゴクリと唾を呑み込んだボクは──言うまでもないことをした。

 

 

 

 目覚めると停車した車の中。

 窓からは夕日が射し込むが、見える旗には『金印ドック』と書かれてある。寝ぼけた頭で、陸続きになっている志賀島手前にある有名なホットドック『金印ドック』がある店の駐車場だと気付いた。運転席を見ると、微笑む守が前を指し、つられるように目を移す。

 

「あれ……姉さん?」

 

 目覚めたはずなのに幻覚だろうか。見慣れた車から、これまた見慣れすぎた姉がポテポテとやってくるのが見える。目を擦っていると、りまを膝に抱いた紫苑が後部席から顔を出した。

 

「近くの大型プールに羽実たちがきてたそうです」

「だから~いっしょ~ごは~ん!」

 

 両手を挙げる娘に、双子の神秘的なものだろうかと頷く。

 だが、痛い身体で車外に出ることは叶わず、パワーウィンドーだけ下げる。そんなボクに、やってきた姉はイカのフライとステーキが挟まれた金印ドックをそっと手渡した。食べかけを。

 

 ちなみに晩御飯は増えるうどんと、かしわ飯になった。

 すると、旦那の携帯を弄っていた娘から水着を着たボクの写メを見せられ────うおおおぉおいっ!!!

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