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​13話*「図星」

 温かいシャワーが降り注ぐ。

 仕事の汗、潮風、潮水を受けた髪も肌も洗い流されるが、今のボクはゆっくりする暇も余裕もなかった。

 

「ひゃう、あ……やぁん」

「まき、上向け……」

「んっ……あぅ」

 

 寺置さんの胸板に背を預け、床に座ったままニ人でシャワーをかかる。

 顎を持ち上げられると何度も口付けされるが、ボクは下着どころかシャツも着たまま、寺置さんもズボンを穿いたままだ。白のシャツはお湯で透け、ブラが見える。シャツ越しに後ろから胸を片手で揉まれながら唇が離れると“いつも”とは違う表情に身体がざわつく。

「誘ってるな……」

 ゆっくりと両手で顔を上に向かされると、嬉しそうに額に瞼に鼻に小さなキスが落とされる。ひとつひとつがくすぐったくて、身体がビクビク反応した。

「ふふふ、苛めたくなりますね」

「口調……ころころ変える……な」

 

 どういう基準で変わっているのかわからないが変な感じだ。すると彼は目をパチクリさせる。

 あ……“普通”の時のソレは好きかも……好き? 好きってなんだ!?

 

 我に返ったように背を離すと、シャワーの当たらない壁側に寄った。

 後ろからくすくす笑う声が聞こえる。シッカリしろボク……ふ、振り向いたら終わりだ!

 それでもゆっくりと水音を鳴らしながら近付いてくる男に胸がドキドキする。

「まきは、どっちが好きですか?」

「あんっ!」

「耳、弱いな……」

 

 耳元で囁かれると、下から上へ、ゾクゾクとした感覚が駆け上った。

 不思議とイヤじゃないことに驚きを感じていると、後ろから抱きしめられる。でも指摘するのが先だった。

 

「また……口調変わっ……た」

「すみません。口調が変わるのは……まあ、自分でも制御できないので慣れてください」

 

 なんだよそれ! 『どっちが好き』とか聞いておいて意味ないじゃんか!! しかも制御できてないのかよ!!!

 普段ならそうツッコミ入れながらジタバタするはずなのに、抱きしめられて安心しているボクがいる。心臓はドキドキしているのに、イヤがらないといけないのに、寺置さんなのに……彼の言葉を幾つも思い出してしまう。

 

『まきに半日惚れしたから』

『好きな女とニ人っきりで何もしないのはなしだろ』

『どうしたらまき様が私を好きになってくださるか教えてください』

『好きだよ──俺のまき……』

 

 急に大人しくなったせいか、心配そうに顔を近付けてくる彼に呟きを漏らした。

 

「それって……ボクだけ?」

「え?」

「口調変わるの……ボク……だけ?」

 

 何を聞いてるんだと思った時には遅かった。

 目を見開いている寺置さんに、すごく恥ずかしい事を聞いた気がして顔が熱くなる。すると肩に顔を埋められた。

 

「ここ十年だと……海雲様とまき様……だけですね」

「本当に……?」

「……なんでそんなこと聞く?」

 

 合わさった目は真剣で、逸らすことが出来ない。

 ボクは口をモゴモゴさせながら、先ほどよりも小さな声で言った。

 

「だ……って……ボク以外いたら……好きって言われても……信用でき……ないし」

「…………ふふふ……ははははははっ!」

 

 急に黙ったと思ったら笑われた。

 な、なんだよ! そりゃ変なこと言ったかもしれないけどさ!! そんな笑わなくてもいいだろ!!!

 

 自分も彼も殴りたい衝動に駆られていると身体を反転され、壁に背があたる。退路を塞ぐように彼の両手が左右の壁に付けられ、ボクを囲った。

 真正面から向き合うと胸の動悸は速まり、どうしたらいいのかわからない。そんなボクとは違い、彼は顔を近付ける。

 

「それはつまり……少しは俺の『好き』って言葉を受け入れてくれたってことか?」

「っ!」

 

 図星だった。

 まだ出逢って一週間ちょっとしか経ってないのに、口付けや花弁が付く度に身体中が“なにか”に疼く。イヤがらないのは彼に惹かれているせい……だと思う。腹黒でドSで俺様だけど、でも。

 

「ちょっと……だけなら」

「…………なら、どれだけ好きか教えてやる」

 

 瞬間、いつもより深く口付けられた。

 角度を変えながら歯列の隙間から舌が入り、舌と舌を絡ませては奥を突き、刺激を与えられる。

 

「んっ……あぁん、あっ!」

 

 口付けをしている間に片手だけでブラのホックを外された。

 器用だな!と思うが、簡単に外したことに無理やり唇を離すと睨む。

「なんでそんな……簡単にブラ……ハズせるんだよ」

「さあ、なんででしょ?」

「あ、アンタ、他とシたことあるだろ!」

 はじめてでこんな簡単に外れるわけがない。

 すると、しばし考えるポーズをした彼は『ぶっちゃけあります』と笑顔でいいやがったああああっ!!!

 勢いよく胸板を叩くが、動じない彼は両手をシャツの中に入れるとブラを上げ、胸を揉みしだく。

「ひゃああぁああんっ!」

「大丈夫……後腐れのない女ばかりで、ここ数年はしてませんし、今はまきにしか欲情しない」

「そういう問題じゃ……あぁああん」

 車内で触られた時とは違って大きな手で包むように胸を揉まれ、先端を引っ張られる。経験したこともない行為に身体は跳ね、彼の首にしがみ付くと耳朶を舐められた。

「ふゅう、ぅぅ……」

「まき……シャツもブラも……全部脱がせていいか?」

「や……今、まだ……ダメ」

 まだ『好き』って完全にはわかってないのに、全部を見せるとか出来るわけがない。涙目で見つめるボクに、眉を下げた彼はしばしの間を置くと『わかりました』と溜め息をついた。すると胸から手が離れ、ボクを膝立ちで下ろす。

 あ、呆れられたかなとビクビク彼の肩に両手を置いていると、腰を支えられ、シャツ越しに胸の先端を舐めはじめた。

 

「ちょっ……ひゃあ、ああん……!」

「んっ……脱がせてはない……だろ?」

 

 また屁理屈をと思うも、彼の舌が先端を舐める。

 くすぐったくもあり、下腹部が疼くが、片方を舐め終えるともう片方を口に含み、淫らな音を立てながら片方を指で弄られる。

 

「尖ってますけど……感じているのか?」

「ち、違う……ああっ」

 否定しても身体の疼きは止まず、膝が震え不安定になる。するとショーツを下ろされ秘部の入口を擦られた。

 

「こら……ダメって……言っ、やぁああん……」

「“ショーツ”までは聞いてない……」

「コンニャ……っ!」

 

 怒ると、くすくす笑う声と共に秘部に指が一本挿し込まれる。

 

「ああぁん……ああっ……」

「いっぱい蜜が出てるな……まき……気持ち良いんだろ?」

 

 否定したいけど、実際彼の手に蜜が溢れ落ちているのを感じると観覧車の時に感じたあのゾクゾク……“快楽”に襲われ、何も考えられなくなる。素直に……なっちゃう。

 彼の首に覚束ない手を回すと、耳元で囁いた。

 

「うん……気持ち……良い……もっと」

「っ、それ……ちょっと効くな……まき……後ろ向いて壁に両手を付けろ」

「…………立ったまま?」

 彼は顔を伏せているが頷かれる。

 言われるがまま後ろを向いたボクは壁に手を付けるが、ズルッと何かを脱ぐ音がした。振り向くと寺置さんがズボンを脱──!!?

 

 急いで顔を戻すが、すごいのを見た気がした。

 すると手の上に彼の手、身体と身体もぴっとりと重なる。下腹部に……何か……当たってる。

 

「ちょっ……待っ!」

「挿入はしない……けど……我慢も出来ない」

「なに……そ……あんっ!」

 

 瞬間、股の間に何かが挿し込まれた。

 何かが挟まってボクの秘部と密着して……彼は荒い息を吐きながらボクの肩に顔を埋めている。ソロリと視線を落とすと、股を通って大きな肉棒の先端が見えた。その光景に挟んでいるのが“なにか”がわかると、恥ずかしさで“ぎゅっ”と股を締めた。

 

「あっ……まき……締め付けるな!」

「し、知らないよ……あああんっ!」

 

 締め付けるとソレが大きく熱くなったように感じ、腰を激しく揺らされる。

 

「ああっ、やああぁああぁっ!」

 

 快楽は今まで以上で、もう何も考えられなくなる。もう、もう……!

 

 

「もうっ、ダメ……っ!」

「っく……!」

 

 

 矯声と同時に蜜が大量に溢れ、以前経験したように世界が真っ白になった。彼の胸板に倒れ、虚ろな瞳で見ると、荒い息を吐きながら口付けられる。

 

 その口付けが嬉しくて気持ち良くて────ボクは意識を手放した。

いちご
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