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​番外編13*まきと眼鏡

いちご

*寺置視点です

『ぎぃやあああぁぁーーーっ!!!』

 

 休日の朝から響く元気な悲鳴に、息子と一緒に振り向く。

 片手にフライパン、片手にフライ返しを持っている私は何も出来ないので、まき自身か、りまが犯人でしょうね。たまには台所に立つまきも見たいですが、ハレー彗星並のレア度ですから無理そうです。

 

「父さんがいない時は、がんばって作ってくれますよ」

「裏でコソコソ特訓。でも旦那(私)の前では恥ずかしいから出来ないと言ったところでしょうか」

『エマージェンーシー! エマージェンーシー!!』

 

 のん気に会話しているとヘルプが聞こえ、サラダボウルを置いた紫苑が向かおうとする。それに制止をかけた私は三つ目のオムライスを皿に乗せるとフライパンを置き、エプロンを脱ぎながら寝室へと向かった。

 ドアを開き聞こえてきたのは母めぇめぇではなく、子めぇめぇの泣きじゃくる声。

 

「マんマ~ごめんにゃの~」

「いいんだよ、りま。落としたのはママなんだから。ケガない?」

 

 ベッドの上に座るのは涙を溢す娘りまと、あやす妻まき。

 ちゃんと着替えているりまとは違い、パジャマのまきはお寝坊です。まあ、休日前にヤるのは必然と言いますかと考えながら床を見ると、割れて散ったレンズと曲がったフレーム。私の物ではないが察した。

 

「まきの眼鏡を割ったんですか」

「そ。取ろうとしたボクが落として、りまがお尻でパキって。ケガはないみたいだけど見ての通り……悪いけど片付けてくれない? 全っ然視えてないんだ」

 

 細められた目はいつも以上に鋭いが、視えていないなら仕方ない。

 そして皆さまお忘れかもしれませんが、まきはコンタクト使用者です。覚えのない方は私が半日惚れした本編2話を読み返してくださいね。眼鏡は初登場ですが。

 

 チビ箒とちり取りを持ってくると割れた破片を集め、事態を聞いた紫苑から掃除機を受け取る。うるさい音に構わず謝罪を繰り返していた母子は頬擦りし、掃除機を停めた頃には嬉しそうに寝転がっていた。

 

「まきは眼鏡、一本しか持ってませんでしたっけ?」

「持ってない。コンタクトは……まだ痛いだろうな」

「毎日付けたまま寝るからですよ。言っておきますが、私のは貸しませんからね」

 

 人生の半分以上お付き合いがある眼鏡様なので私は何本か代用品を持っていますが、度が違うので貸すことは出来ません。一時凌ぎで掛けても結局視力低下に繋がりますからね。

 

 掃除機を片付けるとベッドに座り、寝転がる二人の髪を撫でる。嬉しそうなりまとは反対に頬を膨らませているまきに笑うと、その頬に口付けた。

 

「はいはい、新調しに行きましょうね」

「嫌だな~……」

「嫌?」

「お前にしがみついたまま行くのが」

 

 不貞腐れたような顔には『頼りたくない』と書かれてある気がするが、手助けなく歩くのも危険だともわかっているようだ。 可愛いツンデレに笑う私を不愉快そうに睨むまきは、りまを胸に抱きしめた。

 

「いいよ、紫苑に頼むから!」

「紫苑支柱は不安定ですから、守支柱にしておきなさい。かいがいしくお姫様抱っこ付きでお世話しますよ」

「もっとヤっん!」

 

 予想通り真っ赤になった顔が上げられ、すかさず口付ける。その唇は昨夜からの愛撫でふやけ、舌を差し込んでも直ぐ絡み返しては喘ぎを漏らした。

 

「っん……はふ、ん」

「いつも……ん……お世話してあげてるでしょ……?」

「そ、それとこれは別!」

「べちゅ~!」

 

 理性を総動員するかのように笑顔りまを突きつけられた。

 そんな娘の頬に小さく口付けながら抱き上げると、自分も一緒に立ち上がる。顔が真っ赤なままの妻を見下ろした。

 

「では、お助けマンはいらないと言うことで、リビングでお待ちしてますね。朝食もまだ作り途中ですので」

「え!?」

 

 赤から青に変わる顔を見て見ぬふりするように背を向ける。すると慌ててベッドから起き上がる音と『っだ!』という悲鳴。振り向けば昨夜のファイトでKOされた腰を押さえながら涙目で見つめるまき。私は笑みをキープしたまま小首を傾げた。

 

「どうしました?」

「っあ……い」

「愛?」

「バカっ! ああもうっ、手を貸してくださいお願いします!! こんちくしょーーっ!!!」

 

 痛い腰も忘れ土下座するまきに、りまが『マんマは~げきおこぷんぷんま~る、パんパは~キッラキラ~』とはしゃぐ。

 娘の言う通り、私の背景は光輝いていることでしょう。素直になれないぶっきらぼうなまきが懇願する姿は最っ高に可愛くて愉しくて大好きです。

 

「バカヤローーーーっっ!!!」

「はいはい、一緒に行きましょうね」

 

 隠す気のない思考にまきは両手でベッドを叩くが、構わず腰に腕を回すと持ち上げた。視界はボヤけているだろうに、ギロリと睨む目はハッキリと俺を捉えている。

 

 そんな元気な姿に笑いながらリビングへ戻るとテーブルには御飯、味噌汁、サラダと一緒にオムレツが三つ。と、形が少し崩れたオムレツがひとつ並んでいた。後者は席に座る紫苑の前に置かれ、彼が作ったのだと推測できる。

 

 日々息子が成長しているようで安心しましたが、もう少し鍛練が必要ですね。

 

 

* * *

 

 

「父さんはコンタクトにしないんですか?」

 

 デパートに入っている眼鏡屋。

 通路脇にある椅子に座って会計中のまきを待っていると、りまを膝に乗せた紫苑に訊ねられる。缶コーヒーを数口飲み、人混みに手を伸ばすりまの手を捕まえては離して捕まえながら答えた。

 

「確かに眼鏡だと視野が狭まりますし、湯気で曇るし、3Dは観難いし、横からの攻撃に反応が遅れますが、慣れというやつですかね。掛け外しも楽ですし」

「にんに、こうげきって?」

「母さんがよくしてるだろ」

 

 紫苑が説明している間に缶コーヒーを飲み干し、ゴミ箱へと向かう。見下ろすとズリ落ちてくる眼鏡を癖のように上げた。

 

 俺の視力低下の原因はもっぱら学生時代の喧嘩。

 そんなことで失明でもしたらバカバカしいと言った海雲のおかげでやめ、最初はコンタクトと迷った。結局、狭い視野に入る身近な人間監察した方が楽しそうだと眼鏡を選び、今では間違いじゃなかったと思う。

 たまにまきの表情をハッキリ見たい時はありますけどね。主に外してしまう夜の営みで。

 

 そんなことを思いながら眼鏡屋に目を移すと、息子と娘が店員と話し、妻がいないことに気付く。辺りを見渡す私のもとに子供達が慌てて駆け寄ってきた。

 

「パんパ、マんマがいない!」

「お店の人はさっき出て行ったと言うんですが、ぼくたち気付かなくて……すみません」

「おやおや、それはまた……」

 

 肩を落とす紫苑の頭を撫でながらもう一度辺りを見渡すが、今日は生憎の休日。その上、同階には本屋やゲーセンがあるせいか人が多い。新品眼鏡を掛けているだろうから怪我はしないと思うが、この数メートルではぐれるとは……後は会計だけだと抜かったな。

 溜め息をつくとまきの携帯に掛ける。が。

 

『燃えあがれ~燃えあがれ~♪』

 

 某ロボットアニメ初代のアニソンが聴こえる。しかも、りまが背負ったウリィリュックから。私の視線に紫苑は妹のリュックからアニソンを流す見慣れた携帯を取り出し、指で押すと耳に宛てた。

 

『はい、母の携帯です』

「はい、他人様の携帯を代わりに取る時のマナーはよろしいようですね」

 

 耳に届いた声に合格と言うように通話を切ると今度はメールを送信。数秒後、聴こえてきたのは……。

 

『つっかもうぜ! ドラゴ●ボール~♪』

 

 掴みたいのは嫁なんだがな……。

 はじめて知った自分の着信受信曲にまた溜め息をつく。だがすぐ二人にこの場を動かないよう言うと、足早に階を回りはじめた。

 

 缶を捨てに行った時、まきらしい人物は通っていない。

 つまり俺達がいないと勘違いして出たなら反対回りで行ったことになる。律儀な彼女なら階を一周するように見て回るだろうし、幸いここはそんなに広くない。反対に回れば捕獲出来るはずだ。

 

 先に一番行きそうなゲーセンと本屋を覗くが、一人でキョロキョロする羊は見当たらなかった。足取りがゆっくりな人壁に苛立ちながら間を掻い潜り、不機嫌顔の羊を捜す。

 

 ただ捜すということを殆どしたことないせいか意外と見つからない。

 これが冬ならもこもこスタイルにオレンジのマフラーと、暖房が効いた場所を捜せばいいが、今日は蒸し暑い。しかも珍しい春ワンピースを着ていた。写メればよかった。

 

 たとえ視えなくてもまきならわかる。後ろ姿でも横顔でも正面でも。

 そう自負していも実際に直面しなければわからないものだ。さっきと矛盾するが、こういう時コンタクトの方が全体を見渡せて良いと思ってしまう。そして焦りは苛立ちを、心配は不安を、余計なことを考える。

 そんなの自分らしくないと知っていても、彼女に関しては余裕がないらしい。

 

「……紫苑達と一緒に待ってた方がいいかもしれませんね」

 

 足を止めると深呼吸し、携帯を取り出す。

 何も掛かってきていないが、眼鏡屋の近くにいた方が会う率は高い。頭が冷静になってくるとイチゴアイスでも買って、まき釣りでもしようと踵を返した。

 

「いっそのことデパートの冷房をガンガン効かせて、外に誘き出した方がい「やじゃボケぇーーーーっっ!!!」

 

 突然の横からきた頭突きに大きくよろける。

 周りが仰天の眼差しを向けるが、なんとか踏み止まり、小さな身体を受け止めた。長袖ワンピースにレギンスを履いた人物は新しい濃赤のオーバル眼鏡。まだ見慣れないが、いつものムッスリ顔と怒声は変わらない。

 

「そんなことしたら、ボクは絶対許さないからな!」

「それは私の台詞ですよ。何勝手にはぐれているんですか」

 

 いつもなら微笑を浮かべる私も不機嫌さが勝ち、口元はまきと同じ“へ”の字。それが効いたのか、まきは慌てた様子で言い返した。

 

「きゅ、急にいなくなったのはそっちだろ!」

「いいや、俺は確かに離れたが、紫苑とりまがベンチで待ってた」

「ええっ!? み、見てな……あ、もしかして高校生軍団に遮られて……ああっ、焦ってたから覚えてない!」

 

 頭を抱えながら口走ってくれたおかげで理解した。

 溜め息をつくと、まきは頬を膨らませたまま俺の腰に両手を回す。

 

「そう呆れなくてもいいじゃん……腰痛い中……頑張って捜してたのにさ」

「ああ、それで合流出来なかったんですね」

 

 腰のことを覚えていれば反対回りなんかしなかったのに……人間というのは焦ると判断を見誤ってしまうようだ。そんな腰状況でも走って頭突きとは、さすがまきと言ったところか。まさかの俺が見つけられたことに関しては恥ずかしいところがあるが、感謝するように抱き上げると、普段なら怒るのに眉を顰めるだけだった。

 

「何、もしかしてボクって見つけ難かった?」

「今日の服装を写メっておけば良かったと思いました」

「変態っ!」

「妻になら何をしても構わないでしょう。逆に俺は見つけやすかったんですね」

 

 頭を叩かれても気にせず肩に掛かる髪を払い、首筋に口付ける。

 周りに気付かれないようまきは顔を埋めるが、耳元近くだったせいか『っあ』と喘ぐのが聞こえた。今すぐ啼かしたい衝動をなんとか堪え、紫苑達の元へ足を進める。が、ポツリと呟きが届いた。

 

 

「オレオレ詐欺みたいなオーラ出してるからね」

 

 

 俺の足がピタリと止まり、黒い笑顔を向けたのは言うまでもない。

 そして『堪える』という文字が消え去ったのも──。

 

 

* * *

 

 

「っん、んん……んんんっ!」

 

 必死に声を抑える姿に高揚感は高まり、ナカのも膨張する。すぐ反応するようにまきは目を見開いた。

 

「ふあっ! あっ、ダメ……大きくならないでえぇっ」

「無理な注文だ……っ」

「ああぁンっんんっ!」

 

 大きくなる声を口で塞ぐが、眼鏡同士が当たりすぐに離れる。

 抱き上げたまきの背を後ろの鏡に押し付けると、既に繋がった下腹部もいっそう深くなり、熱さと快楽が増幅した。その気持ち良さに声を上げそうになったが、場所が場所なだけに堪える。

 

 外はまだ大勢が歩く音、これが良い、こっちもとはしゃぐ声。そして左右からカーテンが閉まる音。ここはデパート売り場にある試着室の中だ。

 

 二人入るにはぎゅうぎゅうすぎる場所で繋がり喘ぐ。

 それは当然まきにとって恥ずかしく、俺にとっては最高のお仕置き場所でもある。ワンピースの裾を咥えさせると身体を横に向けた。

 

「ほら、まき……繋がってるところが丸見えだ」

「んんんっ!」

 

 裾を咥えたまま左右に振る彼女の顔を片手で止めると、鏡に向ける。

 全身を映す鏡には涙目で恥ずかしそうな顔をするまき、微笑を浮かべる俺、繋がった下腹部、零れる愛液がハッキリと映っていた。まきは目を閉じるが、同時に下腹部を締めつける。

 

「っ……!」

 

 大きな刺激を与えられ、漏れる声を抑えるように胸へと顔を埋め、口でブラをズラす。目の前には主張するように尖った先端があり、伸ばした舌先でチロリと舐めた。

 

「っんん!」

 

 ビクリとまきが身体を揺らせば繋がる下腹部も動く。

 吸い付き、口内で先端を転がせばいっそう動く身体を両手で押さえた。だが震える両手に頬を包まれ見上げると、裾を外した口からは唾液を零し、ズレた眼鏡からは涙を零し、潤んだ目で見つめるまき。

 息を荒げながら彼女は必死に声を振り絞った。

 

「き……キス……したい」

「ふふふ、おねだりなんて可愛いですね。でも眼鏡が邪魔で……っと」

 

 笑っていると眼鏡を取られる。

 目を丸くする俺にまきはまるで『ボクのも取って』と言うように見つめ、煽られたように取ると口付けられた。

 

「っふ、ん……あっ」

「んっ……気持ち良く……なってきたんだな」

「んんっあ!」

 

 小悪魔化するまきに負けないよう腰を動かす。

 厭らしい音も喘ぐ声も、外で騒ぐ声に紛れ消えるが、ポケットに入れていた携帯が鳴った。

 

『メリ~さんの羊~メエメエ~ひつじ~♪』

 

 不似合いすぎる音楽に脱力したまきの唇が離れる。

 

「な、何この曲!?」

「まきの着信音ですよ」

「ええっ!?」

 

 驚きの声に構わず電話に出ると、まきの携帯を持つ紫苑から。どうやらアイスクリームを食べ終わったらしく、この後のことを訊ねられる。

 

「そうですね……あと」

 

 話しながら肉棒を抜き、まきを下ろす。

 だが息を荒げながら膝を折った彼女の顎を持ち上げると肉棒を指した。眼鏡がなく視えてないはずなのに、シッカリと肉棒を両手で持った妻は口を開き、しゃぶりだす。

 その姿と口内にゾクリとしたものが駆け上るが『父さん?』の声にすぐ答えた。

 

「十分ぐらい待っててください……早めに終わらせますので……!」

 

 そう言って切ると、まきの頭を押さえ、速度を速めた。

 まきは苦しそうに喘ぐが、決して肉棒を離そうとはせず、吸い付いては垂れだす白液を飲み込む。

 

「んん゛っ……あんっ、んんっ!」

「ああ……まき、イい……そのまま出す」

「ん、ん……ナカじゃなくて?」

 

 見上げる顔はどこか寂しさを持っているが、口元に弧を描いた。

 

 

「それはまた……家に帰ってから」

「んんん──っっ!!!」

 

 

 不適な笑みと一緒に白液を噴出す。

 ナカとは違い気持ち良さは半減するが、口から零し、頬に付いた白液を舐める姿だけでも充分俺を悦ばしていた。

 

 さあ、服を何着か買って、家で続きをしましょうかね。

 

 

* * *

 

 

「で、義妹からのメール曲はなんなんだ?」

 

 翌日の夜。長崎旅行に行っていた海雲が土産を持ってやってきた。

 なぜかサメヌイグルミとチンアナゴヌイグルミ。あとお菓子はチョコレートらしく、ソファに座る紫苑が嬉しそうに食べている。

 するとお風呂に入っていたまきが羊パジャマを着て出てくるのが見え、くすりと笑った。

 

 

「ドナドナです」

 

 

 海雲は絶望の目から同情の目でまきを見つめ、俺は楽しくサメヌイグルミの口にチンアナゴヌイグルミを突っ込んだ。

 

 今夜は羊(まき)に眼鏡を付けさせたまま愛撫してもらいましょうか────。

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