番外編5*異世界と節分と桃
*64話のネタバレ有
今日は二月三日。節分の日です。
残念ながらフルオライトに『節分』という行事も概念もないのですが、キラさんに話すと豆を貰いました! なので、豆まきをしようと思います!!
「さあ、ルアさん、お義兄ちゃん! どうぞ豆をぶつけてください!!」
「「…………」」
元気なわたしとは違い、二人は沈黙。
チチチと小鳥の声がすると、被っていた赤鬼の面を外す。お義兄ちゃんは手で額を押さえ、瞬きするルアさんが口を開いた。
「いや……豆まきって邪気祓いってことだろ? だったら……投げる相手はこいつだって」
片眉を上げたルアさんが指したのはお義兄ちゃん。
代わるようにわたしも瞬きすると、眼鏡のブリッジを上げたお義兄ちゃんの鋭い灰青の瞳がルアさんに刺さった。
「聞き捨てならんな。なぜ、私になる」
「だって、お前……いま本編でどんだけ悪っ「ドアホはー外ーー!!!」
「鬼じゃなくて!?」
わたしのツッコミ中に、勢いよく蹴り飛ばされたルアさんが数メートル先の木に突っ込む。その木に向かって豆を投げるお義兄ちゃんの背中を慌てて叩いた。
「おおおお義兄ちゃん、暴力はダメですよ!」
「邪魔者を祓うためだ。モモ、ヤツは放っておいて、家で恵方巻を食べよう。何味がいい?」
「え? ええーと……」
「サーモン、納豆、レタス、ニンジン、玉子、牛肉、イワシのつみれ巻き!!!」
想像が出来ない味を言われ思考が止まっていると、溜め息をついたお義兄ちゃんがわたしの前に出る。突っ込んだ木から顔を出し、葉っぱを頭に乗せたルアさんの表情は怖い。手に豆を握った彼は勢いよく振り上げた。
「ドシスコンはー外ーー!!!」
「鬼じゃなくて!?」
同じツッコミを入れると、たくさんの豆がお義兄ちゃんに向かって投げられる。
けれど、握り拳を作ったお義兄ちゃんの左手が後ろに引かれると、当たる直前で粉々になり、地面に落ちた。細切れになった豆を森山さんがカリカリ食べる一方、わたしは一瞬の出来事に感動の声を上げる。
「ふんきゃ! 今のなんですか!? なんですか、お義兄ちゃん!!?」
「手品だ」
「ウソつけ! 糸で防いだだろ!! お前どんだけ隠したいんだよ!!!」
「ふんきゃ、すごいですね! でも、ルアさんも得意ですよ!! ね!!!」
「やめて! ムチャ振りさせないで!! 笑顔で言わないで!!!」
鷹さんとの腹話術を思い出すわたしに、ルアさんは膝を折ると両手で顔を覆う。あ、腹話術は手品じゃないですよねと謝るわたしに、ルアさんは風で鳥や竜などを描いてくれて、拍手を贈った。二人とも多才ですね。
「じゃあ、お礼にルアさんの恵方巻作りますね」
「ホント?」
「やめろ、モモ!!!」
キラキラな目を向けるルアさんに、顔を青褪めたお義兄ちゃんは慌てて止めるが、彼の手を取ったわたしは笑顔で頷く。ルアさんも同じような笑みを向けると、わたしを抱きしめ、お義兄ちゃんの怒声が落ちた。
ちなみに家で二人が鬼役になってくれて、わたしも豆まきをしましたよ!